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40話「すっぱいイチゴと、あたらしいひらめき」
しおりを挟む台所のテーブルに、布とリボンと紙。
私は椅子に座って、
エルとお母さんと向かい合っている。
「次のお店だけど」
お母さんが予定帳を指で押さす。
「子どもたちだけでやるのは、やっぱり心配ね」
私はこくんと頷く。
(……あぶない)
「だから、私が一緒にいられる日にしましょう」
「……うん」
エルも少し真面目な顔で頷いた。
「それがいいと思う。人が増えたら何があるかわからないし」
テーブルの上の紙を見る。
丸。
線。
ちょっと歪んだ絵。
「売るのは」
エルが言う。
「くっきーはいつもの、やつ。……それと」
私は少し迷ってから言う。
「……さんどいっち、すこし」
お母さんが、ふふっと笑う。
「いいわね」
「一種類でいいかな?」
「二種類だと、準備が大変そうね」
「……あじ」
頭の中で甘いのとしょっぱいのが並ぶ。
(……かんがえる)
そのとき——
玄関の方から声がした。
「ただいまー!」
少し間を置いて。
「おーい! いっぱいイチゴもらったぞー!」
「え?」
「……いちご?」
お父さんが両腕いっぱいに袋を抱えて入ってくる。
赤い。山みたいな真っ赤なイチゴ。
「向こうの畑でな。ちょっと酸っぱいけどたくさんある」
テーブルに置かれると、
甘い匂いがふわっと広がる。
一つ、手に取って食べる。
「……すっぱい」
「うわ、酸っ!」
エルも顔をしかめる。
お母さんも少し笑った。
「これはそのままじゃ厳しいわね」
テーブルの上に赤い問題。
「どうする?」
一瞬、静かになる。
私はイチゴを見る。
(……あ)
胸の奥で、ぱちっと何かがつながる。
「……じゃむ」
みんなが私を見る。
「……いちご、じゃむ」
「なるほど!」
お母さんがすぐに立ち上がる。
「砂糖、あるわ」
「鍋出す!」
お父さんが嬉しそうに言う。
エルもにっと笑った。
「やってみよう!」
***
イチゴを洗って、へたを取って、鍋にたっぷりの砂糖とレモン汁を一緒に入れてしばらく放置する。
「少ししか溶けてないけど、イチゴから水分出てきてるし、とりあえず今日はいいわね」
鍋を火にかける。
鍋の中の赤が、ぐつぐつ揺れる。
木べらを握って、
混ぜる。
ぐる。
ぐる。
(……かわる)
さっき食べた時はあんなに酸っぱかったのに、甘い匂いが少しずつ強くなる。
「焦げないようにね」
「……まぜる」
色が深くつやつやしていく。
火を止めて、少し冷まして……
パンにちょっとのせて食べる。
「……!」
甘い。
おいしくて甘いイチゴジャム。
「うまい!」
「成功ね」
胸の奥が、じんわりする。
(……できた)
エルがふと思いついたように言う。
「これさ、クッキーにも合うんじゃない?」
「……はさむ?」
「ジャムサンドクッキーだな」
作ってみる。
でも——
「……ごつ」
「でかい」
「食べにくいわね」
笑いが起きる。
私はクッキーを見る。
(……まんなか)
前の記憶。
くぼみ。
あとから、入れる。
「……やくまえ、へこませて焼いたあと、そこにジャム」
一瞬、静かになってから——
「それだ!」
「いい考え!」
でも、お母さんが時計を見る。
「今日はもう遅いわね」
「……つぎ」
私が言うと、みんなが頷く。
「次だな」
「楽しみは取っておこう」
鍋に残ったジャムが、赤く光っている。
(……つぎ)
胸の奥に小さな楽しみが、
ちゃんと残ったまま。
今日はここまで。
私はわくわくしながら、手に持っていたクッキーをパクっと食べた。
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