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43話 「もしかしてとドキドキ」
しおりを挟む風が花を揺らす。
さっきまで賑やかだった布の上は、
今はもう包み紙と空になった器だけ。
遠くで鳥が鳴いている。
エルが花畑を見渡しながら言った。
「……もしかしてさ」
私は顔を上げる。
「ここにも精霊いたりするのかな」
胸がぴくっと動く。
(……ここにも?)
私はすぐには答えられなかった。
花は変わらず揺れているだけ。
光も音もさっきと同じ。
――でも。
(……まえ)
前に来たとき。
ここで魔法を使った。
花にそっと。
助けを借りて。
「……わからない」
私は小さく言う。
エルは笑わない。
「だよな」
そう言って草の上に手をつく。
「でもさ」
風が少し強く吹いた。
花の波がざわっと広がる。
「見えないだけ、ってこともあるよな」
私は指先を見つめる。
(……みえない)
夜の部屋。
なくなったクッキー。
誰もいないはずの場所。
胸の奥がまたきゅっとなる。
「……いる、かも」
声が思ったより小さくなった。
エルがこちらを見る。
「そう思う?」
私はこくんと頷く。
「……こわい、けど」
言葉を探す。
「……でも」
花を見る。
空を見る。
「……すき」
エルは少しだけ目を細めた。
「そっか」
それ以上、何も言わなかった。
沈黙が落ちる。
でも重くない。
風が花の間を通る。
陽の光が花弁に反射する。
きらっと、ひとつ。
「……?」
私は目を凝らす。
でも、それはすぐに消えた。
(……きのせい?)
「今、見た?」
エルが言う。
私はどきっとする。
「……え」
「光」
エルは花の辺りを指す。
「なんか、一瞬」
私は胸を押さえる。
「……わたしも」
言葉が少し震える。
「……きらっと」
二人で花畑を見る。
何も、起きない。
でも。
「ここにさ」
エルの言葉に私は顔を向ける。
「クッキー、置いてみる?」
心臓が跳ねる。
「……え」
「売り物じゃないやつ」
エルは軽く言う。
「試作でもいいし」
私は少し考える。
(……どうぞ)
夜と同じ。
でも、ここは花畑。
「……いい、かも」
包みの中を探す。
小さなキラキラクッキー。
ひとつ。
私は花のそばにそっと置く。
「……どうぞ」
声は風に混じる。
エルは少し離れて見ている。
「何も起きなくてもさ」
エルが言う。
「それでいいよな」
私は頷く。
「……うん」
花は揺れる。
クッキーはそこにある。
でも。
胸の奥があたたかい。
(……いる、かも。……いなくても……ここ、すき)
しばらくして、帰る時間になる。
クッキーはそのまま。
「……またね」
私は小さく言う。
エルが笑った。
「精霊に?」
「……うん」
花畑を後にする。
振り返ると、
風がもう一度だけ花を大きく揺らした。
その中心で。
一瞬、本当に一瞬だけ。
赤い点がきらりと光った気がした。
でも、私は何も言わなかった。
胸の奥で、静かにきらきらしていたから。
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