この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

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第3章 泥まみれの宝

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 ルクレール王国北の辺境の領地・バルニエ。

 建国より騎士・ランドローの一族によって治められてきた、農村とその一帯ほどの小さな領地。
 王都から離れており、教会の支援もないこの地では『恵み』が行き届かない。そのため作物も育たず、めぼしい資源もない、不毛の地と呼ばれていた。農業、酪農、工業、所業、どれをとっても一冬を越すことに苦労するような逼迫ぶりだった。ほんの少し前までは。

 だが今は、そんな日々が嘘のようだった。

 土は潤い、畑は緑に覆われ、どこを見ても鮮やかに色づいている。
 そこで暮らす領民たちの顔も、以前は疲労と諦観ばかりが浮かんでいたが、ある時を境に変わった。

 ため息ばかりこぼれていた声も。

「よいしょー!!」

 力強く、ひときわ大きなかけ声が、青空に響き渡った。

 バルニエ領領主館の敷地内には、色鮮やかに咲き誇る花園がある。だがその敷地を一歩出ると、これまでと同じ風景……草木が枯れて荒れた土地が広がっている。

 そこに、今、村人たちが集まっていた。女たちが地面に落ちているものを拾い上げ、男たちが、協力して大きな岩や、木の根を取り除こうとしている。

 逞しく、息の合ったかけ声とともに、地面がメリメリと裂け、土に隠れていた太い根がぼこっと姿を見せた。

 それと共に、よく日に焼けた農夫たちが、土に埋まった切り株を引き抜いて地面にどどっと倒れこんでいる。

 その顔には、切り株のあまりの大きさと、達成感による精悍な笑みが溢れていた。

「あははは、でっかいのが抜けたなぁ」
「えらくしっかり根を張ってやがったんだな」
「アベル様、畑作りの障害になりそうなものは取り除けたかと思います」

 農夫たちと一緒に尻餅をついていたレオナールが、立ち上がりながらそう言った。同様に地面に倒れ込んでいたアベルも、土を払いながら答えた。

「ああ、そのようだな。そっちはどうだ?」
「ええ、こちらも取り除けたと思います。小さな障害物も、もう見当たりません」

 アベルからの問いかけに、レティシアが答えた。
 その周囲では、農夫の女房たちが揃って地面から顔を上げたところだった。手にした駕篭には、拾い集めていた小石や小枝が積み重なっていた。

 アベルが、集まっている村人たちを見回して頷いた。
 
「皆、ご苦労だった」
「なんのなんの。まだまだこれからですぜ」

 農夫たちは、ニカッと明るく笑って見せた。

「なんせこの領地は今まで『恵み』が足りなくて、畑がいくつもダメになっちまってたもんなぁ」
「『恵み』が領内に満ちたんだから畑を広げていこう、なんてアベル様が言うんなら手伝わねえわけにはいかねぇわな」
「芋の聖女……じゃなくてレティさんも手伝うってんだから、尚更だな!」

 レティシアが思わず睨んだのを見て、肩を竦めながらそう言い……どっと笑いが起こった。そんな様子を、アベルまでが微笑ましく見ていた。

「よし、この後は皆で耕していこうか。女衆もご苦労だったな。自分の仕事に戻ってくれて構わない」
「あいよ。何かあれば、呼んで下さいよ」

 そう言って、女房たちは村に戻っていった。農夫たちは残って、今度は工具を手にしている。

「さて、じゃあ私はどうしましょう……」

 それぞれが次の持ち場につく中、レティシアは次の自分の仕事は何か思案すると、身を翻して領主館の中に入っていった。
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