この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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「なに畑がすべて枯れたわけではない。今も、僅かながら収穫はあると聞きます。ということは、神はまだ我らをお見限りになられたのではない。それに、こんな年に限って例年にいはない『恵み』を受けた地があった。どうです? 我らが聖女をお祝いするために『恵み』を受けたとしか思えないでしょう。かの地から供出された税があれば、概ね賄えると財務官も申しておりましたよ」
「財務官? そんな者とも通じて……」
「私が強く進言したのですから、確認することは当然です。いくら足りないのかも、どれほど徴収すれば足りるのかも、ね」

 リュシアンは、首を横に振るばかりで言葉が出なかった。あまりの言葉に、大司教へ向ける言葉が浮かばなかった。

 代わりに、国王と重臣たちに視線を向けた。

「父上……それにお前たちはどうなんだ。つい先日、『恵み』が足りないとアネットを糾弾していただろうが。今が窮地だと……猶予がないとも……そう言っていたじゃないか!」
「国王陛下もこの場の皆さんも、焦っておられた。何せこの国の現状をまざまざと見せつけられたばかりだったのですからな。焦りは、人を狂わせる。思ってもいない言葉を口走るのも、無理からぬこと」
「い、いくら大司教猊下でもお言葉が過ぎます。教会が国政に干渉するなど……!」
「控えよ、リュシアン! 目に余るぞ」

 国王の叱責が飛んだ。議場は、水を打ったように静まりかえった。

「我らは大司教様の提案を鵜呑みにしたわけではない。我らの決定もまた、同じだったというだけの話だ」

 それは、先日リュシアンが退場を命じられた後で決まったことだった。今日、ようやく復帰を認められたリュシアンが知らないのも致し方ない。
 
 だが、それでリュシアンが納得できるはずもなかった。

「父上……なぜです?」
「本来開かれるはずの祭りが開かぬとなれば、民はどう思う?」
「それは……現状を見れば喜ぶのでは?」
「馬鹿者。不安を煽るのだ! 皆、己や家族の明日、一月後、一年後を案じている。そんな時に国の中枢までが及び腰になってどうする。民はこう思うだろう。『この国は、聖女を祝う大切な祭りすら開けぬほど困窮しているのだ』と。それはつまり、我ら国……そして王家への信頼という土壌が揺らぐと言うことだ」
「そのために民にいらぬ苦役を強いるということですか」
「……お前が連れて来た『聖女』に神への祈りを任せたところ、このような事態になったと言うことは、承知しているか?」

 リュシアンは唇を噛んだが、それ以上反論できなかった。もっとも、国王もそれ以上貶める発言をする気はなかったようだが。

 だが国王と王太子、二人の間に敵意が生じていることは明らかだった。

 その間に割って入れる者は、やはり一人しかいない。

「まあまあ、父と息子で、そう睨み合わずとも……このようなことに至った原因ならば、私にもう一つ、思い当たることがあります」
「なに?」
「それは、何だ?」

 国王とリュシアン、そして重臣たちが初めて目を見開いて大司教の言葉に耳を傾けた。
 大司教の口の端が、ニタリ、と持ち上がった。
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