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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事
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「とんでもないことがわかりました!」
バルニエ領・領主館の執務室にいきなり現れたレティシアは、いきなりそう叫んで、いきなり机を目一杯叩いた。
今日は来ないと聞いていたのに、午後になったら早馬のような勢いで転移してきたのだった。
いきなり来訪を受けたアベルは、何が何やらさっぱり、という顔でレティシアを見ていた。
「……今日は別の用があるんじゃなかったのか?」
「ありましたけど、そうじゃなくて……」
「まあまあ、レティシア様落ち着いて。どうぞ、まずはお茶でも」
怒鳴り込む勢いで入ってきたレティシアを宥めるように、レオナールがソファへと促した。ローテーブルには、既に湯気ののぼるお茶が淹れてある。座ると、ちょうどレティシアに良い香りを運んでくれた。
一瞬でも落ち着いた様子を見て、アベルはソファに移ってきた。
「それで? 何がわかったって?」
レオナールが入れてくれたお茶をすすって一息つきながら、アベルは尋ねた。その言葉で、レティシアの瞳が再びかっと見開いた。
「そうです、大変なんです! 王都でお祭りがあるらしいのです」
「祭り? 何の?」
「聖女の生誕祭です。アネット……新しい聖女の!」
「ああ……そうか。それは何というか……」
「いいんです。そのことはもう気にしていません。勝手にやってくれれば。問題は、現状大々的なお祭りをするほどの余裕なんて王都にもどこにもないということです!」
「何を言いたいのか……ああ、そういうことか」
アベルと、傍に控えていたレオナールも、同時に頷いた。レティシアが憤慨している理由に見当が付いたようだ。
「なるほど、その必要分を俺たちに出させようと。だからあんなにふっかけられたわけか。追加徴税にしても法外すぎると思ったら……」
「私もおかしいと思いました。本来、国庫にはこういった事態の備えがきちんとなされているはずです。誰かが少しちょろまかしたくらいでは揺るがないほどの蓄えがね。追加徴税など、それらが底を突きそうになった時の苦し紛れの策のはず」
「この国の象徴でもある聖女の生誕を祝う祭りは国の威信がかかっている……それを財政不審を理由に規模縮小なんて、議会には出来なかったんだわ。だから、懐の豊かな所に負担させてしまおうと……そういう魂胆なんです」
レティシアの持つカップの中が、勢いのあまり大きく波打っている。
「……落ち着け。そうと決まったわけではないだろう。お前の父君……公爵閣下からそう聞いたのか?」
「それは違いますけど……庶民の声です。ある意味で、正しいでしょう」
「それは……『噂を鵜呑みにした』というのと大差ないぞ」
「じゃあ黙って言いなりになるんですか!?」
「レティシア様、落ち着いてください」
レオナールが、再びレティシアを宥めてお茶のおかわりを促した。同時に、アベルの方に向き直った。
「ですが……この書状には承服しかねるというのは確かです。言われるがままに供出すれば、我が領に残るのは例年と同じかそれ以下になる。また暮らしが立ち行かなくなります。冬も近いですし」
「……こう言う時、遠いというのもまた不利だな。抗議文を送ったところで、向こうの言う期限を過ぎてしまう。そうなれば問答無用で咎め立てられる」
「アベル様、抗議なさるおつもりなんですか?」
レティシアが、きょとんとして尋ねた。てっきり恭順するつもりなのかと思っていたのだ。だがアベルは、渋い顔をして首を振った。
「出来るものならな」
「王都との距離が問題だと?」
「距離もそうだが、そんなものを出したところで国王陛下どころか議会にもかかるかわからない。昔はともかく、今や辺境の弱小領主の声明など……」
するとレティシアは、ぴょこっと、自分に指を向けた。
「議会の中心人物の娘が、ここにいます」
バルニエ領・領主館の執務室にいきなり現れたレティシアは、いきなりそう叫んで、いきなり机を目一杯叩いた。
今日は来ないと聞いていたのに、午後になったら早馬のような勢いで転移してきたのだった。
いきなり来訪を受けたアベルは、何が何やらさっぱり、という顔でレティシアを見ていた。
「……今日は別の用があるんじゃなかったのか?」
「ありましたけど、そうじゃなくて……」
「まあまあ、レティシア様落ち着いて。どうぞ、まずはお茶でも」
怒鳴り込む勢いで入ってきたレティシアを宥めるように、レオナールがソファへと促した。ローテーブルには、既に湯気ののぼるお茶が淹れてある。座ると、ちょうどレティシアに良い香りを運んでくれた。
一瞬でも落ち着いた様子を見て、アベルはソファに移ってきた。
「それで? 何がわかったって?」
レオナールが入れてくれたお茶をすすって一息つきながら、アベルは尋ねた。その言葉で、レティシアの瞳が再びかっと見開いた。
「そうです、大変なんです! 王都でお祭りがあるらしいのです」
「祭り? 何の?」
「聖女の生誕祭です。アネット……新しい聖女の!」
「ああ……そうか。それは何というか……」
「いいんです。そのことはもう気にしていません。勝手にやってくれれば。問題は、現状大々的なお祭りをするほどの余裕なんて王都にもどこにもないということです!」
「何を言いたいのか……ああ、そういうことか」
アベルと、傍に控えていたレオナールも、同時に頷いた。レティシアが憤慨している理由に見当が付いたようだ。
「なるほど、その必要分を俺たちに出させようと。だからあんなにふっかけられたわけか。追加徴税にしても法外すぎると思ったら……」
「私もおかしいと思いました。本来、国庫にはこういった事態の備えがきちんとなされているはずです。誰かが少しちょろまかしたくらいでは揺るがないほどの蓄えがね。追加徴税など、それらが底を突きそうになった時の苦し紛れの策のはず」
「この国の象徴でもある聖女の生誕を祝う祭りは国の威信がかかっている……それを財政不審を理由に規模縮小なんて、議会には出来なかったんだわ。だから、懐の豊かな所に負担させてしまおうと……そういう魂胆なんです」
レティシアの持つカップの中が、勢いのあまり大きく波打っている。
「……落ち着け。そうと決まったわけではないだろう。お前の父君……公爵閣下からそう聞いたのか?」
「それは違いますけど……庶民の声です。ある意味で、正しいでしょう」
「それは……『噂を鵜呑みにした』というのと大差ないぞ」
「じゃあ黙って言いなりになるんですか!?」
「レティシア様、落ち着いてください」
レオナールが、再びレティシアを宥めてお茶のおかわりを促した。同時に、アベルの方に向き直った。
「ですが……この書状には承服しかねるというのは確かです。言われるがままに供出すれば、我が領に残るのは例年と同じかそれ以下になる。また暮らしが立ち行かなくなります。冬も近いですし」
「……こう言う時、遠いというのもまた不利だな。抗議文を送ったところで、向こうの言う期限を過ぎてしまう。そうなれば問答無用で咎め立てられる」
「アベル様、抗議なさるおつもりなんですか?」
レティシアが、きょとんとして尋ねた。てっきり恭順するつもりなのかと思っていたのだ。だがアベルは、渋い顔をして首を振った。
「出来るものならな」
「王都との距離が問題だと?」
「距離もそうだが、そんなものを出したところで国王陛下どころか議会にもかかるかわからない。昔はともかく、今や辺境の弱小領主の声明など……」
するとレティシアは、ぴょこっと、自分に指を向けた。
「議会の中心人物の娘が、ここにいます」
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