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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事
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「アベル様達、大丈夫でしょうか?」
大きめの鍋の中をぐるぐるかき回しながら、アランが呟いた。それに対して、何通目かわからない手紙を書き終えたレティシアが、軽やかに答えた。
「大丈夫よ。それだけ真剣に取り組んでいらっしゃるということなのよ。お邪魔をしてはいけないわ」
「そうですけど……さっきから兄さんが出入りしているだけで、アベル様とレオナールさんは全然出入りしてないですよ。中で倒れたりしていたら……!」
「そうなればジャンが呼びに来るでしょう。はぁ~ようやく十通ほど出来たわ」
ジャンに言われて、レティシアはずっと架空の手紙……それもレティシアとアベルの二人分を書いていた。最初は年も近く、学院の先輩であるアベルに教えを請いたいという挨拶文、次第に領地運営についての質問を主にして、最近では互いの趣味や身近な出来事についても触れた親しげな手紙……になるように変遷させた。
「どう? 誰がどう見ても、勉強熱心な令嬢と、親切な伯爵様が師弟愛を育んでいるように見えるはずよ」
「お疲れ様です。僕も完成です」
そう言うと、アランは器に熱々のスープを注いだ。
「休憩がてら私が三人に持っていくわ。それが終わったら、手紙を見て貰いましょう」
「僕が持っていきますよ。それにレティ……シア様は早くお帰りになられた方がいいんじゃ?」
「なぁに? 追い出したいの?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
「冗談よ。アベル様達の作業がどれくらいか、確認したいの。だから私が行くわね」
「わかりました。お願いします」
そう言って三人分の皿を大きめのトレーに乗せ、バスケットに三人分のパンを詰め込んだ。
その様子を、アランはじっと見つめていた。どこか申し訳なさそうに。
「どうしたの、アラン?」
「いえ、どうしてレティシア様は、そこまでしてくださるのかと思って」
「どうしてって?」
「アベル様も仰ってたように、レティシア様はこの領地の住人じゃありません。偶然、来られただけです。畑が元に戻ったんですから、もう関わらなくてもいいはずなのに……」
「アラン……」
レティシアは、大きくため息をついた。
「アラン、あの時ジャンと一緒に話を聞いていたんじゃないの? 私にもう一度同じ話をさせるつもり?」
「そんなことは……」
「嬉しいことに、ここの人たちは私がやったことを嬉しい変革と言ってくれるわ。良くも悪くも、私はこの地を変えてしまったのよ。事を起こした人間には、それなりの責任があるわ」
「『それなりの責任』……ですか」
「そう。そして私には、それを成せる人脈という力もある。私自身の力ではないのが悔しいけれど、利用できるものは利用しないと」
アランの瞳が、普段から気弱そうな様子な上に、さらに眉までが垂れ下がっている。
大きな事をしようとしているのだから、不安を隠せない人間がいても何も不思議じゃない。レティシアはアランの両肩をしっかり掴んで、頷いて見せた。
「大丈夫。アベル様は凄い方なんだから。それにお父様も陛下の信頼厚い方なのよ。そりゃあちょっと厳しくて怒ると怖くて、色々と……難しい時もあるけれどね」
一瞬、希望を抱いたようだったアランの瞳が、再び陰った。
「あの……公爵様でないといけないんでしょうか?」
「どういうこと?」
「お話を伺っていると、要するに公爵様に国王陛下と仲立ちしてほしいんですよね? でもそのために公爵様を説得するのに時間がかかっていたら、本末転倒じゃないですか?」
「まぁ……そうね」
急に頭が痛くなってきた。父を説得するための資料はアベル達が作ってくれているが、レティシアにだって準備は必要だ。
何が一番て、心の準備が。
「う、うぅ~ん……できる……かしら?」
「そ、そんな気弱な……あぁでしたら他の方に頼むというのは?」
「他の方?」
「国王陛下との仲立ちが出来るほどの地位の方で、もっと、こう……レティシア様に甘い方……とか?」
「いくら可愛がって下さっても、これは政治の話なのだから別問題よ。そこを混同してしまう人には頼めないし」
「お父様だからこそ、必要以上に厳しいということもあるんじゃないでしょうか。レティシア様に優しくて、公平に話を聞いてくれる方と考えたら……?」
「……お人柄で考えればいなくはないでしょうけど……お父様と同等かそれ以上の立場でないと難しいんじゃ……あ!」
レティシアの叫び声に、アランがビクッと肩をふるわせた。
「ど、どうしたんですか?」
「いたかも……話を聞いてくれそうで、位の高いお方……」
「ほ、本当ですか? どなたで?」
「それは……」
勢い込んで、レティシアが告げようとした――その時だった。
バタバタバタッと、廊下で音がした。同時に、ジャンが駆け込んできた。
「おいアラン、手伝ってくれ!」
「兄さん、どうしたの?」
「アベル様が倒れた!」
大きめの鍋の中をぐるぐるかき回しながら、アランが呟いた。それに対して、何通目かわからない手紙を書き終えたレティシアが、軽やかに答えた。
「大丈夫よ。それだけ真剣に取り組んでいらっしゃるということなのよ。お邪魔をしてはいけないわ」
「そうですけど……さっきから兄さんが出入りしているだけで、アベル様とレオナールさんは全然出入りしてないですよ。中で倒れたりしていたら……!」
「そうなればジャンが呼びに来るでしょう。はぁ~ようやく十通ほど出来たわ」
ジャンに言われて、レティシアはずっと架空の手紙……それもレティシアとアベルの二人分を書いていた。最初は年も近く、学院の先輩であるアベルに教えを請いたいという挨拶文、次第に領地運営についての質問を主にして、最近では互いの趣味や身近な出来事についても触れた親しげな手紙……になるように変遷させた。
「どう? 誰がどう見ても、勉強熱心な令嬢と、親切な伯爵様が師弟愛を育んでいるように見えるはずよ」
「お疲れ様です。僕も完成です」
そう言うと、アランは器に熱々のスープを注いだ。
「休憩がてら私が三人に持っていくわ。それが終わったら、手紙を見て貰いましょう」
「僕が持っていきますよ。それにレティ……シア様は早くお帰りになられた方がいいんじゃ?」
「なぁに? 追い出したいの?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
「冗談よ。アベル様達の作業がどれくらいか、確認したいの。だから私が行くわね」
「わかりました。お願いします」
そう言って三人分の皿を大きめのトレーに乗せ、バスケットに三人分のパンを詰め込んだ。
その様子を、アランはじっと見つめていた。どこか申し訳なさそうに。
「どうしたの、アラン?」
「いえ、どうしてレティシア様は、そこまでしてくださるのかと思って」
「どうしてって?」
「アベル様も仰ってたように、レティシア様はこの領地の住人じゃありません。偶然、来られただけです。畑が元に戻ったんですから、もう関わらなくてもいいはずなのに……」
「アラン……」
レティシアは、大きくため息をついた。
「アラン、あの時ジャンと一緒に話を聞いていたんじゃないの? 私にもう一度同じ話をさせるつもり?」
「そんなことは……」
「嬉しいことに、ここの人たちは私がやったことを嬉しい変革と言ってくれるわ。良くも悪くも、私はこの地を変えてしまったのよ。事を起こした人間には、それなりの責任があるわ」
「『それなりの責任』……ですか」
「そう。そして私には、それを成せる人脈という力もある。私自身の力ではないのが悔しいけれど、利用できるものは利用しないと」
アランの瞳が、普段から気弱そうな様子な上に、さらに眉までが垂れ下がっている。
大きな事をしようとしているのだから、不安を隠せない人間がいても何も不思議じゃない。レティシアはアランの両肩をしっかり掴んで、頷いて見せた。
「大丈夫。アベル様は凄い方なんだから。それにお父様も陛下の信頼厚い方なのよ。そりゃあちょっと厳しくて怒ると怖くて、色々と……難しい時もあるけれどね」
一瞬、希望を抱いたようだったアランの瞳が、再び陰った。
「あの……公爵様でないといけないんでしょうか?」
「どういうこと?」
「お話を伺っていると、要するに公爵様に国王陛下と仲立ちしてほしいんですよね? でもそのために公爵様を説得するのに時間がかかっていたら、本末転倒じゃないですか?」
「まぁ……そうね」
急に頭が痛くなってきた。父を説得するための資料はアベル達が作ってくれているが、レティシアにだって準備は必要だ。
何が一番て、心の準備が。
「う、うぅ~ん……できる……かしら?」
「そ、そんな気弱な……あぁでしたら他の方に頼むというのは?」
「他の方?」
「国王陛下との仲立ちが出来るほどの地位の方で、もっと、こう……レティシア様に甘い方……とか?」
「いくら可愛がって下さっても、これは政治の話なのだから別問題よ。そこを混同してしまう人には頼めないし」
「お父様だからこそ、必要以上に厳しいということもあるんじゃないでしょうか。レティシア様に優しくて、公平に話を聞いてくれる方と考えたら……?」
「……お人柄で考えればいなくはないでしょうけど……お父様と同等かそれ以上の立場でないと難しいんじゃ……あ!」
レティシアの叫び声に、アランがビクッと肩をふるわせた。
「ど、どうしたんですか?」
「いたかも……話を聞いてくれそうで、位の高いお方……」
「ほ、本当ですか? どなたで?」
「それは……」
勢い込んで、レティシアが告げようとした――その時だった。
バタバタバタッと、廊下で音がした。同時に、ジャンが駆け込んできた。
「おいアラン、手伝ってくれ!」
「兄さん、どうしたの?」
「アベル様が倒れた!」
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