この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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「……大司教……様?」

 大司教は、露わになったレティシアの手を、するすると撫ぜた。

「ああ、可哀想に」
「あの……何を?」

 そう問う声などまるで聞こえないように、大司教はレティシアの両手を撫で続けている。優しく頭を撫でて貰った感触と違って、どうしてか、ぞわりと背筋が粟立った。
 
「レティシア……あれだけ綺麗だった君の手が、こんなにも荒れてしまって……可哀想なことだ」
「こ、これはその……」

 大司教には、まだ謹慎期間中の事は話してはいない。どう説明したものかと頭を巡らせたのも一瞬のこと、大司教は優しく微笑んで首を振った。

「言わずともいい。ずっと暮らしに困っていた辺境の地を、君の力で救ったのだね。聞き及んでいるとも。私は君を、心から誇りに思うよ」
「え? あ、あの……ありがとうございます。光栄でございます」

 隣に座るセルジュを見ると、その表情は先ほどから変わらない。感情を内側にすべて封じ込めたような、何も読み取れない面持ちをしている。

(お兄様がお話ししていたのかしら?)

「だが君の力は最初の……畑を潤すところまでで十分だった。なにも君自身が開墾作業に従事しなくてもいいのだよ。君に出来ることは他にたくさんある。大勢が、それを待ち望んでいるのだからね」
「は、はい……申し訳ありません」

 謝罪の必要はないかと思ったが、それでも思わず頭を下げてしまった。そして、ふと気付いた。

「大司教様……どうして、畑仕事まで関わっていたと……? そのことは、お兄様にも言わなかったはずでは……?」

 顔を上げると、大司教は答えずにただ笑うばかりだった。

「先ほどの話……君の提案以外で、もう一つ、万事解決できる方法がある」
「万事、解決……?」

 こんな時に、まだレティシアの頭はふらついていた。

 問い詰めなければいけないのに。話を聞かなければいけないのに。

 なんとか姿勢を保とうと必死になるレティシアを、大司教は微笑みを湛えて見下ろしていた。

「君が、この王都の大聖堂で祈りを捧げればいい」
「……は?」
「なに簡単な話だ。かの辺境の地を豊かな土地に変えた『恵み』を、同じく国中の領地にも施すということだよ」
「は? でも、その役目は確か……」

 それこそ、『聖女』が担う役割だ。そして『聖女』として国王や王妃、教会からも認められた人物は、レティシアではない。皆が、そう決定したのだから。

「君に出来ること、大勢の民が待ち望んでいることがある……そう言っただろう?」
「そ、それは……」
「我々は君の力を望んでいる。君にしか出来ないのだよ。そして我々ならば、君の身を守れる上、望みも叶えられる……だから君には、ここに留まって貰わなければ、困るのだよ」
「……は?」

 もはや、聞こえてくる言葉を理解するのも難しい。そんな中で、必死に手放すまいとしていた理性が、テーブルの上のカップを捉えた。

 レティシアのカップは空になっている。だが、大司教のカップは手つかずのままだ。そして、隣に座るセルジュのカップもまた、一口も飲まれていない。

「……お兄様、まさか……!?」

 セルジュの視線が、僅かにレティシアの方に向けられる。

「大丈夫だ、シア。すべて……大丈夫だよ」

 その声が聞こえた途端、レティシアは食ってかかりたい衝動とは裏腹に、ぱたりと、意識を手放してしまった。倒れ込んだその体を、そのままセルジュの肩に預けて。

「ようやく来てくれたね、レティシア……我が元に」
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