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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
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咄嗟に、レティシアは目をつぶった。次の瞬間に襲い来るだろう痛みの覚悟をしていた。だが、来るはずの痛みはいつまで経っても来ない。
そろそろと目を開ける。
リュシアンの腕は、振りかぶったまま、止まっていた。正確には、止められていた。その背後に立つ人物によって。
「殿下、どうかそこまでに」
信じられないほど冷たい声だった。だけど、レティシアの知る声だった。
リュシアンの背後に立つその人物は、ちらりとレティシアを一瞥し、再びリュシアンを凝視した。
「お兄様……」
レティシアがそう呼んでも、セルジュはもう視線を向けることはなかった。同時に、リュシアンが腕を振りほどこうと藻掻いても、絶対に離そうとしなかった。
「く……セルジュ、離せ! だいたいお前、今まで何をしていた! 私の傍を離れて……!」
「セルジュには、色々と手伝いをしてもらっていたのですよ」
押し黙るセルジュに代わり、悠々と入ってきた大司教が、問いに答えた。だが、その答えはリュシアンも、そしてレティシアすらも、到底納得できるものではなかった。
セルジュと大司教、二人を交互に見ながら、ただ首を傾げるしかなかった。
「何故お前が大司教様と……? お前は、私の側近だろう」
「勝手にお借りして申し訳ありません、殿下。ですが、それほど重要な用事でして」
「重要な用事とは……何ですか」
大司教にそう言われ、リュシアンは声のトーンを落とした。さすがに強くは出られないらしい。大司教の方は、そうなることを予期していたように、にこやかだった。
「もちろん、彼女をここへ連れてくることですよ」
大司教の視線が、レティシアに向けられる。
「この女を? 何故、セルジュが?」
「丁重にお迎えするためです。セルジュならば騒ぎを起こさず、そして確実に、秘密裏に、ここまで連れてきてくれるものと信じておりました」
「何故騒ぎにしてはならないのですか? この女は『魔女』……断罪されて然るべきでしょう」
「『魔女』? はて、誰がそのようなことを?」
リュシアンの目が大きく見開かれる。愕然として、足がもつれるのを何とか堪えているようだった。
「な、何を……すべてこの女が『恵み』を奪ったせいなのでは……?」
がくがくと震えながらそう言うリュシアンに、大司教はくすくすと笑って見せた。
「そのような噂が出回っていることは存じておりましたが……そのような戯けた話を、よもや一国の王子がお信じになられたので?」
そろそろと目を開ける。
リュシアンの腕は、振りかぶったまま、止まっていた。正確には、止められていた。その背後に立つ人物によって。
「殿下、どうかそこまでに」
信じられないほど冷たい声だった。だけど、レティシアの知る声だった。
リュシアンの背後に立つその人物は、ちらりとレティシアを一瞥し、再びリュシアンを凝視した。
「お兄様……」
レティシアがそう呼んでも、セルジュはもう視線を向けることはなかった。同時に、リュシアンが腕を振りほどこうと藻掻いても、絶対に離そうとしなかった。
「く……セルジュ、離せ! だいたいお前、今まで何をしていた! 私の傍を離れて……!」
「セルジュには、色々と手伝いをしてもらっていたのですよ」
押し黙るセルジュに代わり、悠々と入ってきた大司教が、問いに答えた。だが、その答えはリュシアンも、そしてレティシアすらも、到底納得できるものではなかった。
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「何故お前が大司教様と……? お前は、私の側近だろう」
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「重要な用事とは……何ですか」
大司教にそう言われ、リュシアンは声のトーンを落とした。さすがに強くは出られないらしい。大司教の方は、そうなることを予期していたように、にこやかだった。
「もちろん、彼女をここへ連れてくることですよ」
大司教の視線が、レティシアに向けられる。
「この女を? 何故、セルジュが?」
「丁重にお迎えするためです。セルジュならば騒ぎを起こさず、そして確実に、秘密裏に、ここまで連れてきてくれるものと信じておりました」
「何故騒ぎにしてはならないのですか? この女は『魔女』……断罪されて然るべきでしょう」
「『魔女』? はて、誰がそのようなことを?」
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「な、何を……すべてこの女が『恵み』を奪ったせいなのでは……?」
がくがくと震えながらそう言うリュシアンに、大司教はくすくすと笑って見せた。
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