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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
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「大司教様……お兄様……」
よく見知って、慕ってきた二人なのに、レティシアは何故かその姿を見ても安心できないでいた。それがどうしてか、説明は出来ないのだけど。
戸惑いを浮かべつつ、レティシアは二人に向けて深々と頭を下げた。
「お助け頂き、ありがとうございました」
大司教は頷き、優しく微笑みかけたまま歩み寄った。
「本当に、君という子は……仕方のない子だ。我々が来るのがあと少し遅ければどうなっていたか。殿下がここに来たのは想定外とはいえ……」
「殿下も、命までは取ろうとは思われないでしょう。そう思いまして」
「命があっても、この美しい肌に疵でもついたらいったいどうするのだね? ああ……無事で良かった」
そう囁く大司教の目は慈愛に満ちていた。
先ほど感じた違和感は、杞憂だったのか。そう思ったが、やはり疑問は残っていた。
奇しくもリュシアンが明かしてくれた情報で、その疑問が浮かび上がった。
「大司教様、ここは教会の一室なのですか?」
「ああ、そうだとも」
「どうして、私はここで眠っていたのでしょう?」
「昨晩、君は疲れ果てていたようでね。お茶を飲んだら眠ってしまったんだよ」
そうだった。確か、出されたお茶を口にしたら、急に目眩を覚えたのだ。そして、大司教とセルジュは一口も飲んでおらず、こう言った。
『すべて……大丈夫だよ』
違和感に包まれながら、そこで意識を手放してしまった。
だが、その前に話していたことは、みるみる輪郭を取り戻していった。あの時、大司教が何を言っていたか……一言ずつ、脳裏に甦る。
「大司教様……何故、私をここへ……? お兄様も、私を騙していたの?」
にこにこと笑みを崩さない大司教と、いつもとまるで違って冷徹な表情を崩さないセルジュ。正反対の顔だが、その内に秘めているものは、同じなのだとレティシアにはわかった。
二人とも、レティシアの指摘を否定しようとしないのだから。
「お答え下さい。昨日仰ったことの意味を。私が教会で祈りを捧げればすべて解決するとは、どういうことですか。それが私にしか出来ないとは? ここに留まれとは? そして、もしも仮に、本当に、私にしかできないと言うのなら、何故リュシアン様は私を『魔女』などと呼ぶのですか」
「ふふふ。君はせっかちだね。昔から変わらない」
大司教はふわりと躱すようにそう言うと、部屋の外にいた修道士を呼んで何事か命じた。
そして、入れ替わるように別の修道士がワゴンを運んできた。ティーポットと、カップが並んでいる。
「掛けなさい。ゆっくり話をしようじゃないか。お茶でも飲みながら」
「……それは……」
「心配せずとも、このお茶には何も仕込んでいない。東国から渡ってきたという、とても美味しいお茶だよ」
にこやかに告げたその言葉は、つまりは、昨日のお茶は意図的だったと示している。立ったまま、拒絶を示すレティシアの肩を、後ろからセルジュが静かに抱いた。
そして……
「シア、座るんだ」
無理矢理に、ソファに落とされた。隣にセルジュが座る。対面のソファには大司教がゆったりと腰掛ける。
レティシアの逃げ道は、ない。我知らず、レティシアは胸元を握りしめていた。
「時間はたっぷりある。君の問いに、答えてあげよう。昔から好奇心旺盛で、聡明で、行動的で、素直で……勘が鋭く、生意気で、リュシアン殿下などよりずぅっと小賢しい、レティシア」
紅茶のカップが、レティシアの前に置かれた。立ち上る湯気が、大司教の笑みを遮る。
声だけが、湯気を掻き消すかのように重く響いてくる。
「飲みなさい」
よく見知って、慕ってきた二人なのに、レティシアは何故かその姿を見ても安心できないでいた。それがどうしてか、説明は出来ないのだけど。
戸惑いを浮かべつつ、レティシアは二人に向けて深々と頭を下げた。
「お助け頂き、ありがとうございました」
大司教は頷き、優しく微笑みかけたまま歩み寄った。
「本当に、君という子は……仕方のない子だ。我々が来るのがあと少し遅ければどうなっていたか。殿下がここに来たのは想定外とはいえ……」
「殿下も、命までは取ろうとは思われないでしょう。そう思いまして」
「命があっても、この美しい肌に疵でもついたらいったいどうするのだね? ああ……無事で良かった」
そう囁く大司教の目は慈愛に満ちていた。
先ほど感じた違和感は、杞憂だったのか。そう思ったが、やはり疑問は残っていた。
奇しくもリュシアンが明かしてくれた情報で、その疑問が浮かび上がった。
「大司教様、ここは教会の一室なのですか?」
「ああ、そうだとも」
「どうして、私はここで眠っていたのでしょう?」
「昨晩、君は疲れ果てていたようでね。お茶を飲んだら眠ってしまったんだよ」
そうだった。確か、出されたお茶を口にしたら、急に目眩を覚えたのだ。そして、大司教とセルジュは一口も飲んでおらず、こう言った。
『すべて……大丈夫だよ』
違和感に包まれながら、そこで意識を手放してしまった。
だが、その前に話していたことは、みるみる輪郭を取り戻していった。あの時、大司教が何を言っていたか……一言ずつ、脳裏に甦る。
「大司教様……何故、私をここへ……? お兄様も、私を騙していたの?」
にこにこと笑みを崩さない大司教と、いつもとまるで違って冷徹な表情を崩さないセルジュ。正反対の顔だが、その内に秘めているものは、同じなのだとレティシアにはわかった。
二人とも、レティシアの指摘を否定しようとしないのだから。
「お答え下さい。昨日仰ったことの意味を。私が教会で祈りを捧げればすべて解決するとは、どういうことですか。それが私にしか出来ないとは? ここに留まれとは? そして、もしも仮に、本当に、私にしかできないと言うのなら、何故リュシアン様は私を『魔女』などと呼ぶのですか」
「ふふふ。君はせっかちだね。昔から変わらない」
大司教はふわりと躱すようにそう言うと、部屋の外にいた修道士を呼んで何事か命じた。
そして、入れ替わるように別の修道士がワゴンを運んできた。ティーポットと、カップが並んでいる。
「掛けなさい。ゆっくり話をしようじゃないか。お茶でも飲みながら」
「……それは……」
「心配せずとも、このお茶には何も仕込んでいない。東国から渡ってきたという、とても美味しいお茶だよ」
にこやかに告げたその言葉は、つまりは、昨日のお茶は意図的だったと示している。立ったまま、拒絶を示すレティシアの肩を、後ろからセルジュが静かに抱いた。
そして……
「シア、座るんだ」
無理矢理に、ソファに落とされた。隣にセルジュが座る。対面のソファには大司教がゆったりと腰掛ける。
レティシアの逃げ道は、ない。我知らず、レティシアは胸元を握りしめていた。
「時間はたっぷりある。君の問いに、答えてあげよう。昔から好奇心旺盛で、聡明で、行動的で、素直で……勘が鋭く、生意気で、リュシアン殿下などよりずぅっと小賢しい、レティシア」
紅茶のカップが、レティシアの前に置かれた。立ち上る湯気が、大司教の笑みを遮る。
声だけが、湯気を掻き消すかのように重く響いてくる。
「飲みなさい」
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