この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は

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 廊下を歩く音は、いつもより軽やかだった。
 この老人にも、浮かれることがあるのかと、セルジュは内心で驚いていた。だが表情には出さず、あくまで粛々と付き従っている。

 いつも以上ににこやかな大司教と、冷徹な面持ちを崩さないセルジュ。その二人の醸し出す空気は、どこか人を寄せ付けない不気味さが滲み出いていた。

 そんな中、パタパタといっそう軽やかな足音が聞こえてきた。
 足音の主は大きな駕篭を携えて、息を切らせながら大司教に向けて駆けてきた。

「大司教様! セルジュさん!」
「……アネット、どうかしたのかね?」

 大司教に優しく問い返され、アネットは頬を真っ赤に染めた。

「はい! お庭にとてもきれいな花の蕾が出ていたんです。それで、庭師の方にお伺いして少し頂いちゃいました! その……レティシア様に、と思って」

 アネットが差し出した駕篭には、色とりどりの花が詰まっている。花畑を、そのまま詰め込んだかのように鮮やかだった。

 様々な花がひしめき合っているその様を覗き込んで、大司教はぴくりと眉を動かした。

「アネット……これはもしや、『咲かせた』のか?」
「え」

 大司教の表情が、怪訝なものに変わった。
 眉は吊り上がり、視線が鋭くアネットを刺し貫いている。まるで、出来の悪い生徒に向けるような視線だ。

「えぇと……蕾はできていたんですけど、咲くのはもう少し時間がかかりそうで……でも、今すぐに見て頂きたくて……」
「咲かせたんだな? まだ膨らんでいない蕾を、よりによってこんな時期に?」
「は、はい……」

 大司教の静かなため息の声が、廊下に響いた。

「君はもう少し、思慮深くならなくてはね。君の力がいったいどういうものか、君自身が一番よく理解しているだろう」
「はい……すみません」

 アネットが青ざめた顔で肩を竦めて頭を下げた。すると大司教は、ふわりと険しい表情を解いた。

「わかればいい。君の力は何かを疲弊させるが、君が咲かせた花は、確かに疲れ果てた人々の心を癒やすだろう。その時まで、温存しておくように」
「は、はい……」
「それに……君がその花を捧げるべきはレティシアではないだろう。殿下は、どうした?」
「リュシアン様は……お部屋に籠もってお人払いを……」
「そこで引き下がらずに、寄り添うのが婚約者というものだ。王妃が病で伏せっておられる間、一日たりとも見舞いを欠かさない陛下を、少しは見習ってはどうかね」
「も、申し訳ございません……!」

 アネットの顔が、さっと青ざめていく。頭を下げつつも、大司教の言葉を待ちながらちらちらその顔色を窺っていた。

「……怒ったわけではないよ。安心おし。ただ、大切にしなければいけない順番を、間違えてはいけない。いいね?」
「……はい」
「うん、君は優しい子だからね。つい目の前の苦しむ人に手を差し伸べてしまうが、あくまで君の一番はリュシアン様だ……それを忘れないように」
「はい。では、このお花……リュシアン様にお渡ししてきます」

 アネットはお辞儀をすると、再びパタパタと駆けて行ってしまった。彼女の通ったあとは花が咲いたかのように、不思議と明るく華やいでいた。

 その後ろ姿を、大司教とセルジュはじっと見守っていた。そして……誰にともなく呟いた。

「リュシアン王子……まったく余計なことを……」

 セルジュは何も言わずに、ただ再び歩き出した大司教に付き従って、自らも歩き出したのだった。
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