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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
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あの時、アネットと会っていたのはお前なのか――そう尋ねようとして、出来ないでいた。肯定されてしまえば、どうすればいいかわからない。
言葉をなくしてただパクパクと空回りする口を閉じ、唇を噛んでいるリュシアンの耳に、今度は荒々しい足音が響いてきた。
「大変です、殿下!」
「……いったい何だ。ノックぐらいしろ」
入ってきたのは下級貴族の一人だ。礼儀も知らないのかとため息をつくが、リュシアンの苛立ち以上に、彼の焦りの方が勝っていた。
「も、も、申し訳ありません! ですがその……緊急事態で……」
「何だ。やっと私の出番というわけか。それとも私以外が忙しくて対応できないか?」
「いえ、そのような……その……とにかく殿下を呼べと言う方が……!」
リュシアンが眉をピクリと動かした。
王太子であるリュシアンを呼びつけるなど、無礼以外の何物でもない。それをそのまま伝えに来る者も含めて。
「馬鹿なことを……追い返せ。今なら特別に見逃してやる」
「そ、そういうわけには……」
「その者の名は?」
何故か引き下がろうとしない男との間に、セルジュが割って入った。
「簡単に下がらないところを見ると、相手も相応の人物ということなのか?」
「は、はい!」
リュシアンとセルジュが視線を交わす。会うべきだと、言われているようだった。
「……そうならそうと先に言え。それで? それはいったいどこのどなた様なんだ?」
ため息ついでに慇懃無礼に言うと、男は、何故か声をすぼめて囁いた。
「その方は…………」
男が、とある人物の名を囁く。その途端、リュシアンもセルジュも大きく目を見開いた。
「何を馬鹿な……! 自分が何を言っているか、わかっているのか!」
「よ、よく存じております! ですが、リール公爵閣下も付いておいでで……」
「宰相が? それならば偽物ということは……いや、しかし……」
「殿下、ひとまずはお会いになられた方が……宰相の後見もついているということですし」
ぶつぶつ言うばかりで判断のつかないリュシアンに、セルジュがそう言う。
言っていることはもっともだ。だがその言葉に従っていいのか、疑問ではあった。
「……お前は、このことを知っていたのか?」
「まさか。父は時折、私の考えの及ばぬことをなさいます」
涼しげにそう言う顔は、とても言葉通りとは思えないが、先ほど目を見開いていた様子は、驚きを隠しきれていないものだった。
「わかった。案内しろ」
男の導きに従って廊下を進むと、王宮のエントランスは騒然としていた。自分の職務も忘れて呆ける貴族達が寄り集まり、そこに立つ人物をただただ見つめていた。
人垣をかき分けて、リュシアンはその人物の前に進み出た。
目の前に立っているのは、聞いていたとおりの人物……リュシアンがよく知る人物だ。
いや、漆黒の髪に真っ赤な瞳、よく日に焼けた逞しい顔つきをした、そしてリュシアンが知っていた頃よりもずっと精悍な青年だった。
「大きくなられた……王太子リュシアン殿下」
「あなたは……!」
わかっていたはずなのに、言葉をなくしていた。愕然としているリュシアンを見て、青年は優雅に微笑み返し、そして高らかに告げた。
「バルニエ領主アベル・ド・ランドロー伯爵……いや、元・第一王子エルネスト=ディオン・ド・ルクレール……殿下に拝謁を賜りたく、墓場より甦って馳せ参じた」
言葉をなくしてただパクパクと空回りする口を閉じ、唇を噛んでいるリュシアンの耳に、今度は荒々しい足音が響いてきた。
「大変です、殿下!」
「……いったい何だ。ノックぐらいしろ」
入ってきたのは下級貴族の一人だ。礼儀も知らないのかとため息をつくが、リュシアンの苛立ち以上に、彼の焦りの方が勝っていた。
「も、も、申し訳ありません! ですがその……緊急事態で……」
「何だ。やっと私の出番というわけか。それとも私以外が忙しくて対応できないか?」
「いえ、そのような……その……とにかく殿下を呼べと言う方が……!」
リュシアンが眉をピクリと動かした。
王太子であるリュシアンを呼びつけるなど、無礼以外の何物でもない。それをそのまま伝えに来る者も含めて。
「馬鹿なことを……追い返せ。今なら特別に見逃してやる」
「そ、そういうわけには……」
「その者の名は?」
何故か引き下がろうとしない男との間に、セルジュが割って入った。
「簡単に下がらないところを見ると、相手も相応の人物ということなのか?」
「は、はい!」
リュシアンとセルジュが視線を交わす。会うべきだと、言われているようだった。
「……そうならそうと先に言え。それで? それはいったいどこのどなた様なんだ?」
ため息ついでに慇懃無礼に言うと、男は、何故か声をすぼめて囁いた。
「その方は…………」
男が、とある人物の名を囁く。その途端、リュシアンもセルジュも大きく目を見開いた。
「何を馬鹿な……! 自分が何を言っているか、わかっているのか!」
「よ、よく存じております! ですが、リール公爵閣下も付いておいでで……」
「宰相が? それならば偽物ということは……いや、しかし……」
「殿下、ひとまずはお会いになられた方が……宰相の後見もついているということですし」
ぶつぶつ言うばかりで判断のつかないリュシアンに、セルジュがそう言う。
言っていることはもっともだ。だがその言葉に従っていいのか、疑問ではあった。
「……お前は、このことを知っていたのか?」
「まさか。父は時折、私の考えの及ばぬことをなさいます」
涼しげにそう言う顔は、とても言葉通りとは思えないが、先ほど目を見開いていた様子は、驚きを隠しきれていないものだった。
「わかった。案内しろ」
男の導きに従って廊下を進むと、王宮のエントランスは騒然としていた。自分の職務も忘れて呆ける貴族達が寄り集まり、そこに立つ人物をただただ見つめていた。
人垣をかき分けて、リュシアンはその人物の前に進み出た。
目の前に立っているのは、聞いていたとおりの人物……リュシアンがよく知る人物だ。
いや、漆黒の髪に真っ赤な瞳、よく日に焼けた逞しい顔つきをした、そしてリュシアンが知っていた頃よりもずっと精悍な青年だった。
「大きくなられた……王太子リュシアン殿下」
「あなたは……!」
わかっていたはずなのに、言葉をなくしていた。愕然としているリュシアンを見て、青年は優雅に微笑み返し、そして高らかに告げた。
「バルニエ領主アベル・ド・ランドロー伯爵……いや、元・第一王子エルネスト=ディオン・ド・ルクレール……殿下に拝謁を賜りたく、墓場より甦って馳せ参じた」
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