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第6章 聖大樹の下で
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「私は、また失った……いや、捨てられた……」
ぽつりと呟いたリュシアンの声は、風に吹かれればかき消えてしまいそうだった。
「殿下、お気を落とさず……」
「お前は戻れ、セルジュ」
「しかし……」
ドアをくぐった先には、衛兵しかいない。緊急の重臣会議であり、内密の集まりであったため、人を寄せ付けないように言われているのだ。
この場に、茫然自失の状態のリュシアンを置いては行くなど、セルジュにはできないだろう。わかっていたことだが、どうしてもそう言わずにはいられなかった。
「私の元にいては、大司教様の遣いが果たせないかも知れないぞ・どうせ、まだ何か言いつけがあるんだろう」
「それは……」
もう一度セルジュを中へと促そうとした矢先、パタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。
「リュシアン様! セルジュ様!」
「……アネットか」
普段ならばその姿を見つけただけで目を輝かせるというのに、今日のリュシアンは目を逸らせた。情けない顔を見られたくないのだ。
だがセルジュは、助かったと言わんばかりにアネットを呼び寄せた。
「アネット嬢、殿下はその……具合が悪くなったのです。お側について差し上げてください」
「え、はい……」
急な頼みに戸惑うアネットを置いて、セルジュは議会場の中へ戻っていった。発言権は持たないが、リュシアンの代理としてその場に留まり、議会の様子を伝える。それだけでも役目として果たしてもらわなければならない。
「アネット、どうした?」
「あ、いえ……大丈夫、ですか?」
「心配要らない。それより何か用があったんじゃないのか?」
「いえ、それは……」
アネットの視線が僅かに泳いだ。リュシアンの背後の衛兵をチラチラ見ている。
「わかった。戻るから部屋まで着いてきてくれ」
「は、はい! あの、お手を……?」
「……いらない」
いつもなら舞い上がりそうな一言に、リュシアンは今は、ずんと胸が重くなる。
――それほど、私は何の力も持たないのか
アネットが、そんな苛立ちを感じ取っているのか、おそるおそる後ろを付いてくる。
廊下には、二人以外に人影は見えない。いつも以上に静かなものだ。
これもすべて緊急で重臣達が招集されたから。王宮に集まる者たちは皆萎縮しているのだ。何かが起こっていると、あの人物が告げてしまったから。
エルネスト王子が現れた。それだけで、その存在だけで、良くも悪くも皆の心を震わせた。
「私には、そんな力はないな……」
「はい?」
自虐めいた呟きは、アネットには聞こえていたようだ。
リュシアンの執務室にたどり着き、ドアを閉めてくれたアネットは、首を傾げて尋ね返した。
「何でもない。それより、何か秘密の話でもあったんじゃないのか? ここには人は寄りつかない。今なら……」
そう、口にした瞬間、アネットが急速に距離を詰めた。ずっとそわそわしていたが、今はそれを通り越して、焦りが見えた。
大きな潤んだ瞳が、リュシアンを至近距離からまっすぐに見つめている。
「ど、どうした?」
「……ください」
「何だって?」
アネットが、意を決したようにリュシアンの両手を握って、告げた。
「レティシア様を助けて下さい……!」
ぽつりと呟いたリュシアンの声は、風に吹かれればかき消えてしまいそうだった。
「殿下、お気を落とさず……」
「お前は戻れ、セルジュ」
「しかし……」
ドアをくぐった先には、衛兵しかいない。緊急の重臣会議であり、内密の集まりであったため、人を寄せ付けないように言われているのだ。
この場に、茫然自失の状態のリュシアンを置いては行くなど、セルジュにはできないだろう。わかっていたことだが、どうしてもそう言わずにはいられなかった。
「私の元にいては、大司教様の遣いが果たせないかも知れないぞ・どうせ、まだ何か言いつけがあるんだろう」
「それは……」
もう一度セルジュを中へと促そうとした矢先、パタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。
「リュシアン様! セルジュ様!」
「……アネットか」
普段ならばその姿を見つけただけで目を輝かせるというのに、今日のリュシアンは目を逸らせた。情けない顔を見られたくないのだ。
だがセルジュは、助かったと言わんばかりにアネットを呼び寄せた。
「アネット嬢、殿下はその……具合が悪くなったのです。お側について差し上げてください」
「え、はい……」
急な頼みに戸惑うアネットを置いて、セルジュは議会場の中へ戻っていった。発言権は持たないが、リュシアンの代理としてその場に留まり、議会の様子を伝える。それだけでも役目として果たしてもらわなければならない。
「アネット、どうした?」
「あ、いえ……大丈夫、ですか?」
「心配要らない。それより何か用があったんじゃないのか?」
「いえ、それは……」
アネットの視線が僅かに泳いだ。リュシアンの背後の衛兵をチラチラ見ている。
「わかった。戻るから部屋まで着いてきてくれ」
「は、はい! あの、お手を……?」
「……いらない」
いつもなら舞い上がりそうな一言に、リュシアンは今は、ずんと胸が重くなる。
――それほど、私は何の力も持たないのか
アネットが、そんな苛立ちを感じ取っているのか、おそるおそる後ろを付いてくる。
廊下には、二人以外に人影は見えない。いつも以上に静かなものだ。
これもすべて緊急で重臣達が招集されたから。王宮に集まる者たちは皆萎縮しているのだ。何かが起こっていると、あの人物が告げてしまったから。
エルネスト王子が現れた。それだけで、その存在だけで、良くも悪くも皆の心を震わせた。
「私には、そんな力はないな……」
「はい?」
自虐めいた呟きは、アネットには聞こえていたようだ。
リュシアンの執務室にたどり着き、ドアを閉めてくれたアネットは、首を傾げて尋ね返した。
「何でもない。それより、何か秘密の話でもあったんじゃないのか? ここには人は寄りつかない。今なら……」
そう、口にした瞬間、アネットが急速に距離を詰めた。ずっとそわそわしていたが、今はそれを通り越して、焦りが見えた。
大きな潤んだ瞳が、リュシアンを至近距離からまっすぐに見つめている。
「ど、どうした?」
「……ください」
「何だって?」
アネットが、意を決したようにリュシアンの両手を握って、告げた。
「レティシア様を助けて下さい……!」
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