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第6章 聖大樹の下で
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ふいに、リュシアンは窓の外を見た。庭に生えている、大きな木を見つめている。聖大樹ほどではないが、樹齢も長く、大きな木だった。
リュシアンは、ふいにその木を指さした。
「昔、あの木に登ったよな」
「え……覚えているんですか?」
正確には、登ってみたいと言って聞かないレティシアにつられてリュシアンも登らされた、だが。
「木登りですらお前には敵わなかった。まだ下りられそうな高さでおどおどしていた私を置いて、お前はぐんぐん登っていった。高く高く、手の届かないようなところへ。そして……」
リュシアンはなぜかクスッと笑って、言った。
「下りられなくなったよな」
「なっ!?」
レティシアの記憶も、鮮明に甦ってきた。自分で思っていたよりも地面から遠ざかりすぎて頭がクラクラしてしまったのだ。
「自分で登ったくせに、下ろしてくれと言ってわんわん泣いていた。大騒ぎだったな」
「あれは……!」
「あんな間抜けな『魔女』など、いるものか」
リュシアンはそう言って、笑った。笑われているが、不思議と不愉快じゃなかった。今までの嘲笑とはまったく違う。
目の前にいるのが、あの日地上で涙をこぼしながらレティシアを出迎えてくれたリュシアンと同じ人物だと思える、柔らかな笑みだった。
「……そんな言い方、酷いです」
「ああ、そうだな。酷い。酷いことばかり、してきた」
リュシアンの目が、じわりと滲んでいるようだった。大きくなってから、初めて見る顔だった。
「私は、酷いことをしてきた。色々、間違えてきた。そんな私を、ある人が認めてくれた。誇りだと言ってくれたんだ……こんな私を」
「それは……」
アネットなのか、と問おうとして、やめた。どうしてか、言ってはいけない気がした。
「だからこそ、私は……今度こそ、アネットに恥じない自分でありたいんだ!」
そのリュシアンの声が、どうしてか炎のようにレティシアに覆い被さった。かと思うと、まるで温かなお湯のように静かに胸の内に染み入っていく。
何の根拠もない。だけどその言葉が真実だと、レティシアは信じていた。
心を入れ替えてレティシアを思って行動した、と言ったなら信じられなかっただろうが、すべてアネットのためだとこうも力一杯言われてしまえば、どうしようもない。それどころか……
「参りました……まさかリュシアン殿下に……」
「な、何だ?」
「……不覚にも、感動してしまいました」
今度はリュシアンの方が首を傾げていた。
「わかりました、リュシアン殿下。どうか、ここからお連れ下さい」
「ようやく信じたか!」
リュシアンが仕方なく差し出した手を、レティシアが立ち上がり、仕方なく取ろうとした。
その時――壊れたドアの向こうから、影が近づいてきた。ゆっくりと、威厳に満ち満ちた声と共に。
「仲直りが出来たようで何よりです。殿下、レティシア……」
配下の修道士を引き連れ、慈愛に溢れた笑みを浮かべた大司教が、そこに立っていた。
リュシアンは、ふいにその木を指さした。
「昔、あの木に登ったよな」
「え……覚えているんですか?」
正確には、登ってみたいと言って聞かないレティシアにつられてリュシアンも登らされた、だが。
「木登りですらお前には敵わなかった。まだ下りられそうな高さでおどおどしていた私を置いて、お前はぐんぐん登っていった。高く高く、手の届かないようなところへ。そして……」
リュシアンはなぜかクスッと笑って、言った。
「下りられなくなったよな」
「なっ!?」
レティシアの記憶も、鮮明に甦ってきた。自分で思っていたよりも地面から遠ざかりすぎて頭がクラクラしてしまったのだ。
「自分で登ったくせに、下ろしてくれと言ってわんわん泣いていた。大騒ぎだったな」
「あれは……!」
「あんな間抜けな『魔女』など、いるものか」
リュシアンはそう言って、笑った。笑われているが、不思議と不愉快じゃなかった。今までの嘲笑とはまったく違う。
目の前にいるのが、あの日地上で涙をこぼしながらレティシアを出迎えてくれたリュシアンと同じ人物だと思える、柔らかな笑みだった。
「……そんな言い方、酷いです」
「ああ、そうだな。酷い。酷いことばかり、してきた」
リュシアンの目が、じわりと滲んでいるようだった。大きくなってから、初めて見る顔だった。
「私は、酷いことをしてきた。色々、間違えてきた。そんな私を、ある人が認めてくれた。誇りだと言ってくれたんだ……こんな私を」
「それは……」
アネットなのか、と問おうとして、やめた。どうしてか、言ってはいけない気がした。
「だからこそ、私は……今度こそ、アネットに恥じない自分でありたいんだ!」
そのリュシアンの声が、どうしてか炎のようにレティシアに覆い被さった。かと思うと、まるで温かなお湯のように静かに胸の内に染み入っていく。
何の根拠もない。だけどその言葉が真実だと、レティシアは信じていた。
心を入れ替えてレティシアを思って行動した、と言ったなら信じられなかっただろうが、すべてアネットのためだとこうも力一杯言われてしまえば、どうしようもない。それどころか……
「参りました……まさかリュシアン殿下に……」
「な、何だ?」
「……不覚にも、感動してしまいました」
今度はリュシアンの方が首を傾げていた。
「わかりました、リュシアン殿下。どうか、ここからお連れ下さい」
「ようやく信じたか!」
リュシアンが仕方なく差し出した手を、レティシアが立ち上がり、仕方なく取ろうとした。
その時――壊れたドアの向こうから、影が近づいてきた。ゆっくりと、威厳に満ち満ちた声と共に。
「仲直りが出来たようで何よりです。殿下、レティシア……」
配下の修道士を引き連れ、慈愛に溢れた笑みを浮かべた大司教が、そこに立っていた。
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