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第6章 聖大樹の下で
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その姿に、誰も何も言うことが出来なかった。
力を使い果たし、役目を終えた老人のような出で立ちに、誰もが呆然としていた。そんな静寂を破ったのは、威厳に満ちあふれた声だった。
「レティシア嬢、大事ないか」
「こ、国王陛下!」
慌てて頭を垂れるレティシアに、国王は顔を上げるよう促した。
「良い。そなたが我が息子のために働きかけてくれていたこと、嬉しく思う。父として、礼を言わせて貰いたい」
「と、とんでもないことでございます!」
「同時に、詫びねばならぬ。私やもう一人の息子の不手際のせいで、危険な目に遭わせてしまった。それに不名誉も随分と被ってしまったな。何と詫びればよいのやら」
「そ、そんな……!」
どれほど恐縮しても、国王はレティシアに頭を下げることを止めなかった。あたふたするレティシアに、さらにもう一人、王妃までが歩み寄った。
「レティシア嬢、私も、あなたへの非礼を詫びねばなりませんね」
「お、王妃様が、ですか……?」
「あなたにいつも辛く当たっていたこと、許してください」
「そ、そんなこと……王妃様はいつも厳しくご指導をして下さいました」
「厳しくすれば投げ出すと思っていたからです。私とリュシアンに毒を盛ったのは、エルネスト王子とあなたの共謀だと思い込んでいました。まんまと次期聖女の地位に就き、私以上の力を示してみせるあなたが、許せなかった……どれほど愚かだと罵られようとも否定できません。あなたにも、エルネスト王子にも、本当に申し訳ないことをしました」
王妃までが、そう言って深々と頭を下げた。レティシアはそれを止めたいのだが、強く言うわけにもいかなくて、あわあわと声にならない声を漏らすばかり。
すると横から、クスクス笑い声がした。
「陛下、王妃殿下、もうそのくらいで。心から謝罪したい相手を困らせるのは、本意ではないでしょう」
「エルネスト……そうだな。その通りだ」
国王も王妃も、ようやく頭を上げてくれた。だがその視線が、ちらりと別のものに止まった時、痛ましいといったように、表情が歪んだ。
「しかし……代償は、大きいな」
ぽつりと呟いた声が、重々しかった。
「聖大樹は、実情はどうあれこの国に暮らす人々の希望。たとえ花を咲かせずとも、ここに存在するということが重要なのだ。それが……」
そこまで告げた国王が、言葉を句切った。その視線の先には、大聖堂から連れ出されてきた人物たちの姿があった。レティシアもアベルも、そちらに視線を移した。
「リュシアン様! ご無事ですか!?」
リュシアンの姿を目にしたアネットは、誰より先に飛び出していた。
「ああ、無事だ。ちゃんと父上達に伝えてくれたんだな、アネット」
「そんな……私、リュシアン様一人を危険な場所に行かせてしまって……本当にごめんなさい……!」
「……いいんだ」
「そ、それに……私のせいで……」
アネットが青ざめた顔で俯く。リュシアンは、国王たちの視線を受けて、改めて聖大樹を見つめていた。
「……アネット、君は私の命を救ってくれたんだ。そのことに感謝こそすれ、責めることなど、私にできるものか。ありがとう、アネット」
「で、でも……!」
その二人のやりとりは、微笑ましいものだった。
だが、起こった事が事だけに、誰も二人を慰めることができずにいる。
だが、そんな空気を引き裂くように、渇いた嘲笑が響いてきた。捕らえられて引きずり出されて、泥の付いた法衣を纏った、大司教の笑い声だった。
「ふん、貴様ら……私を捕らえるというなら、その娘も同罪……いや、私よりもはるかに罪が重いぞ。なにせこの国の象徴をこんな有様に変えてしまったのだからな。それに、聖大樹だけではない。この国の畑を枯らしてしまったのも、この娘なのだから」
力を使い果たし、役目を終えた老人のような出で立ちに、誰もが呆然としていた。そんな静寂を破ったのは、威厳に満ちあふれた声だった。
「レティシア嬢、大事ないか」
「こ、国王陛下!」
慌てて頭を垂れるレティシアに、国王は顔を上げるよう促した。
「良い。そなたが我が息子のために働きかけてくれていたこと、嬉しく思う。父として、礼を言わせて貰いたい」
「と、とんでもないことでございます!」
「同時に、詫びねばならぬ。私やもう一人の息子の不手際のせいで、危険な目に遭わせてしまった。それに不名誉も随分と被ってしまったな。何と詫びればよいのやら」
「そ、そんな……!」
どれほど恐縮しても、国王はレティシアに頭を下げることを止めなかった。あたふたするレティシアに、さらにもう一人、王妃までが歩み寄った。
「レティシア嬢、私も、あなたへの非礼を詫びねばなりませんね」
「お、王妃様が、ですか……?」
「あなたにいつも辛く当たっていたこと、許してください」
「そ、そんなこと……王妃様はいつも厳しくご指導をして下さいました」
「厳しくすれば投げ出すと思っていたからです。私とリュシアンに毒を盛ったのは、エルネスト王子とあなたの共謀だと思い込んでいました。まんまと次期聖女の地位に就き、私以上の力を示してみせるあなたが、許せなかった……どれほど愚かだと罵られようとも否定できません。あなたにも、エルネスト王子にも、本当に申し訳ないことをしました」
王妃までが、そう言って深々と頭を下げた。レティシアはそれを止めたいのだが、強く言うわけにもいかなくて、あわあわと声にならない声を漏らすばかり。
すると横から、クスクス笑い声がした。
「陛下、王妃殿下、もうそのくらいで。心から謝罪したい相手を困らせるのは、本意ではないでしょう」
「エルネスト……そうだな。その通りだ」
国王も王妃も、ようやく頭を上げてくれた。だがその視線が、ちらりと別のものに止まった時、痛ましいといったように、表情が歪んだ。
「しかし……代償は、大きいな」
ぽつりと呟いた声が、重々しかった。
「聖大樹は、実情はどうあれこの国に暮らす人々の希望。たとえ花を咲かせずとも、ここに存在するということが重要なのだ。それが……」
そこまで告げた国王が、言葉を句切った。その視線の先には、大聖堂から連れ出されてきた人物たちの姿があった。レティシアもアベルも、そちらに視線を移した。
「リュシアン様! ご無事ですか!?」
リュシアンの姿を目にしたアネットは、誰より先に飛び出していた。
「ああ、無事だ。ちゃんと父上達に伝えてくれたんだな、アネット」
「そんな……私、リュシアン様一人を危険な場所に行かせてしまって……本当にごめんなさい……!」
「……いいんだ」
「そ、それに……私のせいで……」
アネットが青ざめた顔で俯く。リュシアンは、国王たちの視線を受けて、改めて聖大樹を見つめていた。
「……アネット、君は私の命を救ってくれたんだ。そのことに感謝こそすれ、責めることなど、私にできるものか。ありがとう、アネット」
「で、でも……!」
その二人のやりとりは、微笑ましいものだった。
だが、起こった事が事だけに、誰も二人を慰めることができずにいる。
だが、そんな空気を引き裂くように、渇いた嘲笑が響いてきた。捕らえられて引きずり出されて、泥の付いた法衣を纏った、大司教の笑い声だった。
「ふん、貴様ら……私を捕らえるというなら、その娘も同罪……いや、私よりもはるかに罪が重いぞ。なにせこの国の象徴をこんな有様に変えてしまったのだからな。それに、聖大樹だけではない。この国の畑を枯らしてしまったのも、この娘なのだから」
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