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終章 悪役令嬢は野菜令嬢に
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今の制度では、一人の女性が王妃と聖女を兼ねる。お咎めなしだったリュシアンは今も王太子のままなのだから、聖女に就くと言うことは、すなわち次期国王と結婚すると言うこと。
レティシアとリュシアンが……ということになる。それはレティシアにとっても、リュシアンにとっても、望むところじゃなかった。
だから、レティシアはリュシアンに提案を持ちかけた。
『私を貶めた罪を償わせてあげます。力をつけて立派な国王になって、聖女と王妃の制度をあなたが変えて下さい』
リュシアンは、了承していたが、苦笑いを浮かべていた。償いの機会は得られたが、長い戦いになりそうだ、と言って。
その苦笑いを見るのは、なかなかに心地よかった。
だが詳しいことをアベルに言うわけにはいかなかった。制度を変えるのは何のためだ、と訊かれてしまうと、何と返したら良いか分からない。
迷いながら口の中でもごもご言っていると、アベルの方が何だか申し訳なさそうに呟いた。
「よくわからんが……要は、お前とリュシアンは婚約者に戻る……わけではないんだな」
「婚約者に!? あり得ません! 二度とないです!」
「わかったわかった」
アベルは宥めるように、レティシアの頭をぽんぽんと優しく叩くと、何故かニヤついて作業に戻っていた。
「……どうしてそんなことを訊くんですか?」
「普通は気になるだろう。この国の聖女と国王に関することだぞ」
「そうじゃなくて、その……」
底から先が、言えない。口にしようとした瞬間、鍵がかかるように、急に話せなくなってしまった。
どうしたんだ、とアベルの目が問うている。ようやくこっちを向いたというのに、レティシアが何も返せなくなっているとは。
悔しくて焦って、とにかく言葉にしてしまわねば、と思った。
「せ、聖女とかではなくてですね……私自身のことは、どう……?」
「は?」
「あ、いえ。忘れて下さい」
尋ね返す声を聞くと、とても答えを求められるものじゃなかった。照れ隠しに、横に並んで葉の様子を見ていると、声が聞こえた。
聞こえるか聞こえないかのような、微かな声が。
「聖大樹は……祝福として花を咲かせる」
「……え?」
アベルの声だった。
「愛を誓った時と言ったが、少し違うらしい」
「はぁ……」
「正確には、聖大樹の前に立った二人が、想いを同じくした時に、金と銀の花を咲かせるんだとか」
「……はい」
「だから……まぁ、つまり…………そういうことだ」
「……は?」
アベルはそう言い放ったきり、ぷいっと向こうを向いてしまった。今度こそ、頑として答えない気らしい。
「何ですか?『そういうこと』ってどういうことですか? ねぇアベル様ったら」
「『そういうこと』は『そういうこと』だ。
「だから、どういうことですか!?」
「うるさいぞ、芋聖女」
「また芋聖女って言った! もう『芋』に限らないでしょ!」
「……そうだな。この地に今根ざしている作物は、だいたいお前の協力のおかげで育ったんだったな」
「だったら……」
「そうだな。悪かった、野菜令嬢」
「や、や、野菜令嬢!?」
その時、レティシアの素っ頓狂な声と、素っ頓狂な呼び名が、バルニエ領に響き渡った。
この後、しばらくレティシアは国中にその名を知られることとなった。
多くの野菜を育て、国に豊かさをもたらした『野菜の令嬢』として。
レティシアとリュシアンが……ということになる。それはレティシアにとっても、リュシアンにとっても、望むところじゃなかった。
だから、レティシアはリュシアンに提案を持ちかけた。
『私を貶めた罪を償わせてあげます。力をつけて立派な国王になって、聖女と王妃の制度をあなたが変えて下さい』
リュシアンは、了承していたが、苦笑いを浮かべていた。償いの機会は得られたが、長い戦いになりそうだ、と言って。
その苦笑いを見るのは、なかなかに心地よかった。
だが詳しいことをアベルに言うわけにはいかなかった。制度を変えるのは何のためだ、と訊かれてしまうと、何と返したら良いか分からない。
迷いながら口の中でもごもご言っていると、アベルの方が何だか申し訳なさそうに呟いた。
「よくわからんが……要は、お前とリュシアンは婚約者に戻る……わけではないんだな」
「婚約者に!? あり得ません! 二度とないです!」
「わかったわかった」
アベルは宥めるように、レティシアの頭をぽんぽんと優しく叩くと、何故かニヤついて作業に戻っていた。
「……どうしてそんなことを訊くんですか?」
「普通は気になるだろう。この国の聖女と国王に関することだぞ」
「そうじゃなくて、その……」
底から先が、言えない。口にしようとした瞬間、鍵がかかるように、急に話せなくなってしまった。
どうしたんだ、とアベルの目が問うている。ようやくこっちを向いたというのに、レティシアが何も返せなくなっているとは。
悔しくて焦って、とにかく言葉にしてしまわねば、と思った。
「せ、聖女とかではなくてですね……私自身のことは、どう……?」
「は?」
「あ、いえ。忘れて下さい」
尋ね返す声を聞くと、とても答えを求められるものじゃなかった。照れ隠しに、横に並んで葉の様子を見ていると、声が聞こえた。
聞こえるか聞こえないかのような、微かな声が。
「聖大樹は……祝福として花を咲かせる」
「……え?」
アベルの声だった。
「愛を誓った時と言ったが、少し違うらしい」
「はぁ……」
「正確には、聖大樹の前に立った二人が、想いを同じくした時に、金と銀の花を咲かせるんだとか」
「……はい」
「だから……まぁ、つまり…………そういうことだ」
「……は?」
アベルはそう言い放ったきり、ぷいっと向こうを向いてしまった。今度こそ、頑として答えない気らしい。
「何ですか?『そういうこと』ってどういうことですか? ねぇアベル様ったら」
「『そういうこと』は『そういうこと』だ。
「だから、どういうことですか!?」
「うるさいぞ、芋聖女」
「また芋聖女って言った! もう『芋』に限らないでしょ!」
「……そうだな。この地に今根ざしている作物は、だいたいお前の協力のおかげで育ったんだったな」
「だったら……」
「そうだな。悪かった、野菜令嬢」
「や、や、野菜令嬢!?」
その時、レティシアの素っ頓狂な声と、素っ頓狂な呼び名が、バルニエ領に響き渡った。
この後、しばらくレティシアは国中にその名を知られることとなった。
多くの野菜を育て、国に豊かさをもたらした『野菜の令嬢』として。
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