10 / 111
八夜目『ふったち』
しおりを挟む
これも聞いた話なんですがね、そうマスターの久保田は、グラスを磨きながら何気ない気配で口を開く。客足は奇妙なほど途絶えて、その言葉を耳にしたのは自分ただ一人だった。
※※※
鈴徳良二の父方の故郷は、とんでもなく迷信深い土地だ。それは、こんな電気も水道も完備された現代の日本には似つかわしくない程の迷信深さだった。彼は幼い頃から遊びに行く度に祖母や親戚達に様々な迷信事を覚えさせれて育ったものだ。それは良二の妹の早苗も一緒だった。そんな中に一つ遊びに関した決まり事があり、良二も早苗も必ず守るようにと教え込まれた。他の土地では守らなくてもいいが、この土地にいる限りは必ずまもらなければいけないと教え込まれたのだ。
祖母はそれはおまじないだと言った。
遊びから帰る時の必ず守らないといけないおまじない。それは、帰る時に一緒に遊んでいた子供は必ず手を繋いで帰る事。そして、けして後ろを振り返ってはいけない、と。祖母は座敷に二人を並んで座らせて、何度も遊びに出る前に繰り返し言い聞かせた。
「まもらねぇば、ごしゃったおっかねぇのさ、とっつかまんぞ。良二ぁなんじょしても早苗をせでこぉよ?」
祖母はお国訛りの滑らかで早い言葉で、何度も二人にそう言って聞かせた。二人が実際はその言葉の意味の半分も理解できていない事は知らずに何度も何度も言って聞かせた。二人はそれに適当に頷いて、近くの土地の子供達と一緒に外で駆け回って遊ぶ。そして、終わると手を繋いで家につくまで振り返らずに帰る。
最後の一人になった時はどうするのか分からないのは、二人の家が遊び場の直ぐ傍にあったからだ。兄妹二人だけで遊んでいても手を繋いで二人で家まで振り返らないで帰れば、約束を破ったことにはならない。
やがて一緒に遊ぶ同年齢の子供たちの言葉は、祖母ほどの訛りはなく大部分理解できるのに良二は気がついた。
「何で手ぇ、繋いで帰るの?」
妹と同じ歳のその土地の少女・佐々野冬子に聞くと、彼女は彼らに分かりやすい言葉に直すのが難しいとでも言いたげな顔をして暫く考え込んだ。やがて、冬子は言葉を選ぶようにして説明してくれる。
「おっかねぇのが後ろがら、こっこどぉが家さ帰るのを見てるんだって。」
「後ろから何が見てるの?」
何かが後ろから、子供達が家に帰るのをみているんだってと冬子が教えてくれた。言葉の端で分からないことを二人が改めて聞き返す。今日は三人で遊んでいるので、帰りはこの三人で手を繋いで家まで帰るんだなぁと良二はボンヤリ考える。
「おっかねぇの、って何たらいうのがなぁ?」
「誰が教えてくれるの?そういうの。」
「うちだば、やめとのばぁが、全部おしえでけだんだがす。」
やめととは『病人』の事を言うらしい。冬子のお祖母さんは長く病気をしていて、今は病院に入院しているという。やめとのばぁは病人のお祖母ちゃんというわけだ。つまりは佐々野家では、今は病気のお祖母さんが、こういう決まり事を教えてくれたと言うことなのだ。ただ『おっかねぇの』は二人には分からない言葉だが、標準語での表現が冬子にも上手く出来ないらしい。ふぅんと納得した様に早苗が、彼女の顔を見なおした。
「てっこつないでないば、おっかねぇのがあいだてっこさ、はしょってきてとっつぐんだって。」
手を繋いでいないと、何かが間の手に向かって走ってきて飛び付いてくる。やはり少し意味が分からない部分的があるのに、早苗が不思議そうに冬子の顔を見つめて問い返した。
「おっかないのって冬ちゃん見たことあるの?」
「ね。」
ない、そう短く答えた冬子に早苗が不満げに頬を膨らませているのに、良二は溜め息をつきそうになる。可愛い妹ではあるが、時々早苗の我が儘に良二も振り回されることがあるのだ。別段素直に言いつけを守ればいいだけの事なのに、何だか早苗が言うことを聞かなそうな気がする。
「何で見ないの?」
「おっかねぇのは…妖怪みだいなもんだすけ、まなぐでみだらわがねって。さなちゃんもみだらわがねよ。」
何かは妖怪みたいなものだから、目で見たら駄目だよと言うその言葉に早苗が何処か意地悪な顔をしたのに、良二は微かに不安を覚える。早苗としてはただ昔からの言い伝えを頑なに守る土地に、何となく反発してみたかったのかもしれない。
三人は遊び終えて一緒に手を繋いで、帰り道を並んで歩き始めた。暫くした時、不意に早苗が繋いでいた冬子の手を振り払って良二の手を引いて道路を駆けだす。
「こら!早苗!!冬ちゃんの手!」
背後で手を離された冬子の鋭く細い悲鳴があがり、早苗はクスクスと笑いながら夕日の射す背後を振り返った。
「冗談、冬ちゃん、ごめ」
道路の先で先ほどまで冬子がはいていた靴が、ポタンと音を立ててアスファルトに落ちた。そこはただ夕闇だけで冬子の姿はない。呆然と早苗は夕暮れの空を見回して冬子の名前を呼んだ。
消えた冬子を捜索する松明の灯りが山の方まで、真夜中過ぎて何時までも動き回っていた。
早苗は冬子が不意に道路にしゃがみ込んで、手を離したら消えてしまったと嘘をついてしまった。良二は咎めるような視線で早苗を見ていたが、妹の言葉をあえて訂正しようとはしない。そうして、早苗は横に寝ている良二をよそに、家の窓から山を動く幾つもの蛍のような灯りを見つめる。しかし、何日たっても冬子は見つからず、やがて冬子の捜索は打ち切られる事に決まった。
捜索が打ち切られた日、良二と早苗は祖母の家から両親と帰る事になった。車の後部座席に乗せられた二人は、集まった人達の中に弱々しげな老女が呆然と冬子の靴を両手で掲げ持っていたのを見る。老女が一瞬車をみたような気がしたが、良二の気のせいだったかもしれない。
それはやがて二人の記憶のかなたでセピア色に変わっていった。
※※※
鈴徳早苗が再びその地を訪れたのは、祖母の通夜の晩だった。既にあの事件から10年以上の時が立ち早苗は22歳になったし、良二は24歳だ。その良二は料理人として海外にいるので、あれ以来初めてその土地に足を踏み入れるのは早苗と両親だけだ。
子供の頃の記憶は殆どなく、ただ迷信深い土地だと記憶はしている。早苗は冬子の顔すら覚えていないが、自分が手を離したから消えた子供が居ることだけはうっすらと覚えていた。あれから踏み入れたことも来る気も無かったのにと早苗は呟く。
何気なく祖母の家から歩き、気がつくとそこは思い出の遊び場らしき場所だった。何の気なしにサクサクと草を踏んで歩いていると、幼い少女の声が背後の草むらから微かに聞こえた。
「…ちゃぁん…。」
ドキンと心臓が跳ね上がる。
微かな声の主は辺りには姿もないのに、早苗は何故か凍り付いた様に立ちすくみ汗をかきながら耳を澄ました。暫く佇んだ早苗の耳に何処か遠くから子供達の遊ぶ歓声が聞こえてきて、彼女は安堵にホッと胸を撫で下ろす。
嫌だ、過敏になってるのかしら。
久々にここに来たから神経が過敏になっているのだと言い聞かせて、早苗は歩き出す。早苗は遊びに来たわけではないから、一人で歩いても問題はないと考える自分に思わず苦笑する。
「おめ、鈴徳の孫だなす?」
唐突にかけられた声に、早苗は思わず振り返った。薄汚れた老婆が髪を振り乱して、腰の曲がった体を震わせながら早苗の事を睨むように見上げている。
「えっとどちらの方ですか?」
「んがぁてぇばはなしだすけ、うちんまぁごばふったちさとっつかれでしまったんだじゃ。」
掴みかかってきそうな勢いで、訛りの強い言葉を唾液を撒き散らしながら吐き散らす老婆の姿は異様だった。
「さっととっかえしだらたすかっだかもすんねぇ。だども、んがぁにげくさりやがったべ?だすきゃ、はぁふゆこぁあめでくされでしまっだ。」
ワナワナと震える指をさしながら滑らかな訛りが、何故か早苗を責めているのが分かる。意味も理解できないのに、早苗はその薄汚い老婆を改めて見つめ直した。
「んがぁえーふりこぎでずれぁばりでねぇ、なんたらえらすぐねぇわらしこだ。」
何かを叱責される気配で指をさされた早苗は、ふとずっと昔にここにいて起こった事件をうっすらと思い出す。この老婆はあの時の事を言ってるんだと、心の何処かが告げたのに早苗は背筋が寒くなった。
「おれぁしってらんだがらな?んがぁいじくされでふゆこぁてぇさはなしたんだべ?」
この老婆は早苗がわざと手を離して消えた佐々野冬子の事を、早苗に向かって話してるんだと何故か分かる。目を皿のようにした老婆の言葉は訛りが強すぎて理解できないのに、強く叱責されているのだけは早苗にもよく分かるのだ。
「だどもんがぁもあれまなぐでみだんだべ?だすきゃんがさもむがえさくるぞ。んがもふったちんとこであめくされ!えらすけねえくされわらすが!」
そう言い放つと老婆は早苗に向かって、突然小さな古ぼけた靴を投げつけた。顔に当たった靴に怒りを向ける前に、目の前から老婆は煙のように掻き消していて早苗は目を丸くする。道路に落ちた小さな子供靴を拾い上げた途端、その靴が誰のもので老婆が誰がが頭に浮かんだ。
冬子の靴、それに冬子のお祖母さんだ。
病気だと告げていた冬子の祖母の姿を思い浮かべるが、小綺麗な細身の老婆だった。今見た薄汚く髪を乱した老婆の変わり果てた姿に、早苗は呆然と立ち尽くす。しかも、彼女は早苗と分かっていて早苗に叱責に来たのが、今の早苗には酷く恐ろしかった。まるで老婆が全てを知っていて、執念深く早苗がここに戻ってくるのを待ち構えていたような気がするのだ。早苗は靴を草むらに投げ捨てると、急いで祖母の家まで駆け戻った。
「叔母ちゃん、佐々野のお祖母さんって。」
早苗が問いかけた途端、叔母の顔色が変わって唐突に叔母に腕を掴まれ物陰に引っ張りこまれた。
「しゃべっちゃわがねよ!早苗ちゃん、佐々野のばぁの話はここらで口にしたらわがねぇよ!」
話すなと制されて早苗は驚いたように目を見開く。
「なんで?」
「なしてって、佐々野のばっちゃふゆこぁめなぐなったがらあだまほずぁなくなって、おがすぐなってわらすどおっかけであるぐのよ。」
昔から訛りの半分くらいが理解できないのに、今の叔母の言葉は何故か理解できた。
何でって、佐々野のお祖母さんは冬子が居なくなって頭がバカになって、おかしくなって子供達を追っかけて歩くのよ。
叔母の言葉に近郊の人間が今ではあの老婆を気違いだと考えて、近寄らないようにしているのが分かった。
「うぢさも何べんも夜中に忍び込んでうぢのばっちゃさ、ふゆこぁやまさせでかれだすきゃ、ひゃぐおめどのわらすよごさねばぁふゆこぁあめくさるって。おがしがべ?」
家にも何度も夜中に忍び込んできて家の祖母に、冬子は山に連れていかれたから、早くお前の家の子供達を寄越さないと、冬子が…あめくさるって何?
唐突に言葉が理解できなくなって早苗は戸惑った。おかしくなったお祖母さんは理解できたが、あめくさるはなんだろう。
「そう言えば早苗ちゃんが、わらすどの頃でねがったっけ?冬ちゃんばきえだっだの。」
皆の記憶の中にも冬子が消えた時に誰が一緒にいた子供なのか、既に忘れ去られている事を知って早苗は内心ホッとした。
「ねぇ、叔母ちゃん、子供の頃のおっかないのが来るから手繋いで帰るって、なんでだったの?」
「なして?なしてっても、ばっちゃぁおっかねぇのはふったちだぁってせぇってたどもなぁ。」
「ふったち?」
聞いたことのない名前に早苗は首を傾げるが、叔母は話はこれで終わりと言いたげに他の人には言わないようにと念を押して台所に戻っていった。
迷信深い土地のせいか、葬儀は近隣の家の女衆が集まって台所は戦場のようになっている。男衆は座敷に家長から順に座ってお膳を前に酒盛りをしているのが、更に時代がかって見えた。
ふったちってなんなのかしら。
そう言われて早苗はあの時、振り返った夕焼けに何かを見たような気がして考え込んだ。
あの時冬子の手を離した後の、あの時背後を振り返った時。兄の良二は振り返った自分より後ろにいて振り返りはしなかったが、早苗は確かに後ろを振り返って冬子の靴が道路にポトンと落ちたのを見た。
あれは何が見えたんだったかしら。
祖母の祭壇の前でお膳を囲んでいる叔父や父親を硝子戸越しに眺めながら、早苗は思い立ったように兄に電話をかける。時差のせいか向こうは夜中過ぎだったようで、良二は中々電話を取らない。
『……ああ?早苗か、こっちは…まだ夜中なんだぞ…?』
海外の兄が眠そうな声で電話に出たのに、早苗は声を潜めて話す。
「ねえ、お兄、冬ちゃんのお祖母ちゃん覚えてる?」
『あー?冬……?』
寝ぼけているのか兄はあまり気のない声で、早苗の話を聞いている。早苗は話ながら海外に居るから来なくてもいいとなった兄が、内心羨ましいと考えている自分に気がつく。出来ることなら自分も理由をつけて、こんなところに来なきゃよかった。
『そっち、……何時だー?…うっせーな、…後ろ。』
「そろそろ夜の九時だけど?」
流石に通夜の酒盛りだ、うるさいと言うほど男衆の酒盛りが盛り上がっている気配もないのにと早苗は硝子戸を振り返る。九時ぃ?と兄が電話の向こうで、寝ぼけた声で呟く。
『叔母さんちの孫でも来てんのかよ、子供らが走り回ってんのかぁ。』
「何いってんの?お兄、ここには……。」
硝子戸に写る叔父達の黒いスーツに、逆に自分の下半身が反射して写りこんでいる。そして、写りこんだ廊下の角から見た覚えのある女の子が、斜めに顔を突きだしていた。二つの瞳がジッと柱の影から、早苗の事の様子を見つめている。
『あー、女の子…いんのか、…親戚殆ど集まってんだもんなぁ。』
兄の言葉に震えが走るのがわかって、早苗は荒く息を吐きながら震える声で問い返す。
「……お兄。………お兄には今何が聞こえてんの?」
『んー?女の子が早苗を何回も呼んでる以外にかぁ?……いい加減、お前も返事位してやれよ。』
早苗は凍りついたように角に写りこんだ少女を見つめ、ジリジリと間をとるように後退る。女の子の視線は一時も早苗を離すことなく、早苗の動きをひたすらに追っていて早苗は更に青ざめた。
「お兄…その声って、……なんて私のこと呼んでる?」
『んー?さーなちゃん、さーなちゃんって。…どうした?早苗。何かあったか?』
兄の言葉に背筋がゾオッと凍りついていく。冬子が早苗を呼ぶ時は、何時もさなちゃんだった。昼間に会った老婆の言葉と、今目に見えている少女の姿に早苗は気を失いそうに震え上がる。
※※※
良二は寝惚け眼でかかってきた電話に耳を澄ますと、早苗の荒い吐息が聞こえた。時差がどれくらいだったか忘れたが朝四時にかけてくる電話かよと、妹に言おうと頭をあげた瞬間、電話口に明確に少女の声が入ってくる。
『さなちゃんわざど手っこはなしたすけ、おれぁやまさせでかれだんだじゃ。』
誰だ?どっかで聞いたことがある声だ。
『しゃっけえあめかぜささらすこにされであめゆぎさしみで。ほにこわくてやめだった。みでけで、おらぁすっかりあめでらしくされでらべ?』
まるで耳元で囁いているみたいに、女の子の声がハッキリと電話に聞き取れる。早苗が言葉の後で鋭く息を飲むのが聞こえた。
『さなちゃん、ふったちとふたりこだばおれぁ心細い。だすきゃ、ふったちとさなちゃんばむがえさ来たじゃ。ほれ、あべ。』
早苗が再び息を飲むのが分かる。
声を聞いている二も背中にゾォッと氷水を被せられたように鳥肌がたち、咄嗟に跳ね起きて電話に向かって早苗の名前を呼ぶ。
『おにい……。』
名前の途中で電話口でつんざくような悲鳴が上がって、思わず良二は耳を電話から離した。電話の向こうで大人のざわめきが聞こえ、足音が近寄ってくるのが聞こえる。
「早苗?!」
悲鳴の後に電話が床に落ちる音がして、何かがジワリとにじり寄るような気配が囁くように良二に話しかけてきた。
『…良ちゃんだが?おれぁ良ちゃんもいつが必ずむがえにいぐすきゃぁ。ふったちとさなちゃんとおれでいづまでもここでまっでるからなぁ。』
ブツンと音をたてて電話が切れて、その後は何度電話しても早苗は電話に出ない。電話で聞いた子供の声は、微かに甘く漂う腐敗臭とともに耳の奥に突き刺さる様に響いてくる。
その後やっと両親と連絡が取れたが、早苗が突然姿を消して山を探していると言う。佐々野の祖母が鈴徳家の敷地の立ち木で首を括って居たのが見つかったのは、翌日の朝の早くの事だった。土地の人間は冬子をふったちに拐わせたのは、早苗だったのだと影で囁かれているらしい。
『ふったちといづまでもここでまっでるがらなぁ』
山の捜索が打ち切られても、良二には電話の向こうで少女の言った言葉が何時までも頭に残って仕方がない。
だから、いつか何もかもが嫌になった時が来たら、良二は祖母の墓参りにいこうと考えている。そんな気持ちになるまでは、けしてその土地には踏み入れないと決意したのだ。
※※※
ふったちってなんなんですか?
自分の言葉に久保田はさあと首を傾げたが、横から顔を出し自分の注文のランチプレートを手にした青年が聞き付けたように笑う。
ふったちって、簡単に言えば猫又みたいなもんすよ。
突然話に加わったコックコートの鈴徳は久保田に笑いかけ、ウェイトレスの女の子に片手をあげるとランチプレートを自分の前に丁寧に置く。猫又の事なのと問い返すと、動物が年をとってお化けになったもんですよと彼は微笑みながら説明する。
猿のふったちや、おかしなもんだと鱈のふったちなんてのもいますよ。
鱈って魚の?と問いかけるとええと青年は笑う。何でもいいんです、年をとればなんでもふったちになれますよとあっけらかんと笑う彼に思わず詳しいんだと感心する。すると彼はにこやかに笑って地元なんですよと、爽やかに笑う。
じゃあ、あめくさってってなんて意味なの?雨が降って草が生えてとか?
自分が問いかけると、彼は調理師が店では言いたくない言葉なんですけどねと笑いながら自分に小さな声で答えを囁く。それを聞いた瞬間自分は目の前の彼が鈴徳良二という名前だったのを思いだし、同時に教えられた言葉の意味に折角のランチプレートを食べる意欲が失せてしまっていた。
※※※
鈴徳良二の父方の故郷は、とんでもなく迷信深い土地だ。それは、こんな電気も水道も完備された現代の日本には似つかわしくない程の迷信深さだった。彼は幼い頃から遊びに行く度に祖母や親戚達に様々な迷信事を覚えさせれて育ったものだ。それは良二の妹の早苗も一緒だった。そんな中に一つ遊びに関した決まり事があり、良二も早苗も必ず守るようにと教え込まれた。他の土地では守らなくてもいいが、この土地にいる限りは必ずまもらなければいけないと教え込まれたのだ。
祖母はそれはおまじないだと言った。
遊びから帰る時の必ず守らないといけないおまじない。それは、帰る時に一緒に遊んでいた子供は必ず手を繋いで帰る事。そして、けして後ろを振り返ってはいけない、と。祖母は座敷に二人を並んで座らせて、何度も遊びに出る前に繰り返し言い聞かせた。
「まもらねぇば、ごしゃったおっかねぇのさ、とっつかまんぞ。良二ぁなんじょしても早苗をせでこぉよ?」
祖母はお国訛りの滑らかで早い言葉で、何度も二人にそう言って聞かせた。二人が実際はその言葉の意味の半分も理解できていない事は知らずに何度も何度も言って聞かせた。二人はそれに適当に頷いて、近くの土地の子供達と一緒に外で駆け回って遊ぶ。そして、終わると手を繋いで家につくまで振り返らずに帰る。
最後の一人になった時はどうするのか分からないのは、二人の家が遊び場の直ぐ傍にあったからだ。兄妹二人だけで遊んでいても手を繋いで二人で家まで振り返らないで帰れば、約束を破ったことにはならない。
やがて一緒に遊ぶ同年齢の子供たちの言葉は、祖母ほどの訛りはなく大部分理解できるのに良二は気がついた。
「何で手ぇ、繋いで帰るの?」
妹と同じ歳のその土地の少女・佐々野冬子に聞くと、彼女は彼らに分かりやすい言葉に直すのが難しいとでも言いたげな顔をして暫く考え込んだ。やがて、冬子は言葉を選ぶようにして説明してくれる。
「おっかねぇのが後ろがら、こっこどぉが家さ帰るのを見てるんだって。」
「後ろから何が見てるの?」
何かが後ろから、子供達が家に帰るのをみているんだってと冬子が教えてくれた。言葉の端で分からないことを二人が改めて聞き返す。今日は三人で遊んでいるので、帰りはこの三人で手を繋いで家まで帰るんだなぁと良二はボンヤリ考える。
「おっかねぇの、って何たらいうのがなぁ?」
「誰が教えてくれるの?そういうの。」
「うちだば、やめとのばぁが、全部おしえでけだんだがす。」
やめととは『病人』の事を言うらしい。冬子のお祖母さんは長く病気をしていて、今は病院に入院しているという。やめとのばぁは病人のお祖母ちゃんというわけだ。つまりは佐々野家では、今は病気のお祖母さんが、こういう決まり事を教えてくれたと言うことなのだ。ただ『おっかねぇの』は二人には分からない言葉だが、標準語での表現が冬子にも上手く出来ないらしい。ふぅんと納得した様に早苗が、彼女の顔を見なおした。
「てっこつないでないば、おっかねぇのがあいだてっこさ、はしょってきてとっつぐんだって。」
手を繋いでいないと、何かが間の手に向かって走ってきて飛び付いてくる。やはり少し意味が分からない部分的があるのに、早苗が不思議そうに冬子の顔を見つめて問い返した。
「おっかないのって冬ちゃん見たことあるの?」
「ね。」
ない、そう短く答えた冬子に早苗が不満げに頬を膨らませているのに、良二は溜め息をつきそうになる。可愛い妹ではあるが、時々早苗の我が儘に良二も振り回されることがあるのだ。別段素直に言いつけを守ればいいだけの事なのに、何だか早苗が言うことを聞かなそうな気がする。
「何で見ないの?」
「おっかねぇのは…妖怪みだいなもんだすけ、まなぐでみだらわがねって。さなちゃんもみだらわがねよ。」
何かは妖怪みたいなものだから、目で見たら駄目だよと言うその言葉に早苗が何処か意地悪な顔をしたのに、良二は微かに不安を覚える。早苗としてはただ昔からの言い伝えを頑なに守る土地に、何となく反発してみたかったのかもしれない。
三人は遊び終えて一緒に手を繋いで、帰り道を並んで歩き始めた。暫くした時、不意に早苗が繋いでいた冬子の手を振り払って良二の手を引いて道路を駆けだす。
「こら!早苗!!冬ちゃんの手!」
背後で手を離された冬子の鋭く細い悲鳴があがり、早苗はクスクスと笑いながら夕日の射す背後を振り返った。
「冗談、冬ちゃん、ごめ」
道路の先で先ほどまで冬子がはいていた靴が、ポタンと音を立ててアスファルトに落ちた。そこはただ夕闇だけで冬子の姿はない。呆然と早苗は夕暮れの空を見回して冬子の名前を呼んだ。
消えた冬子を捜索する松明の灯りが山の方まで、真夜中過ぎて何時までも動き回っていた。
早苗は冬子が不意に道路にしゃがみ込んで、手を離したら消えてしまったと嘘をついてしまった。良二は咎めるような視線で早苗を見ていたが、妹の言葉をあえて訂正しようとはしない。そうして、早苗は横に寝ている良二をよそに、家の窓から山を動く幾つもの蛍のような灯りを見つめる。しかし、何日たっても冬子は見つからず、やがて冬子の捜索は打ち切られる事に決まった。
捜索が打ち切られた日、良二と早苗は祖母の家から両親と帰る事になった。車の後部座席に乗せられた二人は、集まった人達の中に弱々しげな老女が呆然と冬子の靴を両手で掲げ持っていたのを見る。老女が一瞬車をみたような気がしたが、良二の気のせいだったかもしれない。
それはやがて二人の記憶のかなたでセピア色に変わっていった。
※※※
鈴徳早苗が再びその地を訪れたのは、祖母の通夜の晩だった。既にあの事件から10年以上の時が立ち早苗は22歳になったし、良二は24歳だ。その良二は料理人として海外にいるので、あれ以来初めてその土地に足を踏み入れるのは早苗と両親だけだ。
子供の頃の記憶は殆どなく、ただ迷信深い土地だと記憶はしている。早苗は冬子の顔すら覚えていないが、自分が手を離したから消えた子供が居ることだけはうっすらと覚えていた。あれから踏み入れたことも来る気も無かったのにと早苗は呟く。
何気なく祖母の家から歩き、気がつくとそこは思い出の遊び場らしき場所だった。何の気なしにサクサクと草を踏んで歩いていると、幼い少女の声が背後の草むらから微かに聞こえた。
「…ちゃぁん…。」
ドキンと心臓が跳ね上がる。
微かな声の主は辺りには姿もないのに、早苗は何故か凍り付いた様に立ちすくみ汗をかきながら耳を澄ました。暫く佇んだ早苗の耳に何処か遠くから子供達の遊ぶ歓声が聞こえてきて、彼女は安堵にホッと胸を撫で下ろす。
嫌だ、過敏になってるのかしら。
久々にここに来たから神経が過敏になっているのだと言い聞かせて、早苗は歩き出す。早苗は遊びに来たわけではないから、一人で歩いても問題はないと考える自分に思わず苦笑する。
「おめ、鈴徳の孫だなす?」
唐突にかけられた声に、早苗は思わず振り返った。薄汚れた老婆が髪を振り乱して、腰の曲がった体を震わせながら早苗の事を睨むように見上げている。
「えっとどちらの方ですか?」
「んがぁてぇばはなしだすけ、うちんまぁごばふったちさとっつかれでしまったんだじゃ。」
掴みかかってきそうな勢いで、訛りの強い言葉を唾液を撒き散らしながら吐き散らす老婆の姿は異様だった。
「さっととっかえしだらたすかっだかもすんねぇ。だども、んがぁにげくさりやがったべ?だすきゃ、はぁふゆこぁあめでくされでしまっだ。」
ワナワナと震える指をさしながら滑らかな訛りが、何故か早苗を責めているのが分かる。意味も理解できないのに、早苗はその薄汚い老婆を改めて見つめ直した。
「んがぁえーふりこぎでずれぁばりでねぇ、なんたらえらすぐねぇわらしこだ。」
何かを叱責される気配で指をさされた早苗は、ふとずっと昔にここにいて起こった事件をうっすらと思い出す。この老婆はあの時の事を言ってるんだと、心の何処かが告げたのに早苗は背筋が寒くなった。
「おれぁしってらんだがらな?んがぁいじくされでふゆこぁてぇさはなしたんだべ?」
この老婆は早苗がわざと手を離して消えた佐々野冬子の事を、早苗に向かって話してるんだと何故か分かる。目を皿のようにした老婆の言葉は訛りが強すぎて理解できないのに、強く叱責されているのだけは早苗にもよく分かるのだ。
「だどもんがぁもあれまなぐでみだんだべ?だすきゃんがさもむがえさくるぞ。んがもふったちんとこであめくされ!えらすけねえくされわらすが!」
そう言い放つと老婆は早苗に向かって、突然小さな古ぼけた靴を投げつけた。顔に当たった靴に怒りを向ける前に、目の前から老婆は煙のように掻き消していて早苗は目を丸くする。道路に落ちた小さな子供靴を拾い上げた途端、その靴が誰のもので老婆が誰がが頭に浮かんだ。
冬子の靴、それに冬子のお祖母さんだ。
病気だと告げていた冬子の祖母の姿を思い浮かべるが、小綺麗な細身の老婆だった。今見た薄汚く髪を乱した老婆の変わり果てた姿に、早苗は呆然と立ち尽くす。しかも、彼女は早苗と分かっていて早苗に叱責に来たのが、今の早苗には酷く恐ろしかった。まるで老婆が全てを知っていて、執念深く早苗がここに戻ってくるのを待ち構えていたような気がするのだ。早苗は靴を草むらに投げ捨てると、急いで祖母の家まで駆け戻った。
「叔母ちゃん、佐々野のお祖母さんって。」
早苗が問いかけた途端、叔母の顔色が変わって唐突に叔母に腕を掴まれ物陰に引っ張りこまれた。
「しゃべっちゃわがねよ!早苗ちゃん、佐々野のばぁの話はここらで口にしたらわがねぇよ!」
話すなと制されて早苗は驚いたように目を見開く。
「なんで?」
「なしてって、佐々野のばっちゃふゆこぁめなぐなったがらあだまほずぁなくなって、おがすぐなってわらすどおっかけであるぐのよ。」
昔から訛りの半分くらいが理解できないのに、今の叔母の言葉は何故か理解できた。
何でって、佐々野のお祖母さんは冬子が居なくなって頭がバカになって、おかしくなって子供達を追っかけて歩くのよ。
叔母の言葉に近郊の人間が今ではあの老婆を気違いだと考えて、近寄らないようにしているのが分かった。
「うぢさも何べんも夜中に忍び込んでうぢのばっちゃさ、ふゆこぁやまさせでかれだすきゃ、ひゃぐおめどのわらすよごさねばぁふゆこぁあめくさるって。おがしがべ?」
家にも何度も夜中に忍び込んできて家の祖母に、冬子は山に連れていかれたから、早くお前の家の子供達を寄越さないと、冬子が…あめくさるって何?
唐突に言葉が理解できなくなって早苗は戸惑った。おかしくなったお祖母さんは理解できたが、あめくさるはなんだろう。
「そう言えば早苗ちゃんが、わらすどの頃でねがったっけ?冬ちゃんばきえだっだの。」
皆の記憶の中にも冬子が消えた時に誰が一緒にいた子供なのか、既に忘れ去られている事を知って早苗は内心ホッとした。
「ねぇ、叔母ちゃん、子供の頃のおっかないのが来るから手繋いで帰るって、なんでだったの?」
「なして?なしてっても、ばっちゃぁおっかねぇのはふったちだぁってせぇってたどもなぁ。」
「ふったち?」
聞いたことのない名前に早苗は首を傾げるが、叔母は話はこれで終わりと言いたげに他の人には言わないようにと念を押して台所に戻っていった。
迷信深い土地のせいか、葬儀は近隣の家の女衆が集まって台所は戦場のようになっている。男衆は座敷に家長から順に座ってお膳を前に酒盛りをしているのが、更に時代がかって見えた。
ふったちってなんなのかしら。
そう言われて早苗はあの時、振り返った夕焼けに何かを見たような気がして考え込んだ。
あの時冬子の手を離した後の、あの時背後を振り返った時。兄の良二は振り返った自分より後ろにいて振り返りはしなかったが、早苗は確かに後ろを振り返って冬子の靴が道路にポトンと落ちたのを見た。
あれは何が見えたんだったかしら。
祖母の祭壇の前でお膳を囲んでいる叔父や父親を硝子戸越しに眺めながら、早苗は思い立ったように兄に電話をかける。時差のせいか向こうは夜中過ぎだったようで、良二は中々電話を取らない。
『……ああ?早苗か、こっちは…まだ夜中なんだぞ…?』
海外の兄が眠そうな声で電話に出たのに、早苗は声を潜めて話す。
「ねえ、お兄、冬ちゃんのお祖母ちゃん覚えてる?」
『あー?冬……?』
寝ぼけているのか兄はあまり気のない声で、早苗の話を聞いている。早苗は話ながら海外に居るから来なくてもいいとなった兄が、内心羨ましいと考えている自分に気がつく。出来ることなら自分も理由をつけて、こんなところに来なきゃよかった。
『そっち、……何時だー?…うっせーな、…後ろ。』
「そろそろ夜の九時だけど?」
流石に通夜の酒盛りだ、うるさいと言うほど男衆の酒盛りが盛り上がっている気配もないのにと早苗は硝子戸を振り返る。九時ぃ?と兄が電話の向こうで、寝ぼけた声で呟く。
『叔母さんちの孫でも来てんのかよ、子供らが走り回ってんのかぁ。』
「何いってんの?お兄、ここには……。」
硝子戸に写る叔父達の黒いスーツに、逆に自分の下半身が反射して写りこんでいる。そして、写りこんだ廊下の角から見た覚えのある女の子が、斜めに顔を突きだしていた。二つの瞳がジッと柱の影から、早苗の事の様子を見つめている。
『あー、女の子…いんのか、…親戚殆ど集まってんだもんなぁ。』
兄の言葉に震えが走るのがわかって、早苗は荒く息を吐きながら震える声で問い返す。
「……お兄。………お兄には今何が聞こえてんの?」
『んー?女の子が早苗を何回も呼んでる以外にかぁ?……いい加減、お前も返事位してやれよ。』
早苗は凍りついたように角に写りこんだ少女を見つめ、ジリジリと間をとるように後退る。女の子の視線は一時も早苗を離すことなく、早苗の動きをひたすらに追っていて早苗は更に青ざめた。
「お兄…その声って、……なんて私のこと呼んでる?」
『んー?さーなちゃん、さーなちゃんって。…どうした?早苗。何かあったか?』
兄の言葉に背筋がゾオッと凍りついていく。冬子が早苗を呼ぶ時は、何時もさなちゃんだった。昼間に会った老婆の言葉と、今目に見えている少女の姿に早苗は気を失いそうに震え上がる。
※※※
良二は寝惚け眼でかかってきた電話に耳を澄ますと、早苗の荒い吐息が聞こえた。時差がどれくらいだったか忘れたが朝四時にかけてくる電話かよと、妹に言おうと頭をあげた瞬間、電話口に明確に少女の声が入ってくる。
『さなちゃんわざど手っこはなしたすけ、おれぁやまさせでかれだんだじゃ。』
誰だ?どっかで聞いたことがある声だ。
『しゃっけえあめかぜささらすこにされであめゆぎさしみで。ほにこわくてやめだった。みでけで、おらぁすっかりあめでらしくされでらべ?』
まるで耳元で囁いているみたいに、女の子の声がハッキリと電話に聞き取れる。早苗が言葉の後で鋭く息を飲むのが聞こえた。
『さなちゃん、ふったちとふたりこだばおれぁ心細い。だすきゃ、ふったちとさなちゃんばむがえさ来たじゃ。ほれ、あべ。』
早苗が再び息を飲むのが分かる。
声を聞いている二も背中にゾォッと氷水を被せられたように鳥肌がたち、咄嗟に跳ね起きて電話に向かって早苗の名前を呼ぶ。
『おにい……。』
名前の途中で電話口でつんざくような悲鳴が上がって、思わず良二は耳を電話から離した。電話の向こうで大人のざわめきが聞こえ、足音が近寄ってくるのが聞こえる。
「早苗?!」
悲鳴の後に電話が床に落ちる音がして、何かがジワリとにじり寄るような気配が囁くように良二に話しかけてきた。
『…良ちゃんだが?おれぁ良ちゃんもいつが必ずむがえにいぐすきゃぁ。ふったちとさなちゃんとおれでいづまでもここでまっでるからなぁ。』
ブツンと音をたてて電話が切れて、その後は何度電話しても早苗は電話に出ない。電話で聞いた子供の声は、微かに甘く漂う腐敗臭とともに耳の奥に突き刺さる様に響いてくる。
その後やっと両親と連絡が取れたが、早苗が突然姿を消して山を探していると言う。佐々野の祖母が鈴徳家の敷地の立ち木で首を括って居たのが見つかったのは、翌日の朝の早くの事だった。土地の人間は冬子をふったちに拐わせたのは、早苗だったのだと影で囁かれているらしい。
『ふったちといづまでもここでまっでるがらなぁ』
山の捜索が打ち切られても、良二には電話の向こうで少女の言った言葉が何時までも頭に残って仕方がない。
だから、いつか何もかもが嫌になった時が来たら、良二は祖母の墓参りにいこうと考えている。そんな気持ちになるまでは、けしてその土地には踏み入れないと決意したのだ。
※※※
ふったちってなんなんですか?
自分の言葉に久保田はさあと首を傾げたが、横から顔を出し自分の注文のランチプレートを手にした青年が聞き付けたように笑う。
ふったちって、簡単に言えば猫又みたいなもんすよ。
突然話に加わったコックコートの鈴徳は久保田に笑いかけ、ウェイトレスの女の子に片手をあげるとランチプレートを自分の前に丁寧に置く。猫又の事なのと問い返すと、動物が年をとってお化けになったもんですよと彼は微笑みながら説明する。
猿のふったちや、おかしなもんだと鱈のふったちなんてのもいますよ。
鱈って魚の?と問いかけるとええと青年は笑う。何でもいいんです、年をとればなんでもふったちになれますよとあっけらかんと笑う彼に思わず詳しいんだと感心する。すると彼はにこやかに笑って地元なんですよと、爽やかに笑う。
じゃあ、あめくさってってなんて意味なの?雨が降って草が生えてとか?
自分が問いかけると、彼は調理師が店では言いたくない言葉なんですけどねと笑いながら自分に小さな声で答えを囁く。それを聞いた瞬間自分は目の前の彼が鈴徳良二という名前だったのを思いだし、同時に教えられた言葉の意味に折角のランチプレートを食べる意欲が失せてしまっていた。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる