69 / 111
五十九夜目『友達の友達5』
しおりを挟む
これは、私の友人から聞いた話なんですがね、そうマスターの久保田は、グラスを磨きながら何気ない気配で口を開く。芳しい珈琲の香りのする店内に客足は奇妙なほど途絶えて、その言葉を耳にしたのは自分ただ一人だった。
※※※
佐伯美琴が入院しても何時までも繰り返す、「友達の友達が来る、灯りをつけて!」という悲鳴の理由が看護師の古川真奈美には分からなかった。精神的に疲弊した佐伯美琴の幻聴と幻覚と主治医は診断に記載したが、そのわりに薬で感情を緩和された状態の美琴の話は辻褄があっているのに真奈美は気がついたのだ。暗がりを異常に怖がる美琴は、薬で緩和されると何故こんな状況に陥っているのかを順に説明する。最初はその説明全てが妄想の産物だと医師と同じく考えた。だが、美琴の話は何度聞いても話が誇大にもならず、時系列も全く変わらない。妄想の産物にしては鮮明過ぎて、真奈美は何気なく聞き取ったことをメモするようになった。美琴との余りにも変わらないその会話に、本当にこの子は精神的におかしいのだろうかと疑問を感じ始めたのだ。同じ病棟の看護師に話すと「そんなの気にしたってしょうがないわよ。」と真奈美の話は一笑にふされた。確かに入院している患者過剰に肩入れすることは良くない事だし、特に精神科の看護師は共感しすぎると自分自身まで心を病んでしまう。
ところが美琴の話の中に出てきた女子高生の一人を他の病棟で見つけたことで、真奈美は改めて佐伯美琴の話を信じてみる気になった。美琴の話の詳細を調べて行く内に、本当に短期間で四人の女子高生がそれぞれ大怪我をしたり行方不明になったりしていたのだ。お互いに関係のある四人が悉くというのは、偶然にしては重なりすぎている。
美琴が話した最初に恐ろしい目に遭った桂圭子は、内科病棟に入院中で脳死判定がおりた自傷行為患者だった。何気なく病棟に行き入院カルテを確認したが、女子高生がした自傷にしては余りにも凄惨な行動だ。手首を切るとかなら分からないでもないが、桂圭子は自分の手で目を抉っただけでは気が済まなかった。兎も角今では人工呼吸器で辛うじて生かされている状態で、回復の余地のない彼女の状況に家族の足も次第に病院から遠退き始めている様子が記録から読み取れる。
次が及川祐子で、この子は暫くの間友達の友達という相手を探すようなLINEを他の友人達に延々と送り続けていた。その後で消息不明になり今のところ状況に進展がなく、警察のポスターの色が日焼けと風雨にさらされ褪せていた。
次が佐伯美琴で、入院カルテには美琴の失明も自傷行為であるとされている。入院する暫く前から佐伯美琴は家に引きこもりがちで、電気を消すのを嫌がり最終的に眼球破裂の上錯乱した状態で見つかった。
その後が浅川瑠美で、彼女も何人もの友達に意味の通じないメールやメッセージを送りつけていた。しかし、そのメールの中には意図的に『友達の友達がくる、逃がさない』と読める文章があると言う。浅川瑠美は通り魔に襲われたらしく今もICUで治療中だが、こちらも頭部の損傷が酷く意識回復の見込みは難しそうだ。浅川を襲ったという通り魔は、まだ捕まる気配すらない。
最初は桂圭子、次が及川祐子、どちらも特別じゃない何処にでもいるような女子高生だった。その次が佐伯美琴、次が浅川瑠美、この二人も何処にでもいる普通の女子高生だ。高校も違う四人の共通点、それは中学校時代の仲良しグループだった事と全員が友達の友達という何かに関わったらしい事くらい。
四人が何故恐ろしい目に遭う羽目になったのは何故?友達の友達って何なのかしら。
友達の友達なんて、当たり前のように使う言葉なのに、前後にあったことを並べていくと酷く不快感が増した。まるで何かが付きまとって、次々と恐怖に陥れて行ったかのようだ。彼女ら四人には他にも何人も友達がいるし、その子達にも更に友達がいる。その子達にも今まさに友達の友達が、執拗に付きまとっているのだろうか。調べている内に気がついたのだが、彼女ら四人の連絡先を殆どの子達が消去しているのだと言う。何故友人だった彼女らの連絡先を消去したのか聞くと、一様に「友達の友達がくるから消した」のだと彼女達は話した。こうなってくると俄然、話が全体的に都市伝説めいてくる。連絡先を残しているとそこを伝って『友達の友達』がやって来ると、彼女達は頑なに信じているのだ。本来なら発信する側の方を消さないと無意味な気がするが、こちらが受けないことでそれがやって来る扉を閉じることが出来ると考えた人間がいた。彼女らは連絡先というモノを扉と認識して、一つの異界の通路だと考えている。同時に彼女らが四人の連絡先を消去したのは、彼女らは誰も自分は関係ないとこにいたいと思ってるからだ。友達の友達に襲われる予定の子と友達になると、次は自分の番になると誰もが考えている。だから彼女達は、四人の連絡先を悉く消して自分の安全を確保した。その連帯感には不快な気分を感じるが、逆にそれを考える事も出来る事に真奈美は気がついた。四人の連絡先を消さないでいる人間は、四人がただの被害者だと知っている。つまりはその人物が元凶の『友達の友達』の可能性があるのではないだろうか。同時に四人がこんな目に合う理由も、他の誰も知らない何かがあるのではないだろうか。
以前の同級生に聞いていたら、中学の時代の仲良しグループは実際にはもっと人数が多かったらしい。正確には何人か覚えている人間はいなくて、五人か六人だったように思うと何人かが話した。と言うことは仲良しグループには後一人か二人が存在していて、もしかしたらそのどちらかが『友達の友達』ということにはならないだろうか。
「まだ調べてるの?止めなよ、過剰介入だよ?」
他病棟で働く同期の看護師の四倉梨央が、更衣室で出会った真奈美に真剣な顔で忠告する。黒髪を束ねてピンで器用に止めながら梨央は、その鏡越しに真奈美の事を眺めた。一介の看護師が、精神科の入院患者に肩入れして調べ回っているというのは確かに病院としても外聞がいいことではない。
「でも、あの子本当の事を話してるのよ。」
「本当かどうかよりも、真奈美がしてるの看護師の範疇外。」
確かに梨央が言うのは最もだ。家族でもない真奈美が佐伯美琴の話を信じて、調べあげたとしても何にも病院の利益にはならない。そう言われると真奈美は溜め息混じりに梨央の横に並び髪を結い上げながら、そうかもねと小さく梨央に呟く。
「本当の事が分かったらあの子の治療の方向が分かって、良くなるかなって思ったんだけど。」
「気持ちは分かるけどねえ。」
患者に過剰に肩入れすると真奈美が持たないよと梨央が告げて仕事に歩み去るのを、真奈美は鏡を見ながらそんなつもりじゃないんだけどねと苦く呟く。けしてそんなつもりではないけど、確かに真奈美が今しているのは過剰介入で越権行為と言われてもおかしくない。自分でもそれはよく分かっているのだ。
※※※
「友達の友達が来るんです、暗がりから。その話を読んだら暗闇に本当に何かがいるような気がして。」
佐伯美琴が淡々と話す言葉は抑揚がなく、失明で視線も失った今では感情が読み取れない。そして続くのは暗闇の中から姿を見せた何かが、佐伯美琴の瞼の内側から眼球を握りつぶしたという。見舞いに来ていた浅川瑠美に暗闇からの何かを話していたが、浅川瑠美はそれを信じる事もなく美琴を襲った何かに襲われたのではないかと思っていると話す。それは何度聞いても変わらない話で、何度も聞く内に内容を覚えてしまった。
「瞼の内側から伸ばされた手?」
問い返すと佐伯美琴はまるでこちらを見ているように、顔を向けて微笑みを口元に浮かべる。その笑みは何処か歪で本心からの笑顔には思えない。
「男の手だった?女の手だった?」
佐伯美琴は問いかけに微笑んだまま答えようとしない上に、再び桂圭子が友達の友達を呼び込んだのだと話し始める。繰り返し繰り返し話し続けることで、それが真実のように錯覚すらしてしまいそうだ。得体の知れない友達の友達という存在を、まるで繰り返すことで誰かに植え込もうとしているようにすら感じる。
「桂圭子が最初に皆に、友達の友達の話を乗せるホームページのURLを教えたんです。その後圭子はおかしくなって。」
※※※
桂圭子の顔はガーゼで半分か覆われていた。本来なら義眼や何かを入れて顔の形を整えるよう形成するのだろうが、意識のない寝たきりの状態ではそんなことは無駄だと考えたのかもしれない。何度かこの部屋を訪れたが変わるのは桂圭子の体の向き位なもので、他に目に見える変化はなかった。急性期を過ぎた患者が何時までも内科病棟に留め置かれることは、実際はとても稀なことだ。殆どの患者は状態が安定すると、新しい病院に移る選択を迫られる。桂圭子がそうならないのは彼女が特殊な状況に置かれて、転院先を探すに至らないからでもあった。
友達の友達
その動かない顔を撫でながら歪に微笑みかけると、意識のない筈の圭子も歪に微笑む気がする。友達の友達がくると呟きながら、もう一度圭子の頬を撫でながら歪な笑顔を浮かべたそれは暗闇から手を伸ばしていた。
友達の友達が、来たよ
※※※
それはほんの小さな変化だった。病院ではとるに足らない日常だけど、人によっては人生まで変わるような変化。白衣の看護師がカルテを片手に受話器を顎で挟みながら、カルテの連絡先を確認しながらボタンを押し始めた。何か機械を持って病室に向かって駆けていくのは、何処かで患者が急変したのだろう。慌ただしく動き回る看護師の姿を眺めながら、それはさも忙しそうな足取りでその場から立ち去った。
※※※
友達の友達は、誰か人間だって言うことですか?
さあ、どうてしょうねと久保田が自分の言葉に曖昧に微笑むのが見える。関わった人間が悉く人生を狂わされているようにも感じる『友達の友達』が、隣にいる人間だとしたら。それはそう考えるだけで不快感が増した。それにしても浅川瑠美と最後に出会ったのは、確か塾の講師だと言わなかっただろうか。それに最後に起こした変化は何だったのか、それ以前に桂圭子の傍に現れたのは誰だったのだろう。話を反芻するように考えると、ジワリと不快感が更に増していく。
何だか友達が信じられなくなりそうですね。
そう告げた言葉に久保田は意味深な微笑みを歪に浮かべたのだった。
※※※
佐伯美琴が入院しても何時までも繰り返す、「友達の友達が来る、灯りをつけて!」という悲鳴の理由が看護師の古川真奈美には分からなかった。精神的に疲弊した佐伯美琴の幻聴と幻覚と主治医は診断に記載したが、そのわりに薬で感情を緩和された状態の美琴の話は辻褄があっているのに真奈美は気がついたのだ。暗がりを異常に怖がる美琴は、薬で緩和されると何故こんな状況に陥っているのかを順に説明する。最初はその説明全てが妄想の産物だと医師と同じく考えた。だが、美琴の話は何度聞いても話が誇大にもならず、時系列も全く変わらない。妄想の産物にしては鮮明過ぎて、真奈美は何気なく聞き取ったことをメモするようになった。美琴との余りにも変わらないその会話に、本当にこの子は精神的におかしいのだろうかと疑問を感じ始めたのだ。同じ病棟の看護師に話すと「そんなの気にしたってしょうがないわよ。」と真奈美の話は一笑にふされた。確かに入院している患者過剰に肩入れすることは良くない事だし、特に精神科の看護師は共感しすぎると自分自身まで心を病んでしまう。
ところが美琴の話の中に出てきた女子高生の一人を他の病棟で見つけたことで、真奈美は改めて佐伯美琴の話を信じてみる気になった。美琴の話の詳細を調べて行く内に、本当に短期間で四人の女子高生がそれぞれ大怪我をしたり行方不明になったりしていたのだ。お互いに関係のある四人が悉くというのは、偶然にしては重なりすぎている。
美琴が話した最初に恐ろしい目に遭った桂圭子は、内科病棟に入院中で脳死判定がおりた自傷行為患者だった。何気なく病棟に行き入院カルテを確認したが、女子高生がした自傷にしては余りにも凄惨な行動だ。手首を切るとかなら分からないでもないが、桂圭子は自分の手で目を抉っただけでは気が済まなかった。兎も角今では人工呼吸器で辛うじて生かされている状態で、回復の余地のない彼女の状況に家族の足も次第に病院から遠退き始めている様子が記録から読み取れる。
次が及川祐子で、この子は暫くの間友達の友達という相手を探すようなLINEを他の友人達に延々と送り続けていた。その後で消息不明になり今のところ状況に進展がなく、警察のポスターの色が日焼けと風雨にさらされ褪せていた。
次が佐伯美琴で、入院カルテには美琴の失明も自傷行為であるとされている。入院する暫く前から佐伯美琴は家に引きこもりがちで、電気を消すのを嫌がり最終的に眼球破裂の上錯乱した状態で見つかった。
その後が浅川瑠美で、彼女も何人もの友達に意味の通じないメールやメッセージを送りつけていた。しかし、そのメールの中には意図的に『友達の友達がくる、逃がさない』と読める文章があると言う。浅川瑠美は通り魔に襲われたらしく今もICUで治療中だが、こちらも頭部の損傷が酷く意識回復の見込みは難しそうだ。浅川を襲ったという通り魔は、まだ捕まる気配すらない。
最初は桂圭子、次が及川祐子、どちらも特別じゃない何処にでもいるような女子高生だった。その次が佐伯美琴、次が浅川瑠美、この二人も何処にでもいる普通の女子高生だ。高校も違う四人の共通点、それは中学校時代の仲良しグループだった事と全員が友達の友達という何かに関わったらしい事くらい。
四人が何故恐ろしい目に遭う羽目になったのは何故?友達の友達って何なのかしら。
友達の友達なんて、当たり前のように使う言葉なのに、前後にあったことを並べていくと酷く不快感が増した。まるで何かが付きまとって、次々と恐怖に陥れて行ったかのようだ。彼女ら四人には他にも何人も友達がいるし、その子達にも更に友達がいる。その子達にも今まさに友達の友達が、執拗に付きまとっているのだろうか。調べている内に気がついたのだが、彼女ら四人の連絡先を殆どの子達が消去しているのだと言う。何故友人だった彼女らの連絡先を消去したのか聞くと、一様に「友達の友達がくるから消した」のだと彼女達は話した。こうなってくると俄然、話が全体的に都市伝説めいてくる。連絡先を残しているとそこを伝って『友達の友達』がやって来ると、彼女達は頑なに信じているのだ。本来なら発信する側の方を消さないと無意味な気がするが、こちらが受けないことでそれがやって来る扉を閉じることが出来ると考えた人間がいた。彼女らは連絡先というモノを扉と認識して、一つの異界の通路だと考えている。同時に彼女らが四人の連絡先を消去したのは、彼女らは誰も自分は関係ないとこにいたいと思ってるからだ。友達の友達に襲われる予定の子と友達になると、次は自分の番になると誰もが考えている。だから彼女達は、四人の連絡先を悉く消して自分の安全を確保した。その連帯感には不快な気分を感じるが、逆にそれを考える事も出来る事に真奈美は気がついた。四人の連絡先を消さないでいる人間は、四人がただの被害者だと知っている。つまりはその人物が元凶の『友達の友達』の可能性があるのではないだろうか。同時に四人がこんな目に合う理由も、他の誰も知らない何かがあるのではないだろうか。
以前の同級生に聞いていたら、中学の時代の仲良しグループは実際にはもっと人数が多かったらしい。正確には何人か覚えている人間はいなくて、五人か六人だったように思うと何人かが話した。と言うことは仲良しグループには後一人か二人が存在していて、もしかしたらそのどちらかが『友達の友達』ということにはならないだろうか。
「まだ調べてるの?止めなよ、過剰介入だよ?」
他病棟で働く同期の看護師の四倉梨央が、更衣室で出会った真奈美に真剣な顔で忠告する。黒髪を束ねてピンで器用に止めながら梨央は、その鏡越しに真奈美の事を眺めた。一介の看護師が、精神科の入院患者に肩入れして調べ回っているというのは確かに病院としても外聞がいいことではない。
「でも、あの子本当の事を話してるのよ。」
「本当かどうかよりも、真奈美がしてるの看護師の範疇外。」
確かに梨央が言うのは最もだ。家族でもない真奈美が佐伯美琴の話を信じて、調べあげたとしても何にも病院の利益にはならない。そう言われると真奈美は溜め息混じりに梨央の横に並び髪を結い上げながら、そうかもねと小さく梨央に呟く。
「本当の事が分かったらあの子の治療の方向が分かって、良くなるかなって思ったんだけど。」
「気持ちは分かるけどねえ。」
患者に過剰に肩入れすると真奈美が持たないよと梨央が告げて仕事に歩み去るのを、真奈美は鏡を見ながらそんなつもりじゃないんだけどねと苦く呟く。けしてそんなつもりではないけど、確かに真奈美が今しているのは過剰介入で越権行為と言われてもおかしくない。自分でもそれはよく分かっているのだ。
※※※
「友達の友達が来るんです、暗がりから。その話を読んだら暗闇に本当に何かがいるような気がして。」
佐伯美琴が淡々と話す言葉は抑揚がなく、失明で視線も失った今では感情が読み取れない。そして続くのは暗闇の中から姿を見せた何かが、佐伯美琴の瞼の内側から眼球を握りつぶしたという。見舞いに来ていた浅川瑠美に暗闇からの何かを話していたが、浅川瑠美はそれを信じる事もなく美琴を襲った何かに襲われたのではないかと思っていると話す。それは何度聞いても変わらない話で、何度も聞く内に内容を覚えてしまった。
「瞼の内側から伸ばされた手?」
問い返すと佐伯美琴はまるでこちらを見ているように、顔を向けて微笑みを口元に浮かべる。その笑みは何処か歪で本心からの笑顔には思えない。
「男の手だった?女の手だった?」
佐伯美琴は問いかけに微笑んだまま答えようとしない上に、再び桂圭子が友達の友達を呼び込んだのだと話し始める。繰り返し繰り返し話し続けることで、それが真実のように錯覚すらしてしまいそうだ。得体の知れない友達の友達という存在を、まるで繰り返すことで誰かに植え込もうとしているようにすら感じる。
「桂圭子が最初に皆に、友達の友達の話を乗せるホームページのURLを教えたんです。その後圭子はおかしくなって。」
※※※
桂圭子の顔はガーゼで半分か覆われていた。本来なら義眼や何かを入れて顔の形を整えるよう形成するのだろうが、意識のない寝たきりの状態ではそんなことは無駄だと考えたのかもしれない。何度かこの部屋を訪れたが変わるのは桂圭子の体の向き位なもので、他に目に見える変化はなかった。急性期を過ぎた患者が何時までも内科病棟に留め置かれることは、実際はとても稀なことだ。殆どの患者は状態が安定すると、新しい病院に移る選択を迫られる。桂圭子がそうならないのは彼女が特殊な状況に置かれて、転院先を探すに至らないからでもあった。
友達の友達
その動かない顔を撫でながら歪に微笑みかけると、意識のない筈の圭子も歪に微笑む気がする。友達の友達がくると呟きながら、もう一度圭子の頬を撫でながら歪な笑顔を浮かべたそれは暗闇から手を伸ばしていた。
友達の友達が、来たよ
※※※
それはほんの小さな変化だった。病院ではとるに足らない日常だけど、人によっては人生まで変わるような変化。白衣の看護師がカルテを片手に受話器を顎で挟みながら、カルテの連絡先を確認しながらボタンを押し始めた。何か機械を持って病室に向かって駆けていくのは、何処かで患者が急変したのだろう。慌ただしく動き回る看護師の姿を眺めながら、それはさも忙しそうな足取りでその場から立ち去った。
※※※
友達の友達は、誰か人間だって言うことですか?
さあ、どうてしょうねと久保田が自分の言葉に曖昧に微笑むのが見える。関わった人間が悉く人生を狂わされているようにも感じる『友達の友達』が、隣にいる人間だとしたら。それはそう考えるだけで不快感が増した。それにしても浅川瑠美と最後に出会ったのは、確か塾の講師だと言わなかっただろうか。それに最後に起こした変化は何だったのか、それ以前に桂圭子の傍に現れたのは誰だったのだろう。話を反芻するように考えると、ジワリと不快感が更に増していく。
何だか友達が信じられなくなりそうですね。
そう告げた言葉に久保田は意味深な微笑みを歪に浮かべたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる