都市街下奇譚

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七十夜目『病気持ち』

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これは、私の特別な友人から聞いた話なんですけどね、そうマスターの久保田はグラスを磨きながら口を開く。芳しい珈琲と紅茶の香りのする店内には客足は奇妙なほど途絶えている。白磁のポットが見守る中で、その言葉を耳にしたのは自分ただ一人だった。



※※※



最近奇妙な頭痛が続いている。
奇妙というのは時間も天候も関係なく、前触れもなく場所も固定せずに頭痛が始まるからだ。一瞬で頭が重くなって来たなと思うと、それが痛みに変わってまるで万力でしめられるように痛む。時には脈打つようにズンズンと痛むこともある。
頭痛の原因といえば肩凝りかもと、マッサージに行ったり頭痛に聞くという体操やツボまで試してみた。最初は少し効果があるような気がしたが、結局頭痛が酷くなると体操もできないことに気がついた。

動かすと振動が、きつい!

それで、調べてみるとそう言うときは、部屋を暗くして大人しく横になるのがいいのだという。仕方がないとそうしてみるが、頭痛がなくなるわけではないから結局防ぐことはできなくて、痛み始めると鎮痛薬を飲むしかない。

あんまり効かないなぁ、痛み止め。

頭痛によく効くなんて、デカデカとうたっているわりに自分にはあんまり効果がないのだ。種類を変えても駄目で仕方がなくまた調べてみる。

え、そうなんだ。

鎮痛薬ってものは完全に痛み始めると効果が弱いらしい。つまりは、痛み始めてしまったらあまり効果がないってことだ。それじゃ意味がない。自分の頭痛は余り前駆症状というやつがないから、事前に飲んでおいても効き目がキレ始める辺りから痛み始めたりする。前飲んだら八時間あけろと言われても、飲んで五時間辺りから痛くなるなんてざらなのだ。

「それって偏頭痛なんじゃないの?」
「偏頭痛?」
「ズンズンって痛くなるんでしょ?食べ物で少しよくなるらしいよ?」

それはいいことを知ったと思う。詳しく調べたら偏頭痛にはアルコールも駄目だというから、毎晩のアルコールも飲まない事にした。カフェインのとりすぎもくないというからお茶も珈琲もスッパリやめた。脂肪やポリフェノールが駄目だって聞いたから、チョコレートも赤ワインも止めたんだ。
その後詳しく調べてみたら、チラミンとかって物質を含むのもダメって知った。チラミンってのはカカオ成分が高いほど多くて、後はチーズもナッツも柑橘類なんかに入ってる。因みに肉にも入ってるらしいから菜食に変えることにした。
何せ刺激物でも頭痛が起こるって言うから、大好きだったキムチも止めたくらいだ。
逆に偏頭痛に効くって言われたビタミンB2は、必死で取ってる。納豆、卵、いわし、さば。肉類にも入ってるんだけど食べないから、他のもので必死になってビタミンをとったんだ。特に納豆はマグネシウムも入ってて偏頭痛によく効くらしいから、毎日3食食べるようにしたくらい。でも、結局頭痛は治りはしなかった。

「偏頭痛じゃないんじゃない?どんな風に痛むの?」
「どんな風って。」
「痛みがズキズキする?」
「今はしない。」 
「じゃあ片方だけ痛む?」
「いや、決まってない。」

それじゃあ偏頭痛じゃないからの方法は何も聞かないわよと笑われ、衝撃を受けてしまった。だって、今までの方法が全部的はずれだって、こんなに努力したのに今知ったんだ。

「緊張性の頭痛なんじゃない?デスクワークでしょ?」

同じ体勢で同じ仕事をしていると肩凝りや変な筋肉の使い方をして、首や頭の筋肉が異常を起こすもののことらしい。マッサージには通ったと言ったら、そんなもんじゃ対応しきれないという。確かにデスクワークでパソコンと関わる自分は、前屈みで日々パソコンに向かっている。
緊張性頭痛はストレスが引き起こす頭痛なのだとも聞いて、自分が出来る対策はなんだろうかと考えてしまう。どうしたってデスクトップのモニターを眺めるには猫背勝ちになるし、背中は丸まるし、目は視神経を酷使するからしょぼしょぼしてくる。そうなると自分に出来ることは、一つくらいしか考え付かなかった。そう!仕事を辞めたのだ。
デスクワークはなくなったから、新しい仕事を探しながらストレスがない生活を模索し始め日差しの中でストレッチをする。僅かに頭痛は緩和されたような気がして、そうかこれが最善だったんだと安堵してしまう。つまりはストレスが原因の緊張性頭痛というやつだったわけだ。今度はデスクワークではなくて体勢がいい仕事を探さないとと染々考える。
体勢が悪くなるようなことは、体によくないから車の運転を止めたし免許も返納した。ストレッチをしたりして筋肉をほぐすように心がけ日々ストレスをかけない生活を心がける。
ところが再び頭痛が始まったのだ。
今度は目の奥や頭の前のほうが激しく痛む。しかも、寝ている最中や夜にだ。三時間程も続く痛みに異常に汗は出るし、鼻水がでて、そのせいで落ち着かずイライラする。

「それって、群発頭痛とかいうのじゃね?」
「なんだよ、それ?」
「偏頭痛の一種らしいけどさ、自律神経とか血管の障害とかいうやつだよ。」
「どうやって治すんだ?」
「薬飲むとか、後なんだったかなぁ。」

結局ハッキリしないから自分でも調べてみたが、これまた原因不明で治療法がない。珍しい症例で普通の頭痛薬があまり効果がないというのだ。それで自分は鎮痛薬が効かないのかと納得したが、溜め息もでてしまう。治療法がないんじゃ、対応の使用がないじゃないかと自分は項垂れみたものの、他の頭痛は改善しているわけだし。少なくとも最初の状況よりは改善しているはずなのだ。もう少し工夫してみたら、この頭痛も改善の方法が存在するかもしれない。鎮痛剤と食生活、ストレスフリーでストレッチをする生活を続けながら自分は頭痛と付き合い続けている。

「頭痛外来っていうのがあるんだって。」
「なにそれ?」
「頭痛専門のね、外来。」

なんてことだ、そんな自分のためのような外来が既にあったなんて。自分は早速それにかかって専門の医師と面談した。

「頭痛には二種類あるんです。」
「二種類ですか?」
「機能性頭痛と症候性頭痛といいまして。」

機能性頭痛は簡単に言えば頭の中の疾患の関係ない頭痛、症候性頭痛は脳腫瘍とか頭の中の病気が由来の頭痛なのだという。大半は機能性頭痛なのだというが、専門の知識に説明されると何でか安心する。先ずは症候性頭痛でないのを証明すると頭から眼科・耳鼻科まで頭蓋骨に関連する場所を全て調べあげて貰う。

「特に頭痛を起こす疾患は無さそうですが、耳鼻科で少し蓄膿症があるようですね。花粉症ですか?」
「少しそうです。」
「それも頭痛の原因になる可能性がありますね。」

花粉症からの頭痛?!でも、年中花粉症ではないが、今も蓄膿症ってやつならそれが原因?!思わず身を乗り出すと可能性ですと医師は賑やかに言う。



※※※



それから様々な検査を受けて原因を探ってきたが、結局頭痛の原因は分からないままで、他の病院にもかかってみた。同じ検査でも違う病院ならとも思ったのだけど、結果はどこも同じ原因不明で薬を飲んで緩和してという話だ。蓄膿症も手術したし、視力が悪いと頭痛になるというからレーシックとか言う視力回復のための手術もうけた。歯並びが悪いと筋肉が歪むと言うから、それも直したんだ。肩こりを緩和するために整体もヨガもやっているし、体重だって負担にならないようキープし続けている。それでも、頭痛はよくならないし、終いに気圧の問題とか言い始めるから、気圧が変動しない場所を探して山登りまで始めた。それでも頭痛は治らない。

一体どうしたらこの頭痛と別れられるんだろう。



※※※



病気を直したくて、病気になってる人っていますよね。

自分の言葉に久保田は笑う。確かに病気がないと生きていけないタイプの方はいますねと笑いながら、でも自分が病気だと気がついてない人もいますねぇと言う。確かに世の中にはそんな人間も大勢いるなぁと染々考える。それにしても頭痛を直したくて食生活どころか仕事までやめて、病院通いとなると少しやり過ぎのような気がするのは自分だけだろうか。まるで頭痛を治すことに執着しているように見えるけれど、それがストレスにはならないのだろうか。

聞いてるだけで頭が痛くなりそうですよね。

自分の言葉に久保田は上手いことを言いますねとわらいだしていた。
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