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外伝 思緋の色
第五幕 三人で
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人とは違う存在であり得体の知れない力を持った≪人外≫という存在にも、四神にもはっきりと分かっている事実が一つある。それは、例え人外といえども、自分達と同じ五行の存在に縛られるという事だ。
五行で言う相剋……弱点に当たる木気の攻撃を受けた土気の存在である八握脛の傷は、そう簡単に癒えるものではない。それを癒すには多くの栄養を必要とするだろうし、一度表に身を晒してしまった事で四神達が警戒する事も、知恵をもった八握脛は
気がついていたのだろうと思う。
あの忌まわしい日から、ほぼ八ヶ月近くが経とうとするのにその気配はようとして伺えなかった。秀でた能力を持つ星読ですら世にはいでた瞬間のそのものの気を感じる事はできても、何か大きな力を使おうとしない限り人外を見つけることが出来ない事に苛立つ姿を朱雀は見て取っていた。
暫しの急速の後の白虎は一見以前の彼女らしさを取り戻したようにも見えたが、それが表面上だったこともよく分かっていた。勿論それはもう一人の仲間である青龍にも言える事だ。
※※※
それは朱雀と青龍の二人が、一足先に院のあの薄暗い部屋へと向かっている最中に廊下で何気なくまるで血のように赤い夕日が西に沈むのを立ち止まり眺めていた時の事だった。それはまるで朱雀が生れ落ちた紅の世界にも似た酷く不安を掻き立てる色で彼は微かに眉を潜める。それに気がついた青龍が微かに不思議そうにその表情を見つめる。
「朱雀さん?」
その言葉を耳にしながらその色の余りにも鮮烈なイメージに心の中がざわめくのを感じた。それは何時か感じた事のある不快な記憶を思い起こさせて言葉が喉の奥に張り付いたかのような感覚を感じる。刹那、秋の濃く深い赤い夕陽を見つめながら二人は西の空の向こうにゲートが開くのを感じ、それと同時に何かが心の中で警鐘を鳴らすのを感じた。二人は顔を見合わせて、その忌々しい気配の存在が微かに闇の中から這い登ってくるのを感じた。
「…出てきたな……、やつが。」
その言葉に微かに横に居た青龍が頷き、横にいた僧衣の男が微かな怯えを滲ませた視線を浮かべる。自分達を置き去りにして廊下を急ぎ足で歩み去るその僧衣の男の後姿を見ながら、微かに険しい表情を浮かべ青龍が重い口を開いた。
「今度は逃しはしません……。絶対に。」
「あぁ……、そうだな。」
何時もよりも酷く静かに穏やかに答える朱雀の様子に、ふと青龍は訝しげに眉を潜める。彼はその顔を見返しながら、静かに紅玉の輝きを潜めた瞳で穏やかに口を開く。
「……必ず始末をつけよう……それで絶対に三人で帰ってこなくちゃな……。」
微かに低く震えを帯びるその言葉に潜む、実は一番深く激しい感情の断片を初めて朱雀から感じ取った青龍は思わず押し黙った。この八ヶ月の間に一度も自分がその激しく燃え盛るような感情に気がつかなかったことに驚きながら青龍は目を見張る。
どれだけ自分が自分の事だけしか見ていなかったかを目の前に突きつけられたかのような気がして黙り込む青龍の様子に、ふと気がついた朱雀は微かに微笑む。
一番朱雀自身が傷ついたままその心を癒すこともしていない。
それを隠し通してきたのは彼自身の激しい決意の表れなのか、それとも贖罪のつもりなのかは青龍には思いもよらない事だった。
「……朱雀さん。」
彼は再び西の空を見つめ沈み行く血のように赤い夕日を物思いに沈む瞳で無言のまま見つめていた。
最後に姿を現した白虎の姿に朱雀と青龍は薄嫌い室内に光をさすような白い輝きを放つ彼女を見やった。
「白虎、奴だ。」
静かに言う朱雀の声に彼女の表情は酷く凍りつくような冷やかさに包まれながら厳しい視線を浮かべた。あの日、あの忌まわしい日に闇に姿を消したあの忌まわしき存在は、相剋の傷を癒やすのに必要なものの得られない事に、とうとう耐えかねて闇から這い出してきたのだ。今は更に深い老化の影を纏いながら古老が擦れた声をあげた。
「今は周囲に人はおらん……。」
その言葉に朱雀は他の者にもばれない程、僅かにその古老を見やった。人としての幸せをなげうってここにいる古老の姿はあの忌まわしい日から急激に衰えを見せて、今は既に濃い死の影が付きまとっている。その言葉を完全に無視したまま、仲間の二人は式読ではなく、同じくあの日を境に酷く大人びた様にも見える星読に視線を向けていた。その行動すらも式読は今は容認するかのように目を細め、まるでそれは自分の出る幕はもう終わったとでも言いたげな様子にも見える。
「……気を付けて……皆さん。」
真剣な黒曜石の瞳をした少年の真摯な言葉に三人は無言のまま頷き、再び西の空へと三つの輝きがそれぞれの色の尾を引いて空を切り裂く様に駆け抜けていく。
※※※
八握脛の妖気が白虎の身の内から焦がす臭いを、朱雀は確かに嗅いだ気がした。
ジリジリと侵食する妖気という存在。
それが例え相剋や相生の関係であっても四神と人外の気は似て非なるものだとしか言いようがない。陰と陽のように対極にあるものを取り込むには、人外であれば一時の間その気を呑んでも崩れた細胞は全て妖力で生まれ変わる事が出来るが、人間の自分達にはそれは不可能だ。分かり切っている筈のその行為を白虎がずっと以前から計算していた事も、止める気もない事も、今更になって紅玉の瞳には見通せる気がした。
なんてことをッ!!!止めろ!!!
そう思うのにそれを口にすることは、八握脛に白虎がやっていることが自殺行為に近いことを教えるだけで更に彼女を危険に晒してしまう。八握脛にもっと自分達の事を知り抜くだけの時間が無かったことが、唯一の幸いだ。
白虎は朱雀が口に出せない事を知っているかのように、二度目・三度目の土気をその体に呑み込み無理やり浄化する。一直線に気を飲み込みながら自分に向かってくる白虎の姿を、八握脛は理解できないというような苦悩の呻き声を上げてたじろいだ。
『……くるな……っくるなあぁあぁっ!!!』
激しい矢継ぎ早の土気を次々とその身に呑み込みながら矢のように一直線に向かってくる。八握脛は金気の白い美しい虎の姿を目を丸く見開きながら見据え、背後で朱雀がそのものの頼みの綱でもあったゲートを完全に閉じるのを感じ取った。育ちきらない自分の存在を消滅させようと叩き潰そうと光を放つ者を、闇の縁の瞳で恐怖を滲ませながら悲鳴の様な声をあげる。
生まれて初めて感じる恐怖が死の恐怖であるとは思ってもみなかったというすさまじい声に、八握脛の表層の人間に似せた姿がグズリと崩れ落ちた。
目の前で変貌する人外の異形の姿はまるで悪夢を見るかのように生々しく夜の闇に浮かび上がる。
中性的で美しいとすら思えた顔は人であったものから、まるで鬼面の様に歪み真横に裂けた口が鋭い釘の様な歯を横並びに並べると、激しい威嚇の音をあげながらその体すらも膨れ上がらせた。最初に見た体の数倍もある体は、既に人の姿ではなく体幹は酷く細くくびれ音をたてて四肢は更に避けて四本から八本に姿を変え、まさに巨大な蜘蛛の姿が其処に存在を見せる。
『それが、貴様の本性か!!八握脛!!!』
変貌した八握脛に向けて激しい宙からの青龍の怒声と共に風が闇を切り裂き光り輝く矢のように鋭く細い刃となって、雨の様に降り注そぐ。風の雨を全身に受けながら苦悶の呻きをあげる人外が放つ土気を未だに全てその身に呑み込み続けながら白虎は揺らぎもせずに、その四肢の刃で蜘蛛の足を激しい勢いで切りつける。金気のもたらした鋭い痛みにそれが苦悶の呻きをあげながら跳ね上げた足の一本が目の前の白虎の体を音を立てて宙に跳ね上げた。
『白虎!!』
ゲートを閉じて宙を舞う朱雀が急旋回してその体を抱きとめながら、ハッとした様にその姿を見下ろす。彼の紅玉の眼に映ったのは、白虎体内の目に見えない部分でその身を焼きつくそうとする妖気の流れに他ならなかった。
外界に散った妖気を浄化して取り込むのとは違う、直接体内に入り込んだ妖気がその体内を焼きつくそうとしているのが目に見える様な気がして彼はその紅玉の瞳を苦悩に歪ませた。
これ以上、土気を取り込んだら、こいつまで……ッ……!
しかし朱雀の気遣う素振りを出す事も全てを拒絶するかの様に白銀の光を激しく放つ。白虎がその腕から身を地表へと躍らせると激しい光と玉のように鋭く尾を引いて、青龍と共に巨大な異形のモノに向かって躍りかかっていた。もうその場で朱雀に出来るのは弱りゆく巨大な異形の化け物が新しい妖力の供給源が林の中に潜んでいるのを隠すために、林の木々をわずかになぎ倒し僧衣の者を少しでも遠ざけて早い決着を願う事だけしかできない。
音もなく静かな夜の奇妙に血の様に赤く見える月の光の中でただ彼等の戦う音と朱雀の起こす炎で木々が爆ぜ朽ちて崩れる音だけが響く。その中で、ただ今は朱雀の心だけが早く早くと全てに向かって急き立てるように叫びつづけていた。
※※※
西の空の赤い月の光を遮るかのように、さっとかかった雲がポツリと雫をこぼした。断末魔の啜り泣く様な声をこぼしながらその体から黒いタールの様にドロドロと血を湧きださせながら地表に崩れ落ちる八握脛の姿を三人はそれぞれに肩で息をしながらただ見下ろす。それはもう既に、生き物としての生命線を断たれたものの無残な姿だった。
足は形もなく崩れ、今やその体はまるで何か固い鉱石の様に黒ずんだかと思うとその端からパキンパキンと乾いた音を立てて砕けて宙に消え始めていく。
『何故だ……私は……ただ………。』
そのモノが何をいいたかったのかは彼等には分からないままに、それは音を立てて砕けて砂となる。砂は見る間に消えていき、彼等は目を細めた。八握脛が何を思うのかは彼等には想像もできなかったが、ただ冷たい夜の雨に濡れながら立ちすくみ彼等の心の中には様々な思いが去来している。
仲間であった人の事、そして自分達の事……。
変化をといた白虎の深い溜め息を聞きつけながら、真っ白な顔をした彼女の姿を見つめる。
「大丈夫か?」
同じように変化を解いた朱雀の不安を滲ませた声を聞きつけた彼女は微かに微笑む。その視線が同じく青龍の瞳にも浮かんでいるのはよく分かっているが、二人に彼女は自分がした事に何も迷いはなかったことをその微笑みで伝えた。
彼女の行為自体が無謀で会ったのは事実だがそれでも、彼女は自分に土気が効かない事を八握脛に見せてやりたかったのだ。
「無理し過ぎですよ………、もう戻りましょう、後は彼等に任せておけばいい。」
青龍が彼にしては酷く冷やかに林の木々の隙間から雨の中を進みでてくる者達に顎をしゃくるのを、皮肉な笑みで見つめながら彼ら三人は既に形の殆どを失った人外であったものの姿を見下ろした。
人の姿をした人ではないもの。
また同じ事がいつか起こるのではないか………ふとそんな考えが心を過ぎるのを朱雀は感じながら、陶器のように白く透き通る彼女の姿を見つめる。そして、彼等はおもいおもいにその場から離れ始めようとしていた。
五行で言う相剋……弱点に当たる木気の攻撃を受けた土気の存在である八握脛の傷は、そう簡単に癒えるものではない。それを癒すには多くの栄養を必要とするだろうし、一度表に身を晒してしまった事で四神達が警戒する事も、知恵をもった八握脛は
気がついていたのだろうと思う。
あの忌まわしい日から、ほぼ八ヶ月近くが経とうとするのにその気配はようとして伺えなかった。秀でた能力を持つ星読ですら世にはいでた瞬間のそのものの気を感じる事はできても、何か大きな力を使おうとしない限り人外を見つけることが出来ない事に苛立つ姿を朱雀は見て取っていた。
暫しの急速の後の白虎は一見以前の彼女らしさを取り戻したようにも見えたが、それが表面上だったこともよく分かっていた。勿論それはもう一人の仲間である青龍にも言える事だ。
※※※
それは朱雀と青龍の二人が、一足先に院のあの薄暗い部屋へと向かっている最中に廊下で何気なくまるで血のように赤い夕日が西に沈むのを立ち止まり眺めていた時の事だった。それはまるで朱雀が生れ落ちた紅の世界にも似た酷く不安を掻き立てる色で彼は微かに眉を潜める。それに気がついた青龍が微かに不思議そうにその表情を見つめる。
「朱雀さん?」
その言葉を耳にしながらその色の余りにも鮮烈なイメージに心の中がざわめくのを感じた。それは何時か感じた事のある不快な記憶を思い起こさせて言葉が喉の奥に張り付いたかのような感覚を感じる。刹那、秋の濃く深い赤い夕陽を見つめながら二人は西の空の向こうにゲートが開くのを感じ、それと同時に何かが心の中で警鐘を鳴らすのを感じた。二人は顔を見合わせて、その忌々しい気配の存在が微かに闇の中から這い登ってくるのを感じた。
「…出てきたな……、やつが。」
その言葉に微かに横に居た青龍が頷き、横にいた僧衣の男が微かな怯えを滲ませた視線を浮かべる。自分達を置き去りにして廊下を急ぎ足で歩み去るその僧衣の男の後姿を見ながら、微かに険しい表情を浮かべ青龍が重い口を開いた。
「今度は逃しはしません……。絶対に。」
「あぁ……、そうだな。」
何時もよりも酷く静かに穏やかに答える朱雀の様子に、ふと青龍は訝しげに眉を潜める。彼はその顔を見返しながら、静かに紅玉の輝きを潜めた瞳で穏やかに口を開く。
「……必ず始末をつけよう……それで絶対に三人で帰ってこなくちゃな……。」
微かに低く震えを帯びるその言葉に潜む、実は一番深く激しい感情の断片を初めて朱雀から感じ取った青龍は思わず押し黙った。この八ヶ月の間に一度も自分がその激しく燃え盛るような感情に気がつかなかったことに驚きながら青龍は目を見張る。
どれだけ自分が自分の事だけしか見ていなかったかを目の前に突きつけられたかのような気がして黙り込む青龍の様子に、ふと気がついた朱雀は微かに微笑む。
一番朱雀自身が傷ついたままその心を癒すこともしていない。
それを隠し通してきたのは彼自身の激しい決意の表れなのか、それとも贖罪のつもりなのかは青龍には思いもよらない事だった。
「……朱雀さん。」
彼は再び西の空を見つめ沈み行く血のように赤い夕日を物思いに沈む瞳で無言のまま見つめていた。
最後に姿を現した白虎の姿に朱雀と青龍は薄嫌い室内に光をさすような白い輝きを放つ彼女を見やった。
「白虎、奴だ。」
静かに言う朱雀の声に彼女の表情は酷く凍りつくような冷やかさに包まれながら厳しい視線を浮かべた。あの日、あの忌まわしい日に闇に姿を消したあの忌まわしき存在は、相剋の傷を癒やすのに必要なものの得られない事に、とうとう耐えかねて闇から這い出してきたのだ。今は更に深い老化の影を纏いながら古老が擦れた声をあげた。
「今は周囲に人はおらん……。」
その言葉に朱雀は他の者にもばれない程、僅かにその古老を見やった。人としての幸せをなげうってここにいる古老の姿はあの忌まわしい日から急激に衰えを見せて、今は既に濃い死の影が付きまとっている。その言葉を完全に無視したまま、仲間の二人は式読ではなく、同じくあの日を境に酷く大人びた様にも見える星読に視線を向けていた。その行動すらも式読は今は容認するかのように目を細め、まるでそれは自分の出る幕はもう終わったとでも言いたげな様子にも見える。
「……気を付けて……皆さん。」
真剣な黒曜石の瞳をした少年の真摯な言葉に三人は無言のまま頷き、再び西の空へと三つの輝きがそれぞれの色の尾を引いて空を切り裂く様に駆け抜けていく。
※※※
八握脛の妖気が白虎の身の内から焦がす臭いを、朱雀は確かに嗅いだ気がした。
ジリジリと侵食する妖気という存在。
それが例え相剋や相生の関係であっても四神と人外の気は似て非なるものだとしか言いようがない。陰と陽のように対極にあるものを取り込むには、人外であれば一時の間その気を呑んでも崩れた細胞は全て妖力で生まれ変わる事が出来るが、人間の自分達にはそれは不可能だ。分かり切っている筈のその行為を白虎がずっと以前から計算していた事も、止める気もない事も、今更になって紅玉の瞳には見通せる気がした。
なんてことをッ!!!止めろ!!!
そう思うのにそれを口にすることは、八握脛に白虎がやっていることが自殺行為に近いことを教えるだけで更に彼女を危険に晒してしまう。八握脛にもっと自分達の事を知り抜くだけの時間が無かったことが、唯一の幸いだ。
白虎は朱雀が口に出せない事を知っているかのように、二度目・三度目の土気をその体に呑み込み無理やり浄化する。一直線に気を飲み込みながら自分に向かってくる白虎の姿を、八握脛は理解できないというような苦悩の呻き声を上げてたじろいだ。
『……くるな……っくるなあぁあぁっ!!!』
激しい矢継ぎ早の土気を次々とその身に呑み込みながら矢のように一直線に向かってくる。八握脛は金気の白い美しい虎の姿を目を丸く見開きながら見据え、背後で朱雀がそのものの頼みの綱でもあったゲートを完全に閉じるのを感じ取った。育ちきらない自分の存在を消滅させようと叩き潰そうと光を放つ者を、闇の縁の瞳で恐怖を滲ませながら悲鳴の様な声をあげる。
生まれて初めて感じる恐怖が死の恐怖であるとは思ってもみなかったというすさまじい声に、八握脛の表層の人間に似せた姿がグズリと崩れ落ちた。
目の前で変貌する人外の異形の姿はまるで悪夢を見るかのように生々しく夜の闇に浮かび上がる。
中性的で美しいとすら思えた顔は人であったものから、まるで鬼面の様に歪み真横に裂けた口が鋭い釘の様な歯を横並びに並べると、激しい威嚇の音をあげながらその体すらも膨れ上がらせた。最初に見た体の数倍もある体は、既に人の姿ではなく体幹は酷く細くくびれ音をたてて四肢は更に避けて四本から八本に姿を変え、まさに巨大な蜘蛛の姿が其処に存在を見せる。
『それが、貴様の本性か!!八握脛!!!』
変貌した八握脛に向けて激しい宙からの青龍の怒声と共に風が闇を切り裂き光り輝く矢のように鋭く細い刃となって、雨の様に降り注そぐ。風の雨を全身に受けながら苦悶の呻きをあげる人外が放つ土気を未だに全てその身に呑み込み続けながら白虎は揺らぎもせずに、その四肢の刃で蜘蛛の足を激しい勢いで切りつける。金気のもたらした鋭い痛みにそれが苦悶の呻きをあげながら跳ね上げた足の一本が目の前の白虎の体を音を立てて宙に跳ね上げた。
『白虎!!』
ゲートを閉じて宙を舞う朱雀が急旋回してその体を抱きとめながら、ハッとした様にその姿を見下ろす。彼の紅玉の眼に映ったのは、白虎体内の目に見えない部分でその身を焼きつくそうとする妖気の流れに他ならなかった。
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これ以上、土気を取り込んだら、こいつまで……ッ……!
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足は形もなく崩れ、今やその体はまるで何か固い鉱石の様に黒ずんだかと思うとその端からパキンパキンと乾いた音を立てて砕けて宙に消え始めていく。
『何故だ……私は……ただ………。』
そのモノが何をいいたかったのかは彼等には分からないままに、それは音を立てて砕けて砂となる。砂は見る間に消えていき、彼等は目を細めた。八握脛が何を思うのかは彼等には想像もできなかったが、ただ冷たい夜の雨に濡れながら立ちすくみ彼等の心の中には様々な思いが去来している。
仲間であった人の事、そして自分達の事……。
変化をといた白虎の深い溜め息を聞きつけながら、真っ白な顔をした彼女の姿を見つめる。
「大丈夫か?」
同じように変化を解いた朱雀の不安を滲ませた声を聞きつけた彼女は微かに微笑む。その視線が同じく青龍の瞳にも浮かんでいるのはよく分かっているが、二人に彼女は自分がした事に何も迷いはなかったことをその微笑みで伝えた。
彼女の行為自体が無謀で会ったのは事実だがそれでも、彼女は自分に土気が効かない事を八握脛に見せてやりたかったのだ。
「無理し過ぎですよ………、もう戻りましょう、後は彼等に任せておけばいい。」
青龍が彼にしては酷く冷やかに林の木々の隙間から雨の中を進みでてくる者達に顎をしゃくるのを、皮肉な笑みで見つめながら彼ら三人は既に形の殆どを失った人外であったものの姿を見下ろした。
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