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予後
153.
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人はその身体に滓を纏うことがある。
アキコの内にあるものは、それを密かに取り込む。それは所謂人間でいえば食事と同じで、ずっと昔から無意識にアキコはそれをしながら生きてきたのだと今では分かっていた。滓は人の怨嗟の思いがアキコの瞳にだけ黒い靄のように見えていて、それは時に影のように意図した形にも変わる。それが身のまわりにない時は、それを呼び寄せるために自分は哭くのだ。
そんなことを知ってしまって、それが何なのかと考え、次第に自分の中のものを理解していくにつれて自分が何なのかを知っていく。
自分の目が既に普通の世界を見ているのではないのを知ってしまった。
自分が取り込んでいるものが何かを知ってしまった。
自分が何ものなのかを知ってしまった。
そうしたら、あのまま懐かしい空気の中で生きていけないことにも気がついてしまったのは、自分が餓えていたからだ。餓えを堪えながら生きることは不可能ではなかったが、絶対に可能であるとは言えない。餓えに負けてもし哭いてしまったら、その哭き声に寄せられた滓が誰に纏わりつくのか。それは考えなくても、答えを導き出すのは容易かった。
アキコの両親や弟に不幸を呼ぶことは出来ない…………
同時に何年か前にあの土蔵から逃げ出した男の子とも気にかかっていたのは、あの男を土蔵に閉じ込めたことで自分は数年の糧を土蔵の世界を経由して供給されていた事実があるからだった。あの空間はアキコが作り上げた一つの架空の世界で、過去に同じ景色の空間を自分は知っていたのだが、実際には似て非なるものだ。
アキコがもう一つの滓の力で産み出した世界…………
既にあの世界は崩壊してしまったのは、アキコの魂があれを作ったものだからだ。アキコの魂が失われて男が消え去ったから、あそこは存在の意義を失って滓に帰ってしまった。それと同時にあの世界から逃げ出すには、あそこに入るときに交わした約束を果たすか誰かが忍び込んで解放するしかない。そしてあそこはマヨヒガでもあるから、出ていく時には何かが与えられるかもしれないのだ。
あの男は…………得られるとしたら、何を得るだろう…………
男が死んで魂だけかあそこに残るのだとばかり思っていたのは、今 ここにいる自分がそれを経験したからだった。長く自我すらも失うほどあそこに閉じ込められてしまえば、幾ら願いがかなって外に出ようとしても肉体がなく得られたものを使いこなす力すら失う。だけど男はまだそれ程の年月を過ごしもしないし、恐らく自覚がなくとも魂の一部があそこに閉じ込められていたことは気がつく可能性はある。夢や不可思議な現象や、そんなもので気がついて、何か脱出の方法を算段できなくはないと思う。そうして出ていく時に何かを手にしていたら…………例えばあの土蔵の中にあった何かを手にして出ていくのなら、それはマヨヒガが与える力になり変わる。それが何に成り代わるかはあの男次第だが、実はアキコの方はあの土蔵から自分を手にして出ていったのだった。
死と引き換えに、昔私が約束した新たな人生をいきるという約束を叶えた…………
本来はこの形で叶えられるものではなく、自分の願いは新たな生命となり変わることだったと今でも悲しく思う。新たな生命、言い換えれば新たな子供として、つまりはアキコの子供として。アキコの身体を使い生まれ直す約束を、砕いたのはアキコ自身とあの男だ。それでもそのまま見た次のアキコに願いを託すことも可能だったのに、それが出来なくなったのは相手があの男だったからとしか言えない。
もしあの男でなければ…………
従兄弟や何かというものとは、まるでものの違う人間と偶々出逢わなければ、少なくともアキコの人生は幾分はましだった。それを思うのはこうして繋がってしまったある一部の何かが、今も自分にはジリジリと焼くように肌に感じられるからだ。
もしあの男でなく、シンドウリュウヘイと真っ先に出逢ったのなら、そうでなければトノという友人を選んでいたのだったら、あの男から逃げてコバヤカワケイが相手であったのなら。
今の結末はまるで違うものになったに違いない。
そう感じてしまう自分には、同時に今更こんなことを考えても無駄なのだと理解も出来る。もしあの男に出逢わなければ恐らく他の人間との出逢いも存在しないから、どんなにそれを思ってもあの男との出逢いは必然に塗り変わるのだ。
「アキコ?どうした?」
ベットに身を起こしてそんな考え事を独りでしていたアキコの腕にヒヤリと冷たい指が絡んできて、その手の主に無造作に自分を引き寄せるのを感じる。アキコの腕をとり横に裸で寝そべっているのはいうまでもなくシンドウリュウヘイで、法律と遺伝子学上ではアキコにはリュウヘイは義理の息子。だけど、そうなる前から二人の間にはこの関係かあって、傍目に見れば歳の差としても二人が恋人同士といわれてもおかしくない。この街に戻りあの男を探してきたが、あの男はこの街にまだ暮らしていて、しかもアキコの目には顔が判別できない滓に包まれてもいた。
「昔…………自分の身体の中のモノを情念みたいだといわれたことがあるの…………それが肌を重ねるうちにうつってしまうんじゃないかって…………話して…………。」
それは過去の友人から告げられた言葉で、それはお互い様だろうと彼には言われたことがある。情念であるならば互いに感染してしまうのではないかと彼にいわれ、それもそうだと納得もしたアキコでもある自分の過去。それはあの男からも自分の中にうつされたモノがあるということなのだ。
「…………他の男の事はベットでは話すなよ…………、俺が生かしてやってるだろ……?」
僅かな戸惑いを感じさせながら、顔を覆ったままの自分をリュウヘイが引き寄せて押し倒す。生かしてもらうという言葉は、実は言葉通りでリュウヘイが滓を与えてくれるお陰で今の自分は餓えを堪える必要がない。それの対価にリュウヘイが自分をこうして求めるのが不思議でもあるけれど、リュウヘイに滓を与えられながら肌を重ねるのは心地よくもある。
「なぁ、おたく、まだ足りないんだろ?俺も足りない。」
そう囁かれてのし掛かられ、酷く丁寧に愛撫されるのには実は戸惑う。アキコの身体は何もかも痛みを通して抱かれることしか知らないから、こんな風に優しく労るように抱かれるのには慣れないのだ。それを何度伝えてもリュウヘイはアキコのことを抱くやり方を変えようとはしないし、丹念に飴玉でも舐め回すように愛撫を繰り返す。
「リュ…………ウヘ……、これ、や………………、んんっ…………。」
「嫌なら、ちゃんと嫌がれよ……、おたくが嫌がったら止めてやるから。」
何でと問いかけてもリュウヘイは、こんなやり方の理由を口にしない。それは逆にアキコにとっては意地悪な気もするのは、アキコの経験があの男との苛まれるだけの行為しか知らないのをリュウヘイもとうに知っているからだ。それでも何度痛め付けていいといっても、リュウヘイからまるで宝物のように抱かれて絶頂に押し上げられてシーツを掴みながら喘がされる。
「ほら、嫌なんだろ?こんな、エロい音立てて、ほんとに、嫌か?」
グチュグチュと淫らな音を立てて指で掻き回されて淫らに足を大きく開かされて、丹念に陰核だけでなく奥まで舐め回され蕩けされられてしまう。しかもそれ程の経験もないから比較しようがないけれど、あの男よりも長く太く異様に熱い逸物を見せつけるようにしてしリュウヘイはアキコの蜜壺にヌプヌプと差し込んでいく。
「あ、ふぁああ……あぁー…………んんっ!」
「嫌がってる割には、可愛い音立てて咥えてくな、おたく。」
普段よりも格段に柔らかな甘い声でそう言いながら突き刺し捏ね回すようにして膣を満たされるのに、あっという間に絶頂に押し上げられてしまう。そしてその後はもうなにも考えられなくなるようなリュウヘイの激しい突き上げに、何度も何度も快感に押し上げられていく。体位を変えて何度も擦りあげられ淫らな上にリュウヘイに征服されて、何度も奥まで繰り返して注ぎ込まれてしまう。
「やぁあ!あうぅ!ああっ!あぁあ!」
「気持ちいいか?アキコ。」
「あ、いい、いいっ!いくぅ!」
そう悲鳴のように叫ぶ快感に酩酊して叫ぶアキコに、リュウヘイがどんな顔をしているのかわからない。それでもリュウヘイは何度もこうしてアキコを抱いていて、そのまま抱き締めたまま朝を迎えることが少なくないのだった。
※※※
春先の冷たい雨の降る夜、アキコはアパートのマンションの窓辺でグレーに霞む街並みを見つめていた。シトシトと降り続ける細かな雨は、少し暖まったアスファルトを濡らして薄い靄を街にベールのようにかけている。ほんの数ヵ月前までリュウヘイの子供であるミウラカズキを預かる合間に、一人の女と前に住んでいたマンションでルームシェアをしていた。最初はそんなつもりではなかったのだが、彼女がリュウヘイのように体に滓を纏って一人公園にいたのをアキコが偶々見つけたのだ。
ウエハラアンナ。
誰かに殴られ顔を痣だらけにして、それだけでなく身の内を炙るような憎悪や恐怖に満たされた濃い深い闇の滓の臭いを纏った若い女。道を歩いていてその強い滓の気配に気がついて話しかけたが、顔を見てしまったら殴られた傷が可愛そうで彼女を手当てして部屋に泊めたのだ。まあアキコの見ている滓は人に見えるものでもなければ、害が直ぐあるわけでもない。とは言え勿論アキコは対価として、彼女のもつその滓を有り難く餌さとしていただいたのだが。
アンナ
ウエハラアンナはその身の上を知れば知るほど、アキコが言うのも何だが可哀想な女だった。彼女はアキコのような性的虐待を、しかも最悪なことに義理の父親から受けている。しかもアキコのような子供で何もわからない状態でされたのではなく、当時の彼女は高校生で、やがてアンナはその行為の結果で妊娠までしてしまったのだ。
高校生でモノを知らなかったのと妊娠に気がつくのに期間が遅すぎたこともあって、既に堕胎は不可能。妊娠は中絶するのに期間が制限されていて、5ヶ月を過ぎた胎児は既に生命として法律上保護されるのを知らない人も多い。5ヶ月以上の赤ん坊はそれ以前の堕胎と違って、死亡診断書を必要とする歴とした生命なのだ。
アンナは妊娠を知った時には5ヶ月を既に越していて、中絶ができなかった。そうして、アンナは何もかもを捨てて地方に逃げて、密かに一人で子供を産んでいた。ところがその子供は先天性の疾患があり、その治療には多額の医療費と最初はよくてもやがては必ず健康な腎臓が必要になる。そう子供は腎疾患で薬では完治できず、透析をしてもやがては腎移植をしないと生きられない。アンナは子供のために母親であることを放棄した。
子供のためだ、決してアンナは子供の世話を放棄したかったわけではない。
それでもウエハラアンナは苦渋の決断の結果行政に子供を捨てて、子供のための何千万円もの金額を自分一人で密かにずっと稼ぎ続けていたのだ。
母は強し……よね、アンナ。
それは子供のための手術の費用だった。手段は正しくはないが、彼女は自分にできることで必死に金を稼ぎ続けてきたのだ。そして遂に子供の手術の費用を自分の体で稼ぎだして、彼女は娘に移植を受けさせることに成功した。
子供のために…………か。
若い頃のアキコには、それが出来なかった。子供が欲しかったし命の大事さも理解していたのに、助けることも出来ずに失った命。あの時の子供はもし生まれていたら、今頃は高校生になる筈だった。アンナのように子供を守ることを選べなかったのは、アキコが愚かで弱かったからだ。
今は小学五年生、十歳の娘…………アンナか……
アンナはそこまでアキコに全てを詳しく話したわけではなかったが、アキコにはこの異常な能力と義理の息子のリュウヘイがいる。アキコはアンナの娘がサクマという家で養女として暮らしているのも知っているし、一部だが彼女の手術のための個人基金に寄付もしていて、アンナの娘が腎臓を受け取ったのも密かに知っていた。
アンナのことをアキコは心底尊敬していると同時に、心から羨ましくも思う。子供を宿して産み出し、そのために命を懸けた彼女は、真っ直ぐで純粋でアキコには出来ないことを幾つもしてのけた。そう実の娘に移植された腎臓は、ウエハラアンナ自身のもので彼女はもうこの世にはいない。
でも、どうせなら生き残って好きな男と、自分が幸せになって欲しかった。
今になって腹を痛めたわけではないけれど義理の子供と立場的には孫だが年齢的には子供でもおかしくない年の二人と関って少しずつ変わり始めているアキコが、出会った可哀想なアンナ。
ウエハラアンナは、今から数ヵ月前に真冬の街で一人寂しく死んだ。恐らく彼女を殺した相手が誰かもわかってはいるけれど、アンナがそれを暴くのを喜ばないのもアキコは分かっている。
お互い……ろくでもないのに命をかけてるわよ?…………アンナ…………
そう皮肉に考えながらアキコは何か神経にピリピリする感覚をまた感じながら、街を眺めて密かに目を細めていた。
アキコの内にあるものは、それを密かに取り込む。それは所謂人間でいえば食事と同じで、ずっと昔から無意識にアキコはそれをしながら生きてきたのだと今では分かっていた。滓は人の怨嗟の思いがアキコの瞳にだけ黒い靄のように見えていて、それは時に影のように意図した形にも変わる。それが身のまわりにない時は、それを呼び寄せるために自分は哭くのだ。
そんなことを知ってしまって、それが何なのかと考え、次第に自分の中のものを理解していくにつれて自分が何なのかを知っていく。
自分の目が既に普通の世界を見ているのではないのを知ってしまった。
自分が取り込んでいるものが何かを知ってしまった。
自分が何ものなのかを知ってしまった。
そうしたら、あのまま懐かしい空気の中で生きていけないことにも気がついてしまったのは、自分が餓えていたからだ。餓えを堪えながら生きることは不可能ではなかったが、絶対に可能であるとは言えない。餓えに負けてもし哭いてしまったら、その哭き声に寄せられた滓が誰に纏わりつくのか。それは考えなくても、答えを導き出すのは容易かった。
アキコの両親や弟に不幸を呼ぶことは出来ない…………
同時に何年か前にあの土蔵から逃げ出した男の子とも気にかかっていたのは、あの男を土蔵に閉じ込めたことで自分は数年の糧を土蔵の世界を経由して供給されていた事実があるからだった。あの空間はアキコが作り上げた一つの架空の世界で、過去に同じ景色の空間を自分は知っていたのだが、実際には似て非なるものだ。
アキコがもう一つの滓の力で産み出した世界…………
既にあの世界は崩壊してしまったのは、アキコの魂があれを作ったものだからだ。アキコの魂が失われて男が消え去ったから、あそこは存在の意義を失って滓に帰ってしまった。それと同時にあの世界から逃げ出すには、あそこに入るときに交わした約束を果たすか誰かが忍び込んで解放するしかない。そしてあそこはマヨヒガでもあるから、出ていく時には何かが与えられるかもしれないのだ。
あの男は…………得られるとしたら、何を得るだろう…………
男が死んで魂だけかあそこに残るのだとばかり思っていたのは、今 ここにいる自分がそれを経験したからだった。長く自我すらも失うほどあそこに閉じ込められてしまえば、幾ら願いがかなって外に出ようとしても肉体がなく得られたものを使いこなす力すら失う。だけど男はまだそれ程の年月を過ごしもしないし、恐らく自覚がなくとも魂の一部があそこに閉じ込められていたことは気がつく可能性はある。夢や不可思議な現象や、そんなもので気がついて、何か脱出の方法を算段できなくはないと思う。そうして出ていく時に何かを手にしていたら…………例えばあの土蔵の中にあった何かを手にして出ていくのなら、それはマヨヒガが与える力になり変わる。それが何に成り代わるかはあの男次第だが、実はアキコの方はあの土蔵から自分を手にして出ていったのだった。
死と引き換えに、昔私が約束した新たな人生をいきるという約束を叶えた…………
本来はこの形で叶えられるものではなく、自分の願いは新たな生命となり変わることだったと今でも悲しく思う。新たな生命、言い換えれば新たな子供として、つまりはアキコの子供として。アキコの身体を使い生まれ直す約束を、砕いたのはアキコ自身とあの男だ。それでもそのまま見た次のアキコに願いを託すことも可能だったのに、それが出来なくなったのは相手があの男だったからとしか言えない。
もしあの男でなければ…………
従兄弟や何かというものとは、まるでものの違う人間と偶々出逢わなければ、少なくともアキコの人生は幾分はましだった。それを思うのはこうして繋がってしまったある一部の何かが、今も自分にはジリジリと焼くように肌に感じられるからだ。
もしあの男でなく、シンドウリュウヘイと真っ先に出逢ったのなら、そうでなければトノという友人を選んでいたのだったら、あの男から逃げてコバヤカワケイが相手であったのなら。
今の結末はまるで違うものになったに違いない。
そう感じてしまう自分には、同時に今更こんなことを考えても無駄なのだと理解も出来る。もしあの男に出逢わなければ恐らく他の人間との出逢いも存在しないから、どんなにそれを思ってもあの男との出逢いは必然に塗り変わるのだ。
「アキコ?どうした?」
ベットに身を起こしてそんな考え事を独りでしていたアキコの腕にヒヤリと冷たい指が絡んできて、その手の主に無造作に自分を引き寄せるのを感じる。アキコの腕をとり横に裸で寝そべっているのはいうまでもなくシンドウリュウヘイで、法律と遺伝子学上ではアキコにはリュウヘイは義理の息子。だけど、そうなる前から二人の間にはこの関係かあって、傍目に見れば歳の差としても二人が恋人同士といわれてもおかしくない。この街に戻りあの男を探してきたが、あの男はこの街にまだ暮らしていて、しかもアキコの目には顔が判別できない滓に包まれてもいた。
「昔…………自分の身体の中のモノを情念みたいだといわれたことがあるの…………それが肌を重ねるうちにうつってしまうんじゃないかって…………話して…………。」
それは過去の友人から告げられた言葉で、それはお互い様だろうと彼には言われたことがある。情念であるならば互いに感染してしまうのではないかと彼にいわれ、それもそうだと納得もしたアキコでもある自分の過去。それはあの男からも自分の中にうつされたモノがあるということなのだ。
「…………他の男の事はベットでは話すなよ…………、俺が生かしてやってるだろ……?」
僅かな戸惑いを感じさせながら、顔を覆ったままの自分をリュウヘイが引き寄せて押し倒す。生かしてもらうという言葉は、実は言葉通りでリュウヘイが滓を与えてくれるお陰で今の自分は餓えを堪える必要がない。それの対価にリュウヘイが自分をこうして求めるのが不思議でもあるけれど、リュウヘイに滓を与えられながら肌を重ねるのは心地よくもある。
「なぁ、おたく、まだ足りないんだろ?俺も足りない。」
そう囁かれてのし掛かられ、酷く丁寧に愛撫されるのには実は戸惑う。アキコの身体は何もかも痛みを通して抱かれることしか知らないから、こんな風に優しく労るように抱かれるのには慣れないのだ。それを何度伝えてもリュウヘイはアキコのことを抱くやり方を変えようとはしないし、丹念に飴玉でも舐め回すように愛撫を繰り返す。
「リュ…………ウヘ……、これ、や………………、んんっ…………。」
「嫌なら、ちゃんと嫌がれよ……、おたくが嫌がったら止めてやるから。」
何でと問いかけてもリュウヘイは、こんなやり方の理由を口にしない。それは逆にアキコにとっては意地悪な気もするのは、アキコの経験があの男との苛まれるだけの行為しか知らないのをリュウヘイもとうに知っているからだ。それでも何度痛め付けていいといっても、リュウヘイからまるで宝物のように抱かれて絶頂に押し上げられてシーツを掴みながら喘がされる。
「ほら、嫌なんだろ?こんな、エロい音立てて、ほんとに、嫌か?」
グチュグチュと淫らな音を立てて指で掻き回されて淫らに足を大きく開かされて、丹念に陰核だけでなく奥まで舐め回され蕩けされられてしまう。しかもそれ程の経験もないから比較しようがないけれど、あの男よりも長く太く異様に熱い逸物を見せつけるようにしてしリュウヘイはアキコの蜜壺にヌプヌプと差し込んでいく。
「あ、ふぁああ……あぁー…………んんっ!」
「嫌がってる割には、可愛い音立てて咥えてくな、おたく。」
普段よりも格段に柔らかな甘い声でそう言いながら突き刺し捏ね回すようにして膣を満たされるのに、あっという間に絶頂に押し上げられてしまう。そしてその後はもうなにも考えられなくなるようなリュウヘイの激しい突き上げに、何度も何度も快感に押し上げられていく。体位を変えて何度も擦りあげられ淫らな上にリュウヘイに征服されて、何度も奥まで繰り返して注ぎ込まれてしまう。
「やぁあ!あうぅ!ああっ!あぁあ!」
「気持ちいいか?アキコ。」
「あ、いい、いいっ!いくぅ!」
そう悲鳴のように叫ぶ快感に酩酊して叫ぶアキコに、リュウヘイがどんな顔をしているのかわからない。それでもリュウヘイは何度もこうしてアキコを抱いていて、そのまま抱き締めたまま朝を迎えることが少なくないのだった。
※※※
春先の冷たい雨の降る夜、アキコはアパートのマンションの窓辺でグレーに霞む街並みを見つめていた。シトシトと降り続ける細かな雨は、少し暖まったアスファルトを濡らして薄い靄を街にベールのようにかけている。ほんの数ヵ月前までリュウヘイの子供であるミウラカズキを預かる合間に、一人の女と前に住んでいたマンションでルームシェアをしていた。最初はそんなつもりではなかったのだが、彼女がリュウヘイのように体に滓を纏って一人公園にいたのをアキコが偶々見つけたのだ。
ウエハラアンナ。
誰かに殴られ顔を痣だらけにして、それだけでなく身の内を炙るような憎悪や恐怖に満たされた濃い深い闇の滓の臭いを纏った若い女。道を歩いていてその強い滓の気配に気がついて話しかけたが、顔を見てしまったら殴られた傷が可愛そうで彼女を手当てして部屋に泊めたのだ。まあアキコの見ている滓は人に見えるものでもなければ、害が直ぐあるわけでもない。とは言え勿論アキコは対価として、彼女のもつその滓を有り難く餌さとしていただいたのだが。
アンナ
ウエハラアンナはその身の上を知れば知るほど、アキコが言うのも何だが可哀想な女だった。彼女はアキコのような性的虐待を、しかも最悪なことに義理の父親から受けている。しかもアキコのような子供で何もわからない状態でされたのではなく、当時の彼女は高校生で、やがてアンナはその行為の結果で妊娠までしてしまったのだ。
高校生でモノを知らなかったのと妊娠に気がつくのに期間が遅すぎたこともあって、既に堕胎は不可能。妊娠は中絶するのに期間が制限されていて、5ヶ月を過ぎた胎児は既に生命として法律上保護されるのを知らない人も多い。5ヶ月以上の赤ん坊はそれ以前の堕胎と違って、死亡診断書を必要とする歴とした生命なのだ。
アンナは妊娠を知った時には5ヶ月を既に越していて、中絶ができなかった。そうして、アンナは何もかもを捨てて地方に逃げて、密かに一人で子供を産んでいた。ところがその子供は先天性の疾患があり、その治療には多額の医療費と最初はよくてもやがては必ず健康な腎臓が必要になる。そう子供は腎疾患で薬では完治できず、透析をしてもやがては腎移植をしないと生きられない。アンナは子供のために母親であることを放棄した。
子供のためだ、決してアンナは子供の世話を放棄したかったわけではない。
それでもウエハラアンナは苦渋の決断の結果行政に子供を捨てて、子供のための何千万円もの金額を自分一人で密かにずっと稼ぎ続けていたのだ。
母は強し……よね、アンナ。
それは子供のための手術の費用だった。手段は正しくはないが、彼女は自分にできることで必死に金を稼ぎ続けてきたのだ。そして遂に子供の手術の費用を自分の体で稼ぎだして、彼女は娘に移植を受けさせることに成功した。
子供のために…………か。
若い頃のアキコには、それが出来なかった。子供が欲しかったし命の大事さも理解していたのに、助けることも出来ずに失った命。あの時の子供はもし生まれていたら、今頃は高校生になる筈だった。アンナのように子供を守ることを選べなかったのは、アキコが愚かで弱かったからだ。
今は小学五年生、十歳の娘…………アンナか……
アンナはそこまでアキコに全てを詳しく話したわけではなかったが、アキコにはこの異常な能力と義理の息子のリュウヘイがいる。アキコはアンナの娘がサクマという家で養女として暮らしているのも知っているし、一部だが彼女の手術のための個人基金に寄付もしていて、アンナの娘が腎臓を受け取ったのも密かに知っていた。
アンナのことをアキコは心底尊敬していると同時に、心から羨ましくも思う。子供を宿して産み出し、そのために命を懸けた彼女は、真っ直ぐで純粋でアキコには出来ないことを幾つもしてのけた。そう実の娘に移植された腎臓は、ウエハラアンナ自身のもので彼女はもうこの世にはいない。
でも、どうせなら生き残って好きな男と、自分が幸せになって欲しかった。
今になって腹を痛めたわけではないけれど義理の子供と立場的には孫だが年齢的には子供でもおかしくない年の二人と関って少しずつ変わり始めているアキコが、出会った可哀想なアンナ。
ウエハラアンナは、今から数ヵ月前に真冬の街で一人寂しく死んだ。恐らく彼女を殺した相手が誰かもわかってはいるけれど、アンナがそれを暴くのを喜ばないのもアキコは分かっている。
お互い……ろくでもないのに命をかけてるわよ?…………アンナ…………
そう皮肉に考えながらアキコは何か神経にピリピリする感覚をまた感じながら、街を眺めて密かに目を細めていた。
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