鵺の哭く刻

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予後

164.★

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だから……アキを…………取り戻したいんだよぉ…………。

呻くようにそう心のなかで囁くのは、街中でついに再会したアキコの姿に息を飲んでいたからだった。
テレビ画面を通して見た以上に、異様な程にその姿は見間違う理由がなかったのだ。まるでアキコは自分と分かれたあの時から時が止まったように年もとらずに、しかも別れた時よりも更に濃く憂いを含んでいて眼を見張る程に美しかった。昔にはなかった筈の妖艶さを含んだ長い睫毛と哀しげに伏せられた瞳で、若く屈強な背の高い男に庇われるのが似合っているアキコ。以前の若い自分のようにピシッとしたスーツ姿の青年の背に庇われて、それでも自分を嘲るように笑っただけでなく凛とした声で口を開いたアキコ。化粧っ気は昔と何も変わらず殆どしていないのに、滑らかで雪のような白い肌をして、見たことのない程に髪を短くはしていたけれどもアキコはアキコだった。

それなのに

アキコなのに、アキコはシュンイチの元に戻らなかった。自分は制服警官に連れ出され両脇を抱えながら引きずられていきながら、アキコが自分を殴り付けた若いスーツの男を心配そうな視線で見上げるのを視界に捉える。アキコは自分のものと叫んでも、誰もそうだとは言わない。しかもアキコだけがそのまま美しく、年もとらずに自分だけが老いていく。

シュンイチ、あの女性は稀有だぞ?いいな?

祖父が結婚式の控え室でアキコが親戚達に囲まれているのを横目に、一人自分に歩み寄り囁いたのを何故か思い出していた。今まですっかり忘れていて、アキコにすら話もしていないあの一言。稀有。稀有なほど美しいという意味なのか。確かに花嫁姿のアキコは誰もが驚く程に美しいのは、友人達からも終われて理解している。

稀有

それが何故か今は違う意味をもっている気がして、一人自室で悶々と考え込む。確かに今まで付き合ったり関わったりした女の中で、アキコと同じことを同じように出来た女はいなかった。アキコと同程度なら付き合ってもいいなんて考えると、あれ程全てにおいて自分に尽くす女は現れないままなのだ。そう言う意味なのか?それとも何なんだ?祖父母は何故初めて直に見たアキコを、そう表現したのかと暗い闇の中天井を見つめながら考える。

稀有な女

何に対して稀有なのか。自分にとって?ヤネオ家にとって?親戚にとって?どれをとっても何故か奇妙な感覚がして、ならその稀有な娘を手離してしまった自分は何なのだと思う。祖父母は自分の事を特別に可愛がり大切な存在としてくれたが、伯父や伯母の子供達も数多くいた筈だった。その中でも特別扱いをされたのは自分だけで、数回だけ訪れた祖父母の家では自分はまるで王様か殿様の扱い。弟なんていないように扱われて……そうか、それであいつは自分に嫉妬して来て、今その仕返しをしているのか。唐突にそう考えたら、少しだけ沸き上がった優越感に気持ちが楽になる。なら、アキコだって同じように自分を焦らして嫉妬させようとしているのかも知れない。そう気がつくと憂いを秘めたあの視線が自分を焦らそうとしているのだと感じられて、アキコの楚々とした佇まいが頭に浮かび上がる。

今の男にも縛られて、股を濡らしているのか?

遺産を受け取るためにヒヒ爺の慰み者になっているアキコの姿を想像すると、今度は逆に興奮が昂って股間が固くなる。麻縄で淫らに全身を縛られ太い和室の梁に吊るされ、ギシギシと軋む縄に締め上げられる白磁のような滑らかな白い肌。年寄り爺の逸物はそう簡単には固くならないだろうから口でシャブリながら、股を開かされ晒すように縄をかけられた孔には他の男の逸物や玩具を捩じ込まれたまま。俯せで後ろ手にされ足を曲げて、海老反りに吊るされたアキコの股間からは淫らな汁がしたたりはじめている。その乳首や陰核は度重なる責めで既に摘まめる程に存在感を示していて、赤く硬く膨れて糸でくびり出され鉄の錘を吊るされている。

ああ、いい、それこそ雌奴隷だ。縄化粧だな、最高だ。

麻縄で縛られ吊るされ蹂躙される哀れな雌奴隷の姿は、最高の責め図でシュンイチは頭痛も忘れてそれに浸る。太いと泣きながら孔に玩具を捩じ込まれ尻を平手でバチンバチンと打たれるのにビクビクと尻を痙攣させて、その振動に乳首と陰核が尚更責めあげられ糸を淫らな汁が伝う。奴隷としての口調で甘えるように助けてくださいと懇願しながら、ズポズポと孔を擦られ泣きわめくアキコは変わらず淫らで興奮をそそる。

もっとして欲しいんだろ?雌が、いい、いいと泣けよ、もっとして気持ちいいと叫べよ

ギシギシ軋む縄の音とグポグポと掻き回される孔の淫らな膣音、そしてジュルジュルと音をたてて男の逸物を頬張り啜り上げシャブる舌の立てるはしたない音。その光景を妄想するために眼を閉じて、固くなった逸物を自分の手で握りしめ勢いよく上下にゴシゴシと扱き始める。妄想の中のアキコの口も膣も肛門も、犯すのは他の男ではなく全てがシュンイチただ一人だ。

ああ、これだ、これが、雌奴隷で、この孔も口も極上で…………

吊るされたまま犯され歓喜に泣きながらネットリと絡み吸い付きヌメヌメと撫で上げて、あっという間に奥深く飲み込んで締め付けて…………アキコを蹂躙する妄想に絶頂を迎えようと激しく手を動かし続けているシュンイチの頭の中で、唐突に氷のように冷ややかな自分の声が再び思い出したように口を開く。

罪には罰が当たるんだ、因果応報。それこそ……よって件の如し

その声に氷水を浴びせかけられたように、シュンイチは自身の逸物を握りしめたまま凍りつく。もしアキコにしてきたこと全てを罰としてやり返されたとしたら、その思考は同時にあの土蔵の中で何千回と繰り返されたことに思い至る。血反吐を吐いて蹴り殺してやった子供に、何度も腹の中が潰れ裂けるような勢いで蹴り上げられ土蔵の中で這いつくばり血を吐いていた。縄で吊るして三角木馬に叩き落とし股を裂いて犯した子供には、同じように縄で吊るされ股を裂かれて尻穴から竹筒のようなものを腹に捩じ込まれなぶり殺されてもいる。

同じことをされるんだぞ?

あの土蔵の外から囁く掠れ声に言われて、子供が死んでも動けないようにするためにあの子供達の首を括り梁に吊ってやった。あの声は一体誰の声なのか理解できなかったが、何故かその声は結婚式にアキコを稀有な女だと囁いた祖父を思わせる。あの声が祖父なのだとしたら、自分を助けたのか?それとも自分に稀有な女を失った罰を与えるために、あそこから出したのだとしたら。何故今になってこんなことを考えなければならなくなっているのか、痛いほどに自分の逸物を握りしめていることも忘れてシュンイチはその言葉を繰り返す。

稀有な女だから…………どうしろと?

だけど、その後あの縄が切れて子供が自由になったら、自分も同じように吊るされるとシュンイチは怯えたのだ。あの場所にいけないなら、今度は現実の世界で首を括られて死ぬ。こちらでは繰り返しの世界にはならないから、一度きりだが死にたくないのに首を括られる。それが恐ろしくて仕方がない。そして今アキコに自分はどれだけの事をしたか、アキコが望んでしてきたこととそうでないことの境界線は何処にあったろうか。

アキコを殴って気絶させたこともあるし、冷や水を浴びせかけ床に放置した事もある

それを考えると恐怖で凍っていく。裸になれと怒鳴った声に嫌だと拒絶したアキコを殴りもしたし、真冬に氷水に近い水を浴びせかけもしたし、下半身を見るために床を引き摺り放置もした。それだけじゃない。殆ど眠らせる事もなく、日々身の回りの事をさせて、玩具でなぶったり尻の孔も性器がわりに犯している。外でも性行為を強いているし嫌がれば殴られ吐くほど嫌がるのに口に逸物を捩じ込まれる、考えれば考える程自分がされたら嫌だと言う事ばかり脳裏を掠めていく。そして、稀有な女だからと囁いた祖父の意図は何だったのかと考えてもいて、同時に何故これを今になって思い出すのかとも思う。

「…………い、いやなら、言えば、良かった、んだ。」

ギシギシと軋むような声で言い訳した瞬間、突然眼は閉じているし横になっている筈なのに自分の背後から肩越しにシュンイチの母親の顔がヌッとつき出されていた。その顔はあの見慣れた奥歯を食いしめ歯を剥き出した表情になって、耳元で激しくガヂガヂと歯を鳴らし始めている。ガチゴチ、ガヂガヂ、それなのに奥歯が軋む音が頭の中で頭痛になって響き渡って、骨の髄までを恐怖で満たす。

「いいい、いいいいい、いいいいいいっ!」

思わぬ恐怖に自分の口から溢れる声にシュンイチは、まるで犯されてなく女みたいだとボンヤリと頭の片隅で考え、そして同時にコイツはずっとこうして自分の傍にいたのではと考える自分に気がついていた。眼を閉じても今ハッキリ見えていて、握りしめたままの逸物を離すことも出来ないのは見えるのが母の顔だからだ。音もなく忍び寄るのではなく、ずっとこうして肩越しに眺められる範囲で、シュンイチが淫らな行為をするのを覗きこんでいて、子供の頃と同じく自分にお仕置きをする機会をずっと伺い続けている母親の顔。

わるううぅううううい、

ああ、何がそんなに悪いというのだ。
こんなことは普通の人間なら・普通の男ならあって当然の欲求じゃないのかと言い訳すると、その顔は更に歯を剥き出してガチガチと歯を激しく打ち鳴らす。それを見て自分の母親の顔にそっくりだと思うのと同時に、何故かその顔が見慣れた自分の顔にも見えている。そうか、自分はこんなに母親と似た顔をしていたのだと今更気がついてしまうが、その顔は同時に人間というより異質な化け物に見えてしまうのだ。美しい人形のような整った顔立ちのアキコとはまるで事なり、自分や母は眼が左右に遠くはなれた面長の顔で、しかも奥歯を噛み歯を剥き出す顔は何故か牛を思わせてしまう。こうして覗き込む牛面の眼は虚ろに左右に離れていて、精神的にもおかしいものなのだとしか感じられない。つまりこの顔でアキコを苛む自分は、幼い自分を苛む母は、頭がおかしいのだとしか思えない。そして、それは今もまだガチガチと耳障りな歯を鳴らすのを、一向に止めようとしないまま囁きかけてくる。

お前の血が、わるうううううううい、

血?自分の血が悪いというのは、何なんだと思わず牛面に向かって問いかけてしまう。何か病気なのか?確かに最近の自分の体臭が酷いのは理解していたし、体臭には病気のせいで出てくるものもあるという話だ。そう言うことなのか?それを伝えようとして、これは今こうして自分に話しかけてくるのか?そう思ったが、母の顔はそんな生易しい存在ではないのも感じている。

………………お前は子を食った、子を殺した、わるううぅい血だぁああ…………

初めて聞くその言葉にシュンイチは思わず肩越しの母の顔をした化け物の瞳をマジマジと覗きこんでいだ。子供を下ろさせたのは事実だが、食ってなんかいない。それにそんなのは自分のせいじゃない、血なんて自分が選んだわけではないと口にしようとして、そのギラギラと怨念めいた光で見つめ返してくる化け物の顔であるものを見つめる。

託宣を与えた子を食った、それに子を殺した、獣の、わるうううううい血ぃいいい

いや、子を殺したのは自分じゃないと咄嗟に心の中で叫ぶ。確かに自分の子を二人、アキコの子供はシュンイチが促してアキコが決めて殺した。二号の方は自分の子かどうかすら分からないし、あれから一年になるが時々制服姿で歩いている姿は見ていて子供をおろしたのは聞かなくてもわかる。いや、二号の方は本当に妊娠していたのかすら定かではない(でも子供が出来たというのは、本当なのだろうとは分かってはいた、分かっていたけれどシュンイチは子供を産ませる気もなかったのだ)。でも結局はどちらもシュンイチが、手を下して殺したわけじゃない。何一つ手を出してもいないし、殺したのは医者でシュンイチじゃない。

その通りだろ?自分が殺したわけじゃないし、殺したのは女だ!

そうまるで名案を思い付いたように心の中で叫んだ瞬間、不意に母の顔がググッと前のめりに自分に顔を寄せてきたのに気がついていた。腐臭・ドブのような、産まれてから一度も嗅いだことのない悪臭がその口から溢れ出していて、思わず吐き気を催す。それを何処か遠くのことのように感じながらシュンイチは、深淵の淵のようなその目をただ真っ直ぐに深く奥まで覗きこんでいた。
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