21 / 51
episode2☆ぬいと鍵付きアカウント
2-p09 屋上のぬい
しおりを挟む
4時間目、体育。
生徒が校庭に出て行ったので教室はガランとしている。
ヒデアキのロッカーの奥から微かな物音がした。
空飛ぶタオルが2人を乗せて、スイーっとロッカーから滑り出る。
千景と碧生は周りに授業の気配しかないのを確認すると、薄く扉を開け、廊下を横切って窓から外に出て行った。
校庭では「クラス対抗大縄跳び」の練習が始まった。
体育の先生が号令を出している。
「じゃあやってみるぞ~。よーい」
ピッ、とホイッスルが鳴った。
ヒデアキは列の真ん中より少し端の方。
「いっち、にっ、さん……」
皆と声を合わせながらジャンプする。
回転する縄。
ピョコピョコ飛び跳ねるみんなの頭。
その向こうに黄色くなり始めた葉桜の梢。そして校舎。
(あれっ?)
違和感を抱いたのは「6」まで跳んだ時だった。
(なんか……見られてる……?)
三階建ての校舎の方に焦点を合わせる。
教室……いや、もっと上だ。
校舎の屋上だ。
小さく見える2つの点。
あれは……ぬい……!
(千景くん、碧生くん、見えてる! 見えてるよ────!)
心の叫びは届いていないらしく堂々とこちらを見下ろしている。
教室から出ないでって言ったのに。
「じゅう、じゅういっち、……」
集中しないと。
いやしかし屋上なら鍵が掛かっていて人は滅多に立ち入らない。比較的安全だ。わざわざ見上げてジロジロ見る人はいないだろうし、余程あのフォルムに覚えがないと何だかよくわからないだろう。
今日は雨も降っていない。
退屈ならそこにいてもらおう。
一方、ぬいたち。
「兄さん。ヒデアキがこっちに気付いたみたいだ」
「まじか。視力よすぎだろ」
***
昼。
弁当箱を開けると最近お馴染みのものが入っていた。
「ボールおにぎりだ」
ヒデアキはスマホのカメラを構える。
碧生がまたコロコロ転がして作ってくれたんだろう。
久しぶりに父が作ってくれたお弁当だ。
「最近それ、紫藤家名物だな」
とコーイチローがボールおにぎりを見た。
「うん。野球うまくなるように」
「まじか。オレもボールにしてもらおうかな」
一方そのころ、屋上のぬいたちはというと……
教室に潜ませた虫型カメラでヒデアキの動きを見ていた。映像だけで音声はない。
「食ってる食ってる」
千景が小鳥の餌やりでも見るような様子で、教室の食事風景を眺めている。
碧生も横から覗き込んでいる。
「キャラ弁っぽいのも結構あるな。兄さん。オニギリって三角とボール、どっちが好きだ?」
「俺はボールだなー。三角の方が弁当箱に入れやすそうだけどな。碧生、三角握れるのか?」
「タオルとラップを使えばいけると思う」
タオルというのは空飛ぶタオルのことだ。
そんな雑談をしながら碧生はチハルのツイッターを開いた。更新は止まっている。でも「いいね」のハートマークはいくつか増えていた。
数日前、ヒデアキは碧生にあることを告げていた。
「ちょっと相談があるんだ」
と改まって。
「僕がこんなこと言う立場じゃないかもしれないけど。ツイッターで、お母さんのこと、……本当のことを言った方がいいかなって思った」
「……うん」
碧生の心はポチャッと氷水に落ちたような感じがした。
正直なことを言うと、碧生は最初はなりすましを続けるつもりだった。
でもDMが来てから、それは無理だと思い直すようになっていた。
ヒデアキは碧生の気持ちを察していたからか、DMもチハルらしい文面で返そうとがんばって一緒に色々調べてくれた。
でも碧生が寝ている間に届いていた、高瀬先生からのアドバイスの方が筋が通っていた。
いずれ本当のことが知れて、碧生がいくら「悪意はなかった」と主張したって、嘘をつかれた側が不快だったら結果的にナツミの名誉を傷つけてしまう。
ヒデアキは、
「やめようってことじゃないよ。写真のツイートは続けたい」
と慌てて付け足したけど、
「うん」
と暗い返事しか返せなかった。
碧生の反応にヒデアキは狼狽えていた。
「ツイッターを頼まれたのは碧生くんで、僕は手伝ってるだけのはずだったのに。乗っ取るみたいになって、ごめん」
「乗っ取るなんて思ってないぞ。おれと兄さんだけじゃ、続けられなかった。ヒデアキがいてくれなかったら無理だった。頑張ったけど、やっぱりおれたちはナツミじゃないからな。なりすましするより、ちゃんと話をして続けた方がいいよな」
「うん」
そしてDMにすぐに返事を出そうとして、13歳の頭脳2つではちゃんとした文章を考えるのが結構大変で、一番頼りになりそうな父のアヤトにチェックしてもらってから送信しようということになり、下書きのまま、まごまごして踏ん切りがつかず、無駄に時が過ぎて今日に至る。
生徒が校庭に出て行ったので教室はガランとしている。
ヒデアキのロッカーの奥から微かな物音がした。
空飛ぶタオルが2人を乗せて、スイーっとロッカーから滑り出る。
千景と碧生は周りに授業の気配しかないのを確認すると、薄く扉を開け、廊下を横切って窓から外に出て行った。
校庭では「クラス対抗大縄跳び」の練習が始まった。
体育の先生が号令を出している。
「じゃあやってみるぞ~。よーい」
ピッ、とホイッスルが鳴った。
ヒデアキは列の真ん中より少し端の方。
「いっち、にっ、さん……」
皆と声を合わせながらジャンプする。
回転する縄。
ピョコピョコ飛び跳ねるみんなの頭。
その向こうに黄色くなり始めた葉桜の梢。そして校舎。
(あれっ?)
違和感を抱いたのは「6」まで跳んだ時だった。
(なんか……見られてる……?)
三階建ての校舎の方に焦点を合わせる。
教室……いや、もっと上だ。
校舎の屋上だ。
小さく見える2つの点。
あれは……ぬい……!
(千景くん、碧生くん、見えてる! 見えてるよ────!)
心の叫びは届いていないらしく堂々とこちらを見下ろしている。
教室から出ないでって言ったのに。
「じゅう、じゅういっち、……」
集中しないと。
いやしかし屋上なら鍵が掛かっていて人は滅多に立ち入らない。比較的安全だ。わざわざ見上げてジロジロ見る人はいないだろうし、余程あのフォルムに覚えがないと何だかよくわからないだろう。
今日は雨も降っていない。
退屈ならそこにいてもらおう。
一方、ぬいたち。
「兄さん。ヒデアキがこっちに気付いたみたいだ」
「まじか。視力よすぎだろ」
***
昼。
弁当箱を開けると最近お馴染みのものが入っていた。
「ボールおにぎりだ」
ヒデアキはスマホのカメラを構える。
碧生がまたコロコロ転がして作ってくれたんだろう。
久しぶりに父が作ってくれたお弁当だ。
「最近それ、紫藤家名物だな」
とコーイチローがボールおにぎりを見た。
「うん。野球うまくなるように」
「まじか。オレもボールにしてもらおうかな」
一方そのころ、屋上のぬいたちはというと……
教室に潜ませた虫型カメラでヒデアキの動きを見ていた。映像だけで音声はない。
「食ってる食ってる」
千景が小鳥の餌やりでも見るような様子で、教室の食事風景を眺めている。
碧生も横から覗き込んでいる。
「キャラ弁っぽいのも結構あるな。兄さん。オニギリって三角とボール、どっちが好きだ?」
「俺はボールだなー。三角の方が弁当箱に入れやすそうだけどな。碧生、三角握れるのか?」
「タオルとラップを使えばいけると思う」
タオルというのは空飛ぶタオルのことだ。
そんな雑談をしながら碧生はチハルのツイッターを開いた。更新は止まっている。でも「いいね」のハートマークはいくつか増えていた。
数日前、ヒデアキは碧生にあることを告げていた。
「ちょっと相談があるんだ」
と改まって。
「僕がこんなこと言う立場じゃないかもしれないけど。ツイッターで、お母さんのこと、……本当のことを言った方がいいかなって思った」
「……うん」
碧生の心はポチャッと氷水に落ちたような感じがした。
正直なことを言うと、碧生は最初はなりすましを続けるつもりだった。
でもDMが来てから、それは無理だと思い直すようになっていた。
ヒデアキは碧生の気持ちを察していたからか、DMもチハルらしい文面で返そうとがんばって一緒に色々調べてくれた。
でも碧生が寝ている間に届いていた、高瀬先生からのアドバイスの方が筋が通っていた。
いずれ本当のことが知れて、碧生がいくら「悪意はなかった」と主張したって、嘘をつかれた側が不快だったら結果的にナツミの名誉を傷つけてしまう。
ヒデアキは、
「やめようってことじゃないよ。写真のツイートは続けたい」
と慌てて付け足したけど、
「うん」
と暗い返事しか返せなかった。
碧生の反応にヒデアキは狼狽えていた。
「ツイッターを頼まれたのは碧生くんで、僕は手伝ってるだけのはずだったのに。乗っ取るみたいになって、ごめん」
「乗っ取るなんて思ってないぞ。おれと兄さんだけじゃ、続けられなかった。ヒデアキがいてくれなかったら無理だった。頑張ったけど、やっぱりおれたちはナツミじゃないからな。なりすましするより、ちゃんと話をして続けた方がいいよな」
「うん」
そしてDMにすぐに返事を出そうとして、13歳の頭脳2つではちゃんとした文章を考えるのが結構大変で、一番頼りになりそうな父のアヤトにチェックしてもらってから送信しようということになり、下書きのまま、まごまごして踏ん切りがつかず、無駄に時が過ぎて今日に至る。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる