22 / 51
episode2☆ぬいと鍵付きアカウント
2-p10 理科実験室のぬい
しおりを挟む
昼休み。
ヒデアキは職員室で偶然、高瀬先生に会った。夏休みのキラキラとは違って、黒いシャツに空色のスラックス、顔に濃い色は塗っていない、いつもの仕事用のいでたちだ。
「紫藤君、DMありがとうね。あのあと、なにか困ったこととか、ない?」
そう尋ねられると1つ、大いに困っていることがある。
「実は、まだ返事送ってなくて」
とずっと引っかかっていたことを、ヒデアキは口にした。
この状態で楽しげな写真を披露するのはさすがに失礼な気がして、ツイートも止まってしまっている。
先生もヒデアキと同じようなちょっと困った顔をした。
「もしかして、そうかなって思ってた」
「鍵アカに、他にも来てるかもしれないです。それ全部無視みたいになっちゃってる」
ヒデアキが溜息をつくと、
「え、あ、う、か、鍵アカは気にしなくても大丈夫だよ! 多分!」
高瀬先生は急に挙動不審だった。
「先生、鍵アカ見てたんですか?」
「いや、まあ、それは、……見てました」
「ID教えてください!」
思わず食いぎみにお願いしてしまったが、
「それはだめ」
と先生も食いぎみに断ったしヒデアキも、
「あ。黒歴史の詮索はやめたんだった」
とすぐに自分で前言撤回した。先生は、
「黒じゃないですよ光の歴史ですよ」
と心外な顔だ。
「チハルさんの鍵アカは、進捗報告用だからそんな、変なのじゃなかったよ」
「変なのって、公序良俗に反するやつですか」
「うん、紫藤君、よく知ってるね……。反しない感じで真っすぐ育ってください」
***
この日最後の授業は理科実験室で行われた。
先生が来るのを待っていると、最前列の辺りがざわざわと騒がしくなった。
ヒデアキと同じ実験机にいるカズミが、
「あ。ネコがいる」
と嬉しそうな声を発して席を離れ、前の扉の方に寄って行った。
「?」
ヒデアキもなんとなく視線を向けた。
学校の中に、ネコ?
ニャーと細い声が聞こえ、女子が白いネコチャンを撫で回しているのが見えた。
ちょっと小さめで、すごくかわいい。
「ほんとだネコだ~……」
皆と同じようにヒデアキもフラフラと引き寄せられる。
その途中で、ある言葉が脳内に響き渡った。
──俺たちぬいはサイズダウンしているから、白虎の赤んぼが取り憑いたネコを召喚する。
ハッ、と催眠術から解けるみたいに我に返った。
もしかしてこれって……
慌てて辺りを見回すと、あのフォルムが後ろの実験道具棚の上にスッと入って行くのが見えた。
「やっぱり」
みんなの注意をネコに引き付けておいて、ぬいたちは教室に入ってきている。なかなか姑息な手段だ。
もうLINEで何を言ってもムダだろう。
でも好き勝手ウロウロするよりはいい。
どうせヒデアキに付いて来てるんだったら、何かあったら身を挺して逃がせるから……とヒデアキは開き直った。
***
放課後。
校庭では野球部が今日も元気に練習中だ。
同じころ屋上では、千景と碧生もミニチュアの道具で野球の練習をしていた。
「全力でこい!」
「うん!」
碧生の手には小さなボール。振りかぶって剛速球で直進する。
千景のバットが打球をとらえた。
こんっ ころころころ……
バントの練習である。全力で飛ばすと球がどこかに行ってしまうので。
全力でかっ飛ばすのはできないけど、「ここに飛んだら◯点」なんてルールでバントゲームをするのもそれなりに楽しかった。
地上の練習が一段落する頃に屋上の練習も終了だ。
「たまにはアナログもいいな」
千景に言われて碧生は頷いた。
見上げれば、マンションの屋上とはまた違った夕暮れが広がっている。
暗くなっていく風景の中で中学生たちがワイワイと練習道具の片づけをしていた。
「ヒデアキ、普通にやってるなあ」
「うん」
「明日も見ててやりたいが、迷惑がってたみたいだな」
「兄さん。ヒデアキは見た目より強いし、冷静だ。ずっとそばにいなくても生きていくだろ。ナツミがいなくて寂しいのは、どうしようもないかもしれないけど」
悟ったような弟の言葉に千景は、
「そうだな」
と少しだけ寂しそうに呟いて、
「帰りは電車かなー」
と静かに下界を見下ろす。
その手の中で小さなスマホが振動した。
なにげなく開いて、
「っ!?」
と千景が息をのむ。
碧生がその様子を不思議そうに見た。
「どうしたんだ」
「碧生、これ見ろ!」
「!」
ヒデアキは職員室で偶然、高瀬先生に会った。夏休みのキラキラとは違って、黒いシャツに空色のスラックス、顔に濃い色は塗っていない、いつもの仕事用のいでたちだ。
「紫藤君、DMありがとうね。あのあと、なにか困ったこととか、ない?」
そう尋ねられると1つ、大いに困っていることがある。
「実は、まだ返事送ってなくて」
とずっと引っかかっていたことを、ヒデアキは口にした。
この状態で楽しげな写真を披露するのはさすがに失礼な気がして、ツイートも止まってしまっている。
先生もヒデアキと同じようなちょっと困った顔をした。
「もしかして、そうかなって思ってた」
「鍵アカに、他にも来てるかもしれないです。それ全部無視みたいになっちゃってる」
ヒデアキが溜息をつくと、
「え、あ、う、か、鍵アカは気にしなくても大丈夫だよ! 多分!」
高瀬先生は急に挙動不審だった。
「先生、鍵アカ見てたんですか?」
「いや、まあ、それは、……見てました」
「ID教えてください!」
思わず食いぎみにお願いしてしまったが、
「それはだめ」
と先生も食いぎみに断ったしヒデアキも、
「あ。黒歴史の詮索はやめたんだった」
とすぐに自分で前言撤回した。先生は、
「黒じゃないですよ光の歴史ですよ」
と心外な顔だ。
「チハルさんの鍵アカは、進捗報告用だからそんな、変なのじゃなかったよ」
「変なのって、公序良俗に反するやつですか」
「うん、紫藤君、よく知ってるね……。反しない感じで真っすぐ育ってください」
***
この日最後の授業は理科実験室で行われた。
先生が来るのを待っていると、最前列の辺りがざわざわと騒がしくなった。
ヒデアキと同じ実験机にいるカズミが、
「あ。ネコがいる」
と嬉しそうな声を発して席を離れ、前の扉の方に寄って行った。
「?」
ヒデアキもなんとなく視線を向けた。
学校の中に、ネコ?
ニャーと細い声が聞こえ、女子が白いネコチャンを撫で回しているのが見えた。
ちょっと小さめで、すごくかわいい。
「ほんとだネコだ~……」
皆と同じようにヒデアキもフラフラと引き寄せられる。
その途中で、ある言葉が脳内に響き渡った。
──俺たちぬいはサイズダウンしているから、白虎の赤んぼが取り憑いたネコを召喚する。
ハッ、と催眠術から解けるみたいに我に返った。
もしかしてこれって……
慌てて辺りを見回すと、あのフォルムが後ろの実験道具棚の上にスッと入って行くのが見えた。
「やっぱり」
みんなの注意をネコに引き付けておいて、ぬいたちは教室に入ってきている。なかなか姑息な手段だ。
もうLINEで何を言ってもムダだろう。
でも好き勝手ウロウロするよりはいい。
どうせヒデアキに付いて来てるんだったら、何かあったら身を挺して逃がせるから……とヒデアキは開き直った。
***
放課後。
校庭では野球部が今日も元気に練習中だ。
同じころ屋上では、千景と碧生もミニチュアの道具で野球の練習をしていた。
「全力でこい!」
「うん!」
碧生の手には小さなボール。振りかぶって剛速球で直進する。
千景のバットが打球をとらえた。
こんっ ころころころ……
バントの練習である。全力で飛ばすと球がどこかに行ってしまうので。
全力でかっ飛ばすのはできないけど、「ここに飛んだら◯点」なんてルールでバントゲームをするのもそれなりに楽しかった。
地上の練習が一段落する頃に屋上の練習も終了だ。
「たまにはアナログもいいな」
千景に言われて碧生は頷いた。
見上げれば、マンションの屋上とはまた違った夕暮れが広がっている。
暗くなっていく風景の中で中学生たちがワイワイと練習道具の片づけをしていた。
「ヒデアキ、普通にやってるなあ」
「うん」
「明日も見ててやりたいが、迷惑がってたみたいだな」
「兄さん。ヒデアキは見た目より強いし、冷静だ。ずっとそばにいなくても生きていくだろ。ナツミがいなくて寂しいのは、どうしようもないかもしれないけど」
悟ったような弟の言葉に千景は、
「そうだな」
と少しだけ寂しそうに呟いて、
「帰りは電車かなー」
と静かに下界を見下ろす。
その手の中で小さなスマホが振動した。
なにげなく開いて、
「っ!?」
と千景が息をのむ。
碧生がその様子を不思議そうに見た。
「どうしたんだ」
「碧生、これ見ろ!」
「!」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる