転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

文字の大きさ
89 / 104

89.ヒロイン、さらに語る。

しおりを挟む

「お姉さま、はじめまして♡ わたくし、アマイ・キンソン=ルービックと申しますの。  
 本日、継承式に呼ばれてまいりましたのよ♪」

 場内がざわつく中、花子はぽかんと口を開けたまま、目の前の少女を見つめていた。

 そのとき、アマイがくるりと向きを変え、会場の一角に立つブランに向かって、  
 まるで舞台のフィナーレのように、両手を広げて微笑んだ。

「そして――パパ♡ やっとお会いできましたわね!」

 その瞬間、空気が凍りついた。

 ブランは、まるで雷に打たれたように固まった。
「……パ、パパ?」

 声が裏返る。目が泳ぐ。  
 彼の脳内で、記憶の引き出しが総動員されるも――該当なし。
「……誰?」

 その一言に、アマイはくすくすと笑った。
「まあ、パパったら。照れていらっしゃるのね♡  
 でも、わたくし知ってますのよ? パパがどれほどわたくしを大切に思ってくださっていたか。  
 お手紙も贈り物も……あら? ……あれ?」

 アマイの笑顔が、ぴたりと止まる。
「……あれ? もしかして、まだ……?」

 その様子を見ていたキンソン家の側近が、慌ててアマイに駆け寄り、  
 小声で何かを囁いた。

 アマイは目をぱちくりさせたあと、ふわりと笑顔を取り戻した。
「まあ、そういうことでしたのね♡ でも大丈夫。これからたくさんお話できますものね、パパ♪」

 ブランは完全に言葉を失っていた。  
 顔は青ざめ、口元が引きつっている。

 ブラウンはアマイを見据えたまま、静かに口を開いた。
「……“兄”と呼ぶなら、まずは僕より魔力が多くなってからにしてください。  
 ルービック家では、それが最低限の礼儀ですよ。」

 その言葉に、アマイの笑顔がぴくりと揺れる。

 「ルービック家は、魔力の家。  
 その血にどれだけの力を宿しているか――それが、すべてを決める。  
 魔力量こそが、この家の誇りであり、存在理由。  
 それを弁えずに“名乗る”など、滑稽にもほどがあるわ」

 マリアの言葉が場を制し、アマイの笑顔がわずかに引きつった。  
 ブランは俯いたまま、ブラウンは冷ややかな視線を向けている。

 ――そんな中、花子はというと。

(……え、ちょっと待って。何この流れ?)

 頭の中で、さっきまでの会話を巻き戻してみる。

 “パパ”発言。  
 “兄を後継者に”発言。  
 “魔力が少ない”発言。  
 そして、マリアの怒りの鉄槌。

(……うん、わかる。わかるけど、わかりたくなかった)

 花子は、ただただぽかんと立ち尽くしていた。  
 でも、ふと――目の前で堂々と微笑むアマイの姿を見て、思った。
(……この子、完全に“あのヒロイン”じゃん)

 今読んでいる『貴族学園で生き残る方法~』の、  
 “自称・真のヒロイン”を名乗るお嬢様キャラ。  
 庶民ヒロインに対して「庶民のくせに!」と絡み、  
 「この学園にふさわしいのは私ですわ!」と高笑いする、あのテンプレお嬢様。

(いや、待って。まさか……この世界、乙女ゲーだったの?)

 花子の脳内に、タイトルロゴが浮かぶ。
 『王宮で生き残る方法~庶民ですが継承者になりました!?~』

(やだ……私、主人公じゃん……)

 そして、アマイは――  
 “攻略対象の父親に突然現れて『パパ♡』って言い出す、  
 終盤に出てくる隠しルートのライバルヒロイン”。

(ああ、もう……この展開、絶対めんどくさいやつだ……)

 花子はそっと目を閉じた。
(……私、初めて読みかけなのに、違う本が読みたいって思ったよ。)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...