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89.ヒロイン、さらに語る。
しおりを挟む「お姉さま、はじめまして♡ わたくし、アマイ・キンソン=ルービックと申しますの。
本日、継承式に呼ばれてまいりましたのよ♪」
場内がざわつく中、花子はぽかんと口を開けたまま、目の前の少女を見つめていた。
そのとき、アマイがくるりと向きを変え、会場の一角に立つブランに向かって、
まるで舞台のフィナーレのように、両手を広げて微笑んだ。
「そして――パパ♡ やっとお会いできましたわね!」
その瞬間、空気が凍りついた。
ブランは、まるで雷に打たれたように固まった。
「……パ、パパ?」
声が裏返る。目が泳ぐ。
彼の脳内で、記憶の引き出しが総動員されるも――該当なし。
「……誰?」
その一言に、アマイはくすくすと笑った。
「まあ、パパったら。照れていらっしゃるのね♡
でも、わたくし知ってますのよ? パパがどれほどわたくしを大切に思ってくださっていたか。
お手紙も贈り物も……あら? ……あれ?」
アマイの笑顔が、ぴたりと止まる。
「……あれ? もしかして、まだ……?」
その様子を見ていたキンソン家の側近が、慌ててアマイに駆け寄り、
小声で何かを囁いた。
アマイは目をぱちくりさせたあと、ふわりと笑顔を取り戻した。
「まあ、そういうことでしたのね♡ でも大丈夫。これからたくさんお話できますものね、パパ♪」
ブランは完全に言葉を失っていた。
顔は青ざめ、口元が引きつっている。
ブラウンはアマイを見据えたまま、静かに口を開いた。
「……“兄”と呼ぶなら、まずは僕より魔力が多くなってからにしてください。
ルービック家では、それが最低限の礼儀ですよ。」
その言葉に、アマイの笑顔がぴくりと揺れる。
「ルービック家は、魔力の家。
その血にどれだけの力を宿しているか――それが、すべてを決める。
魔力量こそが、この家の誇りであり、存在理由。
それを弁えずに“名乗る”など、滑稽にもほどがあるわ」
マリアの言葉が場を制し、アマイの笑顔がわずかに引きつった。
ブランは俯いたまま、ブラウンは冷ややかな視線を向けている。
――そんな中、花子はというと。
(……え、ちょっと待って。何この流れ?)
頭の中で、さっきまでの会話を巻き戻してみる。
“パパ”発言。
“兄を後継者に”発言。
“魔力が少ない”発言。
そして、マリアの怒りの鉄槌。
(……うん、わかる。わかるけど、わかりたくなかった)
花子は、ただただぽかんと立ち尽くしていた。
でも、ふと――目の前で堂々と微笑むアマイの姿を見て、思った。
(……この子、完全に“あのヒロイン”じゃん)
今読んでいる『貴族学園で生き残る方法~』の、
“自称・真のヒロイン”を名乗るお嬢様キャラ。
庶民ヒロインに対して「庶民のくせに!」と絡み、
「この学園にふさわしいのは私ですわ!」と高笑いする、あのテンプレお嬢様。
(いや、待って。まさか……この世界、乙女ゲーだったの?)
花子の脳内に、タイトルロゴが浮かぶ。
『王宮で生き残る方法~庶民ですが継承者になりました!?~』
(やだ……私、主人公じゃん……)
そして、アマイは――
“攻略対象の父親に突然現れて『パパ♡』って言い出す、
終盤に出てくる隠しルートのライバルヒロイン”。
(ああ、もう……この展開、絶対めんどくさいやつだ……)
花子はそっと目を閉じた。
(……私、初めて読みかけなのに、違う本が読みたいって思ったよ。)
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