転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

文字の大きさ
50 / 104

50.廊下でバッタリ。

しおりを挟む

 花子はなこは必修の講義を終え、すぐに帰ろうとしたところをムツキに呼び止められた。

「まだ向かう場所がございます」

 そう言われて連れてこられたのは、大学構内の一室だった。

「こちらです」

 ムツキに促されて部屋に入ると、そこにはどこかで見覚えのある人物がいた。

「やあ、よく来てくれたね。花子はなこさん」

(……誰だっけ?)

 首をかしげていると、隣にいたキサラギがそっと耳打ちしてくれた。

「こちらが本大学の学長です」

(が、学長!?)

「えっと、初めまして……?」

 思わず疑問形で挨拶すると、学長は苦笑いを浮かべた。

(やっぱりどこかで会ったことあるのかな……でも思い出せない……どうしよう)

 内心オロオロしていると、学長から一枚の書類が手渡された。

 内容は、今回の試合で不慮の事故が起こった場合、  
 大学側は一切責任を負わないという、いわゆる“免責同意書”だった。

(なるほど……責任回避か)

 花子はなこは内容を隅々まで確認し、サインをした。

「確かに」

 学長が書類を確認すると、すぐに帰ってよいと告げられた。

(……結局、どこで会ったのか思い出せなかったな)

 そう思いながら廊下を歩いていると――

「なんだ、ここにいたのか」

 背後から声をかけられた。

(……誰?)

 まったく見覚えのない男に、思わず腰が引ける。

 その男は気づかずに近づいてきて、花子はなこの腰に手を伸ばしてきた。

 ゾクリ――


 背筋を這い上がるような悪寒に、花子はなこはスッと身を引いた。

 それに気づいた男は、なぜか睨みつけてきた。

(なんで睨む!? 知らない人に触られそうになったら引くでしょ、普通!)

「なんだ、恥ずかしがってるのか?」

(んなわけあるかー!)

 心の中で全力ツッコミを入れたそのとき――

「そこで何してるんですか、先輩。」

 お腹を抱えながら苦しそうな表情で現れたのは、フレッドだった。

「フレッド!? お前がなんでここにいる?」

「えっとですね。いわゆる“待ち合わせ”です。」

「そうか、ならすぐにそこに行け。俺は今忙しいんだ。」

「いや、僕の待ち合わせ相手は彼女ですから」

(……え?)

 身に覚えのない“待ち合わせ”の話に、花子はなこは戸惑った。

「はあぁ? なんでお前と待ち合わせなんだ?」

 否定しようとしたその瞬間、フレッドが先に口を開いた。

「なんてったって、大会優勝ペア同士ですから。  
 別におかしくないでしょ?」

 その言葉に、先輩は思いっきり舌打ちして、その場を立ち去っていった。

「……余計なお世話だった?」

「えっと……よくわからない状況でしたので、助かりました。」

「よくわからない状況って……」

 フレッドは、先輩の必死のアプローチにまったく気づいていない花子はなこに呆れた。

(これは……自分がアタックする時も、  
 これでもかってくらいはっきり伝えないと、  
 好意の“こ”の字も気づいてもらえなさそうだな……)

 そんなことを考えているうちに、花子はなこはお礼を言って去っていった。

「……やれやれ」

(あっ、それどころじゃなかった!)

 フレッドは慌てて、廊下の先にある学長室へと向かった。

 今回の騎士科予選に続き、大学対抗戦でも優勝してしまったせいで、  
 下位貴族であるフレッドの実家には、高位貴族からの嫌がらせが集中。

 それに怒った長男が、「もう学費援助はしない」と拗ねてしまったのだ。

(このままじゃ卒業できない……!)

 将来のためにも、それだけは避けたい。

 そこでフレッドは、今回の優勝で得た単位に加え、  
 残りの単位を“全学年対象魔法試合”――通称“無差別級”で勝ち取ることを決意。

 その申し込みをした直後、学長から呼び出しがかかり、  
 サインのために学長室へ向かっていた――というわけだった。

(それにしても……あのスルーっぷりは、今思い出しても笑える)

 あの二人のやり取りを見ている間、笑いをこらえるのに必死で、  
 思わず腹を抱えたまま近づいてしまい、花子はなこに不審な目で見られてしまった。

(あの顔ヨシ、筋肉ヨシ、身分ヨシの“三高男”を、  
 歯牙にもかけないなんて……)

 **クックククク……**

(……そういえば、彼女はなんであそこにいたんだ?)

(まさか、“無差別級”に挑戦なんて――いや、いくらなんでも……)

 だが――

 フレッドのその“まさか”は、見事に的中していた。

 彼はその事実に気づかぬまま、  
 同じく“無差別級”の出場書類に、サインをしていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...