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2[リア]
お見合い
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数日置きに届けられるお見合い相手のリストは不思議な動きを見せていた。
最初に届いた時は「多いなぁ」と思った程度。
二度目に届いた時は、ぐっと件数が減っていた。王宮で実施している身辺調査のフィルターに引っかかったのかもしれない。
ところが三度目、減った分がすべて元に戻っていた。意味不明だ。
リストを持ってきてくれた王宮の担当者に理由を聞くと「ちょっと詳しい事情は分からない」と言う。
そして、四度目の更新。また人数が増えていた。大丈夫なのかと心配になる動きだった。
「集中して、一日に五人ずつお見合いしましょう!」
このリストを運んでくる担当文官は元気がいいのだけが取り柄だ。体育会系なのかやたらとハキハキしている。
わたしは彼を心の中で「元気ハツラツ君」と呼んでいた。
彼は常に元気なので、雑談をしている分には気楽だ。しかし、彼のお見合いに対する認識は独特だった。
「腕相撲大会がんばりましょう!」
「一日に五人はいけますよ!」
「バンバン倒しちゃってください!」
「四年後の五輪を目指して!」
「ふぁいっ! おー!」
これとほぼ同じノリで、わたしのお見合いと結婚の話をする。
彼にとってのお見合いは、ほとんど「試合」に近い。
わたしもお見合いの経験はないし、よその世界のお見合いともなれば勝手がわからない。
まずは言われたとおりにやってみようと思っていた。駄目なときは駄目だと言えばいいかな、と。
なにせ神薙様のお見合いは、わたしの知っているものとは根本的なシステムが違うのだ。
当初、相互理解を深めるための質疑応答をするものだと思っていた。
「ご趣味は?」
「お茶とお花を少々。あなたは?」
「乗馬を少々」
こんな感じのベタなやり取りは、お茶とお花をやっていないにしても言ってみたいフレーズだ。
しかし、神薙版のお見合いはそうではない。
相手が一方的にアピールポイントをプレゼンし、神薙様はそれを聞くだけなのだ。
そのやり方が目的にマッチしているのか疑問だったので、フリートーク形式のほうが良いのでは? と提案はした。
しかし、神薙の個人情報をむやみに出さない「決まりなので」と、結局はプレゼン形式が採用された。
個人情報を出さずにお見合いなんてできるものだろうか……。
ヴィルさんのことが頭をかすめた。
遊ばれているかもしれないとは言え、わたしが彼に好意を抱いている時点で、お見合いのハードルが高くなってしまう。
しかし、候補者にはくまんつ様、アレンさん、そして年上ダンディーのフィデルさんなど知り合いもいる。最悪は陛下の妻コースだってある。
期限が決まっているわけでもないので、潔くヴィルさんへの気持ちは胸にしまい、しっかり考えて選ぼう。選んだ相手に未来を委ねようと腹をくくっていた。
わたしがモヤモヤ悩んでいる間にも、準備は順調に進んでいく。
お見合いの予定が決まり始めた。
「身分の高い順」のリストを作っていたわりに、お見合いが申し込み順でもなければ、オルランディアのアルファベット順でもない。順不同だった。
仕事のやり方が「外国あるある」という感じだった。平等と調和を重視する日本ではまずやらない手法だけれど、海外ではたまにあるパターンだ。
知り合いが上のほうに固まっているので、リストの順(身分の高い順)にしてほしいと伝えた。けれども、無理だと言われてしまった。
お見合いの前日夕方に相手の身上書が届いた。いわゆるスペック表だ。
一応サラッと読むことにした。
五人分を読み、それほど大きな違いがないことを確認した。似たり寄ったりで結局は会ってみないと分からない。
いよいよ当日がやって来た。
会場は王宮の一室だ。
スペック表をもとに元気ハツラツ君から簡単な紹介があった。
てっきり彼が司会進行をするのかと思いきやそうではなく、早々に二人きりにされてしまった。
開始二分で、仲介のおばちゃんが「あとはお若いお二人で」と去っていくような急展開だ。
プレゼンの持ち時間を削らないようにという配慮なのかもしれないけれども、いくらなんでもこれはない。
最初のお相手は、ホニャララ子爵の嫡男ナンチャラ様で……。
会ったことは間違いないのだけど、右から左へ何かがビュンッと飛び去っていったような感覚だった。あっと思った時には、へのへのもへじが目の前からいなくなっている。F1レースやお正月の駅伝を沿道で見た時に似ていた。
記憶に残すのも難しいところだけれども、ただ一つだけ、話のメインが「マングース猟」についてだったことは覚えていた。しかし、固有名詞が多くて早口だったせいか、内容はまるでチンプンカンプンだ。
とにかくマングース猟での儲けがどうとか……そんなような話だった気がする。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
アレンさんに言われて、はっと我に返った。気づけば控室で眉間にシワを寄せていた。
「すごく早口で、マングース猟がどうとかって……」
「悪いのは相手ですから、忘れていいのですよ?」
彼は優しい。
「地名と人名と魔法の話が絡むと意味がわからなくて」
「まだ大魔導師と聞いてもウミウシやアメフラシの仲間になってしまいますからねぇ」
彼はわたしの黒歴史をうれしそうにほじくり返してニコニコしている。
「先ほどの方はラングース子爵です。ラングース領、つまり自分の領地の話をしていたのでしょうねぇ」
メインテーマからして迷子である。
増えすぎたマングースを猟師が捕まえている話ではなかった……
もっと地理や人名を勉強しないと生きていけない。それ以外の名詞も、なんでもいいから少しずつでも頭に入れないと(泣)
どの「ホニャララ様」や「ナンチャラ様」のプレゼンを聞いても基本的にはこの状態だ。
お茶を飲みながら、テロップのない難解なネット動画を一本見たのと同じ感覚になる。
これを「お見合い」と呼ぶのは結構チャレンジングだ。
控え室に戻ってアレンさんに泣きつき、お化粧を直して軽くお茶を飲んでいると、すぐにまたお呼びがかかる。
元気ハツラツ君は、ラウンド間のインターバルは短めにして、早く試合を進めたいタイプのようだ。
わたしも「早くお家に帰りたい」と思っていたので、次々と五人のプレゼンを聞いた。
最初に届いた時は「多いなぁ」と思った程度。
二度目に届いた時は、ぐっと件数が減っていた。王宮で実施している身辺調査のフィルターに引っかかったのかもしれない。
ところが三度目、減った分がすべて元に戻っていた。意味不明だ。
リストを持ってきてくれた王宮の担当者に理由を聞くと「ちょっと詳しい事情は分からない」と言う。
そして、四度目の更新。また人数が増えていた。大丈夫なのかと心配になる動きだった。
「集中して、一日に五人ずつお見合いしましょう!」
このリストを運んでくる担当文官は元気がいいのだけが取り柄だ。体育会系なのかやたらとハキハキしている。
わたしは彼を心の中で「元気ハツラツ君」と呼んでいた。
彼は常に元気なので、雑談をしている分には気楽だ。しかし、彼のお見合いに対する認識は独特だった。
「腕相撲大会がんばりましょう!」
「一日に五人はいけますよ!」
「バンバン倒しちゃってください!」
「四年後の五輪を目指して!」
「ふぁいっ! おー!」
これとほぼ同じノリで、わたしのお見合いと結婚の話をする。
彼にとってのお見合いは、ほとんど「試合」に近い。
わたしもお見合いの経験はないし、よその世界のお見合いともなれば勝手がわからない。
まずは言われたとおりにやってみようと思っていた。駄目なときは駄目だと言えばいいかな、と。
なにせ神薙様のお見合いは、わたしの知っているものとは根本的なシステムが違うのだ。
当初、相互理解を深めるための質疑応答をするものだと思っていた。
「ご趣味は?」
「お茶とお花を少々。あなたは?」
「乗馬を少々」
こんな感じのベタなやり取りは、お茶とお花をやっていないにしても言ってみたいフレーズだ。
しかし、神薙版のお見合いはそうではない。
相手が一方的にアピールポイントをプレゼンし、神薙様はそれを聞くだけなのだ。
そのやり方が目的にマッチしているのか疑問だったので、フリートーク形式のほうが良いのでは? と提案はした。
しかし、神薙の個人情報をむやみに出さない「決まりなので」と、結局はプレゼン形式が採用された。
個人情報を出さずにお見合いなんてできるものだろうか……。
ヴィルさんのことが頭をかすめた。
遊ばれているかもしれないとは言え、わたしが彼に好意を抱いている時点で、お見合いのハードルが高くなってしまう。
しかし、候補者にはくまんつ様、アレンさん、そして年上ダンディーのフィデルさんなど知り合いもいる。最悪は陛下の妻コースだってある。
期限が決まっているわけでもないので、潔くヴィルさんへの気持ちは胸にしまい、しっかり考えて選ぼう。選んだ相手に未来を委ねようと腹をくくっていた。
わたしがモヤモヤ悩んでいる間にも、準備は順調に進んでいく。
お見合いの予定が決まり始めた。
「身分の高い順」のリストを作っていたわりに、お見合いが申し込み順でもなければ、オルランディアのアルファベット順でもない。順不同だった。
仕事のやり方が「外国あるある」という感じだった。平等と調和を重視する日本ではまずやらない手法だけれど、海外ではたまにあるパターンだ。
知り合いが上のほうに固まっているので、リストの順(身分の高い順)にしてほしいと伝えた。けれども、無理だと言われてしまった。
お見合いの前日夕方に相手の身上書が届いた。いわゆるスペック表だ。
一応サラッと読むことにした。
五人分を読み、それほど大きな違いがないことを確認した。似たり寄ったりで結局は会ってみないと分からない。
いよいよ当日がやって来た。
会場は王宮の一室だ。
スペック表をもとに元気ハツラツ君から簡単な紹介があった。
てっきり彼が司会進行をするのかと思いきやそうではなく、早々に二人きりにされてしまった。
開始二分で、仲介のおばちゃんが「あとはお若いお二人で」と去っていくような急展開だ。
プレゼンの持ち時間を削らないようにという配慮なのかもしれないけれども、いくらなんでもこれはない。
最初のお相手は、ホニャララ子爵の嫡男ナンチャラ様で……。
会ったことは間違いないのだけど、右から左へ何かがビュンッと飛び去っていったような感覚だった。あっと思った時には、へのへのもへじが目の前からいなくなっている。F1レースやお正月の駅伝を沿道で見た時に似ていた。
記憶に残すのも難しいところだけれども、ただ一つだけ、話のメインが「マングース猟」についてだったことは覚えていた。しかし、固有名詞が多くて早口だったせいか、内容はまるでチンプンカンプンだ。
とにかくマングース猟での儲けがどうとか……そんなような話だった気がする。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
アレンさんに言われて、はっと我に返った。気づけば控室で眉間にシワを寄せていた。
「すごく早口で、マングース猟がどうとかって……」
「悪いのは相手ですから、忘れていいのですよ?」
彼は優しい。
「地名と人名と魔法の話が絡むと意味がわからなくて」
「まだ大魔導師と聞いてもウミウシやアメフラシの仲間になってしまいますからねぇ」
彼はわたしの黒歴史をうれしそうにほじくり返してニコニコしている。
「先ほどの方はラングース子爵です。ラングース領、つまり自分の領地の話をしていたのでしょうねぇ」
メインテーマからして迷子である。
増えすぎたマングースを猟師が捕まえている話ではなかった……
もっと地理や人名を勉強しないと生きていけない。それ以外の名詞も、なんでもいいから少しずつでも頭に入れないと(泣)
どの「ホニャララ様」や「ナンチャラ様」のプレゼンを聞いても基本的にはこの状態だ。
お茶を飲みながら、テロップのない難解なネット動画を一本見たのと同じ感覚になる。
これを「お見合い」と呼ぶのは結構チャレンジングだ。
控え室に戻ってアレンさんに泣きつき、お化粧を直して軽くお茶を飲んでいると、すぐにまたお呼びがかかる。
元気ハツラツ君は、ラウンド間のインターバルは短めにして、早く試合を進めたいタイプのようだ。
わたしも「早くお家に帰りたい」と思っていたので、次々と五人のプレゼンを聞いた。
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