昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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2[リア]

ヴィルさんの帰還

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 お見合いが始まる前の生活が思い出せない。
 お披露目会の準備でバタバタして、その後は何をしていましたっけ??

 「リア様は自由です。もともと自由なのですよ?」と、アレンさんが言った。

「どこかに出かけるのも良いのでは? 楽しい場所なら色々ありますよ」
「お出かけですかぁ。いいですねぇ」
「行きたいと言っていた金融街のお洒落なバーに行くのもありですね」
「あ、それは楽しそうですねぇー」
「銀行員風の変装でもして行きましょう。それから水族館もお好きでしょう?」
「あ、行きたいです。水族館は癒しですねぇ」
「王宮美術館に博物館、植物園、動物園、観劇やコンサートも。いくらでもありますよ?」
「全部行きたいですねぇ」
「王宮の対応は『王の甥御さん』にお任せして、ゆっくり楽しいことをしましょう」
「わぁ……」

 ヴィルさんは事件当日の夜に出かけたきり、帰ってきていなかった。

「あのぅ、その甥御さんは?」
「逢いたいですか?」
「うっ……」
「彼もひどく心配しています」
「まだお礼もきちんと言えていなくて」
「一段落したら戻ってきます。労ってあげてください。今、彼はクランツ団長と共に書類と舌戦で戦っていますから」
「は、はい」

 わたしが彼に「もうお見合いはしたくない」と言ったのはわずか二日前だ。この短い間に彼は神薙クーデターを起こしている。
 会いたい。
 お礼を言いたい。
 でも、それ以上に、なんだか無性に心配だった。ずっとピリピリしていたし、休めているのかな……。


 ヴィルさんが戻ってきたのは、その日の昼過ぎだった。
 元気が出てきたので散歩に出ようか、はたまた図書室へ行こうか考えていると、下のホールがざわついていた。
 英雄の帰りを宮殿の皆が拍手で出迎えていたのだ。
 アレンさんが戻ってきたときも拍手と歓声が上がったらしい。
 吹き抜けになっているところまで行って下を見ると、ヴィルさんのダークブロンドが見えた。

「ヴィルさん、お帰りなさい」
「リア! 元気になったのか?」
「はい、もう大丈夫です」

 ヴィルさんが階段を走って上がってきたので、わたしもそちらへ向った。
 やはり有形文化財は移動速度が速い。脚が長すぎるのだ。
 あっという間にわたしのいるフロアに上がってきて、両手を広げて迎えにきてくれた。
 いつもの場所にポフッと収まると、ぎゅうーっとされた。

 んー、大胸筋……きもちいい……。
 決して筋肉フェチではないのだけれども、彼の胸は気持ちが良くて好きだった。

「良かった。気が気じゃなかった」
「色々とありがとうございます」
「毒のような薬を飲まされていると聞いた」
「ハハハ、頑張って飲んでいますともっ」
「昨日、あまり食欲がないとも聞いた」
「今日はもりもり食べています」

 彼が「どれ?」と、わたしの顔を覗き込んだ。

「本当だ。口の端にトマトソースが付いている」
「うそぉっ?!」

 慌てて口を押さえた。
 彼は「嘘だよ」と笑いながら、わたしの手をそっとどけて頬に触れた。
 心臓がバクンバクンとうるさくなる。
 上からドザァーッと色気が落ちてきたかと思ったら、一緒に甘いキスが降ってきた。

 ヴィルさん、相変わらずわたしを滝つぼか何かと間違えていますね。ちっとも加減のできないあなたが大好きです。
 遊ばれているのかもしれませんが、この大胸筋に触れていないと生きていけないかもです。

 唇が離れると、またギューっと抱き締められた。

「少し一緒に居てくれないか」

 彼が耳元で囁いたので、ホワ~っとしたまま頷く。
 しかし、次の瞬間、我に返った。

「あ……」
「どうした?」

 ここ、吹き抜けなのですよ。
 だからね? 下から丸見えなのです。

 そっと斜め下を見ると、皆がこちらを見上げていた。
 それに、後ろにはアレンさんがいるはず……。

 最悪です。
 やらかしています。

 空前絶後のオバカだ。こんな吹き抜けオンザステージでチューをぶちかましている(しかも、すごいやつを)

 う、うわぁぁぁんっ。
 恥ずかしいです。顔が燃えます。
 いっそ燃え尽きて炭になりたいっ。

「み、み、皆さんの前でした……っ」
「そんな顔をされると、もっとしたくなる」
「こっ……」
「ふむ。『こ』こでは駄目、ということは俺の部屋ならば良いのだな?」

 何も言っていないのに概ね合っているから悔しい。
 スチャッと抱きかかえられ、あっという間に彼の部屋まで運ばれてしまった。

 あ~~~れ~~~~!
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