昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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2[リア]

ヴィルさんの寝室で

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 ヴィルさんの部屋に入るのは初めてだった。
 部屋を用意したのはわたしだけれど、家具は彼が手配してすべて入れ替えていた。シックでカッコイイ王様のようなお部屋に仕上がっている。
 しかし、それを堪能する暇もなく、まさかまさかの寝室へ連れ込まれていた。

 お、お待ちください、ヴィルさんっ。
 それはいくらなんでも気が早すぎです。
 この国は保守的で、結婚するまでそういうことはしないと聞いていますよ?
 それに、あなた様はお見合いの対象にもなっていない。つまりわたしの夫になりたいと意思表示すらしていない人です。

「待って、ヴィ……きゃ……」

 彼はわたしをベッドの上に降ろすと、またアッツアツな口づけでわたしを溶かしにかかった。

 ちょっ、もうっ……ベッドに押し倒される寸前ですぅぅ。

 ヴィルさん、聞いてくださいっ。
 わわわわたくし、お遊び的なのには慣れておりません。
 それに、それにっ、ちょっと……諸事情がございまして、理由は言えないのですけれども、わたし、服は脱ぎたくないのです。

「あの、待っ……」

 あれよあれよという間にキスをしながら押し倒され、ベッドに沈められてしまった。

 どどどどうしよう、どうしよう……!
 あああ、本当にどうしましょうっ。
 イケ仏様ぁー、もう一回助けてください~~! 突入してきて! いやぁあぁ、お願いですぅ~っ!

 彼はわたしに跨った状態でジャケットを脱ぎ捨て、タイを緩めて引っこ抜くと、ジャケットと同じほうへ放り投げた。

 きゃーっ、きゃーっ、きゃーッッッ!!

「ヴィ、ヴィルさん、これは色々と問題がございますッ」
「問題? 何の問題だ……?」

 滝つぼに向けて落ちてくるフェロモンが、毎秒三百トンくらいに増えていた(もう死ぬ)
 ヴィルさんはシャツのボタンを外しながら、血走った目でわたしを見下ろしている。

 きゃーっ、イケ仏様ぁぁ、早く来てぇっ!

「リア……、触れたくて気が狂いそうだ……」

 ムリムリムリムリっ!
 彼の顔がエッチ過ぎて、もう死にそう(泣)

「ちょ待っ……」

 制止しようと出した手に、するりと彼の指が絡まり、両手をベッドに押し付けて組み敷かれた。

 きゃーっ!!!!


 ──数分後

「も、もう無理ですっ。あたまがヘンになってしまいますっ」

 わたしが白旗を上げた瞬間、急に彼の動きがピタリと止まった。
 しかも、わたしの胸に顔をうずめた状態で。

 ま、まさか、死ん……

「ヴィルさん? ヴィルさん! 大丈夫ですか?」

 慌てて彼の様子を窺う。
 すると、微かな息づかいが聞こえてきた。
 ヴィルさんは、わたしの胸の上でこと切れたように寝ていた(びっくりした。泣)

 じっと彼を見ると、目の下に隈が出ている。
 わたしのために寝ずに仕事をしていたのだろう。
 目が血走って声がかすれていたのは、寝ていないせいだったのかも……。
 王宮の中に休める部屋を貰っているのに、わざわざ戻ってきてくれた。

「リア……」

 かすれた声で名前を呼ばれたけれど、彼の手がぽとりとベッドに落ちた。どうやら寝言のようだ。

「ヴィルさん……、大好きです」

 どこが好きなのかと聞かれると上手く説明できない。ただ、彼のぬくもりが好きだ。
 彼が夫候補として名乗り出てくれていたなら、どんなに幸せだっただろう。

 しばらくお見合いはない。
 次のことが決まるまでの間だけでもこうしていたいと思うのは、いけないことだろうか……。
 少年のような寝顔をしばらく眺めていた。
 どうしようもないくらい、心が彼への気持ちで溢れていた。
 そして、彼が寝がえりを打つタイミングでベッドを抜け出した。

 部屋から出ると、廊下でアレンさんが待っていた。
 彼は胸ポケットからメガネを取り出してかけ、「さすがに限界でしょう。彼は丸二日以上寝ていません」と言った。

「あのままだと風邪を引いてしまいそうで……」
「あとは従者が面倒を見ますから、心配は要りません」

 従者のキースさんはぺこりと一礼すると、ニコニコして彼の部屋へ入っていった。

 その後、天気が良かったのでアレンさんと二人で庭園へお散歩に出た。
 互いの学生時代の話をしながら歩いた。

 ヴィルさんは生徒会長だったらしい。
 王太子様から「お前がやれ」と言われて渋々だったそうだ。しかし、くまんつ様が副会長になり、押し付けた張本人である王太子様も同じ副会長として手伝ってくれていたとか。

「後輩だった私は書記です。だから、いまだにクランツ団長は私を『書記』と呼ぶことがあります。まだ卒業させてくれないのですよ」
「ふふふ、長い学生生活ですねぇ」

 時折、わたしの手は思い出したようにプルプル震えた。
 アレンさんはわたしを座らせて手を握り、「大丈夫ですよ」と安心させてくれた。

 かえって不安になるほど、穏やかな日常がやって来た。
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