206 / 392
5[リア]
蜜イチゴ
しおりを挟む
「今度はわたしが『あーん』をされる番ですか?」
「そうですよ? 毎食こうしてお世話になったのがずいぶん前のような気がしますね」
アレンさんの言葉に、くまんつ様が鼻息を荒くして「ちょっと待て」と言った。
「お前、まさか闘病中に食べさせてもらっていたのか?」
「死の淵にいる者の特権ですよ。俺、本当に死にそうでしたから」
「聞いていないぞ、そんな話……」
「団長が俺も俺もと言ってリア様を困らせそうなので内緒にしていました」
「確かにあいつは言いかねない」
「最近、あの人は異世界料理のおねだりが止まらなくて、リア様が大変なのですよ」
周りが一斉にウン、ウン、ウン! と、激しくうなずいたのでギョっとした。
「皆さん、気づいていたの?」と聞くと、また一斉にうなずく。
「心配していたのですよ。団長があまりにしつこいから」と、アレンさんは言った。
ヴィルさんは最近やたらと「かつサンド」が食べたいと騒いでいる。
くまんつ様がお魚を持ってきてくださった日、料理人が試作していたトンカツがあったので、それでパッとサンドウィッチを作って従者のふたりに渡した。
ヴィルさんはいまだにそれを根に持っているのだ。
「俺は食べたことがないのだが、あれはもう作らないのか? 次はいつ作る予定だろう? 料理長に聞けばわかるのかな?」と、尻尾をブンブン振り回しながらウロウロするのだ。
くまんつ様は腕を組んでうなった。
「実は、うちの従者からも気絶しそうなほど美味だったと聞いている。俺もあれ以来、ヴィルと会うたびにその話をしている気が……。まさか、俺のせいでは?」
かつサンドを食べたい人が、ここにもう一人いた。
ヴィルさんとくまんつ様にはもっと豪華なものを差し入れしたのだけれども、やはり従者だけにあげたのは失敗だった。
「かつサンドの前に、普通のとんかつを食べていただきたいのですよねぇ。で、そこからカツ丼・かつサンド、つまりコメ派かパン派に分かれていただきたいというか……」
「コメ?」と、アレンさんが反応した。美食家の彼は、高級食材であるお米が好きだ。
「今度とんかつパーティーをしましょうか」と提案すると、皆が目を輝かせた。
ちらりとアレンさんの手元を見た。
小さなイチゴはいつもの見慣れた三角形ではなく、まん丸に近い形をしている。それでなくてもかわいい見た目が、コロコロとしていて余計にかわいらしい。
冗談半分でパカッと口を開けると、本当に「あーん」と食べさせてくれた。なんだかくすぐったい。
「んふふ」と笑った次の瞬間、超濃厚なイチゴの風味と甘みが口いっぱいに広がった。
すごい……なんかすごいのが来た。
これはとんでもないイチゴだ。
うわーすごいっ! なんか猛烈にすごいぃ~ッ!
語彙力が吹き飛ぶ美味しさだ!
「んんーーッッ!!」
「美味でしょう?」と、アレンさんが微笑んだ。
「すごーい! 甘~い。これ、危険です! はああぁっ、涙が出そう~」
「オルランディア蜜イチゴという品種ですよ」
この国のフルーツは何を食べても美味しいけれども、その中でも蜜イチゴは突き抜けていた。陛下が外交に使うのもうなずける。
「皆で少しずつ頂きましょう♪」
「独り占めしたって誰も怒りませんよ?」
「こういうものは皆で食べたほうが絶対に美味しいですよ」
「本当にあなたは慈悲深い」
「はい、アレンさんも、あーん」
「私は自分で食べられます」
「じゃあ、くまんつ様に……」
「あ、それはダメです。私が頂きます」
くまんつ様に向きかけていたわたしの手をくいっと自分のほうに向け、パクリと食べてしまった。そのまま彼は席を立ち、給仕の人に人数分に分けてもらうよう頼んでいる。
「アレンは独占欲が強いから大変でしょう?」と、くまんつ様はあきれ顔だ。
わたしが答える前に、戻ってきたアレンさんがストンとくまんつ様の横に座った。
「誰の独占欲が強いのですか? くまんつ様」
「リア様の真似はヤメロ。誰がクマだ!」
「くまんつ様、はい、あーん」
「や、やめろ、書記のあーんは要らない」
「食べたことないでしょう? くまんつ様ったら釣りばっかりしているのだもの」
「お前に食わされるのは嫌だっ」
「もぉー、くまんつ様っ」
「だからリア様の真似をするな!」
「ヒラヒラのフリフリマス、また釣れたら分けてくださいねぇ?」
「あのマスはそんな名前じゃねえ!」
必死でイヤイヤするくまんつ様に、わたしのモノマネ(?)をしながら、アレンさんがグイグイとイチゴを勧めていく。皆、大爆笑だ。
「ほらっ、ワガママ言わずにちゃんと食べなさいクリスっ」
「今度はうちの親父の真似か! お前はどんだけ……」
「そらっ」
「ぅごっ! ……うおぉっ、美味いっ! しかし、複雑!」
うぷぷ(笑)
くまんつ様が来てくれたおかげで楽しい夜になった。
久々に会ったマリンともたくさん話ができたし、サムエルさんから熱々のノロケ話も聞いてしまった。
☟
部屋の外では予想通りの展開になっているようだ。
調査から戻ってきた騎士団員が、猛烈な勢いでうわさが広がっていると教えてくれた。
同じ報告がヴィルさんの所にも届いたのだろう。彼の使者が来て「部屋から出た後は誰とも会話をせず、万全の警備で馬車へ直行してほしい」と言った。
わたしはマリンたちと別れのハグを交わすと、ヴィルさんの指示通りガッツリと騎士に囲まれて馬車へ向かった。
くまんつ様も馬車まで一緒にいてくれたので心強かった。
お家に着くと、再びヴィルさんの使者が来て「話が長引いているので今日は王宮に泊まる」と言う。
やれやれだ……。
大変な一日になってしまったけれども、とりあえず無事に婚約発表をして帰ってこられたのでヨシとしたい。
「そうですよ? 毎食こうしてお世話になったのがずいぶん前のような気がしますね」
アレンさんの言葉に、くまんつ様が鼻息を荒くして「ちょっと待て」と言った。
「お前、まさか闘病中に食べさせてもらっていたのか?」
「死の淵にいる者の特権ですよ。俺、本当に死にそうでしたから」
「聞いていないぞ、そんな話……」
「団長が俺も俺もと言ってリア様を困らせそうなので内緒にしていました」
「確かにあいつは言いかねない」
「最近、あの人は異世界料理のおねだりが止まらなくて、リア様が大変なのですよ」
周りが一斉にウン、ウン、ウン! と、激しくうなずいたのでギョっとした。
「皆さん、気づいていたの?」と聞くと、また一斉にうなずく。
「心配していたのですよ。団長があまりにしつこいから」と、アレンさんは言った。
ヴィルさんは最近やたらと「かつサンド」が食べたいと騒いでいる。
くまんつ様がお魚を持ってきてくださった日、料理人が試作していたトンカツがあったので、それでパッとサンドウィッチを作って従者のふたりに渡した。
ヴィルさんはいまだにそれを根に持っているのだ。
「俺は食べたことがないのだが、あれはもう作らないのか? 次はいつ作る予定だろう? 料理長に聞けばわかるのかな?」と、尻尾をブンブン振り回しながらウロウロするのだ。
くまんつ様は腕を組んでうなった。
「実は、うちの従者からも気絶しそうなほど美味だったと聞いている。俺もあれ以来、ヴィルと会うたびにその話をしている気が……。まさか、俺のせいでは?」
かつサンドを食べたい人が、ここにもう一人いた。
ヴィルさんとくまんつ様にはもっと豪華なものを差し入れしたのだけれども、やはり従者だけにあげたのは失敗だった。
「かつサンドの前に、普通のとんかつを食べていただきたいのですよねぇ。で、そこからカツ丼・かつサンド、つまりコメ派かパン派に分かれていただきたいというか……」
「コメ?」と、アレンさんが反応した。美食家の彼は、高級食材であるお米が好きだ。
「今度とんかつパーティーをしましょうか」と提案すると、皆が目を輝かせた。
ちらりとアレンさんの手元を見た。
小さなイチゴはいつもの見慣れた三角形ではなく、まん丸に近い形をしている。それでなくてもかわいい見た目が、コロコロとしていて余計にかわいらしい。
冗談半分でパカッと口を開けると、本当に「あーん」と食べさせてくれた。なんだかくすぐったい。
「んふふ」と笑った次の瞬間、超濃厚なイチゴの風味と甘みが口いっぱいに広がった。
すごい……なんかすごいのが来た。
これはとんでもないイチゴだ。
うわーすごいっ! なんか猛烈にすごいぃ~ッ!
語彙力が吹き飛ぶ美味しさだ!
「んんーーッッ!!」
「美味でしょう?」と、アレンさんが微笑んだ。
「すごーい! 甘~い。これ、危険です! はああぁっ、涙が出そう~」
「オルランディア蜜イチゴという品種ですよ」
この国のフルーツは何を食べても美味しいけれども、その中でも蜜イチゴは突き抜けていた。陛下が外交に使うのもうなずける。
「皆で少しずつ頂きましょう♪」
「独り占めしたって誰も怒りませんよ?」
「こういうものは皆で食べたほうが絶対に美味しいですよ」
「本当にあなたは慈悲深い」
「はい、アレンさんも、あーん」
「私は自分で食べられます」
「じゃあ、くまんつ様に……」
「あ、それはダメです。私が頂きます」
くまんつ様に向きかけていたわたしの手をくいっと自分のほうに向け、パクリと食べてしまった。そのまま彼は席を立ち、給仕の人に人数分に分けてもらうよう頼んでいる。
「アレンは独占欲が強いから大変でしょう?」と、くまんつ様はあきれ顔だ。
わたしが答える前に、戻ってきたアレンさんがストンとくまんつ様の横に座った。
「誰の独占欲が強いのですか? くまんつ様」
「リア様の真似はヤメロ。誰がクマだ!」
「くまんつ様、はい、あーん」
「や、やめろ、書記のあーんは要らない」
「食べたことないでしょう? くまんつ様ったら釣りばっかりしているのだもの」
「お前に食わされるのは嫌だっ」
「もぉー、くまんつ様っ」
「だからリア様の真似をするな!」
「ヒラヒラのフリフリマス、また釣れたら分けてくださいねぇ?」
「あのマスはそんな名前じゃねえ!」
必死でイヤイヤするくまんつ様に、わたしのモノマネ(?)をしながら、アレンさんがグイグイとイチゴを勧めていく。皆、大爆笑だ。
「ほらっ、ワガママ言わずにちゃんと食べなさいクリスっ」
「今度はうちの親父の真似か! お前はどんだけ……」
「そらっ」
「ぅごっ! ……うおぉっ、美味いっ! しかし、複雑!」
うぷぷ(笑)
くまんつ様が来てくれたおかげで楽しい夜になった。
久々に会ったマリンともたくさん話ができたし、サムエルさんから熱々のノロケ話も聞いてしまった。
☟
部屋の外では予想通りの展開になっているようだ。
調査から戻ってきた騎士団員が、猛烈な勢いでうわさが広がっていると教えてくれた。
同じ報告がヴィルさんの所にも届いたのだろう。彼の使者が来て「部屋から出た後は誰とも会話をせず、万全の警備で馬車へ直行してほしい」と言った。
わたしはマリンたちと別れのハグを交わすと、ヴィルさんの指示通りガッツリと騎士に囲まれて馬車へ向かった。
くまんつ様も馬車まで一緒にいてくれたので心強かった。
お家に着くと、再びヴィルさんの使者が来て「話が長引いているので今日は王宮に泊まる」と言う。
やれやれだ……。
大変な一日になってしまったけれども、とりあえず無事に婚約発表をして帰ってこられたのでヨシとしたい。
61
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる