昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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5[リア]

蜜イチゴ

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「今度はわたしが『あーん』をされる番ですか?」
「そうですよ? 毎食こうしてお世話になったのがずいぶん前のような気がしますね」
 アレンさんの言葉に、くまんつ様が鼻息を荒くして「ちょっと待て」と言った。

「お前、まさか闘病中に食べさせてもらっていたのか?」
「死の淵にいる者の特権ですよ。俺、本当に死にそうでしたから」
「聞いていないぞ、そんな話……」
「団長が俺も俺もと言ってリア様を困らせそうなので内緒にしていました」
「確かにあいつは言いかねない」
「最近、あの人は異世界料理のおねだりが止まらなくて、リア様が大変なのですよ」

 周りが一斉にウン、ウン、ウン! と、激しくうなずいたのでギョっとした。
「皆さん、気づいていたの?」と聞くと、また一斉にうなずく。
「心配していたのですよ。団長があまりにしつこいから」と、アレンさんは言った。

 ヴィルさんは最近やたらと「かつサンド」が食べたいと騒いでいる。
 くまんつ様がお魚を持ってきてくださった日、料理人が試作していたトンカツがあったので、それでパッとサンドウィッチを作って従者のふたりに渡した。
 ヴィルさんはいまだにそれを根に持っているのだ。
「俺は食べたことがないのだが、あれはもう作らないのか? 次はいつ作る予定だろう? 料理長に聞けばわかるのかな?」と、尻尾をブンブン振り回しながらウロウロするのだ。

 くまんつ様は腕を組んでうなった。
「実は、うちの従者からも気絶しそうなほど美味だったと聞いている。俺もあれ以来、ヴィルと会うたびにその話をしている気が……。まさか、俺のせいでは?」
 かつサンドを食べたい人が、ここにもう一人いた。
 ヴィルさんとくまんつ様にはもっと豪華なものを差し入れしたのだけれども、やはり従者だけにあげたのは失敗だった。

「かつサンドの前に、普通のとんかつを食べていただきたいのですよねぇ。で、そこからカツ丼・かつサンド、つまりコメ派かパン派に分かれていただきたいというか……」
「コメ?」と、アレンさんが反応した。美食家の彼は、高級食材であるお米が好きだ。
「今度とんかつパーティーをしましょうか」と提案すると、皆が目を輝かせた。

 ちらりとアレンさんの手元を見た。
 小さなイチゴはいつもの見慣れた三角形ではなく、まん丸に近い形をしている。それでなくてもかわいい見た目が、コロコロとしていて余計にかわいらしい。
 冗談半分でパカッと口を開けると、本当に「あーん」と食べさせてくれた。なんだかくすぐったい。
「んふふ」と笑った次の瞬間、超濃厚なイチゴの風味と甘みが口いっぱいに広がった。

 すごい……なんかすごいのが来た。
 これはとんでもないイチゴだ。
 うわーすごいっ! なんか猛烈にすごいぃ~ッ!
 語彙力が吹き飛ぶ美味しさだ!

「んんーーッッ!!」
「美味でしょう?」と、アレンさんが微笑んだ。
「すごーい! 甘~い。これ、危険です! はああぁっ、涙が出そう~」
「オルランディア蜜イチゴという品種ですよ」
 この国のフルーツは何を食べても美味しいけれども、その中でも蜜イチゴは突き抜けていた。陛下が外交に使うのもうなずける。

「皆で少しずつ頂きましょう♪」
「独り占めしたって誰も怒りませんよ?」
「こういうものは皆で食べたほうが絶対に美味しいですよ」
「本当にあなたは慈悲深い」
「はい、アレンさんも、あーん」
「私は自分で食べられます」
「じゃあ、くまんつ様に……」
「あ、それはダメです。私が頂きます」
 くまんつ様に向きかけていたわたしの手をくいっと自分のほうに向け、パクリと食べてしまった。そのまま彼は席を立ち、給仕の人に人数分に分けてもらうよう頼んでいる。

「アレンは独占欲が強いから大変でしょう?」と、くまんつ様はあきれ顔だ。
 わたしが答える前に、戻ってきたアレンさんがストンとくまんつ様の横に座った。

「誰の独占欲が強いのですか? くまんつ様」
「リア様の真似はヤメロ。誰がクマだ!」
「くまんつ様、はい、あーん」
「や、やめろ、書記のあーんは要らない」
「食べたことないでしょう? くまんつ様ったら釣りばっかりしているのだもの」
「お前に食わされるのは嫌だっ」
「もぉー、くまんつ様っ」
「だからリア様の真似をするな!」
「ヒラヒラのフリフリマス、また釣れたら分けてくださいねぇ?」
「あのマスはそんな名前じゃねえ!」

 必死でイヤイヤするくまんつ様に、わたしのモノマネ(?)をしながら、アレンさんがグイグイとイチゴを勧めていく。皆、大爆笑だ。

「ほらっ、ワガママ言わずにちゃんと食べなさいクリスっ」
「今度はうちの親父の真似か! お前はどんだけ……」
「そらっ」
「ぅごっ! ……うおぉっ、美味いっ! しかし、複雑!」

 うぷぷ(笑)

 くまんつ様が来てくれたおかげで楽しい夜になった。
 久々に会ったマリンともたくさん話ができたし、サムエルさんから熱々のノロケ話も聞いてしまった。

 ☟

 部屋の外では予想通りの展開になっているようだ。
 調査から戻ってきた騎士団員が、猛烈な勢いでうわさが広がっていると教えてくれた。
 同じ報告がヴィルさんの所にも届いたのだろう。彼の使者が来て「部屋から出た後は誰とも会話をせず、万全の警備で馬車へ直行してほしい」と言った。

 わたしはマリンたちと別れのハグを交わすと、ヴィルさんの指示通りガッツリと騎士に囲まれて馬車へ向かった。
 くまんつ様も馬車まで一緒にいてくれたので心強かった。

 お家に着くと、再びヴィルさんの使者が来て「話が長引いているので今日は王宮に泊まる」と言う。
 やれやれだ……。
 大変な一日になってしまったけれども、とりあえず無事に婚約発表をして帰ってこられたのでヨシとしたい。

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