拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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12「午後の誘い」

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翌日、午前の授業を終えて、迎えた昼休み。友広と合流して、入学してから初となる学食へと向かう。

広い。やっぱり真っ先に抱いた感想はそれだった。だって、学食専用の建物があるんだよ?しかも五階建てっていうね。
予想はしていたけれど、メニューもめっちゃ豪華な上にシェフは全て一流揃いというね。凄い所に入学したんだなぁっと今更ながら実感した。

「お、あそこ空いてるな」
「じゃあ、そこにするか」

無事昼食をゲットして、空いていた席に座る。因みに、俺は牛カツ丼を、友広はふわとろオムライスを選んだ。
ついでに言っておくが、ここ聖カーニア学園の学食ではお金を払わない。何故なら入学時に学食代も込みで既に支払われているので、生徒たちは払わなくても良いというシステムだからだ。

さて、それじゃあ。いただきます。牛カツを一切れ、米と共にパクリと口に入れる。

………うっっっま!!!

あまりの美味さにピッシャーン!と衝撃が身体を駆け抜ける。何だこれ、箸が止まらないぞ!

「…ふう」

ご馳走さまでした。

ハンカチで口元を拭き、箸を置く。つい夢中で食べてしまった。

「………」

ん?何だか視線を感じるような…

「? どうかしたのか?友広」
「いや…何というか、その…」
「? 何だよ?」

歯切れの悪い友広の態度を不思議に思っていると、周囲からも視線を向けられている事に気が付いた。

何だ?何で見られてるんだ?俺なにか変な事したか?

「な、なあ友広。何か見られてる気がするんだが…」
「あー…そりゃそうだろうな」
「そりゃそうって…」

…何がだ? よく分からず、首を傾げる。

すると、友広がちょいちょいと手招きをする。耳を貸せという事らしい。何だろうか?

「…簡潔に言うぞ。お前の食べ方がその…色気駄々洩れだったからだよ」
「………は?」

色気?

「…ちょっと何を言ってるか分からないんだが」

普通に食ってただけだぞ?

「は?お前それマジで言ってるのか?」

マジも何も、心からそう思ってますが。

頷いてみせると、友広は「マジかぁ…」と言って深い溜め息を吐き出した。おい、人の顔を見ながら溜め息を吐くんじゃない。傷付くだろ。

「面白いものを見させて貰ったぞ。石留椿」

と、その時、背後から聞き覚えのある声がした。

振り返らなくても分かる。この俺様な態度がそのまま伝わってくるような口調に、俺の名前をフルネームで呼ぶ人物なんて今のところ一人しかいない。

「…何か用ですか、燈堂とうどう先輩」

営業スマイルを貼り付けて、ギギギと油が切れたロボット宜しく後ろを振り返る。

「喜べ、石留椿。この俺が直々に『特別席』に招待してやろう!」

………は?

突然の展開に意味が分からず、思わず友広を見る。

「なっ、あの代々生徒会のメンバーしか使う事を許されていない『特別席』に!?」
「お、おい?」

どうしたんだ。そんな突然説明口調で状況を解説してくれるモブみたいな……って、そういえば友広はお助けキャラだったな。

だがおかげで思い出した。これは燈堂先輩火属性の攻略対象ルートで最初に発生するイベントだ。
確か…そう、ゲームでも『特別席』という単語が出てきたはず。ゲームならここで『誘いを▽受ける▽受けない』という選択肢が出てきていた。

という訳で、ここで俺が選ぶべき選択は

「お断りします」

『受けない』一択だ!そうすれば、好感度も下がって──

「ほう?この俺直々の誘いを断るとは…やはり面白い奴だな。益々気に入ったぞ、石留椿」

って、あっっっれぇ!?

何で?何で気に入られたの?俺確かに断ったよね?なのに何で?ホワイ!?

「ふっ、この期に及んでもまだ表情を崩さないか」

いえ、営業スマイルのまま固まっているだけです。内心動揺しまくりですが。

「やはり面白いな。俄然この俺になびかせてやりたくなった」

ニヤリと白い歯を見せて笑う燈堂先輩。なんか怖い事言ってる!誰かー!助けてー!

「今日のところはその姿勢に免じて引いてやろう。だが、覚悟しておけよ?」

するりと俺の頬を指の背でひと撫でして、燈堂先輩は去っていった。

その後ろ姿を固まったまま見送っていると、

「どういう事だよ、椿!」
「どういう事って、ちょ、待っ」

がくがくと友広に両肩を激しく揺さぶられ、首ががくんがくんとあっちへこっちへ向く。激しい、激しいって!

「お、落ち着けって友広」
「これが落ち着いてられるかよ!」
「何をそんなに慌ててるんだよ?」
「だってお前、あの燈堂先輩の直々のお誘いだぞ?」
「? それがどうかしたのか?」

そう答えると、友広が信じられないという目で俺を見る。

「いいか?燈堂先輩はあの燈堂財閥の跡取りってだけあって、それはもう凄い人気なんだよ。親衛隊の人数も一番多いしな」
「親衛隊?」
「ファンクラブとも言うな」

ああ、そういえばそんなのもゲームに出てきたっけな。

「まあ、ファンクラブが既にあるお前からしたら大したものじゃないかもしれないけどさ」
「え?」

今、何て? 俺のファンクラブ?そんなのあるの?

「? なに驚いてんだよ」
「い、いや、何でもない。それで?何がそんなに問題なんだよ?」

とりあえず、俺のファンクラブとやらは気になるが、話が進まないので今は一旦置いておこう。

「燈堂先輩はな、モテるけど特定の相手は作らない事で有名なんだよ」
「へえ」

そうなのか。

「へえ、って…お前な、これがどういう意味か全っ然分かってないな?」

真剣な顔で友広がびしりと指を差す。

「特定の相手を作らないって事は、誰の事も特別扱いしないって事だ。だから、今まで誰が食事に誘っても全部断ってた。なのに、さっきお前を、それも燈堂先輩自ら昼食の席に誘った。これで驚かない方が無理だろ」

力強く言い切られ、俺は漸く友広の驚きようを理解した。理解したが…

「あー…つまり、俺は燈堂先輩に…」
「完全に気に入られたな」

友広の断言で見事に決まったボディーブローに、心の中で吐血する。

つまり、BなL展開フラグが折れていないどころか、寧ろ増やしてしまったらしい。なるほどなるほど。

………って、何でやねんっ

思わず関西弁でセルフツッコミを入れてしまう。

なーにが「覚悟しておけよ?(ニヤリ)」だ!しかも指の背で頬を撫でるとか、なに気障な真似してんだよ!気障過ぎて鳥肌ものだったわ!

「お、おい。大丈夫か?椿」

急に黙り込んだ俺を心配するように顔を覗き込む友広に「大丈夫だ」と告げながら、荒ぶる心をどうにか鎮める。

落ち着け、俺。まだ挽回のチャンスはあるはずだ。

そう、『攻略対象同士をくっつけてしまおう作戦』はまだ始まったばかりなのだから。
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