拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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16「対等な間柄」

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某魔法使いの少年が主人公の有名な映画を知っているだろうか。

いやまあ知らなくても構わないのだけれど、知っている方がこの感動というか凄さを分かって貰いやすいと思うので聞いてみた次第だ。

ん?何がそんなに凄いのかって?

それは、ここセントカーニア学園が誇る図書館がである。

校舎とは少し離れた別の場所にあるこの図書館は、見た目はちょっと大きめな教会のような建物だ。
だが、その中は建物の大きさ以上にとても広く拡張されており、内装は某魔法使いの少年が主人公の映画に出てくる学校のような感じなのだ。

何故そんな事が可能なのかというと、この図書館には『空間魔法』が施されているかららしい。
ちなみに『空間魔法』とは、闇魔法の一つで、大昔に俺と同じ全属性黒髪の魔法使いが、この魔法をふんだんに使って造った建物なのだそうだ。

そんなファンタジー全開で建てられた図書館に、少しばかり調べたい事があって今日初めて入った訳なんだけど…

…うん。見た瞬間「ハ●ー・●ッターだ…!」って心の中で感動したよね。
いやだって感動するなっていう方が無理じゃない?
だって、あの某有名魔法使い映画がリアルに!まさに現実に再現されてるんだよ?これで興奮するなって言われたらもう後は発狂するぐらいしかなくなっちゃうよ?

「おーい、おい椿?ぼんやりしてるけど、大丈夫か?」
「え…あ、なんだ友広か」
「おいおい。確かに図書館に行こうって提案したのはオレだけどさ。ここまで道案内してきた人間にその反応はないだろ、その反応は」

むすっと空色の抗議の眼差しを向ける友広に「悪い。ちょっと圧倒されてしまってな」と答えると、

「まあ確かに、分からなくはないな。なんせここは国内随一の蔵書量だからな。それがこんな風に整然と並べられてるんだから、まさに圧巻としか言い様がない」

溜飲が下がったのか、友広はにかっと笑って同意してくれた。

「あのさ、本当に良かったのか?」
「? 何がだ?」

意味が分からず首を傾げると、友広は言いにくそうに頬をかいて目を反らしながら続けた。

「いやまぁ授業で分からない所があるから教えてくれって泣きついたのはオレだけどさ。そのお礼が『図書館に案内するだけ』っていうのは、何か釣り合ってない気がするんだけど」
「そうか? 十分釣り合っていると思うが…」
「いやいや、そんな訳ないだろ」
「? 何でだ?」
「何でって…そりゃあ借りを作る訳だから、それに見合ったものかそれ以上のものを返すのが常識だろ?」

そう言った友広の眼からは本気でそう思っているのが伝わってきて。俺はここで漸く感じていた違和感の正体に気が付いた。

違和感の正体、それは『価値観の違い』だ。

確かに、誰かに借りを作ったのなら、それを返さねばならない。常識だ。そこまでは理解出来る。

だが、友広の言い方にはそれだけではない意味も含まれているように感じた。

どういう意味かって?

例えば、AがBから物を借りたとしよう。それによってAはとても助かったので感謝し、Bに借りた物を返す際に、感謝の印として心ばかりのお礼の品も渡した。だが、Bにはそこまで感謝されるような事をしたとは思っていなかった。

つまり、AからすればBのした事はお礼の品を渡す程の事だったが、Bからすれば貸した物と共にお礼の言葉を添えて貰えれば充分な出来事だったという事になる。

これが『価値観の違い』だと俺は思う。

別に価値観に違いがある事を悪い事だと言うつもりはない。
何故なら、いま上げた例は両者が善意から行動している事が分かるからだ。

…では、もし片方が悪意のある者だったとしたらどうなるだろうか?

先程の例ではAはBの行動に感謝しお礼の品を贈った。
だが、もしBが悪意のある者だったとしたら?わざと親切なふりをして、Aに法外な謝礼を要求してきたら?

これも『価値観の違い』になるだろう。

…どうして忘れていたんだろうな。
俺も昔散々さんざんそれで嫌な目にあってきたのに。
まぁ俺の場合は、俺に恩を売ったのだから、それに見合うものを返してくれるよね?という打算的な思惑を持った奴らが居たってだけの話なのだが。

まあ、俺の話はいい。話を戻そう。

つまり、何が言いたいかって言うと、要は友広は俺の事を自分とは釣り合わない人間だと思っている可能性があるという事だ。

だから、そんな俺に『勉強を教えて貰う事』と『図書館に案内する』という事はイコールにはなり得ない、釣り合わない、と言っているのだ。

先程も言ったように、価値観に違いがある事は悪い事ではないと俺は思っている。けれど…

「…なあ、友広」
「? 何だよ?」
「俺は…友広のこと友人だと思ってる」
「な、何だよ突然。そんなのオレも思って──」
「だから、そんなに自分を卑下しないでくれ」
「──え?」
「俺は友人っていうのは『対等』な関係だと思ってる。だから、友広に勉強を教える事は別に苦じゃないし、寧ろ嬉しい」
「う、嬉しい?」
「ああ。だって友広は初めて出来た『友人』だからな」
「オレが、初めて…?」
「俺『友人』が出来たら、やってみたい事が色々あったんだ。例えば、勉強を教えあったりする…とか」
「椿…」

刹那、空色の瞳が潤む。けれど、何かを耐えるように俯いて。

「そう、だよな…友人ってそういうもんだよな…」

ぼそりと何かを言ったかと思えば、友広は再び顔を上げた。その顔は相好そうごうを崩していて。その表情に俺も破顔した。


*****


「──で、ここがこうなるから、さっき出したaの答えをyの式に代入して」
「あ、そうか。なるほど!」

あれから、俺たちは良い感じに奥まった席を発見したので、そこに座り勉強する事にした。

「すげえな、椿。正直、先生より分かりやすかったぜ」
「そうなのか?」
「ああ。もう何を言ってるのか全然理解出来なくてさ。椿に教えて貰えなかったら一生分からないままだったな」
「一生は言い過ぎだろ」
「いーや、それぐらい分からなかったんだって」

心なしか今までより気安くなった友広とその後も勉強を続け、一時間程経ったところで俺たちは少し休憩を取る事にした。

トイレに立った友広を待つ間、調べものをするためやってきた書架で本を探していると…

「…ん?」

どこからか言い争うような声が聞こえてきて。
気になった俺は、声を頼りに更に奥へと向かった。

「──止めてよ!離して!」

その場所は、書架が密集していて結構奥まで行かないと人がいると分からない所だった。

…ん? 今の声、どこかで聞いた事があるような…

聞いた感じ女の子みたいな声だったけれど、ここは男子校だから女の子がいる訳ないし………ん?女の子みたいな声?

───『…いい気にならないでよね』

あ。

───『次はぼくが一番取るんだからっ。首洗って待ってろ!』

あー!思い出した!歓迎パーティーの時に舌打ちして去っていった人だ!確か、名前は…

「良いじゃん。こんな所にいるって事は、浅黄あさぎくんもこういうの期待してたんでしょ?」

そうだ、浅黄くんだ。ナイス知らない人!

「はあ!?馬鹿じゃないの?ぼくはただ本を探してただけ!」

…今さらだけど、これ、言い争ってるっていうより嫌がっている?よね?絶対。
いやでも、まだ状況を直接確認した訳じゃないし、俺の勘違いって事もあるよな。

…よし、こそっと覗いてみよう。

浅黄くん(推定)ともう一人の人(知らない)に気付かれないように、書架の陰から様子を窺い見る。

「…!」

そこにいたのは、やっぱり歓迎パーティーの時に会った浅黄くん………だったのだが、

…え?これどういう状況?

浅黄くんは書架を背にして相手の男子生徒(顔はここからでは見えない)を睨み付けていて。
そんな浅黄くんの両腕を男子生徒が掴んで、書架に縫い付けるようにして浅黄くんの動きを封じている。

……何だろう、何か前にもこんな光景みたような気がするようなしないような…

何だっけ? 確か…

───『きゃー!来た来た!襲われかけからのヒーロー登場!里津りつくんもこんな颯爽と助けてくれたら惚れちゃうよね~。見よ、弟よ。これがスパダリというものよ!』

…そうだ!思い出した。ゲームのスチルでこの場面を見たんだ!

これは浅黄くん光属性の攻略対象がモブに襲われかけていた所を颯爽と現れた主人公が助けるという浅黄くんルートの最初のイベントだったはず。
しかも、姉ちゃん曰く、これがきっかけで浅黄くんは俺をライバルではなく恋愛的な意味で意識し始めるらしい。

…ん? って事は、助けなければ良いのでは?

いやいや、でもそれだと浅黄くんが襲われるのを看過する事になってしまう。それは後味が悪い。

………じゃ、どうすりゃ良いの!?

ていうか、なんっで、図書館でイベントが起こるって忘れてたんだ俺!
あ~っ、ちゃんとゲーム見てなかった前世の俺の興味の無さが悔やまれる!!

「いい加減離してよ!痛いんだけど!」
「いてっ、こら暴れるな!」

って、そんな事言ってる間に相手の男子生徒が浅黄くんの顔をぶとうと手を振り上げてるし!


あ~~~もうっ、どうにでもなれ!!
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