拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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19「例外と異例」

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先生に名前を呼ばれた生徒が一人、また一人と前に出ていき、精霊王の像の前に描かれた魔方陣の中央に立ち、呪文を詠唱する。

水、火、風、光、闇属性の下位精霊たちと契約が次々と成されていく中、盛り上がりを見せた瞬間が二回ほどあった。

一つは、浅黄あさぎくんが光属性の中位精霊である『ユニコーンの幼体』を召喚した時で。もう一つは、紫麻しまくんが闇属性の中位精霊である『ケットシー』を召喚した時である。

それぞれの精霊は『リュシー』と『ノワール』と名付けられ、無事契約が成立した。

…さて、いよいよ俺の番か

精霊召喚の儀では、契約を終えた者から順次出ていく。なので、今大聖堂にいる生徒は俺一人だけだ。

「石留椿。前へ」
「はい」

名前を呼ばれ、魔法陣の中央に立つ。

「では、詠唱を始めてください」
「…はい」

深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして、精霊を召喚するための呪文を唱えた。

「全ての精霊を統べる精霊王よ。我、良き隣人を友とし、契約を望む者なり」

瞬間、カッ!と魔法陣がそれまでとは比べ物にならない程の光を発した。

「!? 何だこれは!」

先生たちの侵入を阻むかのように、魔法陣を中心に風が吹き荒れる。

そんな、今までに無かった現象に戸惑う先生たちを横目に、俺はというと違う意味で戸惑っていた。

…何だ?こんな演出、ゲームでは無かったはずだ。

ゲームでは、精霊召喚の儀このイベントで主人公が召喚していた精霊は『上位精霊』だった。
しかも、この時召喚される精霊の『属性』と『数』は、その時点で一番好感度が高い攻略対象が誰なのかによって決まるというシステムだった。

どういう事かというと、例えば、水属性の攻略対象の好感度が一番高かったのなら『水属性の上位精霊』が『一体』召喚され、水と火属性の攻略対象の好感度の高さが同率一位だったのならば『水属性と火属性の上位精霊』が『一体ずつ』つまり合計二体の上位精霊が召喚されるという事になる。

だから、このイベントはその時点での好感度をチェックでき、且つ、誰のルートに入っているのかが一目瞭然で分かるイベントでもあるのだが……おかしいな。

ゲームでは主人公が詠唱を終えると、多少魔法陣が光り輝くという演出があるものの割とあっさりと召喚されていた。

なのに、今の状況は何だ?こんなもったいぶった演出なんて、ゲームでは無かったはずだ。

──と、そんな風に疑問に思っていた、その時だった。魔法陣が突如としてパキィイン!!と大きな音を立てて木っ端微塵に割れたのは。

…えっ?

「なっ、魔法陣が壊れるなんて…!」
「こんな事、前代未聞だぞ!」
「何が起きたんだ!?」

動揺が走る先生たちの声が右から左に流れる。だって、俺も動揺でそれどころではなかったのだ。

…え?これは、一体どういう意味になるんだ?このイベントは一番好感度が高い攻略対象が判明するイベントだったはず。なのに、上位精霊どころか何の精霊も召喚されなかった上に、魔法陣が壊れるなんて…

「…どうなってるんだ」
「石留くん!大丈夫か!?」

漸く風が収まったのか、駆け寄ってきた先生たちに何とか「大丈夫です」と答えたけれど、頭の中は戸惑いと動揺でいっぱいだった。


*****


「ねえ、聞いた?椿様の事」
「精霊が召喚できなかったって話の事?」
「そうそう。それでね、先生たちが話してるの聞いちゃったんだけど。その理由がね、何でも椿様の魔力と合う精霊がいなかったからじゃないかって」
「え!そうなの?それって上位精霊でも合わなかったって事だよね?」
「凄いよね。さすが椿様!椿様に合う精霊っていったら、もう精霊王様しかいないって噂だよ」

…はい、そこの可愛い系男子たち、聞こえてますからね?
噂するのは構わないけど、せめて本人がいない所でしてくれないかな?いや、まあ陰口じゃないだけマシなのかもしれないけど。

精霊召喚の儀から二日が経った現在、聞いての通り、学園は既に俺の話題で持ち切りだった。

どこへ行ってもヒソヒソヒソヒソ。陰口じゃないとは分かっているけれど、それでも常に周囲から好奇の目に晒されているこの状況に辟易してしまう。

はぁと溜め息を吐きながら、次に受ける授業の教室に向かうため廊下を歩いていると、前方に見知った背中を見つけた。

…友広だ!

精霊召喚の儀でも勿論友広を見たが、当然話をする機会はなかった。
しかも、その翌日である昨日は、一日中先生たちと精霊召喚の儀をやり直しし、召喚できない理由を究明するのに付き合わされていたため、話すのは三日間ぶりだ。

そんなこんなで唯一安心して話しかけられる存在を見つけて、嬉しく思わない人間がいるだろうか?いや、いないだろう。いたら見てみたいね。

「友広!」
「………」

あれ、聞こえなかったのかな?

「おーい、友広?」
「っ」

近寄り、後ろからその肩に手を置こうとした、その時。友広がビクッとして驚いたように振り返った。

「? どうしたんだ?友広」

そんなに驚かすような事をしただろうか?

そう思い、首を傾げていると、友広ははっとしたような顔をした後、笑みを浮かべた。

「何だ、お前か。驚かすなよ」
「悪い。そんなに驚くとは思ってなかったから」
「ちょっとな、考え事してて。それで?どうしたんだ?何か用か?」
「いや、見かけたから話しかけただけだ」
「そっか。あ、そろそろ時間ヤバいんじゃないか?次、移動教室だろ?」
「そうだな。じゃあ、また後でな」
「おう」

手を振って友広と別れた後、俺はふととある事を不思議に思った。

…何で、友広は違うクラスなのに俺のクラスの次の授業知ってたんだ?

うーむ。

いや、まあ、友広はお助けキャラなのだから俺を含む攻略対象の授業を把握しててもおかしくないと言えばそうなのだけれど。

「……ま、いいか」

それより今は次の授業に遅れないように急がなくては。
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