1 / 13
1.目覚めたら輸送されてました
しおりを挟む
――ガタンゴトン、ガタンゴトン。
馬車が揺れるたび、俺の魂もどこかへ転がっていきそうだった。
ついでに王族としての尊厳も。いや、そもそもそんなもん最初から無かったのかもしれない。
「なあ、カイル」
隣に座る従者の青年へ、声をかける。
返事はない。視線は冷たい。口は固い。呼吸だけはしてるらしい。
「……俺がここにいる理由、知ってるだろ」
無言。
まあ、知ってたけどね。期待した俺がバカだった。
この男――カイル・ルストレイン。
幼い頃から俺に仕えてくれてるが、口数が少なすぎて、三日間一緒にいて『うん』しか聞けなかった記録保持者である。
「なあ、ちょっとは会話しようよ。せめて"死ぬの?とか生きて帰れるの?とか不安なことを煽ってくれてもいいんだぞ?」
「……パン、食うか?」
「その情報が先!? なに、俺死ぬの前提で最期の食事とか配給されてるの!?」
差し出されたのは、干からびたパン一個。
いや、カイルは悪くない。多分。
絶対、大臣だ。
そう、事の発端は三日前。
王宮の宴で、大臣のズラをちょっと風魔法で飛ばしたくらいで――
「王子殿下には"適切な研修の場"をご用意いたしましょう」
とか、にっこり笑って言ってきたあの大臣!
怖い。あの笑顔に悪意しか感じなかった。
絶対あのとき、根に持ったんだろ! 俺の処刑フラグは宴会のケーキと一緒に用意されてたんだ!
「……お前、何かしたのか?」
ようやくカイルが口を開いた。
真顔な上に声が低い。声が出せることにまず驚く。
「いやまあ……ちょっとだけ、ズラを飛ばしただけで……」
カイルはゆっくり、そっと、俺から視線を外した。
明らかに「馬鹿かお前」って顔だ。
「その程度で輸送はされないと思うが」
「……それ、確定じゃん。もう本当に俺、処されるの!?」
「安心しろ。送り先は処刑場じゃない」
「ほんと!? よかった……」
「獣人族の辺境集落だ。人間の王子が一人で暮らすには、ちょうど良い刺激になるらしい」
「それ普通に追放なんよ!?!?」
「……あ、そういえば渡すよう預かっていた」
馬車の揺れの中、カイルが鞄から一通の手紙を取り出した。
赤い封蝋がバッチリ押されている。しかも王宮印+大臣の私印のW仕様。
「うわ、嫌な予感しかしない……」
俺は震える手で封を切った。
【謹啓 第三王子ラクス・ヴェルゼリア殿下】
殿下の突然の「地方研修行き」に関し、まずはご説明申し上げます。
このたび、以下の行為により、王宮の空気が著しく損なわれ、関係各所からの苦情が相次ぎました。
殿下による主な騒動の一部
・宴会の席にて風魔法でルカス大臣のカツラを飛ばし、宙を舞う様を祝砲扱いした件
・王妃付きの侍女に「この前の服より肉まんの方が似合う」と発言
・勉学の時間に「俺が王になることなんて天気予報より当たらない」と寝言
・謁見の場にて、神官の髭に飴を仕込んだ(※一週間気づかれなかった)
・魔獣対策会議にて、「じゃあ、俺を囮にして逃げれば?」と真顔で提案
・小鳥を操る魔法で城中に「俺の顔写真入りチョコ」を大量投下
つきましては、殿下の更なる「人格向上」と「更生」及び、「王族としての自覚」を促すべく、今回の辺境地研修(※追放とは申しておりません)を実施いたしました。
戻るためには、月に一度の自己反省文の提出、および「今月の大臣への感謝一句」が必要となります。
なお、護衛兼監視役としてカイルを同伴させております。逃走不可。
お身体にはお気をつけて。
――王国行政執行長官 兼 機嫌が悪い人代表
ルカス・イーデン
「……うん、恨みが深いね?」
俺はそっと手紙をたたんだ。
「カイル、正直に言っていい?」
「なんだ」
「俺、反省してない」
「知ってる」
あっさりバレてた。
「それにしても、カイル」
「うん?」
「"感謝一句"って何!? 王国っていつから短歌提出国になったの!?」
「……今から考えるといい」
「俺の俳句で帰還の可否が決まる王政ってどうなんだよ……!」
馬車が揺れるたび、俺の魂もどこかへ転がっていきそうだった。
ついでに王族としての尊厳も。いや、そもそもそんなもん最初から無かったのかもしれない。
「なあ、カイル」
隣に座る従者の青年へ、声をかける。
返事はない。視線は冷たい。口は固い。呼吸だけはしてるらしい。
「……俺がここにいる理由、知ってるだろ」
無言。
まあ、知ってたけどね。期待した俺がバカだった。
この男――カイル・ルストレイン。
幼い頃から俺に仕えてくれてるが、口数が少なすぎて、三日間一緒にいて『うん』しか聞けなかった記録保持者である。
「なあ、ちょっとは会話しようよ。せめて"死ぬの?とか生きて帰れるの?とか不安なことを煽ってくれてもいいんだぞ?」
「……パン、食うか?」
「その情報が先!? なに、俺死ぬの前提で最期の食事とか配給されてるの!?」
差し出されたのは、干からびたパン一個。
いや、カイルは悪くない。多分。
絶対、大臣だ。
そう、事の発端は三日前。
王宮の宴で、大臣のズラをちょっと風魔法で飛ばしたくらいで――
「王子殿下には"適切な研修の場"をご用意いたしましょう」
とか、にっこり笑って言ってきたあの大臣!
怖い。あの笑顔に悪意しか感じなかった。
絶対あのとき、根に持ったんだろ! 俺の処刑フラグは宴会のケーキと一緒に用意されてたんだ!
「……お前、何かしたのか?」
ようやくカイルが口を開いた。
真顔な上に声が低い。声が出せることにまず驚く。
「いやまあ……ちょっとだけ、ズラを飛ばしただけで……」
カイルはゆっくり、そっと、俺から視線を外した。
明らかに「馬鹿かお前」って顔だ。
「その程度で輸送はされないと思うが」
「……それ、確定じゃん。もう本当に俺、処されるの!?」
「安心しろ。送り先は処刑場じゃない」
「ほんと!? よかった……」
「獣人族の辺境集落だ。人間の王子が一人で暮らすには、ちょうど良い刺激になるらしい」
「それ普通に追放なんよ!?!?」
「……あ、そういえば渡すよう預かっていた」
馬車の揺れの中、カイルが鞄から一通の手紙を取り出した。
赤い封蝋がバッチリ押されている。しかも王宮印+大臣の私印のW仕様。
「うわ、嫌な予感しかしない……」
俺は震える手で封を切った。
【謹啓 第三王子ラクス・ヴェルゼリア殿下】
殿下の突然の「地方研修行き」に関し、まずはご説明申し上げます。
このたび、以下の行為により、王宮の空気が著しく損なわれ、関係各所からの苦情が相次ぎました。
殿下による主な騒動の一部
・宴会の席にて風魔法でルカス大臣のカツラを飛ばし、宙を舞う様を祝砲扱いした件
・王妃付きの侍女に「この前の服より肉まんの方が似合う」と発言
・勉学の時間に「俺が王になることなんて天気予報より当たらない」と寝言
・謁見の場にて、神官の髭に飴を仕込んだ(※一週間気づかれなかった)
・魔獣対策会議にて、「じゃあ、俺を囮にして逃げれば?」と真顔で提案
・小鳥を操る魔法で城中に「俺の顔写真入りチョコ」を大量投下
つきましては、殿下の更なる「人格向上」と「更生」及び、「王族としての自覚」を促すべく、今回の辺境地研修(※追放とは申しておりません)を実施いたしました。
戻るためには、月に一度の自己反省文の提出、および「今月の大臣への感謝一句」が必要となります。
なお、護衛兼監視役としてカイルを同伴させております。逃走不可。
お身体にはお気をつけて。
――王国行政執行長官 兼 機嫌が悪い人代表
ルカス・イーデン
「……うん、恨みが深いね?」
俺はそっと手紙をたたんだ。
「カイル、正直に言っていい?」
「なんだ」
「俺、反省してない」
「知ってる」
あっさりバレてた。
「それにしても、カイル」
「うん?」
「"感謝一句"って何!? 王国っていつから短歌提出国になったの!?」
「……今から考えるといい」
「俺の俳句で帰還の可否が決まる王政ってどうなんだよ……!」
721
あなたにおすすめの小説
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます
めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。
王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。
運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝——
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。
愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる