【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

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1.目覚めたら輸送されてました

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――ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 馬車が揺れるたび、俺の魂もどこかへ転がっていきそうだった。
 ついでに王族としての尊厳も。いや、そもそもそんなもん最初から無かったのかもしれない。

「なあ、カイル」

 隣に座る従者の青年へ、声をかける。
 返事はない。視線は冷たい。口は固い。呼吸だけはしてるらしい。

「……俺がここにいる理由、知ってるだろ」

 無言。
 まあ、知ってたけどね。期待した俺がバカだった。

 この男――カイル・ルストレイン。
 幼い頃から俺に仕えてくれてるが、口数が少なすぎて、三日間一緒にいて『うん』しか聞けなかった記録保持者である。

「なあ、ちょっとは会話しようよ。せめて"死ぬの?とか生きて帰れるの?とか不安なことを煽ってくれてもいいんだぞ?」

「……パン、食うか?」

「その情報が先!? なに、俺死ぬの前提で最期の食事とか配給されてるの!?」

 差し出されたのは、干からびたパン一個。
 いや、カイルは悪くない。多分。
 絶対、大臣だ。

 そう、事の発端は三日前。
 王宮の宴で、大臣のズラをちょっと風魔法で飛ばしたくらいで――

 「王子殿下には"適切な研修の場"をご用意いたしましょう」
 とか、にっこり笑って言ってきたあの大臣! 

 怖い。あの笑顔に悪意しか感じなかった。
 絶対あのとき、根に持ったんだろ! 俺の処刑フラグは宴会のケーキと一緒に用意されてたんだ!

「……お前、何かしたのか?」

 ようやくカイルが口を開いた。
 真顔な上に声が低い。声が出せることにまず驚く。

「いやまあ……ちょっとだけ、ズラを飛ばしただけで……」

 カイルはゆっくり、そっと、俺から視線を外した。
 明らかに「馬鹿かお前」って顔だ。

「その程度で輸送はされないと思うが」

「……それ、確定じゃん。もう本当に俺、処されるの!?」

「安心しろ。送り先は処刑場じゃない」

「ほんと!? よかった……」

「獣人族の辺境集落だ。人間の王子が一人で暮らすには、ちょうど良い刺激になるらしい」

「それ普通に追放なんよ!?!?」

「……あ、そういえば渡すよう預かっていた」

 馬車の揺れの中、カイルが鞄から一通の手紙を取り出した。
 赤い封蝋がバッチリ押されている。しかも王宮印+大臣の私印のW仕様。

「うわ、嫌な予感しかしない……」

 俺は震える手で封を切った。

【謹啓 第三王子ラクス・ヴェルゼリア殿下】

 殿下の突然の「地方研修行き」に関し、まずはご説明申し上げます。

 このたび、以下の行為により、王宮の空気が著しく損なわれ、関係各所からの苦情が相次ぎました。

殿下による主な騒動の一部

・宴会の席にて風魔法でルカス大臣のカツラを飛ばし、宙を舞う様を祝砲扱いした件

・王妃付きの侍女に「この前の服より肉まんの方が似合う」と発言

・勉学の時間に「俺が王になることなんて天気予報より当たらない」と寝言

・謁見の場にて、神官の髭に飴を仕込んだ(※一週間気づかれなかった)

・魔獣対策会議にて、「じゃあ、俺を囮にして逃げれば?」と真顔で提案

・小鳥を操る魔法で城中に「俺の顔写真入りチョコ」を大量投下

 つきましては、殿下の更なる「人格向上」と「更生」及び、「王族としての自覚」を促すべく、今回の辺境地研修(※追放とは申しておりません)を実施いたしました。

 戻るためには、月に一度の自己反省文の提出、および「今月の大臣への感謝一句」が必要となります。

 なお、護衛兼監視役としてカイルを同伴させております。逃走不可。

 お身体にはお気をつけて。
 ――王国行政執行長官 兼 機嫌が悪い人代表
 ルカス・イーデン

「……うん、恨みが深いね?」

 俺はそっと手紙をたたんだ。

「カイル、正直に言っていい?」

「なんだ」

「俺、反省してない」

「知ってる」

 あっさりバレてた。

「それにしても、カイル」

「うん?」

「"感謝一句"って何!? 王国っていつから短歌提出国になったの!?」

「……今から考えるといい」

「俺の俳句で帰還の可否が決まる王政ってどうなんだよ……!」
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