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38.ラスとウォルター
しおりを挟むぽかん、と間抜けな顔を晒している自覚はあった。
けれど何故あの時助けた男がここにいるのか理解が出来ない。
あの日助けた後。俺の力を確かめる様な実験動物扱いなんかじゃなく、てっきり正当な裁きを受けていると思っていた。そんな考えを巡らせていると、楽しげな男の声が思考に割り込む。
「ああ、神子はこいつと知り合いなのか?んじゃサービスしとくか」
「は!?」
伏せていた身体を、腕を引いて起こし座らせると男の胸に背中を寄り掛からせる。膝の裏に男の膝が割り込み大きく開脚させられ、丸出しの下半身が助けた男に向かって豪快に晒された。
予想外の行動にぎょっと目を見開く。けれど驚きは向こうも同じだったようで、正面に立つ男もまた目を見開いた。
「ボボボス!?」
「お前帰ってきてから何か隠してると思ってたんだよな、このままゲロっちまいな」
「ひぇ、ッ!・・・っ」
ただ目を逸らす気はないのか、赤い顔で吃りながらもじっと視線は俺に向けられていた。はあはあと目の前の男の息が興奮に荒くなっていく。たらり、と男の鼻から血が垂れ落ちる。
ぎゅっと閉じていた目を開け確認すると、男の下半身は力を持ち始めていた。
つぅ、と意味深に指が内腿を撫で勿体ぶってから再び二本の指が挿入される。大した抵抗もないままずぶりと根本までを飲み込まされ、びく、と自由を奪われたままの足が跳ねた。
太い指が内壁を探る様に蠢いた。先程ヴィクターに覚えさせられたばかりの急所を探る様な手つきに思わず呼吸を止める。
「・・・っ」
「やっぱりやってんなぁ、さっきの連れか?天下の神子様と駆け落ちとはよくやる」
「か、けおち、じゃ」
「へえ?あの男、体格からして騎士だろ?どうみても神殿から逃げて駆け落ちした二人にしか見えないが」
「ええっ!神子様処女じゃないんですか!!」
「・・・おい、馬鹿。真面目な空気を壊すな、黙ってろ」
「ッ!」
ぐり、と男の指が一点を抉る。反射的に揺れた肩の動きは小さく抑えた。
けれどぴったりと背中を預けた男がそれに気付かないわけもなく。隠し切りたかった場所を見つけられ絶望にまつ毛をふるわせる。
楽しげな笑いを背後で溢すと、男は蛇を連想させる様な粘着質な動きでそこを刺激した。
「ふ、・・・ッ」
「ああ、堪えるな。でもいい顔になってきた」
「・・・ッ!ぃ、」
無意識に下がっていた顔を、頬を掴まれ上げられる。羞恥心から涙が滲んだ。
ヴィクター以外の人間に触れられ、さらにはその指で高められている。かつて助けた男の目の前で辱められ、自尊心はこの上なく貶められた。
ぼろり、と一雫の涙が頬を伝う。
「兄貴、可哀想だしやめようぜ」
その一声で中を無遠慮に探っていた男の動きが止まる。視線を上げ目の前の男に向けると、先程まで荒い呼吸で興奮していたことが嘘の様に罪悪感を貼り付けた顔をしていた。
「こいつの乱れた姿を見たいと思わないのか」
「でも嫌がってるだろ、そう言うのは良くない。神子様は命の恩人だし恩を仇で返す様な真似は絶対駄目だ」
男の言葉にはぁ、と豪快にため息を吐くと、体内から指を抜き俺の身体を解放した。
慌てて服を整えソファから立ち上がって距離を取る。
兄貴、と呼ばれていた。
態々ボスと呼び敬語を使っていたのに、おそらく行為を制止するためあえてそう呼んだはずだ。
「兄弟なんですね」
「そうだよ、くそっ、興が醒めた。それより命の恩人って何なんだ、一月前に何があったか詳しく聞かせろ」
こくりと頷くと、男はあの時のことを話し始めた。
王都で薬物を売り捕まったこと。そして神子の奇跡を試す為に殺されそうになったこと。それを俺が助けたこと。
そしてその先に話された内容は俺も知らないことだった。
「・・・アドルフっつう軽い態度の男に逃がされたんだ」
「え、アドルフが?」
「これは貸しだって言ってた。その時は逃げれて運が良かったとしか思わなかったが、今みたいな状況になった時のことを言ってたのかもな」
予想外のタイミングで名前を聞き驚く。
この男の命を助けた時、まだ俺とアドルフはほとんど面識のない状態だった。
けれどヴィクターの幼馴染と言うだけあって、いつかこんな日が来ると予想していたのかもしれない。
例えばコーニーリアスが神殿長を続け、自由のないまま能力だけを搾取される人生だったら。
いつかはヴィクターに助けを求め逃げ出していたかもしれない。助けを乞われたヴィクターは絶対に首を横には振らないだろうと確信できる。
逃げる先にこの街を選ぶ可能際が無かったとは言い切れない。その時現地に協力してもらえる人間がいれば逃げやすさは格段に上がるだろう。
本来罪を償わなければいけない人間を野放しにした点を考えると決して褒められることではない。けれど今、予想外の繋がりで助けられたことは事実だ。
「神子様に救われた命だ。神殿の人間なんかいけすかねぇと思ってたけど、あんたは別だ。助けになるぜ」
「・・・ッありがとう!」
「俺はラス、兄貴はウォルターってんだ。よろしくな」
「よろしくするのは駄目だ」
ニカッと笑いかけられ手を差し伸ばされる。その握手に応えようとした瞬間、水を差す否定の声が割り込んだ。
思わず伸ばしかけた手を止める。
蛮族街の長ーーーウォルターは、ギシ、と鷹揚にソファへ腰掛けると自らの太腿に肘をつき両手の指をクロスさせる。前屈みになった姿勢のまま、鋭い光を宿す目でこちらを睥睨する。
「ラスの命を救ってくれたことに感謝はする。ただ手を貸すことはできない」
「それは・・・どうして」
「そもそも違法薬物を王都に持ち込ませたのはじじいの提案だったんだよ」
「・・・じじいって、コーニーリアスのことか」
「神子はその薬がどんな作用を齎すか知ってるか?」
「いや、詳しくは何も」
違法薬物と言うくらいだ。ネットやニュースで軽く耳にする程度の知識だが、勝手に阿片や大麻の様な物をイメージしていた。
少量で高価な値段がつけられ、一度使用してしまえば中毒になり繰り返し求めずにはいられなくなる。求める量はどんどん増え、最後には心も身体も壊し破滅する。そんなイメージだ。
想像を素直に口にすれば、ウォルターは肯定するように小さく頷いた。
「確かに間違っちゃいない。ただこれはごく少量を正しく使えば痛みや苦しみを取り除くことができる」
その言葉に、終末医療を思わず想起する。
この世界に疎い俺でも分かる。元いた世界と比べれば、この国の医療は著しく遅れている。
だからこそ大した恩恵も与えられない人間であっても、神子への信仰心が廃れない。神殿の力が揺らがない。
「自分が使うために仕入れたんだ」
「コーニーリアスが病に侵されてたってことか?それこそ神子がいるんだから治させれば良かったのに」
「あの老耄の考えなんざ知らないが、痛みを誤魔化して神殿長の仕事をするには薬が必要だったんだろう」
ふと思い出す。
自分の罪を明かされた割に呆気ない態度だったのはもしかしたら病が関わっていたのかもしれない。
薬を使ってまで痛みを誤魔化して、そうまでして神殿長という立場に縋り付きたかったのだろうか。
コーニーリアスのことを今更知りたいと思わないが、まるで死期を待つ様な振る舞いに思うところがないわけではない。
「そもそも俺は薬を王都に流すのは反対だった。王都の金持ちどもは医者にかかれる身分の人間ばかりだし、リスクが高いから最初は断ったんだよ。それをこの馬鹿が勝手に動いて・・・あまつさえ捕まって死にかけただと?」
この馬鹿が、とラスのこめかみをぐらぐりと甚振ると、ウォルターははぁ、と溜め息を吐いて解放した。ラスは妙な呻き声を上げながら態とらしくソファに倒れ込む。
ラスのみっともない姿を呆れた目で見るが、一転切り替えた様に鋭い視線でこちらを睥睨する。
「話を聞いた上で結論を出すなら、神殿とはこれ以上関わりたくないってのが本音だ。腹に一物抱えてるのならなおさら。弟の命を救った恩人を無碍にはできない。落ち着くまではこの街への滞在を許すが、そこまでだ。さっきも言った様に必要以上に手は貸せない」
明確な線引きをされ、ぐっと拳を握る。
金銭目的で神殿側に俺たちの生死を知られることは無くなった。貞操の危機はラスのおかげで去った。ヴィクターと再開できるなら、これ以上望むことはない。
身一つでこの街にきた所為でこの街に離れる為の十分な準備ができるか、その点だけは不安だった。
金も食糧も何もない。
「・・・わかった。準備を整えたら街を出ていく。俺はヴィクターと会えればそれで良い」
「えっ、神子様出てっちゃうんすか!もっとのんびりしていきましょうよ」
「おい、話の腰を折るなって何度言分かるんだ馬鹿弟。話聞いてたか?」
「聞いてたって!それなら神子様がこの街にいたほうが得だった兄貴が納得すればいいんだろ?」
はた、とその言葉に目を瞬く。
けれどこの世界で俺の出来ることなんて神子の力を振るうくらいだ。けれどこんな場所で力を使えば俺たちの居場所は一瞬でバレるだろう。
「はぁ?見てみろ神子のほっせえ腕で何の役に立つってんだよ」
「兄貴の積んである書類手伝ってもらえばいいじゃん」
今度はウォルターが目を瞬く番だった。
片手を顎に当てじっと何かを考えると、徐にソファから立ち上がり書類が積まれたデスクにズカズカと近付いた。その中から数枚の紙を掻っ払うと入り口付近に立ったままだった俺に向かってずい、と紙を押し付けた。
「お前、計算はできるか?」
押し付けられた紙を受け取り目を通す。収支報告書の様に見えた。数字を見た感じ、元の世界と同じ十進法で計算されている。パソコンもエクセルもワードも存在しない、極めてアナログな手書きの書類だ。
それでもぱっと見た感じ、書かれている内容は朧げに理解できた。
「・・・す、少しなら」
ごくりと音を立て唾を飲み込んだのは果たしてどちらだったのか。
ウォルターは期せずして己の仕事の負担を減らせる人材の可能性に、そして俺は元の世界で培った事務処理能力を発揮できる可能性に、互いに固唾を飲んだ。
どの程度通用するかは分からない。
それでも何もしないままヴィクターとこの街から放り出されるよりは、少しでも可能性があるのなら足掻いてみたかった。
手に思わず力を込めると、握ったままの紙がぐしゃりと小さく音を鳴らした。
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