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第1話 幼馴染に告白したら、交際契約書を渡された件
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七月某日。照りつける太陽に辟易しつつ、俺を呼び出したお相手の言葉を待つ。
向かい合っているのは新庄智子さん。
ちょっと小柄で健康的な体躯と短めの茶髪が特徴で、皆から好かれる子だ。
クラスで一番ではないけど、「可愛い子ランキング」で上位五位以内くらい。
「羽多野君は、用件がなんだかたぶんわかっていると思うんだけど」
少し目を伏せて新庄さんは言う。
こういう仕草も様になるのだからそりゃ人気も出るというものだ。
「うん。なんとなくは」
とはいえ、心が動かない俺、羽多野幸久は少し申し訳ない気分だ。だって、間違いなく、彼女が望まない返事をしないといけないから。
「羽多野君の事、好き、です。彼女にしてもらえませんか?」
伏せていた視線を上げて、心持ち紅潮した顔での告白。
きっと、普通の男子ならドキッとしたり喜びが湧き上がるんだろうな。
「まずはありがとう。新庄さん。それで、俺のどこを好きになったのか聞かせてもらっていいかな?」
返事は決まっているけど、彼女の心持ちを聞いておきたかった。
「色々あるけど、やっぱりカッコいいところかな。サッカーでもロングパスが上手いし、バスケでもスリーポイントシュートを上手く決めちゃうし。あとは、皆に親切で世話焼きなところも、責任がある役割を積極的に引き受ける責任感も」
そうまで言ってもらえると男冥利に尽きる。
そこまでの男じゃないけどちゃんと見てくれているんだなあと。
だからこそ、心が重い。
「ありがとう。凄くちゃんと見てくれてたんだな。それは凄く嬉しい。でも……ごめん。新庄さんの想いには応えられない」
結局、返事は決まっていたのだ。
「そっか。やっぱりそうだよね」
悲しげな表情をしながらも、どこか予想していたという感じの言い草だ。
「聞いてもいいかな。やっぱり博士の事が好きなの?」
博士。本名、湯川雅。
小学校の頃からの幼馴染で、学校一の異才の持ち主。
頭が良すぎるので、尊敬と畏怖を込めてそう呼ばれている彼女。
「そう……だな。雅の事が好きだから。悪い」
少なくとも、傍目に見ても新庄さんは良物件だと思う。
ただ、俺の気持ちが雅にずっと向いているだけ。
「そうだよね。雅ちゃん、何でも出来ちゃうもんね。かなわないなあ……」
どこか届かないものを見るような目。
「言っとくけど。別にあいつが頭いいとかで好きになったわけじゃないからな?」
「わかってるよ。私が割って入れない何かがあるのかなーってわかるもの」
「まあ、そうだったらいいんだけどな」
あいつは俺の事をどう思っていてくれるんだろうか。
「でも、雅ちゃんは頭良すぎて逆に不器用なところあるから。頑張って!」
「振った相手に応援されるとは。まあ、頑張るさ」
「それと、これからも友達で居てくれる?」
「新庄さんが辛くなければ。俺は大丈夫だよ」
「そっか。良かった」
こうして、彼女からの告白は終わったのだった。
◇◇◇◇
「雅の頭が良すぎる……か」
新庄さんがそう評するのもわかる。
決して俺だって成績が悪いというわけじゃない。
ただ、俺にしても、成績優秀者にしてもどうにも超えられない壁があるのは事実。
それは、彼女が「テストで優秀な成績を収める」を超えて、物事を根本からいつも考えているせいだ、と俺は思う。
それを示すエピソードにこんなものがあった。
◆◆◆◆
15÷3(2+3)
「この式の答えがわかる者はいるか?」
確か、中学一年くらいの数学の授業だったように思う。
きっと、教師にしてみればちょっとした引っ掛け問題のつもりだったのだろう。
俺は「あー、15÷3(2 + 3) = 15 ÷3(5) = 15 ÷ 15 = 1 だな。÷を先に計算すると
×をつける意地の悪い奴だ」そんな事を思ったのだけど。
「はい」
躊躇せずに手を上げた雅は、つかつかと黒板に
―――――――――――――――――――――――
15÷3(2+3) = (15 ÷ 3)(2 + 3) = 5(2 + 3) = 25
かあるいは
15÷3(2+3) = 15 ÷ 3(2 + 3) = 15 ÷3(5) = 15 ÷ 15 = 1
のどちらでも良い。
―――――――――――――――――――――――
と黒板に書いたのだった。
「湯川。どちらでも良いということはなくてだな。この場合、下が正解だ」
そう教師が言った途端、ため息をついて。
「先生は暗黙の乗法の優先順位についてきちんと説明されましたか?私は記憶にありませんが」
「いや、でも、数学ではだな……」
「数学はそんなくだらないものを定めません。演算子の優先順位という些末なものは全く数学の本質ではありませんし、専門の数学の教科書によっては、実際に暗黙の乗法について異なる表記をしているものもあります」
「しかしだな」
「これは単なる記法の問題に過ぎないということもわからないんですか?先生は本当に数学を理解されていますか?」
怒涛のごとく畳み掛けて、「こういう数学ですらない引っ掛け問題は止めていただきたいです」と論破したので、教室中が戦々恐々としたものだった。先生も生徒も同様にという意味で。
出題の枠内でしか考えられない俺たちとは違うと実感させられたものだ。
それでいてクラスメイトに勉強を教える時には友好的なものだから、怖いのか優しいのかよくわからないという奴もいた。あるいは、授業の進行を乱されたと彼女を嫌う奴も居た。いずれにしても、俺に言わせれば単純に彼女がとても生真面目故なのだけど、きっと中学以降の彼女しか見ていないとわからないことだろう。
「はぁ。あそこまで先生をやり込める必要なかったわよね」
「気にするな。今度から、もう少し穏やかに言えればいいんじゃないか」
彼女は彼女で苛烈な物言いをしてしまった事を後悔して、俺の前でだけ凹んでいたものだった。何度かの反省を経て、教師の間違いを指摘する時も、最初のような苛烈な物言いはなくなったものの、やはり生徒や教師からは畏怖の目で見られるのは変わらなかった。
◇◇◇◇
放課後。昼間に話題になった雅がかばんを持って帰り支度をしている。
背中まで伸ばした艶のある黒髪に、感情がわかりにくい吊り目。
割と大きめの胸に160cm超える長身。
ほんと成長したもんだな。
「帰るか」
「うん」
そう声をかけて二人で教室を出る。
今年、同じクラスになってから恒例の光景だった。
「ねえ。智子さんの告白、断っちゃって良かったの?」
心配そうな声で聞いてくる雅。
「いい子過ぎて俺には勿体ないよ」
半分は本音ではあった。
別にそこまで大した男じゃないし。
「告白されたの、高校になってから三人目だったかしら。何か気に入らないの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
と返して、俺と雅の関係はこのままでいいのだろうかと思う。
そのせいで新庄さんを傷つけてしまったわけだし。
結果はどうあれ、そろそろ想いを伝えるべきじゃないか?
「そだな。正直に理由を言うよ」
「うん……」
目を見開いて、真剣に話を聞く体勢。
「結構前から、雅。お前のことが好きだった。だから、彼女にしたい」
淡々とした日常の一幕のような告白。
ただ、雅とだから気合を入れて告白はどこか違う気がしたのだ。
「そう。ちなみにどういうところを好きになってくれたの?」
さっき新庄さんに俺がした質問がそのまま返ってきた。
あんまり嬉しそうじゃないし、断られる流れかなあ。
「なんていうんだろ。雅って昔から滅茶苦茶頭いいだろ」
「そうみたいね」
「負けず嫌いだからさ。雅に対抗しよう、対抗しようと思って色々やったんだよな」
勉強あるいは学問というフィールドで勝つのは難しい。
だから、身体を動かしたり、あるいは話術を磨いたりしてみたのだ。
おかげで体育全般が得意になったし、色々な奴と交流出来るようになった。
「幸久がそう思っているのはなんとなく感じてたけど。なるほどね」
合点がいったとばかりに頷く。
「ゲームでもなんでも、負けまいと色々やって。気がついたら好きになってた」
対抗心から好きになったというのも妙なものだけど、そうだから仕方がない。
「あ、あと、頭はいいけど人間関係が不器用なところは可愛いと思うぞ」
「それは余計なお世話よ」
なんて言いつつもあんまり怒っていない。
雅自身、自覚があるんだろう。
「ありがとう。幸久の気持ちは受け取ったわ。それで、返事なのだけど……」
「あ、ああ」
ごくりと生唾を飲み込む。
「ちょっと持ち帰って考えたいの。明日、登校の時に返事でもいいかしら?」
てっきり断られると思っていたので意外な返事だ。
ああ、でも。すぐ断ると傷つけるからという奴か。
「別に俺相手に、傷つけるかもとか考えなくていいぞ?」
「そうじゃなくて。本当に色々考えたいの!」
途端、大きな声を出したので仰天してしまった。
「あ、悪い。真剣に考えてくれるってことだな」
「そういうこと。だから、一日、待ってもらえない?」
「それなら待つよ。いい返事もらえるといいんだけどな」
人間関係に関しては不器用な雅の事だ。
今夜、考えすぎてオーバーヒートしないといいんだけど。
「ぜ、善処するわ」
何やら珍しく照れている。
「案外悪い気はしてない?」
「そ、それはそうよ。ちょっと色々整理したいだけ」
「そか。なら良かった」
つまり、かなり前向きに考えてくれているというわけで。
その晩は色々考えてなかなか寝付けなかったのだった。
翌朝。
「あの、昨日の返事なのだけど」
「ああ。ど、どうだ?」
昨日はああ言ってたけど、確定じゃない。
だからどんな返事が来るか、鼓動がだんだん早くなってくる。
「基本的には、OKなのだけど。ただ、確認したいことがあって」
「確認したいこと?なんだ?」
しかも、基本的にはOKっていうのはどういうことだ?
「これ。見てほしいの」
ホッチキスで綴じられたA4用紙二枚が渡される。
「ん?えーと……交際契約書?てなんだよ」
頭の中にハテナマークが点灯する。
昔から予想の斜め上のことをするやつだったけど。
まさか、交際契約書とは。
向かい合っているのは新庄智子さん。
ちょっと小柄で健康的な体躯と短めの茶髪が特徴で、皆から好かれる子だ。
クラスで一番ではないけど、「可愛い子ランキング」で上位五位以内くらい。
「羽多野君は、用件がなんだかたぶんわかっていると思うんだけど」
少し目を伏せて新庄さんは言う。
こういう仕草も様になるのだからそりゃ人気も出るというものだ。
「うん。なんとなくは」
とはいえ、心が動かない俺、羽多野幸久は少し申し訳ない気分だ。だって、間違いなく、彼女が望まない返事をしないといけないから。
「羽多野君の事、好き、です。彼女にしてもらえませんか?」
伏せていた視線を上げて、心持ち紅潮した顔での告白。
きっと、普通の男子ならドキッとしたり喜びが湧き上がるんだろうな。
「まずはありがとう。新庄さん。それで、俺のどこを好きになったのか聞かせてもらっていいかな?」
返事は決まっているけど、彼女の心持ちを聞いておきたかった。
「色々あるけど、やっぱりカッコいいところかな。サッカーでもロングパスが上手いし、バスケでもスリーポイントシュートを上手く決めちゃうし。あとは、皆に親切で世話焼きなところも、責任がある役割を積極的に引き受ける責任感も」
そうまで言ってもらえると男冥利に尽きる。
そこまでの男じゃないけどちゃんと見てくれているんだなあと。
だからこそ、心が重い。
「ありがとう。凄くちゃんと見てくれてたんだな。それは凄く嬉しい。でも……ごめん。新庄さんの想いには応えられない」
結局、返事は決まっていたのだ。
「そっか。やっぱりそうだよね」
悲しげな表情をしながらも、どこか予想していたという感じの言い草だ。
「聞いてもいいかな。やっぱり博士の事が好きなの?」
博士。本名、湯川雅。
小学校の頃からの幼馴染で、学校一の異才の持ち主。
頭が良すぎるので、尊敬と畏怖を込めてそう呼ばれている彼女。
「そう……だな。雅の事が好きだから。悪い」
少なくとも、傍目に見ても新庄さんは良物件だと思う。
ただ、俺の気持ちが雅にずっと向いているだけ。
「そうだよね。雅ちゃん、何でも出来ちゃうもんね。かなわないなあ……」
どこか届かないものを見るような目。
「言っとくけど。別にあいつが頭いいとかで好きになったわけじゃないからな?」
「わかってるよ。私が割って入れない何かがあるのかなーってわかるもの」
「まあ、そうだったらいいんだけどな」
あいつは俺の事をどう思っていてくれるんだろうか。
「でも、雅ちゃんは頭良すぎて逆に不器用なところあるから。頑張って!」
「振った相手に応援されるとは。まあ、頑張るさ」
「それと、これからも友達で居てくれる?」
「新庄さんが辛くなければ。俺は大丈夫だよ」
「そっか。良かった」
こうして、彼女からの告白は終わったのだった。
◇◇◇◇
「雅の頭が良すぎる……か」
新庄さんがそう評するのもわかる。
決して俺だって成績が悪いというわけじゃない。
ただ、俺にしても、成績優秀者にしてもどうにも超えられない壁があるのは事実。
それは、彼女が「テストで優秀な成績を収める」を超えて、物事を根本からいつも考えているせいだ、と俺は思う。
それを示すエピソードにこんなものがあった。
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15÷3(2+3)
「この式の答えがわかる者はいるか?」
確か、中学一年くらいの数学の授業だったように思う。
きっと、教師にしてみればちょっとした引っ掛け問題のつもりだったのだろう。
俺は「あー、15÷3(2 + 3) = 15 ÷3(5) = 15 ÷ 15 = 1 だな。÷を先に計算すると
×をつける意地の悪い奴だ」そんな事を思ったのだけど。
「はい」
躊躇せずに手を上げた雅は、つかつかと黒板に
―――――――――――――――――――――――
15÷3(2+3) = (15 ÷ 3)(2 + 3) = 5(2 + 3) = 25
かあるいは
15÷3(2+3) = 15 ÷ 3(2 + 3) = 15 ÷3(5) = 15 ÷ 15 = 1
のどちらでも良い。
―――――――――――――――――――――――
と黒板に書いたのだった。
「湯川。どちらでも良いということはなくてだな。この場合、下が正解だ」
そう教師が言った途端、ため息をついて。
「先生は暗黙の乗法の優先順位についてきちんと説明されましたか?私は記憶にありませんが」
「いや、でも、数学ではだな……」
「数学はそんなくだらないものを定めません。演算子の優先順位という些末なものは全く数学の本質ではありませんし、専門の数学の教科書によっては、実際に暗黙の乗法について異なる表記をしているものもあります」
「しかしだな」
「これは単なる記法の問題に過ぎないということもわからないんですか?先生は本当に数学を理解されていますか?」
怒涛のごとく畳み掛けて、「こういう数学ですらない引っ掛け問題は止めていただきたいです」と論破したので、教室中が戦々恐々としたものだった。先生も生徒も同様にという意味で。
出題の枠内でしか考えられない俺たちとは違うと実感させられたものだ。
それでいてクラスメイトに勉強を教える時には友好的なものだから、怖いのか優しいのかよくわからないという奴もいた。あるいは、授業の進行を乱されたと彼女を嫌う奴も居た。いずれにしても、俺に言わせれば単純に彼女がとても生真面目故なのだけど、きっと中学以降の彼女しか見ていないとわからないことだろう。
「はぁ。あそこまで先生をやり込める必要なかったわよね」
「気にするな。今度から、もう少し穏やかに言えればいいんじゃないか」
彼女は彼女で苛烈な物言いをしてしまった事を後悔して、俺の前でだけ凹んでいたものだった。何度かの反省を経て、教師の間違いを指摘する時も、最初のような苛烈な物言いはなくなったものの、やはり生徒や教師からは畏怖の目で見られるのは変わらなかった。
◇◇◇◇
放課後。昼間に話題になった雅がかばんを持って帰り支度をしている。
背中まで伸ばした艶のある黒髪に、感情がわかりにくい吊り目。
割と大きめの胸に160cm超える長身。
ほんと成長したもんだな。
「帰るか」
「うん」
そう声をかけて二人で教室を出る。
今年、同じクラスになってから恒例の光景だった。
「ねえ。智子さんの告白、断っちゃって良かったの?」
心配そうな声で聞いてくる雅。
「いい子過ぎて俺には勿体ないよ」
半分は本音ではあった。
別にそこまで大した男じゃないし。
「告白されたの、高校になってから三人目だったかしら。何か気に入らないの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
と返して、俺と雅の関係はこのままでいいのだろうかと思う。
そのせいで新庄さんを傷つけてしまったわけだし。
結果はどうあれ、そろそろ想いを伝えるべきじゃないか?
「そだな。正直に理由を言うよ」
「うん……」
目を見開いて、真剣に話を聞く体勢。
「結構前から、雅。お前のことが好きだった。だから、彼女にしたい」
淡々とした日常の一幕のような告白。
ただ、雅とだから気合を入れて告白はどこか違う気がしたのだ。
「そう。ちなみにどういうところを好きになってくれたの?」
さっき新庄さんに俺がした質問がそのまま返ってきた。
あんまり嬉しそうじゃないし、断られる流れかなあ。
「なんていうんだろ。雅って昔から滅茶苦茶頭いいだろ」
「そうみたいね」
「負けず嫌いだからさ。雅に対抗しよう、対抗しようと思って色々やったんだよな」
勉強あるいは学問というフィールドで勝つのは難しい。
だから、身体を動かしたり、あるいは話術を磨いたりしてみたのだ。
おかげで体育全般が得意になったし、色々な奴と交流出来るようになった。
「幸久がそう思っているのはなんとなく感じてたけど。なるほどね」
合点がいったとばかりに頷く。
「ゲームでもなんでも、負けまいと色々やって。気がついたら好きになってた」
対抗心から好きになったというのも妙なものだけど、そうだから仕方がない。
「あ、あと、頭はいいけど人間関係が不器用なところは可愛いと思うぞ」
「それは余計なお世話よ」
なんて言いつつもあんまり怒っていない。
雅自身、自覚があるんだろう。
「ありがとう。幸久の気持ちは受け取ったわ。それで、返事なのだけど……」
「あ、ああ」
ごくりと生唾を飲み込む。
「ちょっと持ち帰って考えたいの。明日、登校の時に返事でもいいかしら?」
てっきり断られると思っていたので意外な返事だ。
ああ、でも。すぐ断ると傷つけるからという奴か。
「別に俺相手に、傷つけるかもとか考えなくていいぞ?」
「そうじゃなくて。本当に色々考えたいの!」
途端、大きな声を出したので仰天してしまった。
「あ、悪い。真剣に考えてくれるってことだな」
「そういうこと。だから、一日、待ってもらえない?」
「それなら待つよ。いい返事もらえるといいんだけどな」
人間関係に関しては不器用な雅の事だ。
今夜、考えすぎてオーバーヒートしないといいんだけど。
「ぜ、善処するわ」
何やら珍しく照れている。
「案外悪い気はしてない?」
「そ、それはそうよ。ちょっと色々整理したいだけ」
「そか。なら良かった」
つまり、かなり前向きに考えてくれているというわけで。
その晩は色々考えてなかなか寝付けなかったのだった。
翌朝。
「あの、昨日の返事なのだけど」
「ああ。ど、どうだ?」
昨日はああ言ってたけど、確定じゃない。
だからどんな返事が来るか、鼓動がだんだん早くなってくる。
「基本的には、OKなのだけど。ただ、確認したいことがあって」
「確認したいこと?なんだ?」
しかも、基本的にはOKっていうのはどういうことだ?
「これ。見てほしいの」
ホッチキスで綴じられたA4用紙二枚が渡される。
「ん?えーと……交際契約書?てなんだよ」
頭の中にハテナマークが点灯する。
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