幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一

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第3話 交際契約書が俺に一方的に有利なので書き換えてみた

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「自分に自信がないからって、こんな契約作らなくても。それに、雅。俺のこと好き過ぎるだろ」

 一瞬ビビったけどみやびの意図は明白。
 私は絶対に振らないけど、俺は雅をいつでも振ってOKと。

「だって。私を好きで居続けてもらえるか自信がないもの」

 ふてくされたような言葉はいつか聞いたことがあるものだった。
 雅は頭が良すぎる故か、他人がわからないこともすぐわかってしまうことがある。
 最短距離で答えにたどりついてしまって、友達をびっくりさせる事もしばしば。
 そういう所も可愛げあるよね、なんて言われているのだけど、本人的には自信がないらしい。

 契約書の文面を見るとわかるのだけど、契約違反した場合のペナルティを被るのは全て乙、つまり雅の方になっている。

「それで……これにサインしてもらえる?」

 どこか不安そうな顔で様子を伺う雅。
 しかし、意図はわかるんだけど……。

「さすがに飲めないな。俺が一方的に有利だろ」
「だって。私は好きで居続けても幸久がそうなのかわからないもの」
「仕方ない。これ、元のWordファイルあるだろ?対等なのに書き換えようぜ」
「それは、あるけど……」
「じゃあ、後でメールで送ってくれ。ちゃんと対等なものに書き換えるから」
「でも、私は幸久の事を絶対に振りたくないもの」

 こいつの想いがそこまで強いとは予想外だったけど、それは俺だって同じだ。

「わかった。とにかく、それも考えて書き換えるから」
「うん……」

 こうして、一端交際契約書は保留となって登校することに。
 昼休みの間に学校のPCを作って、本来俺がしたかった契約に書き換えた。
 放課後。

「ほい。これが修正版の契約書な。これなら文句ないだろ?」

 なんていうか、少し早すぎる気もするけど、俺だって伊達にずっと一緒にいたわけじゃない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
              交際契約書

 各当事者は、交際をするにあたり、交際契約(以下、「本契約」という)を締結する。

 甲:羽多野幸久はたのゆきひさ
 乙:湯川雅ゆかわみやび

 交際内容:
  1.甲と乙の二者間での外出や屋内での遊戯(以下、デート)
  2.甲と乙の肉体的接触(手を握る、抱擁、性行為などを含む)
  3.甲と乙の二者間での文字および音声によるやり取り
  4.甲と乙の相互排他的な独占権。

 契約締結日:2021年7月2日

 特記事項:
  1.について:一度以上とする
  2.について:一度以上とする
  3.について:一度以上とする
  4.について:甲と乙はお互いに、甲乙以外の異性である第三者と二人きりで会わないことを約束する。

第一条(契約の目的)
 1.本契約は、甲と乙の交際における権利および義務について定めることを目的とする。
 2.甲および乙は、信義誠実の原則に従い、誠実に本契約上の義務を履行する。

第二条(交際の内容)
 甲と乙が行う交際内容は上記の通りとする。

第三条(善管注意義務)
 甲と乙は交際をお互いに積極的かつ善良な注意をもって行うものとする。その他不信用を一切行わない。

第四条(契約解除)
 甲と乙はお互いに契約解除の権利を持たないものとする。

第五条(契約の有効期間)
 本契約の有効期間は、無期限とする。
 契約満了の申し出は認めないものとする。

 本契約成立の証として、本書作成し、双方にて署名あるいは捺印を施し、双方保管するものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これだと……幸久ゆきひさが私を絶対に振れないじゃない」
「そういう意図だからな。大体、前のでも、お前は振れない内容だったろ?」

 なら、俺だって同じことを誓いたい。

「もし、私の事を好きじゃなくなったら?」

 不安に揺れる瞳で問いかける雅。

「恋愛的な意味で好きじゃなくても一緒に居られるだろ。自信あるぞ」

 ちょっとキザかと思ってしまった。

「それに、私が書いたのよりスキンシップとかの頻度上がってる」

 恥ずかしいのか、顔全体が真っ赤だ。

「俺だって雅と色々したいってことだ。多すぎたか?」
「ううん。私も、それくらい色々したかった」

 ほんと、二人して何をやってるんだと思う。

「それと、無期限って……実質プロポーズと同じじゃないの」
「雅となら一緒にやってけると思うぞ。もちろん、本物はだいぶ先だけど」

 不器用でこんなヘンテコな事をする娘で、愛が重くて。
 でも、そんな彼女を好きになったのだ。

「それで、サイン、してもらえるか?」

 反応からもう返事はわかっていたけど。

「はい。喜んで!」

 カバンからボールペンを出したかと思うと、さらさらとサインしている。
 
「しかし、本当に一生ものの契約をしてしまったな」
「わかってて書いたんじゃないの?」
「そりゃもちろん。ところで、雅はムッツリだな」
「なんでよ」
「わざわざ性行為などを含む、って書いてる辺り」
「そ、それは。いずれはすることだから……」
「にしても、わざわざ書いてる辺り意識はしてるんだろ」
「もう。からかわないでよ!」
「悪い悪い。とりあえず、早速、手でも繋いでみるか」

 と言いつつ、隣の雅の手をぎゅっと握る。

「うう。そういえば、幸久と手をつないだことなかったわよね」
「俺もな。なんていうか、めちゃくちゃ恥ずかしいな」

 お互いにそんな事を話しながら帰った俺たち。
 凄く重い約束をしたのに、手を繋ぐことすらこんな有様だ。
 でも、隣の雅を見るととてもうれしそうで。
 こんな彼女とずっと一緒にいられるならいいか。

(あ、でも)

 こんな契約を交わしたということは、いずれ、本当に結婚する日が来るんだよな。
 隣にいる彼女が結婚相手……なんとも言えない嬉しいような、恥ずかしいような気分になる。

「どうしたの?変な顔してるけど」

 色々想像してる間に妙な表情をしてたらしい。

「変な顔って……ちょっと色々考えてただけ」
「色々ってなに?」
「いずれ、結婚するわけだろ。その時、お前はドレス着てるんだよなとか」
「ちょ、ちょっと先走り過ぎでしょ……」
「でも、雅もそういう気持ちなわけだろ?」
「それはそうだけど……私も変な気持ちになりそうだし」

 見ると、妙にだらしない表情になったり、かと思えば、にぱにぱしていたり。
 先走り過ぎといいつつ、こいつも大概だな。

「お前も色々だらしない表情してるぞ?」
「失礼ね!否定できないけど」

 夏の暑い日差しが差し込む中。
 そんな、いつかの未来に思いを馳せながら、俺達は帰ったのだった。
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