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北城市記録会 1年編
第21走 帰って来た景色
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鮮やかな赤い陸上トラックが、選手の顔を活き活きと映えさせている。
◇
既にトラックではハードル種目の準備が整っていた。
キタ高からは2年生が男女1人ずつ参加する予定だ。
そんなキタ高陸上部のユニフォームはというと、上下白色を基調としており、サイドには黄色と赤のラインが縦にスッと伸びている。
そして胸元には”KITASHIRO”の文字が書かれており、県内でもカッコいいと評判のユニフォームである。
【On Your Marks】※
【Set】
そして午前9時に、記録会最初の種目の始まりを告げる号砲が……。
【パァン!!!】
トラックに鳴り響いた。
————————
そんな最初のピストルの音に、珍しく体を震わせている人物がいた。
紛れもない結城である。
結城は約1年半ぶりに聞いたスタートピストルの音を聞いた途端、勝手に体が震えていたのだ。
だがこれは恐怖ではない。おそらく試合の興奮と緊張感を、音と共に思い出していたからである。
(結局戻ってきたんだな、俺は)
頭の中でつぶやく結城。
そして同時に目の前のトラックで走る選手達を見て思う。
”この人達は止まる事なくずっと練習していたんだ”
そんな事を考えてしまうと、少しだけ自分に恥ずかしさを感じるのだった。
◇
いよいよハードル種目は、北城高校2年生の菅原健太郎の走る第4組に順番が回ってきていた。
北城陸上部は部員が走る際、荷物番のマネージャー以外の選手はスタンド最前列に行って応援するのが基本だ。
そして健太郎が号砲と共にスタートした後は、全員で”菅原ファイットー!”などの大きな声援を送る。
しかし基本的にはキタ高に限らず、大半の陸上部はこの応援スタイルだ。
【スガ、ファイットー!ベストベストッ!!】
ちなみに今回の記録会の特徴として、200m走が無い事が挙げられる。
というのも全体の参加人数が多すぎる影響で、男女の100m走だけで3時間以上かかってしまうからだ。
特に男子に関しては、第49組まで行われる。
つまり単純計算で1組9人走るとすると、最高で441人が走るのだ。
何かの種目を削らなければ、深夜まで記録会は続いてしまう。
その犠牲になったのが200m走だったのだ。
そして100m走が終わり次第、残りは長距離の種目が続いて、今日の記録会は幕を閉じていくのである。
————————
このような長い一日を過ごすにあたって、試合に出ない結城は特にする事が無い。
ただトラックを見て応援する事しか出来ないのだ。
もちろん始めの方は、久しぶりに見る陸上競技に胸を躍らせていた。
だが結城も人間だ。やはり時間が経てば飽きてくる。
それもそのはず、中学時代にも腐るほど見て来た光景なのだ。
正直言って自分の興味がない種目を見続けるのにも限界があった。
(高校生、やっぱ競技レベル高いなー。でも100mはまだ先だし飽きてきたなぁ……)
そんな事を考えながら、トラックで行われている800mをボンヤリと眺めている結城。
するとそれに気付いたのか、はたまた偶然か、同級生の翔が結城の肩を叩いた。
「おい早馬!ヒマなんやったらサブ一緒に行くぞ!」
"サブ"とはサブトラックの略称である。
目の前のメイントラックとは別に、大きな競技場には必ずサブトラックがある。
主にそこはウォーミングアップの場所として使われるのだ。
つまり翔の誘いは”ウォーミングアップに付き合ってくれ”と同じ意味でもある。
だがキタ高から数人が出場する400m走があと30分程で始まる所だったので、結城は行く事を少し迷っていた。
「でも、もうすぐ400始まるからなぁ……」
「記録会やし別にいいやろ。それに俺の走り見てくれや。スタート後の姿勢チェックして欲しいねん」
翔は珍しく結城に信頼を置く発言をしていた。
もちろん翔からハッキリと何かを頼まれるのが初めてだった結城は、それを断わる事は出来ない。
「はぁ……仕方ねぇな。10秒台の俺が見てあげましょう」
「なんや腹立つなお前!俺やってベスト(タイム)は10秒台じゃ」
なんてやり取りをしていると、様子を見ていた康太もスグにやって来る。
「アップ行く感じ?俺も行くっ!!」
こうして3人になった1年生達は、共にサブトラックへと向かうのだった。
もちろん結城だけは手ぶらである。
しかしこのサブトラックで結城は、1年以上陸上から離れていたという”意味の重さ”を、身をもって知る事となる。
————————
※On Your Marks・Set……「いちについて、よーい」の英語版。正式な陸上の記録会や大会では、全てこの英語で統一されている。
◇
既にトラックではハードル種目の準備が整っていた。
キタ高からは2年生が男女1人ずつ参加する予定だ。
そんなキタ高陸上部のユニフォームはというと、上下白色を基調としており、サイドには黄色と赤のラインが縦にスッと伸びている。
そして胸元には”KITASHIRO”の文字が書かれており、県内でもカッコいいと評判のユニフォームである。
【On Your Marks】※
【Set】
そして午前9時に、記録会最初の種目の始まりを告げる号砲が……。
【パァン!!!】
トラックに鳴り響いた。
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そんな最初のピストルの音に、珍しく体を震わせている人物がいた。
紛れもない結城である。
結城は約1年半ぶりに聞いたスタートピストルの音を聞いた途端、勝手に体が震えていたのだ。
だがこれは恐怖ではない。おそらく試合の興奮と緊張感を、音と共に思い出していたからである。
(結局戻ってきたんだな、俺は)
頭の中でつぶやく結城。
そして同時に目の前のトラックで走る選手達を見て思う。
”この人達は止まる事なくずっと練習していたんだ”
そんな事を考えてしまうと、少しだけ自分に恥ずかしさを感じるのだった。
◇
いよいよハードル種目は、北城高校2年生の菅原健太郎の走る第4組に順番が回ってきていた。
北城陸上部は部員が走る際、荷物番のマネージャー以外の選手はスタンド最前列に行って応援するのが基本だ。
そして健太郎が号砲と共にスタートした後は、全員で”菅原ファイットー!”などの大きな声援を送る。
しかし基本的にはキタ高に限らず、大半の陸上部はこの応援スタイルだ。
【スガ、ファイットー!ベストベストッ!!】
ちなみに今回の記録会の特徴として、200m走が無い事が挙げられる。
というのも全体の参加人数が多すぎる影響で、男女の100m走だけで3時間以上かかってしまうからだ。
特に男子に関しては、第49組まで行われる。
つまり単純計算で1組9人走るとすると、最高で441人が走るのだ。
何かの種目を削らなければ、深夜まで記録会は続いてしまう。
その犠牲になったのが200m走だったのだ。
そして100m走が終わり次第、残りは長距離の種目が続いて、今日の記録会は幕を閉じていくのである。
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このような長い一日を過ごすにあたって、試合に出ない結城は特にする事が無い。
ただトラックを見て応援する事しか出来ないのだ。
もちろん始めの方は、久しぶりに見る陸上競技に胸を躍らせていた。
だが結城も人間だ。やはり時間が経てば飽きてくる。
それもそのはず、中学時代にも腐るほど見て来た光景なのだ。
正直言って自分の興味がない種目を見続けるのにも限界があった。
(高校生、やっぱ競技レベル高いなー。でも100mはまだ先だし飽きてきたなぁ……)
そんな事を考えながら、トラックで行われている800mをボンヤリと眺めている結城。
するとそれに気付いたのか、はたまた偶然か、同級生の翔が結城の肩を叩いた。
「おい早馬!ヒマなんやったらサブ一緒に行くぞ!」
"サブ"とはサブトラックの略称である。
目の前のメイントラックとは別に、大きな競技場には必ずサブトラックがある。
主にそこはウォーミングアップの場所として使われるのだ。
つまり翔の誘いは”ウォーミングアップに付き合ってくれ”と同じ意味でもある。
だがキタ高から数人が出場する400m走があと30分程で始まる所だったので、結城は行く事を少し迷っていた。
「でも、もうすぐ400始まるからなぁ……」
「記録会やし別にいいやろ。それに俺の走り見てくれや。スタート後の姿勢チェックして欲しいねん」
翔は珍しく結城に信頼を置く発言をしていた。
もちろん翔からハッキリと何かを頼まれるのが初めてだった結城は、それを断わる事は出来ない。
「はぁ……仕方ねぇな。10秒台の俺が見てあげましょう」
「なんや腹立つなお前!俺やってベスト(タイム)は10秒台じゃ」
なんてやり取りをしていると、様子を見ていた康太もスグにやって来る。
「アップ行く感じ?俺も行くっ!!」
こうして3人になった1年生達は、共にサブトラックへと向かうのだった。
もちろん結城だけは手ぶらである。
しかしこのサブトラックで結城は、1年以上陸上から離れていたという”意味の重さ”を、身をもって知る事となる。
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※On Your Marks・Set……「いちについて、よーい」の英語版。正式な陸上の記録会や大会では、全てこの英語で統一されている。
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