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北城市地区予選 1年生編
第57走 再始動を告げる鼓動
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いよいよ結城の出番がやってきた!
「はい7組、準備して!!」
招集係が第7組の選手達に伝える。
それを聞いた結城も、スタブロ(スターティングブロック)の所へと駆け足で向かった。
(……俺、本当に帰って来たんだな)
久しぶりに見るスタート地点からの景色は、結城の心を強く震わせていた。
心臓は再び早くなり、地面を踏んでいる感覚も薄くなる。
緊張のさらに先にある感情に身を任せながら、結城は上がり始めた息を必死に抑えるのだった。
(落ち着け……大丈夫だ……ただ100mを走るだけだ……)
そんなセリフを何度も言い聞かせながら、結城はスタブロを調整してスタートの最終確認を行う。
20mほどダッシュをした後、結城はサッと振り向き、いよいよ号砲を待つだけのスタート地点へと戻るのだ。
だがその瞬間、スタンド下の待機場所にいるキャプテン隼人と目が合った。
それに気付いた隼人も少しだけ口角を上げ、小さく頷く。
言葉は発さずとも”大丈夫”という言葉が聞こえるようだ。
そしてスタート地点に戻った第7組の選手達は、スタブロの1mほど後方に立つ。
そう、いよいよスタートだ。
さきほど雨天練習場で騒がしかった選手も、真剣な表情に変わっている。
(大丈夫、たった100m走るだけだ。落ち着け、落ち着け……。大丈夫だから……落ち着け、ゆっくりと……あぁクソ)
結城の思考は早くなり、オーバーヒートを起こす。
まさに不安と緊張がピークに達した、だがその時だった。
「楽しく走ろう」
「……!」
隣のレーンの前田が、小さく小さく呟いたのだ。
それは独り言ではない。間違いなく結城に対しての言葉だった。
レース直前、しかもこれから競う相手に対してだ。
それは後輩の今江に話を聞かされた前田の中で、結城に対する特別な意識が生まれ始めていた証拠でもあった。
気付けば結城の脳は再び集中力を高め始める。
————————
【On Your Marks】
スターターの声がスピーカーを通して響く。
より一層引き締まった表情に変わる選手達は、スタブロに脚をセットし始めた。
結城も”軽く2回ジャンプをして太ももを叩く”という中学からのルーティンを行った後、スタブロにゆっくりと脚をかける。
スパイクのピンをゴムの部分に引っ掛け、両手の人差し指と親指を支えにしながらスタートラインぎりぎりに指を置く。
そして少しだけゴール地点を見た後、視線をゆっくりタータンへ下ろした。
結城の視界には、自分の体で影になった赤色のタータンが広がる。
数年ぶりの色が結城の網膜を染めていたのだ。
(あ……)
その瞬間、結城の脳内では”この1か月”の事がフラッシュバックしていた。
陸上を捨ててキタ高に逃げてきた事。
自分への憧れを口にする同級生に出会った事。
そして陸上を再開して、今この景色を再び見ている事実。
全てが偶然で、全てが必然のような気がしていた。
◇
そしてスタンドは静寂に包まる。
呼吸の音すら許されない、スタート前の一瞬の静寂。
だがそこでも結城は思い出す。
彼にとって”この静寂”は100m走の中で一番好きな瞬間だったという事を。
時間が止まったような感覚を味わえるその瞬間に、結城の集中はいよいよピークを迎える。
【———Set】
その合図と共に、選手達がグッと腰を上げた。
そしてスターターは右手をスッと挙げ、ピストルの引き金に指をかける。
それはまさに結城の人生が……
【パァアアン!!!!!!】
再び動き出した事を告げる合図だった。
————————
「はい7組、準備して!!」
招集係が第7組の選手達に伝える。
それを聞いた結城も、スタブロ(スターティングブロック)の所へと駆け足で向かった。
(……俺、本当に帰って来たんだな)
久しぶりに見るスタート地点からの景色は、結城の心を強く震わせていた。
心臓は再び早くなり、地面を踏んでいる感覚も薄くなる。
緊張のさらに先にある感情に身を任せながら、結城は上がり始めた息を必死に抑えるのだった。
(落ち着け……大丈夫だ……ただ100mを走るだけだ……)
そんなセリフを何度も言い聞かせながら、結城はスタブロを調整してスタートの最終確認を行う。
20mほどダッシュをした後、結城はサッと振り向き、いよいよ号砲を待つだけのスタート地点へと戻るのだ。
だがその瞬間、スタンド下の待機場所にいるキャプテン隼人と目が合った。
それに気付いた隼人も少しだけ口角を上げ、小さく頷く。
言葉は発さずとも”大丈夫”という言葉が聞こえるようだ。
そしてスタート地点に戻った第7組の選手達は、スタブロの1mほど後方に立つ。
そう、いよいよスタートだ。
さきほど雨天練習場で騒がしかった選手も、真剣な表情に変わっている。
(大丈夫、たった100m走るだけだ。落ち着け、落ち着け……。大丈夫だから……落ち着け、ゆっくりと……あぁクソ)
結城の思考は早くなり、オーバーヒートを起こす。
まさに不安と緊張がピークに達した、だがその時だった。
「楽しく走ろう」
「……!」
隣のレーンの前田が、小さく小さく呟いたのだ。
それは独り言ではない。間違いなく結城に対しての言葉だった。
レース直前、しかもこれから競う相手に対してだ。
それは後輩の今江に話を聞かされた前田の中で、結城に対する特別な意識が生まれ始めていた証拠でもあった。
気付けば結城の脳は再び集中力を高め始める。
————————
【On Your Marks】
スターターの声がスピーカーを通して響く。
より一層引き締まった表情に変わる選手達は、スタブロに脚をセットし始めた。
結城も”軽く2回ジャンプをして太ももを叩く”という中学からのルーティンを行った後、スタブロにゆっくりと脚をかける。
スパイクのピンをゴムの部分に引っ掛け、両手の人差し指と親指を支えにしながらスタートラインぎりぎりに指を置く。
そして少しだけゴール地点を見た後、視線をゆっくりタータンへ下ろした。
結城の視界には、自分の体で影になった赤色のタータンが広がる。
数年ぶりの色が結城の網膜を染めていたのだ。
(あ……)
その瞬間、結城の脳内では”この1か月”の事がフラッシュバックしていた。
陸上を捨ててキタ高に逃げてきた事。
自分への憧れを口にする同級生に出会った事。
そして陸上を再開して、今この景色を再び見ている事実。
全てが偶然で、全てが必然のような気がしていた。
◇
そしてスタンドは静寂に包まる。
呼吸の音すら許されない、スタート前の一瞬の静寂。
だがそこでも結城は思い出す。
彼にとって”この静寂”は100m走の中で一番好きな瞬間だったという事を。
時間が止まったような感覚を味わえるその瞬間に、結城の集中はいよいよピークを迎える。
【———Set】
その合図と共に、選手達がグッと腰を上げた。
そしてスターターは右手をスッと挙げ、ピストルの引き金に指をかける。
それはまさに結城の人生が……
【パァアアン!!!!!!】
再び動き出した事を告げる合図だった。
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