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兵庫県予選大会 1日目
第103走 佐々木隼人の場合
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一瞬だけ、一瞬だけ時が止まったように感じた。
◇
決勝進出がかかった男子4継の準決勝。
予選で良いタイムを出したした俺達キタ高は、準決勝でもどんなタイムを残すのか注目されているのだろう。
実際、第2走を走る俺自身の調子も悪くない。
予選でもイメージ通りの走りはできた。
内転筋の痛みも出てないし、全力で走るのに支障はなさそうだ。
ただ予選と大きく違う所があるとしたら、第1走が1年の早馬から2年生の黒崎に変わった事。
去年から俺と黒崎は4継の1、2走として走ってきたし、正直今の早馬よりは安心してバトンを受ける事ができる。
いつも自身無さそうな顔をしてるけど、やるときはちゃんとやる。
それが黒崎っていう後輩だ。
俺はそう思ってたから、レース前の招集で不安な表情を浮かべていた黒崎には”あえて”何も声をかけなかった。
今思えば、いつもは1回ぐらい合う目が1度も合わなかった時点で、俺は気付くべきだったのかもしれない。
後悔だ。
今の俺の胸を埋め尽くしているのは、間違いなく後悔だ。
だから俺は、レース中にも関わらず叫んでいたんだ。
「俺を見ろぉぉ!黒崎ぃぃ!!!」
————————
黒崎は見た事ないような苦悶の表情を浮かべている。
ハッキリ言って走り自体も”最悪”の部類に近いスピードとフォームだ。
俺はこの状況を脳みそが理解した時、一瞬だけ時間が止まったように感じていた。
(あ、4継が終わる)
最初に浮かんだのはこの言葉だ。
なにせ同じ準決勝第2組には言わずと知れたタケニもいるし、ここまで出遅れたら取り返せないだろう。
あぁ、この全身が海の底に沈んだ感じ、久しぶりだな。
去年の食堂事件の時以来か。
どうしていつもこんな……。
いや、違う!
【スゥゥ……!!】
ハッとした俺は、鼻から一気に空気を吸い込んだ。
頭がネガティブで埋め尽くされた時に、いつもこうやってストレスをコントロールするようにしてきたからだ。
そうだ、去年の何も出来なかった俺とは、もう違うんだよ。
相変わらずネガティブになりがちなのは変わらないが、対処法はこの1年で十分に学んできただろ?
何より、今の俺には期待してくれる仲間が沢山いる。
良かった、まだ頭は冷静さを欠いていないみたいだ。
気付けば俺は、マーカーを通り過ぎた黒崎に合わせるようにゆっくり動き出し、ほとんど後ろを向くような状態で黒崎からバトンを受け取っていた。
◇
俺が前を向いた時に見えたのは、自分以外の全ての第2走の選手だった。
真ん中の5レーンを走っているのに内側の選手全員が見える時点で、ダントツの最下位って訳だ。
だが不思議と俺の心は焦りを感じてはいない。
むしろ接戦になる方が力が入ってしまうのだから、この状況は自分の走りだけに100%集中できるとも考えられるんだ。
そう、俺はやれる事をやるだけだ。
走りのギアを最高速に入れろ!
もちろん”練習通り”なんて考えられる戦況ではないけど、1番大事にしてきた”ヒザの高さ”と、”接地の瞬間”だけ足の裏がハジける感覚だけは常に意識するんだ。
これは何度も過去の走りを見て考え出した自分なりの感覚。
これを意識した時としない時の差は、思っているよりも結構大きい。
周りはあんまり理解してくれないけど。
けどそんな事を考えてる内に、小さかった他校の選手の背中が徐々に大きくなってきた。
もう今が何位なんて考える余裕は1ミリも残ってない。
ただやれる事だけに集中しろ、今はそれだけが重要だ。
けど1つだけ、中々差がつまらない背中もあるな……。
あぁ、タケニの虎島か。
1年ながら3年と遜色ない走りをする、スーパールーキーの名にふさわしいような選手だ。
けど早馬とかの1年には嫌われてるみたいで、性格には難があるらしい。
まぁ知らないよ、そんな事は。
ここで追いつけなきゃ、俺は何の為に”エース区間”と呼ばれる4継の第2走を走っているんだ?
追いつきたい。 追いつける。 抜かす。
…………勝ちたいっ!!
◇
遠く離れた虎島の背中を追っていた俺は、気付けば前にいた背中の数を1つか2つ減らしていた。
だけど虎島との差は大きく詰められない。
郡山、渚……あとは頼む!
————————
◇
決勝進出がかかった男子4継の準決勝。
予選で良いタイムを出したした俺達キタ高は、準決勝でもどんなタイムを残すのか注目されているのだろう。
実際、第2走を走る俺自身の調子も悪くない。
予選でもイメージ通りの走りはできた。
内転筋の痛みも出てないし、全力で走るのに支障はなさそうだ。
ただ予選と大きく違う所があるとしたら、第1走が1年の早馬から2年生の黒崎に変わった事。
去年から俺と黒崎は4継の1、2走として走ってきたし、正直今の早馬よりは安心してバトンを受ける事ができる。
いつも自身無さそうな顔をしてるけど、やるときはちゃんとやる。
それが黒崎っていう後輩だ。
俺はそう思ってたから、レース前の招集で不安な表情を浮かべていた黒崎には”あえて”何も声をかけなかった。
今思えば、いつもは1回ぐらい合う目が1度も合わなかった時点で、俺は気付くべきだったのかもしれない。
後悔だ。
今の俺の胸を埋め尽くしているのは、間違いなく後悔だ。
だから俺は、レース中にも関わらず叫んでいたんだ。
「俺を見ろぉぉ!黒崎ぃぃ!!!」
————————
黒崎は見た事ないような苦悶の表情を浮かべている。
ハッキリ言って走り自体も”最悪”の部類に近いスピードとフォームだ。
俺はこの状況を脳みそが理解した時、一瞬だけ時間が止まったように感じていた。
(あ、4継が終わる)
最初に浮かんだのはこの言葉だ。
なにせ同じ準決勝第2組には言わずと知れたタケニもいるし、ここまで出遅れたら取り返せないだろう。
あぁ、この全身が海の底に沈んだ感じ、久しぶりだな。
去年の食堂事件の時以来か。
どうしていつもこんな……。
いや、違う!
【スゥゥ……!!】
ハッとした俺は、鼻から一気に空気を吸い込んだ。
頭がネガティブで埋め尽くされた時に、いつもこうやってストレスをコントロールするようにしてきたからだ。
そうだ、去年の何も出来なかった俺とは、もう違うんだよ。
相変わらずネガティブになりがちなのは変わらないが、対処法はこの1年で十分に学んできただろ?
何より、今の俺には期待してくれる仲間が沢山いる。
良かった、まだ頭は冷静さを欠いていないみたいだ。
気付けば俺は、マーカーを通り過ぎた黒崎に合わせるようにゆっくり動き出し、ほとんど後ろを向くような状態で黒崎からバトンを受け取っていた。
◇
俺が前を向いた時に見えたのは、自分以外の全ての第2走の選手だった。
真ん中の5レーンを走っているのに内側の選手全員が見える時点で、ダントツの最下位って訳だ。
だが不思議と俺の心は焦りを感じてはいない。
むしろ接戦になる方が力が入ってしまうのだから、この状況は自分の走りだけに100%集中できるとも考えられるんだ。
そう、俺はやれる事をやるだけだ。
走りのギアを最高速に入れろ!
もちろん”練習通り”なんて考えられる戦況ではないけど、1番大事にしてきた”ヒザの高さ”と、”接地の瞬間”だけ足の裏がハジける感覚だけは常に意識するんだ。
これは何度も過去の走りを見て考え出した自分なりの感覚。
これを意識した時としない時の差は、思っているよりも結構大きい。
周りはあんまり理解してくれないけど。
けどそんな事を考えてる内に、小さかった他校の選手の背中が徐々に大きくなってきた。
もう今が何位なんて考える余裕は1ミリも残ってない。
ただやれる事だけに集中しろ、今はそれだけが重要だ。
けど1つだけ、中々差がつまらない背中もあるな……。
あぁ、タケニの虎島か。
1年ながら3年と遜色ない走りをする、スーパールーキーの名にふさわしいような選手だ。
けど早馬とかの1年には嫌われてるみたいで、性格には難があるらしい。
まぁ知らないよ、そんな事は。
ここで追いつけなきゃ、俺は何の為に”エース区間”と呼ばれる4継の第2走を走っているんだ?
追いつきたい。 追いつける。 抜かす。
…………勝ちたいっ!!
◇
遠く離れた虎島の背中を追っていた俺は、気付けば前にいた背中の数を1つか2つ減らしていた。
だけど虎島との差は大きく詰められない。
郡山、渚……あとは頼む!
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