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兵庫県予選大会 2日目【早見和希の過去編】
第122走 最悪のテンキ
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「ねぇねぇ、今日の練習のタイムトライアルでさ!……ねぇ和希、聞いてる!?」
真夏の夕暮れ、西日がセミの鳴く公園の木々に隠れ始めた頃。
今日の部活動を終えた青井は、昔のように早見を近場の公園へと連れ出し、コンビニで買ったアイスを分け合っていた。
【ミーーンミンミン……】
【ジジジ……ジジジジジ】
当然のように浮かない表情の早見は、となりで楽しそうに話している青井の方を見向きもしない。
だがそれもそのはず、彼は家でゲームをしていたら突然練習終わりの青井が家に上がり込んできたのだ!
バトルロイヤルのゲームで残り3部隊となったタイミングだっただけに、彼の心境は複雑だろう……。
だがそもそも本当にこの時間が嫌ならば、一緒に公園に来る事はなかった。
そう、早見にとって青井莉子は”唯一”心を許せる友人なのだ。
もちろん彼はそれを自覚していない。
失ってから大切さに気付く事がほとんどの人類にとって、彼も例外ではなかったのだ。
「もう部活の話はいいって莉子、マジで暑苦しいわ。てかノド乾いたからサイダー買ってきて」
「えー、自分で買ってきなよ~。私頭痛いんだから……。もう、仕方ないから買ってきてあげるけど」
「便利だなお前、一生隣に置いときたいわ」
「…………え!?それって……?」
「あ?なんだよ?やっぱ買いに行かねぇとか言ったらぶっ飛ばすぞ」
「あーそうよね、和希がそんなロマンチストな訳なかった」
青井のセリフに対して”?”を浮かべている早見だったが、そんな彼の表情を見届けた青井はそのまま徒歩2分のコンビニへと向かう。
異性というよりは兄弟に近い、そんな距離感が2人の間にはあるのだった。
◇
【ザッ…ザッ…】
とはいえ何故か青井の足取りは重い。
少しずつ体が重たくなり、脚が上がらなくなる。
次第に体全体に倦怠感が襲いかかり、ほとんど脚を引きずるような歩き方に変わっていた。
(あれ……なんか立った途端グワンってしてきたな……熱中症かな?)
なぜか不自然に上がり始める呼吸。
実を言うと彼女は、今日の練習終わりから少し頭痛を感じていた。
だが人に弱い部分を見せるのが苦手な彼女は、それを誤魔化して早見の家へと行き、食欲がなくても食べやすいアイスを食べていたのだ。
とはいえ体調が改善する様子はなかった。
それどころかむしろ、彼女の視界はグワングワンと揺れ始めていたのだ。
(あれー?ちょっと本格的にしんどいかも……。でも和希に言っても心配してくれなさそうだしなぁ)
青井はそんな事を考えながら"視界一杯に広がるコンクリート"を眺めていた。
(……コンクリートの地面?なんで?……あれ、脚に力入らないな。あ、私コレ倒れてるんだ……)
時刻は夜を直前に控える夕暮れ。
ヘッドライトを点け忘れる車も多い時間帯だ。
すると青井の近くをたまたま通りかかった1人の老婆が突然叫びだす。
「おーい、お嬢ちゃん寝転がって何してるのー?そこ車も通るわよー?危ないわよーー!?」
だがその呼びかけに対し、誰も返答はしない。
聞こえるのは、ただ大音量で泣き続けるセミの声だけだ。
【ミーーンミンミンミンミンミン!!!!】
【ジジジ……ジジジジジ!!!!!】
「お嬢ちゃん!立てないの!?危ないわよー!!」
先ほどよりも大きな声で呼びかける老婆。
だが老婆自身の脚が悪く杖もついているせいか、老婆は少しずつしか青井の元には近付けずにいるようだ。
そして倒れる青井自身も、立ちあがろうとする素振りは見せるもののスグに地面に倒れてしまう。
さながら震える体と脚は、産まれたての子鹿のようだ。
◇
「……っち!うっせなババア。さっきから何叫んでんだよ……」
すると老婆の2回目の叫びは、約40m離れた公園にいる早見の耳にも届いていた。
だが彼にとって老婆の叫びなど、取るに足らないセミの雑音と変わりはない。
ほとんど無くなりかけのアイスを口に運び、ただ青井の帰りを待つ事だけが今の彼にできる事だった。
—————老婆の最後の叫びが聞こえるまでは。
「誰か!!!誰か早く助けてっ!!誰かぁ早くぅ!!!」
まさに火事場の馬鹿力というべきか、老婆の最後の叫びはセミの声をかき消し、辺り一体に響き渡っていた。
「あぁ!?助けてって……何叫んでんだよ」
するとその叫びを聞いた早見は、とうとう重い腰を上げて声の聞こえた方向へと視線を移していた。
今はまだ怒りの感情に支配されている様子の早見和希だが、その感情は一瞬にして”絶望”へと変わる。
「…………莉子?」
そう、木々の隙間から見えた景色の先には、先ほどまで隣で笑っていた青井の倒れている姿が映ったのだ。
【パッッ!パァーーー!!!!】
車の大きなクラクションが鳴り響いたのは、その0.8秒後の出来事だった。
————————
真夏の夕暮れ、西日がセミの鳴く公園の木々に隠れ始めた頃。
今日の部活動を終えた青井は、昔のように早見を近場の公園へと連れ出し、コンビニで買ったアイスを分け合っていた。
【ミーーンミンミン……】
【ジジジ……ジジジジジ】
当然のように浮かない表情の早見は、となりで楽しそうに話している青井の方を見向きもしない。
だがそれもそのはず、彼は家でゲームをしていたら突然練習終わりの青井が家に上がり込んできたのだ!
バトルロイヤルのゲームで残り3部隊となったタイミングだっただけに、彼の心境は複雑だろう……。
だがそもそも本当にこの時間が嫌ならば、一緒に公園に来る事はなかった。
そう、早見にとって青井莉子は”唯一”心を許せる友人なのだ。
もちろん彼はそれを自覚していない。
失ってから大切さに気付く事がほとんどの人類にとって、彼も例外ではなかったのだ。
「もう部活の話はいいって莉子、マジで暑苦しいわ。てかノド乾いたからサイダー買ってきて」
「えー、自分で買ってきなよ~。私頭痛いんだから……。もう、仕方ないから買ってきてあげるけど」
「便利だなお前、一生隣に置いときたいわ」
「…………え!?それって……?」
「あ?なんだよ?やっぱ買いに行かねぇとか言ったらぶっ飛ばすぞ」
「あーそうよね、和希がそんなロマンチストな訳なかった」
青井のセリフに対して”?”を浮かべている早見だったが、そんな彼の表情を見届けた青井はそのまま徒歩2分のコンビニへと向かう。
異性というよりは兄弟に近い、そんな距離感が2人の間にはあるのだった。
◇
【ザッ…ザッ…】
とはいえ何故か青井の足取りは重い。
少しずつ体が重たくなり、脚が上がらなくなる。
次第に体全体に倦怠感が襲いかかり、ほとんど脚を引きずるような歩き方に変わっていた。
(あれ……なんか立った途端グワンってしてきたな……熱中症かな?)
なぜか不自然に上がり始める呼吸。
実を言うと彼女は、今日の練習終わりから少し頭痛を感じていた。
だが人に弱い部分を見せるのが苦手な彼女は、それを誤魔化して早見の家へと行き、食欲がなくても食べやすいアイスを食べていたのだ。
とはいえ体調が改善する様子はなかった。
それどころかむしろ、彼女の視界はグワングワンと揺れ始めていたのだ。
(あれー?ちょっと本格的にしんどいかも……。でも和希に言っても心配してくれなさそうだしなぁ)
青井はそんな事を考えながら"視界一杯に広がるコンクリート"を眺めていた。
(……コンクリートの地面?なんで?……あれ、脚に力入らないな。あ、私コレ倒れてるんだ……)
時刻は夜を直前に控える夕暮れ。
ヘッドライトを点け忘れる車も多い時間帯だ。
すると青井の近くをたまたま通りかかった1人の老婆が突然叫びだす。
「おーい、お嬢ちゃん寝転がって何してるのー?そこ車も通るわよー?危ないわよーー!?」
だがその呼びかけに対し、誰も返答はしない。
聞こえるのは、ただ大音量で泣き続けるセミの声だけだ。
【ミーーンミンミンミンミンミン!!!!】
【ジジジ……ジジジジジ!!!!!】
「お嬢ちゃん!立てないの!?危ないわよー!!」
先ほどよりも大きな声で呼びかける老婆。
だが老婆自身の脚が悪く杖もついているせいか、老婆は少しずつしか青井の元には近付けずにいるようだ。
そして倒れる青井自身も、立ちあがろうとする素振りは見せるもののスグに地面に倒れてしまう。
さながら震える体と脚は、産まれたての子鹿のようだ。
◇
「……っち!うっせなババア。さっきから何叫んでんだよ……」
すると老婆の2回目の叫びは、約40m離れた公園にいる早見の耳にも届いていた。
だが彼にとって老婆の叫びなど、取るに足らないセミの雑音と変わりはない。
ほとんど無くなりかけのアイスを口に運び、ただ青井の帰りを待つ事だけが今の彼にできる事だった。
—————老婆の最後の叫びが聞こえるまでは。
「誰か!!!誰か早く助けてっ!!誰かぁ早くぅ!!!」
まさに火事場の馬鹿力というべきか、老婆の最後の叫びはセミの声をかき消し、辺り一体に響き渡っていた。
「あぁ!?助けてって……何叫んでんだよ」
するとその叫びを聞いた早見は、とうとう重い腰を上げて声の聞こえた方向へと視線を移していた。
今はまだ怒りの感情に支配されている様子の早見和希だが、その感情は一瞬にして”絶望”へと変わる。
「…………莉子?」
そう、木々の隙間から見えた景色の先には、先ほどまで隣で笑っていた青井の倒れている姿が映ったのだ。
【パッッ!パァーーー!!!!】
車の大きなクラクションが鳴り響いたのは、その0.8秒後の出来事だった。
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