妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase

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第三章 偽りの日常と監視

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茜は少しずつ元気を取り戻し始めた。学校にはまだ戻っていなかったが、リビングでテレビを見る時間が増え、時折、僕や母と冗談を言うようになった。その笑顔の裏に隠された傷を思うと、胸が苦しくなった。

一方、僕は「彼」の監視を続けた。
彼のスマホを通じて、彼の日常が筒抜けになった。部活は引退した彼は、大学が決まっているので、毎日を軽く身体を動かしてから、遊びとSNSで浪費していた。新しい女性との出会いを求め、同じような手口で近づき、そしてまた自慢話をLINEで流す。その繰り返しだった。

ある日、興味深いデータを発見した。
彼はほぼ毎日、入浴時にスマホを風呂場に持ち込んでいた。防水機能を利用し、動画を見たりSNSをチェックしたりしているらしい。

そして、佑香からも重要な情報が入った。
「あの人、被害にあったって言ってる女の子たち、私少し調べてみた。直接連絡は取ってないけど、SNSで共通の友達を通じて…みんな、あの人のこと、心底嫌ってるみたい。でも、彼がスポーツ推薦の有力な選手で、友達も多いから、表立って反論できないって」

「彼を面白く思っていない人たちは、結構いるんだな」

「ええ。特に、彼にひどい目に遭わされた子の親友とか…すごく怒ってる」

僕の頭の中で、二つの要素が結びついた。
入浴中のスマホ。そして、彼を快く思わない「聴衆」。

単純な暴力的な仕返しでは意味がない。彼が茜に与えたのと同じ苦しみを、彼に味わわせる必要がある。社会的な死。評判の崩壊。彼が大切にしている「格好いいバドミントンエース」という仮面を、彼自身の手で剥がす演出。

計画が具体化していく。

まず第一段階。
彼のLINEの記録を編集した。茜や他の特定の女性が特定されないよう、名前や詳細な個人情報をすべてマスキングした。しかし、彼の卑劣な言動のパターンは克明に残した。そして、そのデータを、追跡が困難な海外のサーバーにアーカイブとして保存し、特定のキーワードで検索するとヒットするように細工した。彼の過去の行いが、いつか表面化するための「時限爆弾」だ。

しかし、それだけでは不十分だ。彼に「今すぐ」自らの行いの結果を認識させる必要がある。

第二段階。
彼のスマホのカメラとマイクに、遠隔からアクセスできるようにしたプログラムを起動する。そして、彼が次に入浴し、スマホを持ち込んだ時を待った。

三日後の夜、彼のスマホのカメラが起動した。湯気の立つ浴室の映像が、僕のパソコンに映し出される。彼は湯船に浸かり、スマホをいじっていた。

僕は深呼吸した。
これが最後の歯止めだ。ここで止めれば、まだただの監視犯で済む。
しかし、茜の俯いた顔が目に浮かんだ。佑香の悔しそうな声が耳に蘇った。

「…悪いな、瀬戸伸也。お前が播いた種だ」

僕の指がキーボードを叩く。
事前に準備したプログラムが作動する。彼のスマホが、彼の知らないうちに、あるアプリを起動させた。それは、ライブ配信アプリの模倣プログラムだ。彼のスマホのカメラ映像を、リアルタイムで「配信」するためのもの。

配信先は、僕が彼の連絡先リストから精心に選び出した「視聴者」たちだ。彼の直接の連絡先、その連絡先の友達、さらにそのまた友達…被害に遭った可能性のある女性とその関係者を中心に、総勢千人近いアドレスに、一斉に招待リンクが送信された。メッセージは「瀬戸伸也の真実を暴くライブ」。興味本位でクリックする者も多いだろう。

ライブ配信が開始された。
画面上には、湯気の中でくつろぐ瀬戸伸也の姿が映る。彼は全く気づいていない。スマホを手に、何やら動画を見て笑っている。

そして、配信画面の隅にあるライブチャット欄が、急速に賑わい始めた。

『なにこれ?』
『え、マジで瀬戸?』
『うわ、キモっ』
『自画自配? 流石にキチガイだな』
『これがあのバドミントンのエース様かよ、笑える』
『女の子の噂流してたクセに自分がこんなんか』

書き込みは加速度的に増え、やがて彼の女性関係への非難や、具体的な被害の声(名前は伏せられていた)が溢れ始めた。
『〇〇ちゃんのこと、あんた酷いこと言ってたよね』
『推薦決まって調子に乗ってるだけだろ』
『この配信、学校にバレたらどうすんだろうね』

彼は相変わらず、スマホの画面(動画視聴画面)だけを見ており、ライブ配信が行われていること、ましてやそこで自分が炎上していることに全く気づいていない。その無知が、却って滑稽で、哀れでした。

約二十分後、彼が風呂から上がり、配信は自動停止した。

僕はすぐに第二弾を発射した。
先ほど仕込んだ、彼のLINEの記録をまとめたアーカイブサイトへのリンクを、同じ視聴者たちに再送信した。
「先ほどの配信主の、過去の行いをご覧ください。すべて本人の記録から抽出したものです」

その夜、彼のSNSは静かだった。
しかし、水面下では、爆発的な速さで情報が広がっていた。
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