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第3話:引き出しの中の規律
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結愛が自分の部屋へ消えた後、入れ替わるようにリビングにやってきたのは、13歳の次女・真莉愛だった。彼女はまだ、少し大きめのブレザーに袖を通し始めて間もない中学1年生だ。
「お母さん、真莉愛の黒パン、こっちにもあった?」
愛子がカゴに入れたばかりの、少し小さめなサイズの黒パンを真莉愛が見つける。
「ええ、ちゃんと乾いてるわよ。真莉愛、中学校は慣れた? 毎日その黒パンを履くのも、もう当たり前になったかしら」
愛子の問いに、真莉愛は「うーん」と首を傾げながら、太陽の熱を吸って温かい布地を手に取った。
「なんかね、これ履くと『学校モード』って感じがする。でも考えてみたら、小学校の時も私服のミニスカートとかショートパンツには、最初からインナーが付いてたじゃない? だから気にせず動けたけど、制服のチェックのスカートはそうじゃないから。今は自分でこれを履かないと、外に出る準備が完成しない感じ」
真莉愛が屈託なく笑う。1年生の彼女のスカート丈は、まだ膝が隠れる程度で校則に忠実だ。けれど、彼女たちには彼女たちなりのこだわりがあるらしい。
「でもね、帰り道とかはウエストのところをちょっと折って短くしたりするんだよ。その時に、スカートの裾から黒パンの角がチラ見えしちゃうと、可愛さが激落ちするの。だから、見えないように絶妙な位置で履きこなすのがテクニックっていうか、普通かな。たまに無頓着に出しちゃってる子もいるけど、私は絶対嫌だもん」
真莉愛は真剣な表情で、黒パンを太ももの位置で少し手繰り寄せるような仕草をしてみせた。
愛子は、その健気なほどのこだわりを見つめながら、かつての自分を思い出す。
「お母さんの頃はね、そんな風に隠して履くもの自体がなかったのよ。スカートの裾なんて気にしないで階段を駆け上がっていたわ。当時はそれが恥ずかしいことじゃなくて、むしろ堂々としているのがカッコいい、みたいな不思議な空気があったのね」
「えっ、無理無理! インナーも黒パンもなしで階段を上るなんて、信じられない。私だったら不安すぎて一歩も動けないよ」
真莉愛は本気で怯えたように肩をすくめた。幼い頃から「インナー付き」が標準だった世代にとって、スカートの下に「守り」がない状態は、裸で外を歩くのと同義なのかもしれない。
「そうね……。でも、お母さんの頃は、もっと風が自由だったのよ。見えてしまうことを怖がるよりも、自分の好きな丈のスカートで、好きなように歩く。そんなおおらかな時代だったの」
「ふーん。でも私は、この黒パンがあるから安心してスカートを折れるし、可愛くできるんだと思うな」
真莉愛はそう言って、自分の分の黒パンを丁寧に畳み始めた。
姉の結愛が語った「防衛」としての黒パン。そして次女の真莉愛が語る「お洒落と安心を両立させるためのマナー」としての黒パン。形は違えど、今の少女たちにとって、この黒い布地は自分を表現し、同時に自分を守るための、欠かせないパートナーなのだ。
愛子は、真莉愛が整えた黒パンを受け取ると、それを彼女の引き出しへと運んだ。
「はい、これで明日も完璧ね」
「ありがとう、お母さん!」
軽やかな足取りで去っていく真莉愛の背中を見送りながら、愛子はふと思う。いつか彼女たちが、この「鎧」の存在を忘れてしまうほど、心からリラックスして風を感じられる日は来るのだろうか。
夕闇が迫る部屋で、愛子は引き出しをそっと閉めた。そこには、明日を彩るための小さな規律が、黒い影のように整然と並んでいた。
「お母さん、真莉愛の黒パン、こっちにもあった?」
愛子がカゴに入れたばかりの、少し小さめなサイズの黒パンを真莉愛が見つける。
「ええ、ちゃんと乾いてるわよ。真莉愛、中学校は慣れた? 毎日その黒パンを履くのも、もう当たり前になったかしら」
愛子の問いに、真莉愛は「うーん」と首を傾げながら、太陽の熱を吸って温かい布地を手に取った。
「なんかね、これ履くと『学校モード』って感じがする。でも考えてみたら、小学校の時も私服のミニスカートとかショートパンツには、最初からインナーが付いてたじゃない? だから気にせず動けたけど、制服のチェックのスカートはそうじゃないから。今は自分でこれを履かないと、外に出る準備が完成しない感じ」
真莉愛が屈託なく笑う。1年生の彼女のスカート丈は、まだ膝が隠れる程度で校則に忠実だ。けれど、彼女たちには彼女たちなりのこだわりがあるらしい。
「でもね、帰り道とかはウエストのところをちょっと折って短くしたりするんだよ。その時に、スカートの裾から黒パンの角がチラ見えしちゃうと、可愛さが激落ちするの。だから、見えないように絶妙な位置で履きこなすのがテクニックっていうか、普通かな。たまに無頓着に出しちゃってる子もいるけど、私は絶対嫌だもん」
真莉愛は真剣な表情で、黒パンを太ももの位置で少し手繰り寄せるような仕草をしてみせた。
愛子は、その健気なほどのこだわりを見つめながら、かつての自分を思い出す。
「お母さんの頃はね、そんな風に隠して履くもの自体がなかったのよ。スカートの裾なんて気にしないで階段を駆け上がっていたわ。当時はそれが恥ずかしいことじゃなくて、むしろ堂々としているのがカッコいい、みたいな不思議な空気があったのね」
「えっ、無理無理! インナーも黒パンもなしで階段を上るなんて、信じられない。私だったら不安すぎて一歩も動けないよ」
真莉愛は本気で怯えたように肩をすくめた。幼い頃から「インナー付き」が標準だった世代にとって、スカートの下に「守り」がない状態は、裸で外を歩くのと同義なのかもしれない。
「そうね……。でも、お母さんの頃は、もっと風が自由だったのよ。見えてしまうことを怖がるよりも、自分の好きな丈のスカートで、好きなように歩く。そんなおおらかな時代だったの」
「ふーん。でも私は、この黒パンがあるから安心してスカートを折れるし、可愛くできるんだと思うな」
真莉愛はそう言って、自分の分の黒パンを丁寧に畳み始めた。
姉の結愛が語った「防衛」としての黒パン。そして次女の真莉愛が語る「お洒落と安心を両立させるためのマナー」としての黒パン。形は違えど、今の少女たちにとって、この黒い布地は自分を表現し、同時に自分を守るための、欠かせないパートナーなのだ。
愛子は、真莉愛が整えた黒パンを受け取ると、それを彼女の引き出しへと運んだ。
「はい、これで明日も完璧ね」
「ありがとう、お母さん!」
軽やかな足取りで去っていく真莉愛の背中を見送りながら、愛子はふと思う。いつか彼女たちが、この「鎧」の存在を忘れてしまうほど、心からリラックスして風を感じられる日は来るのだろうか。
夕闇が迫る部屋で、愛子は引き出しをそっと閉めた。そこには、明日を彩るための小さな規律が、黒い影のように整然と並んでいた。
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