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第6話:黒い鎧のドレスコード
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ランチのメイン料理が運ばれてきても、4人の会話は加速する一方だった。特に、最年長の香苗(50)の口から語られる「四半世紀前」の女子高生の生態は、今の愛子たちから見ても驚愕の連続だった。
「いい? 驚かないでね」
香苗は前置きし、ワイングラスを置いて声を潜めた。
「私の時代は、いかにガードを緩めて『女』を挑発的に見せるかが、ある種のステータスだったのよ。コギャルなんて言葉が流行って、スカートの丈はベルトで何回折れるかが勝負。冬でも生足、ルーズソックスは足首に溜めて。黒パン? そんなの履いてたら『ダサい』の一言で切り捨てられてたわ。当時はね……実は私、ブルセラショップに自分の下着を何度か売りに行ったことがあるのよ」
愛子たちが息を呑む。香苗はどこか懐かしそうに続けた。
「もちろん親にバレたら大変でしょ? 洗濯の枚数でつじつまが合わなくなるから、安売りのお店で300円のパンツを何枚も買い込んでね。それを履いては売って、お小遣いにしてた。さすがに身体を売る勇気はなかったけど、周りにはもっと危うい橋を渡っている子がたくさんいたわ。あの頃の女子高生って、自分たちの若さや『脱ぎ捨てたもの』に、社会が異常なまでの価値をつけていた……そんな狂った時代だったのよね」
その生々しい告白に、42歳の伶花が感嘆とも困惑ともつかないため息をついた。
「凄すぎる……。香苗さんの時代は、自分を『商品』にしてでも世間を挑発していたんですね。今の娘たちにそんなこと言ったら、別の惑星の話だと思われちゃいますよ。今の結愛ちゃんやうちの娘にとって、下着は売るどころか、誰にもその存在すら悟らせたくない『聖域』なんですから」
愛子は、今朝の真莉愛との会話を思い出した。中学1年生になったばかりの彼女が語った、黒パンへの異様なまでのこだわり。
「うちの真莉愛なんて、チェックのミニスカートを放課後に折って短くするのが楽しみなんだけど、その時に黒パンの裾が1ミリでも見えたら『可愛さが激落ちする』って必死なのよ。あくまで『見えてもいいもの』を履いているはずなのに、その角がチラ見えするのは絶対NG。見えないように絶妙な位置で履きこなすのが彼女たちのテクニックなんですって。中には無頓着に出しちゃってる子もいるみたいだけど、真莉愛に言わせれば『それじゃお洒落が台無し』なんですって」
「あはは、面白いわね!」友加里(46)が笑う。
「『見えてもいいもの』を、あえて『見せないように履く』のが今の美学なんて。香苗さんの時代の『見せて稼ぐ』という感覚とは、まさに真逆のベクトルね」
香苗が少し真面目な顔をして付け加えた。
「でも、それが今の彼女たちの『プライド』なのよ、きっと。昔の私たちが『奔放である自由』を謳歌していたとしたら、今のあの子たちは『完璧なガードで自分を律する自由』を謳歌している。どちらも、男たちの視線に対する彼女たちなりの戦い方なんだわ。ただ、今の時代はSNSやデジタル盗撮のリスクが桁違いだから、あの子たちが鉄壁の黒を選び、その履きこなしに命を懸けるのは、非常に賢明な生存戦略と言えるわね」
愛子は、冷めかけたスープを口にした。
香苗の世代が持っていた、無防備で爆発的な、そしてどこか退廃的なエネルギー。
結愛や真莉愛が持っている、繊細で計算し尽くされた防衛と美意識。
どちらが幸せなのかは分からない。けれど、かつて300円のパンツを履き替えて街を闊歩していた少女が、今では娘の黒パンを毎日丁寧に洗濯し、その「見えない履きこなし」を優しく見守っている。その事実に、愛子はおかしくもあり、同時に何とも言えない時代の切なさを感じていた。
「でもさ、愛子」香苗がニヤリと笑った。「あの子たちの黒パンのテクニック、今度詳しく教えてよ。うちの娘にも伝授して、少しでも『可愛さ激落ち』を防いで、今の時代の女子高生として正しく戦わせてあげたいからさ」
テラス席には、再び明るい笑い声が響いた。
「いい? 驚かないでね」
香苗は前置きし、ワイングラスを置いて声を潜めた。
「私の時代は、いかにガードを緩めて『女』を挑発的に見せるかが、ある種のステータスだったのよ。コギャルなんて言葉が流行って、スカートの丈はベルトで何回折れるかが勝負。冬でも生足、ルーズソックスは足首に溜めて。黒パン? そんなの履いてたら『ダサい』の一言で切り捨てられてたわ。当時はね……実は私、ブルセラショップに自分の下着を何度か売りに行ったことがあるのよ」
愛子たちが息を呑む。香苗はどこか懐かしそうに続けた。
「もちろん親にバレたら大変でしょ? 洗濯の枚数でつじつまが合わなくなるから、安売りのお店で300円のパンツを何枚も買い込んでね。それを履いては売って、お小遣いにしてた。さすがに身体を売る勇気はなかったけど、周りにはもっと危うい橋を渡っている子がたくさんいたわ。あの頃の女子高生って、自分たちの若さや『脱ぎ捨てたもの』に、社会が異常なまでの価値をつけていた……そんな狂った時代だったのよね」
その生々しい告白に、42歳の伶花が感嘆とも困惑ともつかないため息をついた。
「凄すぎる……。香苗さんの時代は、自分を『商品』にしてでも世間を挑発していたんですね。今の娘たちにそんなこと言ったら、別の惑星の話だと思われちゃいますよ。今の結愛ちゃんやうちの娘にとって、下着は売るどころか、誰にもその存在すら悟らせたくない『聖域』なんですから」
愛子は、今朝の真莉愛との会話を思い出した。中学1年生になったばかりの彼女が語った、黒パンへの異様なまでのこだわり。
「うちの真莉愛なんて、チェックのミニスカートを放課後に折って短くするのが楽しみなんだけど、その時に黒パンの裾が1ミリでも見えたら『可愛さが激落ちする』って必死なのよ。あくまで『見えてもいいもの』を履いているはずなのに、その角がチラ見えするのは絶対NG。見えないように絶妙な位置で履きこなすのが彼女たちのテクニックなんですって。中には無頓着に出しちゃってる子もいるみたいだけど、真莉愛に言わせれば『それじゃお洒落が台無し』なんですって」
「あはは、面白いわね!」友加里(46)が笑う。
「『見えてもいいもの』を、あえて『見せないように履く』のが今の美学なんて。香苗さんの時代の『見せて稼ぐ』という感覚とは、まさに真逆のベクトルね」
香苗が少し真面目な顔をして付け加えた。
「でも、それが今の彼女たちの『プライド』なのよ、きっと。昔の私たちが『奔放である自由』を謳歌していたとしたら、今のあの子たちは『完璧なガードで自分を律する自由』を謳歌している。どちらも、男たちの視線に対する彼女たちなりの戦い方なんだわ。ただ、今の時代はSNSやデジタル盗撮のリスクが桁違いだから、あの子たちが鉄壁の黒を選び、その履きこなしに命を懸けるのは、非常に賢明な生存戦略と言えるわね」
愛子は、冷めかけたスープを口にした。
香苗の世代が持っていた、無防備で爆発的な、そしてどこか退廃的なエネルギー。
結愛や真莉愛が持っている、繊細で計算し尽くされた防衛と美意識。
どちらが幸せなのかは分からない。けれど、かつて300円のパンツを履き替えて街を闊歩していた少女が、今では娘の黒パンを毎日丁寧に洗濯し、その「見えない履きこなし」を優しく見守っている。その事実に、愛子はおかしくもあり、同時に何とも言えない時代の切なさを感じていた。
「でもさ、愛子」香苗がニヤリと笑った。「あの子たちの黒パンのテクニック、今度詳しく教えてよ。うちの娘にも伝授して、少しでも『可愛さ激落ち』を防いで、今の時代の女子高生として正しく戦わせてあげたいからさ」
テラス席には、再び明るい笑い声が響いた。
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