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第8話:過渡期のルーズソックス
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香苗の「ブルセラ告白」と、友加里の「男子のリスクマネジメント論」を交互に聞いていた伶花(42)が、少し困ったように、でも懐かしそうに口を開いた。
「私の時代は、ちょうどそのお二人の話の中間というか……すごく中途半端で、一番もどかしい時期だった気がします」
伶花は当時を思い出すように、ティーカップの縁を指でなぞった。
「42歳の私たちが高校生だった頃って、まだルーズソックスは健在でしたけど、少しずつ『だらしない』って言われ始めた時期だったんです。スカートの丈も短かったけど、香苗さんの時代ほど『何でもあり』じゃなかった。でも、今の娘たちみたいな『黒パン』なんて便利なものはまだ普及してなかったから……結局、私たちは普通のパンツ一枚で勝負してたんです。それも、お洒落なインポートのショーツとかじゃなくて、学校指定に近いような、ごく普通のものを」
愛子は頷きながら、自分の記憶と伶花の言葉を重ね合わせた。
「そうよね。私たちの頃って、防衛手段が何もなかった。だからこそ、階段を上がる時は今の子みたいに『布を重ねる安心感』を知らなくて、常にどこかでスースーするような、落ち着かない感覚がデフォルトだった気がするわ」
「そうなんです!」伶花が声を大きくした。「だから、私たちは『見せない』努力じゃなくて、『見えてもいいように振る舞う』努力をしていた気がします。背筋を伸ばして、あえて堂々と歩く。変に隠そうとして屈む方が、かえって隙ができるって教えられたりして。でも、やっぱり影ではめっちゃ見られていたと思う。当時は、男子たちが階段の下でわざと靴紐を結ぶフリをするなんていうのが、まだ『ちょっとした悪戯』で済まされていた、今思えばゾッとするような時代でしたから」
伶花は少し身を乗り出して、今の娘たちへの思いを吐露した。
「だから私、今の娘がスラックスを選んだり、黒パンを二重に履いたりしているのを見ると、正直『羨ましい』って思うんです。私たちの頃は、女の子らしくあるためには、どこか無防備でいなきゃいけないという無言の圧力があった。でも今は、自分の身を守ることが『お洒落の一部』として認められている。可愛さを取るか、安全を取るか……そんな究極の選択をさせられていた私たちに比べたら、今の『鎧の美学』は、ある種の進化ですよね」
愛子は、ランチ会の最後に、全員の意見が不思議な形でまとまっていくのを感じた。
奔放に自分を切り売りした香苗の時代。
無防備なまま「凛とする」ことでしか自衛できなかった伶花の時代。そして、物理的な「黒」と、精神的な「無関心」で境界線を引く現代。
「結局、どの時代も私たちは、スカートっていうたった一枚の布に振り回されて生きてきたのね」
愛子がそう締めくくると、ママ友たちは一斉に吹き出した。デザートのお皿は空になり、そろそろ「母親の日常」へ戻る時間が近づいていた。
「さあ、帰りましょう。明日もまた、家族全員の『鎧』をピカピカに洗わなきゃいけないしね」
愛子が立ち上がると、3人のママ友たちもそれぞれの思いを胸に、笑顔で席を立った。
自由が丘の駅へ向かう道すがら、すれ違う女子高生たちのスカートの裾を、愛子は少しだけ温かい目で見守った。その下に隠された「黒い意志」が、彼女たちの自由を支えていることを、今の愛子はよく知っていた。
「私の時代は、ちょうどそのお二人の話の中間というか……すごく中途半端で、一番もどかしい時期だった気がします」
伶花は当時を思い出すように、ティーカップの縁を指でなぞった。
「42歳の私たちが高校生だった頃って、まだルーズソックスは健在でしたけど、少しずつ『だらしない』って言われ始めた時期だったんです。スカートの丈も短かったけど、香苗さんの時代ほど『何でもあり』じゃなかった。でも、今の娘たちみたいな『黒パン』なんて便利なものはまだ普及してなかったから……結局、私たちは普通のパンツ一枚で勝負してたんです。それも、お洒落なインポートのショーツとかじゃなくて、学校指定に近いような、ごく普通のものを」
愛子は頷きながら、自分の記憶と伶花の言葉を重ね合わせた。
「そうよね。私たちの頃って、防衛手段が何もなかった。だからこそ、階段を上がる時は今の子みたいに『布を重ねる安心感』を知らなくて、常にどこかでスースーするような、落ち着かない感覚がデフォルトだった気がするわ」
「そうなんです!」伶花が声を大きくした。「だから、私たちは『見せない』努力じゃなくて、『見えてもいいように振る舞う』努力をしていた気がします。背筋を伸ばして、あえて堂々と歩く。変に隠そうとして屈む方が、かえって隙ができるって教えられたりして。でも、やっぱり影ではめっちゃ見られていたと思う。当時は、男子たちが階段の下でわざと靴紐を結ぶフリをするなんていうのが、まだ『ちょっとした悪戯』で済まされていた、今思えばゾッとするような時代でしたから」
伶花は少し身を乗り出して、今の娘たちへの思いを吐露した。
「だから私、今の娘がスラックスを選んだり、黒パンを二重に履いたりしているのを見ると、正直『羨ましい』って思うんです。私たちの頃は、女の子らしくあるためには、どこか無防備でいなきゃいけないという無言の圧力があった。でも今は、自分の身を守ることが『お洒落の一部』として認められている。可愛さを取るか、安全を取るか……そんな究極の選択をさせられていた私たちに比べたら、今の『鎧の美学』は、ある種の進化ですよね」
愛子は、ランチ会の最後に、全員の意見が不思議な形でまとまっていくのを感じた。
奔放に自分を切り売りした香苗の時代。
無防備なまま「凛とする」ことでしか自衛できなかった伶花の時代。そして、物理的な「黒」と、精神的な「無関心」で境界線を引く現代。
「結局、どの時代も私たちは、スカートっていうたった一枚の布に振り回されて生きてきたのね」
愛子がそう締めくくると、ママ友たちは一斉に吹き出した。デザートのお皿は空になり、そろそろ「母親の日常」へ戻る時間が近づいていた。
「さあ、帰りましょう。明日もまた、家族全員の『鎧』をピカピカに洗わなきゃいけないしね」
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自由が丘の駅へ向かう道すがら、すれ違う女子高生たちのスカートの裾を、愛子は少しだけ温かい目で見守った。その下に隠された「黒い意志」が、彼女たちの自由を支えていることを、今の愛子はよく知っていた。
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