二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase

文字の大きさ
10 / 15

第10話:明日のためのカーテン(最終話)

しおりを挟む
「あ、お母さん、おかえり! 洗濯物、取り込んでくれた?」

鍵を開ける音と共に、真莉愛が元気よく帰ってきた。続いて、少し眠そうな顔をした結愛もリビングに現れる。

「ええ、全部乾いてるわよ。真莉愛、これ、明日履く分でしょ? ちゃんと引き出しに入れておきなさいね」

愛子が畳んだばかりの黒パンの山を差し出すと、真莉愛は「あ、これ私の勝負パンツ!」と冗談めかして笑い、それを大事そうに抱えた。

「勝負パンツって、黒パンなのに?」と結愛が横から突っ込む。

「そうだよ。明日、ちょっとスカート短くして原宿行くんだもん。これがないと安心して楽しめないでしょ」

二人の娘が、黒パンを「当たり前の装備」として受け入れ、それを使いこなして笑っている。その光景を見て、愛子はランチ会で感じていた「窮屈さへの溜息」が、すっと消えていくのを感じた。

夜、帰宅した清孝が、いつものように晩酌をしながら今日の出来事を話し始めた。

「今日さ、また駅でスラックス姿の女子高生を見かけたよ。やっぱり、あれはいいな。見てるこっちも安心するよ」

「パパ、まだ言ってるの?(笑)」

「いや、本当にさ。俺たちの世代が、今の若い子にできることって、適切な距離を保つことくらいだろ? 彼女たちが安心して笑っていられるなら、俺たちはいくらでも『無関心』を装うよ」

清孝の言葉に、愛子は優しく微笑んだ。

女性が黒い布でガードを固め、男性が視線を逸らすことで敬意を払う。

それは一見、冷え冷えとしたディストピアのようにも見えるけれど、その根底にあるのは、お互いの領域を侵さないという、現代なりの「究極の優しさ」なのかもしれない。

翌朝。
愛子は再び、洗濯機から黒パンを取り出し、ベランダへ出た。

2月の冷たく澄んだ空気が、愛子の頬を撫でる。

パン、パンとシワを伸ばし、今日もまた「三重の陣形」で洗濯物を干していく。

一番外側のタオルが、内側の聖域を隠す。

その内側で、黒い布たちが朝日を浴びて、静かに出番を待っている。

「行ってきまーす!」

玄関から、娘たちの元気な声が響く。

チェックのスカートを揺らし、その下に鉄壁の「鎧」を纏った彼女たちが、新しい一日へと飛び出していく。

愛子は、物干し竿に並んだ「黒いカーテン」を眺めながら、心の中で彼女たちの背中を押した。かつての奔放な風は吹かなくても、今の彼女たちには、この布一枚が与えてくれる「自由」がある。

愛子は空になったカゴを抱え、満足げにリビングへと戻った。窓越しの光に透ける黒い影は、何よりも強く、そして美しい、家族を守る境界線だった。

(完)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...