窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第30章:愛ゆえの断絶

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「智之! ……聞いたぞ、千葉への異動というのは本当か!」
​ 息を切らせて飛び込んできた隼人さんは、デスクに置かれた辞令の写しをひったくるように手に取った。その指先が、怒りで微かに震えている。
​「……はい。来月から、物流センターの方へ」
「ふざけるな。こんな露骨な排除、認められるわけがない。今すぐ人事部長のところへ行く。俺のプロジェクトの重要性を考えれば、無理を通せないはずはないんだ」
​ 隼人さんが踵を返そうとしたその時、僕は叫ぶような声でそれを止めた。
​「……行かないでください、隼人さん!」
​ その声に、隼人さんが凍りついたように立ち止まる。
 僕は、背後で冷然とこちらを見ている佐伯さんの視線を感じながら、言葉を絞り出した。
​「これ以上、僕のために何かをするのはやめてください。……今の隼人さんは、会社にとって一番大事な時期なんです。そんな時に、メール室の一担当者の人事に口を出すなんて、そんなことをしたら……」
「智之、君を失うことに比べれば、キャリアなんて――」
「僕は嫌なんです!」
​ 僕は彼の言葉を遮った。視界が涙で歪むけれど、瞳だけは逸らさなかった。
​「あなたが、周囲から後ろ指を指されるのを見たくない。僕のせいで、あなたが築き上げてきた『エースの仮面』に傷がつくのが、何より耐えられないんです。……だから、大人しく従わせてください」
​ 隼人さんの顔から、血の気が引いていくのがわかった。
「……俺を、守っているつもりなのか? そんなことで、俺が喜ぶと思っているのか」
「喜びなんて求めていません。……ただ、あなたが二十二階の光の中にいること。それが、地下一階にいる僕の、唯一の誇りだったんです」
​ それは、嘘のない僕の本音だった。
 隼人さんは、伸ばしかけた手を宙に止めたまま、絶望したような表情で僕を見つめていた。
​「……わかった。君がそこまで言うなら」
​ 隼人さんは、握りつぶしそうになっていた辞令の紙をデスクに戻すと、逃げるようにメール室を去っていった。
 扉が閉まる音。それが、僕たちの「秘密の五分間」の終わりの合図のように聞こえた。
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