テイルウィンド

双子烏丸

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第二章 ティーブレイク・タイム

テスト飛行 その2

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 多くの機械装置とモニターが設置された、ブルーホエール内部に存在する広い部屋、アインはそこでホワイトムーンと、そしてシロノの様子をモニターしていた。
「……さすが兄さん、僕が思っていた以上だよ」
 アインはモニターに表示されるリアルタイムのホワイトムーンの様子と、数値やグラフで示される各性能の出力データを確認する。
 ホワイトムーンは正確にコース通りに飛び、チューブに触れる事もなく、高速度で駆け抜ける。
「強化した分の性能もしっかり使いこなしているし、それ以上に、兄さんの操縦技術も凄いものだね。少しは苦戦すると思ったけど、こうも楽しむくらいの余裕を見せるなんて。はぁ、せっかく僕が兄さんのために特別に、高難易度のテストコースを用意したのに……」



「ははは、そう言っている割には、随分と嬉しそうな表情ではないか」
 部屋にはアインの他にもう一人、身なりの良い四、五十代の男性がいた。
 高価なスーツに身を包み、金髪碧眼の恰幅の良い紳士、その雰囲気からは、彼の地位の高さが感じられた。
 アインは後ろに立っている男に振り向き、少し照れながらうっすらと笑う。
「ふふ、何せ自慢の兄さんですから…………クラウディオさん」
「それに、あの機体を開発したのは君ではないかね。シロノ君も流石だが、アイン君も十分に流石だと思うぞ」
 この男、クラウディオ・メナードは、スリースター・インダストリーのCEO、つまり企業の最高責任者である。
 二人の兄弟はそれぞれ、シロノは卓越したレースの腕前を買われて会社専属のレーサーに、アインは天才的な科学技術への才能を見込まれ、若くして此処の科学者となった。
 そしてホワイトムーンは、アインがレーサーである兄の為に開発した、超高性能機だ。



 クラウディオはモニターに映るホワイトムーンの飛行を、しげしげと眺める。
「やはりシロノ君とホワイトムーンは素晴らしい。これなら、あのG3レースでも、いい勝負が出来そうだな」
 この言葉に対し、アインは首を横に振る。
「いいえ、兄さんならきっと優勝してみせます。例えどんなレーサーが現れても、兄さんとホワイトムーンが負けるはずはありません。その気持ちは、兄さんだって同じはずです」
 それを待っていたかのように、クラウディオはアインに微笑む。
「良い意気込みだ。やはり狙うは優勝…………そうでなくては」
 だが彼は、表情にある種の懸念を表してこう続けた。
「……ところで君達二人は、ジンジャーブレッドと言うレーサーを知っているかな?」
「あ、はい。兄さんから、三十年前に活躍した伝説のレーサーだったと聞いています。その話では確か、現役だった三年間、常に無敗だったとか。そして、今度のG3レースに参加するために、つい最近復帰したみたいだと……」
「ああ、正にそれだよ。幾ら伝説と称されても、引退してから二十七年も経った今になって、こうして復帰するなんて、実に奇妙だと思わないか?」
「ええ、まぁ……」
 クラウディオの言いたいとする事がいまいちよく分からず、アインは僅かに困惑する。
「私が思うに、これにはジンジャーブレッドのスポンサー、ゲルベルト重工が一枚噛んでいると思うのだよ」
 そして彼は、考え込むようにして続ける。
「分かってはいるだろうが、企業がレーサーを雇うと言うことは、その活躍が企業の宣伝になるからだ。増してや此処やゲルベルト重工のように工業・産業を取り扱っているなら、その機体に使われる会社の技術を、外にアピールする絶好の機会にもなる。しかし、過去の情報ではゲルベルト重工は宇宙レースに関わりを持ってはいなかった。ジンジャーブレッドにしても、かつて現役だった三十年前にはスポンサーはおらず、フリーの宇宙レーサーだ。……だが、こうして復帰した途端に、何故かゲルベルト重工は、ジンジャーブレッドのスポンサーとなっていたのだ。
 かつてフリーのレーサーが後にスポンサーをつける話は珍しくない。だが、三十年前に活躍していた頃には、あの会社はレーサーを雇う事すら見向きもしなかった。そして何十年も経ってから、会社はかつて伝説だったレーサーのスポンサーとなった。……何しろ相手は、あの悪名高きゲルベルト重工だ。恐らく、何か裏があるのではとな」



 ゲルベルト重工については、アインも知っていた。
 このスリースター・インダストリーは大企業の位置に属するが、宇宙ではそれ以上に大きな企業が数多くある。ゲルベルト重工も、そうした大企業の一つだ。
 そして同じく工業関係の企業である事から、スリースター・インダストリーにとっては厄介な商売敵だった。
 だがその実態は、相当な悪徳企業である。産業スパイに悪質な不当契約、贈賄に恐喝などなど、それこそ、例を挙げるのがきりが無い程に。そして質が悪いのは、それでも問題とされずに経営を続けている事だ。決定的な証拠を掴ませないことや、法律の穴をかいくぐり自らの行為を合法化して、大企業として君臨していた。
 ついには警察にも目をつけられ、常に動きを監視されているのだが、それでも一度も、尻尾を出した事は無かった。
 ゲルベルト重工が大企業としてここまでのし上がったのも、こうした背景があるからである。
「だが、まぁこれはあくまで推測だ。しかし…………仮に何かしら商売敵の企みがあるなら、企業の経営者として放っておく訳にはいくまい。とにかく、この事はこちらで調査を行う。もし何か分かれば、君達にも知らせよう。一応、頭に入れておいてくれ」
 この大企業の経営者としての指令に、アインは頷く。
 そしてモニターに目を移し、言った。
「……ホワイトムーンの性能テスト、終わったみたいです。兄さんもすぐに戻ってくるでしょう」
「それでアイン君、テストの結果はどうだったかな?」
 クラウディオの問いに対し、表示されるデータとその成績を確認し、さも当然のようにアインは答える。
「もちろん文句なしの、大成功ですよ」 



 性能テストの終わったホワイトムーンは、ブルーホエールの底部にコバンザメのようにドッキングする。
「それではクラウディオさん、お見送りに感謝します」
 シロノとアインは、上司であるクラウディオに礼を言う。
 今、三人はブルーホエールのドッキングエリアにいた。
「私も君達二人には大きく世話になっているからな、これぐらいは当然さ」
 クラウディオは二人に向って、フッと笑ってみせてみせる。
「ああ、そうだ。これはほんの少しだが、私からの差し入れだ。ぜひ、受け取ってもらいたい」
 こう言うと彼は、懐から一枚のカードを取り出し、シロノに手渡した。
 手渡されたのは、スリースター・インダストリーの小切手であった。
「後で送金しても良かったのだが、君達の手で渡した方が喜ばれそうだからな」
「これは、二百万UC(ユニバースクレジット)の小切手! 本当に良いのですか?」
 小切手に記された金額を見て、シロノは目を丸くした。
「ああ構わんとも。会社の収益から考えれば、そう大した金額ではない」
「しかし、こんな大金はとても……」
「先ほど言っただろう、君達には大きく世話になっていると。それに、君達がこれをどう使うのか、分かっているからな。……では、向こうにも、宜しくと伝えておいてくれ」
 シロノ達二人は、クラウディオに改めて感謝を伝えると、ホワイトムーンへと乗り移った。
 そしてドッキングを解除し、飛び去るホワイトムーンを、クラウディオは遠目に眺める。
「ジンジャーブレッドはあのゲルベルト重工をスポンサーとして、次のG3レースに出場する。何しろ宇宙一の大レース、企みがあるなら、そこで何かを起きるはず…………。早速、調べを入れた方が良いかもしれないな」
 彼は、一人こう呟いた。
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