テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
183 / 204
第十二章 Grand Galaxy Grand prix [Restart〕

あの時の、レース

しおりを挟む
 ――――
 フウマ、ジンジャーブレッドがそんな様子である間――。
 幾らか後方では、シロノのホワイトムーンが砂漠上空を飛行している。
 ――やはり……どうしようもありませんね――
 いまだにその気持ちは、中途半端なシロノ。
 完全にレースを放棄する気にもなれず。かといって本気でレースをする事も出来ないまま、本当にただ……飛んでいるだけであった。
 ――自分らしくないとは、分かっているのですがね。けど、どうしようも――



 ……すると、再び一機、高加速でレース機が迫る。
 シロノはそれに気づくも、もはやこれ以上相手にする気力もない。
 放っておこうと、考えていたが……


 機体は後方から一気にホワイトムーンに迫り、そのまま追い越そうと……するのではなく、ぴたりとその横へと並んだ。
 並んで飛行する、二機のレース機。
 互いに競うこともなく、まるでレースの最中とは思えない様子でもある。
 シロノはその機体を横目に、ふとこう考えた。
 ――これはどう言うつもりでしょうか……マリン――



 そう、横に並んでいるのはマリンの機体、クリムゾンフレイムであった。
 すると通信も、向こうから送られて来る。
 先ほどはリッキーの通信を、拒絶していたシロノ。
 しかし――
 ――あの時もマリンは、私の事を思ってくれましたものね。……私の甘えかもしれませんが、もう一度話せたら――
 気弱になっていたシロノ、彼女の明るい様子に励まされたいと、そうも思ったのか……通信を許可した。



〈ヤッホー、シロノ!〉
 ハキハキとした天真爛漫な、マリンの表情と声……
「ははは……。やぁ、マリン」
 シロノもまた、挨拶を返す。
 だが、シロノの思い悩んだ様子に、マリンはすぐに気づいたようだった。
〈――シロノはまだ、悩んでいるみたいね。どう、今の調子は?〉 
 やはり彼女もまた、心配しているようだ。
 シロノは自嘲気味な表情で、こう答える。
「……ええ。せっかくマリンが、相談を聞いてくれたと言うのに……未だ、悩んでいる所です」
 やはりそう簡単には、行かないシロノ。
「レースを諦めることも、かと言って、全力すら出すこともできないまま……。
 ふふっ、やはり情けないですね。……すみません、せっかくの厚意をダメにしてしまって」
 レースの前に、マリンが親身になって話を聞いてくれたのに対し、それを無下にしたように思えた。
 それも彼には、申し訳がなかったのだろう。
 


 ……だが、対するマリンは、少し呆れつつも微笑ましいように、笑いかける。
〈何かと思ったら、そんな事。……くすっ! やっぱりシロノは優しいのね!〉
「むぅ、そう言われると私も、恥ずかしいです」
 シロノは恥ずかしがるように、顔を赤くする。
〈でもシロノが気にすること、ないわ! だって私がシロノの事が大好きだから、何度だって力になりたいの。だから――〉
 そしてマリンは、こう続ける。
〈私も今回のG3レース……諦めることにするわ!〉



 相変わらず、横に並んで飛ぶ、二機。
 仲睦まじい様子にも見えるも、それシロノはもちろん、マリンもレースを諦めていることを示していた。
〈うーん! こうしていると、レースじゃなくて、クルージングみたいな感じね〉
 通信画面に映る、マリンの表情も、声も、完全にリラックスしてくつろいでいる様子だった。
 コックピットシートにもたれかかり、軽く伸びをする彼女。
「あの……マリン?」
 一応これでも、レースのさ中。思い悩む自分とはまた別に、レースを忘れて勝手をしているマリンに、シロノも困惑しているようだ。
〈本当にG3レース様々ね! 親善試合でも、そして本番でも、シロノとこうして並んで飛べるなんて。
 ……ほら見て。日食に照らされて、砂漠の砂がキラキラ輝いて綺麗ね〉
 マリンに促され、シロノが外の景色に視線を向けると……



 
 空は幾分、薄暗い。
 惑星ルビーを照らすトライジュエル星系の恒星を、第一惑星であるサファイアが覆っているためによる日食により、光が遮られているからだ。 
 しかし、恒星を覆い隠しているサファイアの周囲からこぼれるいくらかの輝きが、地上に広がる赤い砂の砂漠を、照らし出していた。
「……そう言えば、三惑星が惑星直列している状態で、レースをしているのでしたね」
 シロノも、つい景色を眺めていると、マリンはクスリと笑う。
〈親善試合の惑星ツインブルーでも空が綺麗だったけど、日食が照らす砂漠の景色、って言うのも神秘的でいいわね。
 レースばかりじゃなくて、こうして余裕がある時には、星の景色を楽しむって言うのもオツなものよ。
 シロノってば、少し真面目過ぎるから、もう少し余裕を持たないと〉
「むぅ……」
 確かに、シロノもまた星の様子を見たりもするが、マリンのように景色を楽しむと言うのは少なく、あくまでレースでどう地形を利用するか……と言うのが、殆どだった。
 


「……ですが、マリンの言う通り、ついレースばかりで、外の景色など殆ど意識していませんでしたね」
 だが、今のシロノはどこか落ち着いたような、そんな様子を見せる。
「たしかに綺麗――ですね。
 そうです、今まで私は……こうした場所をずっと飛んで
いたのだと、改めて思いました」
〈ほらね? 言われないとなかなか気づかないものでしょ〉
 ふふん、と、マリンは得意げに威張る。
 こんないつもの様子に、シロノはため息をつくも……何だか安心もした。
「……やっぱり、マリンと一緒にいると、私は……」



 そんな事を呟く彼に、マリンは優しく微笑むと……
〈なら決まりね! ここからはレースなんて忘れて、私とシロノ、二人でゆっくりしましょう!〉
 だが、そんな事を冗談なく言える彼女に、シロノは不思議に思った。
「……でも、本当にいいのですか? せっかくの大きなレースを、私のせいでそんなに簡単に。
 それに、今の私だったら、楽にレースで……」
 彼は半分、申し訳ないようにそう言ったつもりだった。
 が……マリンは、それに心底おかしそうな様子になる。
〈ぷぷっ! シロノってば、おかしな事を言うわね。だって――〉
 すると彼女は、こんな言葉を続けた。
〈――だって、これが私ですもの! 
 レースもだけど、恋愛だって全力じゃないと。だから……いくら大きいレースだったとしても、こんな風なシロノを置いて勝つなんて、私はイヤなの!〉


「マリン……あなたは」
 シロノはマリンの言葉に、はっとなる。
 ――これが私……ですか。なら自分は――
〈ん? 私ってば、何か変なことを言ったかしら〉
 どうやらマリンは気づいていない様子だったが、シロノはその言葉でようやく、頭のもやもやが晴れた気がした。
「ふふっ……何でもありませんよ」
 そして操縦桿を握り、こう言った。
「やはり私は……白の貴公子と評されるレーサー、シロノ・ルーナです。
 今は分からないことだらけでも、せめて自分がそうである事は信じて、私は進まなければ。
 だから――レースで情けない真似は、出来ません!」
 


 ――――
 
 そう自分に言い聞かせるように言うと、彼のホワイトムーンはフルスピードで飛び立った。
 これには、一気においていかれるクリムゾンフレイム。
 ――あーあ、行っちゃった。ようやくいい顔になったわね、さすがシロノ――
 まるで自分のことみたいに、マリンは嬉しそうにほほ笑む。


 ……が。
 ――って、いけない! だったら私もしっかりやらないと――
 つい彼女がレースを忘れてしまい、慌てて再スタートを切る。
 ――これでシロノと二人で、ゆっくりクルージングはお預けね。
 ……でも、やっぱりこれで良かったのかも――
 ちょっと名残惜しい気持ちはあるものの、マリンもマリンで、また頑張りを見せる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...