婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる

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3.婚約者と幼馴染①

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  その日、結婚生活のための講義を終えたわたしは、一人で廊下を歩いていた。昼下がりの木漏れ日が目に優しく、足を止めて窓から覗き込む。ガラス窓に映った顔がいつもより火照っていて、思わず指先でおでこを押さえた。

「アリス! 久しぶりだね。元気だったかい?」

 向かいから二十代初めの青年が目を輝かせてやって来た。柔らかなブラウンの長髪に青い瞳。細い目が常に笑っているかのような印象を抱かせる。身長は女にしては長身のわたしよりやや高い程度、白いドレスシャツとトラウザーズ姿なのにたおやかに映った。

「バル、もちろんよ。あなたも元気だった?」

 隣国バロモンテの第三王子で、バーソロミュー・エイルマ・バロモンテだ。各国を遊学中の彼は先月からこの宮殿の客となっている。バロモンテと我が国はかつて敵対していたもののここ何十年は良好な関係を築いており、わたしたちは子どものころからの知り合いだ。年が近く王族という共通点があるせいか、わたしたちは兄妹みたいに仲が良かった。

「まさか、元気じゃないよ」

 いつも明るい彼には珍しく、不満そうに口先をとがらせる。

「どうして?」
「アリス、聞いたよ。君、もうすぐ結婚するんだってね。僕、何も聞かされてなくてショックだったよ」
「ああ、ごめんなさい。実は公示こそ最近だけど、半年前には決まっていたことなの。バルに改まって言うのもおかしな気がして、つい言いそびれてしまったわ」
「半年前……。――じゃあ、僕には一縷いちるの望みもなかったってわけか。ひどいね、女王陛下とアリスにはやられたよ」

 バルが重い溜息を漏らしたので、わたしは軽口をたたいた。

「わたしの婿になりたがっていたなんて、ちっとも知らなかったわ。あなた、そういうものには興味がないと思っていたから」
「そういうものって、どういうもの? 君の隣に座る権利を一度も夢見ない男が、この世にいるのかな。世界で最も精霊に愛されている、ルワンド王国の王配だよ」

 バルの大袈裟な言い方が、おかしい。
 最初の王が精霊を助けたことにより、彼の子孫である我が国の王侯貴族は等しく精霊の加護を受けるようになった。四季を地・火・風・水の属性に分け、各々が生まれた季節の精霊のマナを授かる。わたしは冬生まれだから、水の精霊魔法が使えるというわけだ。

「そんなにいいものではないわよ。現にわたしの亡くなった父は、自分には荷が重いからと母のプロポーズを何度も断ったそうよ」
「それは、王配殿下が女王陛下と親子ほど年が離れているうえに、陛下の剣の指南役とはいえ下級貴族だったじゃないか。誰だって心苦しくなるさ。その点、僕たちは年齢が近いし、身分も釣り合っている。何の問題もないよ」

 確かにバルは二十一歳、わたしは十八歳。彼は側室の息子だが第三王子として正式に認められており、我が国とバロモンテ王国が更なる親交を深めるにはちょうどいい相手だ。逆にカニア侯爵の息子であるグラシアンを王族に迎えることによって、これまで権力を分散させることで保ってきた貴族のパワーバランスが崩れてしまう。裏を返せば、それだけ女王陛下がグラシアンの能力を買っている証拠なのだが、わたしには今一つ陛下の狙いがわからない。

 何より、わたしにはグラシアンとの夫婦生活が想像もつかなかった。あの笑顔は癪に障るし、信用ならない。相手が何を考えているかわからないまま、日に一度は食卓を囲み、寝室を共有しなければならない。そんなの絶対無理だ。

 ――寝室……。

「アリス、顔が赤いけれど大丈夫?」
「そう? ……そうね、少し熱いわ。もう夏が近いせいかしら?」

 何でもないようにドレスの首元に手で風を送る。わたしはそれ以上突っ込まれたくなくて、話題を変えた。

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