婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる

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4.婚約者と幼馴染②

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「バルは、女王陛下に会いに来たの?」
「そうだよ。ルワンド王国内を旅行する許可を頂きに来たんだ。僕は暑いのが苦手だから、エルアーなら夏でも快適に過ごせると聞いたんだけど、アリスはどう思う?」
「あそこは風光明媚で過ごしやすい、避暑にはもってこいの土地よ。きっとバルは気に入るはずよ。楽しんできてね」
「うん、ありがと。――アリス、ちょっとハグしていい?」
「え?」

 応える間もなく、バルはわたしをぎゅっと抱きしめ、髪に頬を摺り寄せてくる。

「うーん、アリスはいい匂いがする。やっぱり、僕と結婚しようよ」
「だめよ、バル。あなた、わたしより三つも年上よ。子ども同士じゃないんだから、抱き着くのはなしね」

 わたしが両手で押し返したものの、逞しさのかけらもないよう見えたバルの腕はびくともしなかった。もう一度全力でトライしたわたしに、秀麗な唇が歪んだ弧を描く。

「アリス。それ、力入れてるの? 猫にフミフミされているかと思ったよ」
「失礼ね。猫より力はあるわよ。笑ってないで、早く離れなさいよ。バルはほんとに意地悪ね」

 昔はわたしより背が低くて力も弱かったのに。
 バルはたわむれに満足したのか、わたしを解放する。

「僕たち、小さい頃はこうしてよく遊んだのにね。大人になると自由になるどころか、不自由になる一方だ。アリスと結婚できないなら、僕はいっそ子どもに戻りたいよ」
「なに、バカなこと言ってるの? わたしたち、お互い王族の義務を果たさないと」

 そうは言いながらも、わたしも幼い頃ふたり、泥んこになって遊んだことを思い出していた。当時のわたしは女王の子に産まれた意味を知らず、お父様は朗らかな表情でわたしに笑いかけてくれ、お母様は今のように執務に忙殺されていなかった。

「僕たちなら、絶対うまくいくのに」
「また、そんなこと言って。でも……、そうねぇ。バルとならお互いをよく知っているし、いいパートナーになれそう。本当に残念だわ」
「ふふっ。お互いを知っている、か……」

 くすっと笑ったバルが、意味深な言葉を吐く。

「何? どうしたの、バル?」
「王太女殿下、こちらにいらっしゃいましたか」

 振り返れば、そこには私の婚約者。先日のお茶会に着てきた正装ではなく、シャツと黒いベストのラフな姿で、そして変わらぬ笑顔だった。

 ――今の話、聞かれたかしら?

 聞いていたら、さすがのグラシアンもこんな表情ではいられまい。わたしは平静な心で尋ねた。

「グラシアン卿? どうしてここに?」
「失礼します。結婚式の衣装の打ち合わせの時間でしたので、お迎えに上がりました」

 立ち話に花を咲かせてしまったが、そういえばこの後ウエディングドレスの打ち合わせを控えていたのだ。

「わざわざ迎えに来てもらって、ありがとうございます」
「あなたが、アリスの婚約者?」

 バルは目線を斜めにあげて、問うた。

「グラシアン・オブ・カニアと申します。バーソロミュー殿下、お初にお目にかかります」
グラシアン卿! ルワンドの王宮で、あなたの名前を聞かない日はないよ。幻獣の密猟者を捕縛したんだってね。なんだっけ、火トカゲの亜種の、ほら……」
「グレードサラマンダーですか?」
「そうそう、そうだよ。僕の国に幻獣は棲んでいないから、すごく興味があるんだ。話を聞かせてよ」

 建国の王が精霊を助けたことで加護を受けるルワンド王国には精霊のマナがあふれ、それを目当てに幻獣――ユニコーンやドラゴンなどの希少種のことだ。――が棲みついている。
 グラシアンはまた折り目正しく答えた。

「女王陛下のお許しが出ましたら、何なりとお申し付けください」
「なんだい、他国の僕には話せないって言うの? ほんと、ルワンド王国は秘密主義だね」

 口先をとがらせてみせたバルを、わたしは軽くいなす。

「もう、バル。グラシアン卿をからかわないで。あなたも早く陛下に会ってきなさいよ」
「はいはい、わかってるよ」

 バルは何を考えているのか、愛くるしい少年がそのまま成長した、天使のような顔を近づけてきた。

「……っ!」

 驚くわたしの左頬に、ちゅっと唇を当ててくる。わたしは、あまりのことに言葉を失ってしまった。

「アリス、またね。――グラシアン卿も」 
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